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2022年1月24日月曜日

「円の購買力が低い」ことと「日本の物価が安い」ことを取り違えている『日経』1面記事

  『日経』は大丈夫か。この記事は電子版では会員限定だが,紙版では1面だ。1面から思い切り間違ったことを書いている。念のため言うが,思想が偏っているから悪いとかいう話ではなく,まるきりテクニカルな問題である。

 見出しは良い。「円の実力低下」「弱る購買力」である。過度な円安により,円の購買力が下がっていることのマイナス面を論じたいのであろう。それはわかる。

 ところが,「日本の物価が安いのがまずい」という,全然別の観点が紛れ込んでいるために,わけのわからない記事になっている。それは,ビッグマック指数の見方に現れている。

 ビッグマックが,いま現に日本では390円で,アメリカでは5.65ドルで売られているのであれば,ビッグマック為替レートは390/5.65=69.03により,1ドル=69.03円である。このレートならば,ドルと円の購買力は同じとなる。ところが実際には1ドル=115円なので,69.03/115=0.6で,ほんらいの60%の購買力しかなくなるほどに円は過小評価されていることになる。これが,ビッグマック指数のほんらいの考え方である。

 ところがこの記事は,「円相場が1ドル=70円まで上昇しないと価格差を埋められない」などと,あたかも,価格が安いことがまずいかのように書いてしまっている。それでは,読者は「え,安くて何が悪いの?」と思って混乱するだろう。ここは,「円相場が1ドル=70円まで上昇しないと,購買力の格差を埋められない」と書くべきだった。円の購買力が低いことと,日本の物価が安いことを混同しているからこんな書き方になったのである。


「円の実力低下、50年前並みに 購買力弱まり輸入に逆風」『日本経済新聞』2022年1月21日。


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