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2022年5月22日日曜日

一致点と相違点が明らかになった,公共貨幣論との対話

 下田氏より再びリプライをいただいた。今回の,信用貨幣システムの理解については,ほぼ異論はない。拙論を理解いただいたところもあり,対話の甲斐があったと思う。

 景気循環におけるポジティブ・フィードバックについては,私自身の課題を痛感する。それがあることはまちがいないが,なぜ,どのようにおこるのかについて,つまり通常用語でいう景気循環論,マルクス派の言う恐慌論についての私の研究が不足しているからである。そのため,氏との対話も,この点では今すぐに深められない。最終消費需要,生産財需要,在庫投機,信用膨張による架空需要の創造,そして金融資産投機がどのようにからみあって景気循環の振幅を大きくするかについては,経済学に膨大な蓄積がある。その中で,いま下田氏と対話している貨幣・信用論との関係では,どのような論じ方が肝心なのか。たとえば設備投資の循環を重視すべきか,金融不安定化理論を重視すべきか,双方の関係はどうみるべきか。これについて,私にまだ断じる力がない。マルクス派の信用恐慌論やミンスキーの金融不安定化理論をもっと学ばねばならない。

 下田氏は,信用貨幣システムを自由放任にすれば景気循環の振幅は止められないことをたびたび強調されているが,まったくそのとおりで,何も異論はない。だから,信用貨幣システムを批判的に研究しなければならないと私も考えているのであって,擁護しているのでは全くない。現状の信用貨幣システムの理解については,氏と私のはだいぶ埋まったように思う。意見の違いは,その問題点を克服するための,有効かつ実行可能な新しいシステムとは何かというところにある。

 氏が今回,「公共貨幣システムも債務貨幣システム(信用貨幣システム)も,同様に貨幣的インフレの危険があるとすれば,そもそも景気の上下動を増長させる要因が存在しない公共貨幣システムを選択すべきである」というところは同意できないが,理由はすでに述べているので新しく付け加えることはない。前回書いた通り,公共貨幣システムには,金融システムにおいて通貨供給の構造的不足によるデフレ不況バイアスがあり,財政システムにおいて適正供給量の決定と供給の柔軟性における問題があると私は考えている。この点についての,公共貨幣論の新たな展開をお待ちしたい。

 現時点では,下田氏も私も,言うべきことは言い,一致点と相違点,また相違点で意見が違っている理由を明らかにできたとみてよいと思う。この対話の全体を公共貨幣フォーラムの皆様や公共貨幣論,MMTに関心を持つ皆様に見ていただき,研究の足しにしていただければと思う。私も,よりよい経済政策とは何か,信用貨幣システムをどう改革するかについて,もっと研鑽を積まねばならない。

<注>

*下田氏との対話以前の私の公共貨幣論批判は以下の2点である。松尾氏らは公共貨幣フォーラムのメンバーではないと思うが,信用創造廃止論の理論構造はおおむね山口薫氏・山口陽恵氏や下田氏と同じと思う。

・川端望「山口薫・山口陽恵『公共貨幣入門』集英社,2021年を読んで:信用創造禁止,シンボル貨幣,ナローバンクがもたらすもの」2021年12月18日。

・川端望「松尾匡・井上智洋・高橋真矢『資本主義から脱却せよ 貨幣を人びとの手に取り戻す』の信用創造廃止論:やはり「気持ちはわかるが,無理だ」と思う」2022年4月11日。

下田直能『お金は銀行が創っているの?』に対し,私が公共貨幣論批判まとめとして述べたのが以下の投稿である。

・川端望「公共貨幣論に対する見解まとめ:下田直能『お金は銀行が創っているの?』同時代社,2022年を踏まえて」2022年4月28日(2022年4月20日Facebook投稿を再現したもの)。

 これに対する,下田氏の反論,私の再批判,下田氏の再反論,再々批判,再々反論は以下の通りである。再々反論にさらに応じたのが本記事である。

・下田直能「流通貨幣量「自動調節」機能の弊害」2022年4月28日。

・川端望「内生的通貨供給の機能と公共貨幣論批判:下田直能氏の反論に接して」2022年4月29日。

・下田直能「商品需要量・流通貨幣量の均衡自体の乱高下」2022年5月3日。

・川端望「公共貨幣論への再批判・再反論・要望と期待」2022年5月9日。

・下田直能「信用貨幣システムにおける内生的通貨供給と外生的通貨供給の関係」


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