ロイターによれば,中国のドローン大手DJIは,ロシア・ウクライナ事業を一時停止したと発表した。「危害を与えるため当社のドローンが使われることを好まない。戦闘に使われることがないようこれらの国で販売を一時停止する」とのこと。しかし,高口康太氏の記事からすると,その背景には,DJIが提供するドローン検知サービス「エアロスコープ」をロシア軍が使っているのに,なぜかウクライナ側が使えず,ウクライナのフェドロフ副首相がDJIに抗議したという経緯があるようだ。
DJIの選択肢は,ドローンが両軍によって等しく軍事用に用いられるようにするか,疑われたようにロシアに味方するか,中国政府の姿勢に反してウクライナに味方するか,取引を停止するかであった。最初の一つを選べば戦争のエスカレートを担うことになる。真ん中の二つは政治的に立場を選ぶことであり,前者を選べば多くの国の市場で,後者を選べば中国国内で会社の立場を危うくする。最後の一つは選択を避けて事業を縮小することであった。ここで言いたいことはDJIに政治的にどうこうしろということではない。経済的に,後の方の3つが,いずれも取引を縮小するものであったことに注意を促したいのだ。
この戦争が決着するにしても,どの国とも政治的立場を気にせず自由に取引できるという環境は戻らないであろう。立場を選ぶか,それが嫌なら撤退するかを迫られる時代となる。こうした立場に追い込まれるのは中国企業だけとは限らない。どの国の企業であれ,取引をすることが対立する諸陣営のどれかにつくことを意味してしまい,いちいち選択を迫られることになりかねないのである。
企業が経営を守るために選択することは,よほど人道に反しない限りはやむを得ない。あるいは,人道のために利益を捨てることもあるだろう。繰り返すが,ここでは企業がどうすべきかを言いたいのではない。多くの企業の選択を通して,世界全体として貿易と投資が制約され,産業と生活に打撃を与えるだろうということを強調したいのである。砲火の背後でそうしたプロセスが進行していることに注意しなければならない。
「中国ドローン大手DJI、ロシア・ウクライナ事業を一時停止」2022年4月27日。
高口康太「海外展開が困難に? 中国企業が抱える大きな難題」WEDGE REPORT,2022年4月20日。
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