昨日12月19日の『日本経済新聞』に掲載されたイアン・ブレマー「『未曽有の難局』に備えよ」。ブレマー氏の言うことを圧縮すれば以下のようになる。
・「グローバル化の加速で「見捨てられている」と感じている人は数多く存在する」。この「認識は特に先進国の中産階級に浸透している。
・この認識のため「グローバル化の勢いがほぼ1世紀ぶりに失速し始めた」。
・「そのグローバル化の失速が最悪のタイミングで到来している」。
・「世界景気は減速しつつある」。景気は循環するものだが、「今後はこれまでのように持ち直す保証はない。というのも、新たに二つの要素が重要になっているからだ」。
・「一つ目は地政学的な要素だ」。地政学上の動きにも循環があり、「『後退』期には、国際機関の有効性や国際協調の機運が衰え、国際紛争や対立が増える」。
・「二つ目は気候変動の要素だ」。
・「現代社会は未曽有の状況に陥っている。グローバル化、地政学、そして経済が同時にマイナスに転じつつある一方で、世界の状況は過酷さを増しつつある」。
ブレマーの思想には詳しくないので、さしあたりこの記事だけを出発点に考えよう。確かに、相当警戒した方がよい情勢だと思う。では、解決の方向はどこにあるのだろうか。
国際協調とグローバル・ガバナンスだけでは、これを乗り切ることはできないだろう。学部ゼミで読み終えたダニ・ロドリック『貿易戦争の政治経済学』などを踏まえると、もう少し修正が必要かもしれない。
気候変動はグローバル・ガバナンスでなければ解決できないが、通商紛争はナショナルなガバナンスを回復させながら国際的調整を行わないと激化するばかりだ。例えば、WTOを機能麻痺から救うことはどうしても必要である反面、社会的セーフティ・ネットはそれぞれの国で構築されねばないからだ。両者はどうしても矛盾する。
矛盾のないグローバルな制度もなければ、国際紛争を激化させるばかりのナショナリズムでも解決しない。中間にあるはずのリージョナリズム(国より大きい方。EUとかASEANとか)も必要ではあるが両者にとって代わるほどではない。だから、両者の対立が通商紛争に現れる際の調整様式を、当面はプラグマチックに対応しながら、形を整えていくしかないように思う。
難局に対応するために、多層的なガバナンスを模索する時期に入ったというべきなのかもしれない。しかし、特定の民族や社会集団を非難するキャンペーンで支持を獲得し、権力を持ったら仲間内に利権を配るような政治が、解決への努力を妨げているのが現実の動きだ。まにあうのだろうか。
「『未曽有の難局』に備えよ イアン・ブレマー氏 米ユーラシア・グループ社長」『日本経済新聞』2019年12月19日。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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