管理通貨制度下における通貨供給,金融政策,財政政策について解説する,学部生向け講義動画を限定的に公開します。管理通貨制度下において信用貨幣が全面的に意義を持つことを述べ,そのことを前提に金融政策と財政政策の原理を論じています。
この講義は,理論的に十分精緻なものとは言えませんが,以下のようにマルクス派とケインズ派を踏襲しているつもりです。
・管理通貨制度の下で,初めて信用貨幣の原理が全面的に貫徹すると考えている点ではマルクス派内マイノリティです。貨幣は本源的には価値物であることが必要だけれど,制度の発展により価値シンボルや手形で代用されると理解するところがマルクス派で,信用貨幣論に基づき金融において内生的貨幣供給論,財政において外生的貨幣供給論を取るところがマイノリティです。
・資本主義において失業の発生を不可避と見る点はマルクス派とケインズ派に従っています。
・現代の貨幣を信用貨幣と理解するところはマルクス派内マイノリティでもあり現代貨幣理論(MMT)と同じでもあります。そこから,財政赤字が傾向的に増えることを不可避としています。
・利子は投資と貯蓄を裁定しないこと,閉鎖系では純投資が貯蓄を決定すること,資本の限界効率によって投資の不確実性が発生することなどは,オールド・ケインジアンに従っています。
(2022/1/7追記)まず第1-7回を公開します。Youtubeにリンクしています
第3回 債務は債務でしか支払えない:金貨で支払うことのない世界
第4回 銀行は,すでに存在する預金を貸し付けるのではなく,預金を無から創造して貸し付ける:そのことによって通貨が生まれる
第5回 金融システムは貸付・返済により,財政システムは支出・課税により通貨供給を調整する
第6回 金融システムを通して内生的に,財政システムを通して外生的に通貨が供給される
第7回 なぜ政府は,金融・財政政策によって経済に介入しなければならないのか
以下は第1-7回のロングバージョンです。
全ての動画を掲載しているチャンネルです。
MMTについて、主流派の往々経済学の先生から拡張的財政政策は経済の左翼化を進める、財政規律をぐっと左に寄せるという論点を指摘されました。
返信削除マルクス経済学にまったく知識のないものなのですがよろしければお教えください。
財政拡大して、GDPに占める政府支出の割合がどんどん進んでいくとマルクス経済学が想定している経済状態や、共産党が目指している共産主義の状態に近づいていくのでしょうか?
マルクス経済学や共産主義経済だと、下記のマクロはそれぞれどうなっていくのでしょうか?
GDP(支出面)=消費C+民間投資I_p + 政府公共投資I_g+政府支出G、
GDP(分配面)=給与W+民間資本レンタル料・企業利潤P_p + 公共資本使用料・国営企業利潤P_g+税T
GDP(生産面)=生産関数(労働投入L、資本投入Σ(I_p, I_g)、技術進歩A)
BS:家計債権債務D_h+民間企業債権債務D_p+国営企業・政府債権債務D_g=0
主流派の財政再建派の先生の主張では、D_g残高/GDP比を下げるためにTを上げる必要がある⇒分配面では政府の割合が大きくなり左傾化が進む期間がある。
拡張的財政政策の先生の主張では、I_g、Gを拡張するので、支出面では左傾化が進むけれども分配面では、インフレも一定程度に抑えつつTもビルトインスタビライザー的役割でTをあげることは主張しない⇒分配面では市場重視
で、財政再建派の主張に左傾化する面もあり、拡張的財政政策派の主張に市場重視な面もあり、少し面白いなと思いました。
マルクス経済、共産主義は資本は国有で、計画経済ときいたことがあります。
なので、マルクス経済、共産主義では、
民間企業が国有企業に置き換わり、支出面でI_pがI_gに置き換わる。分配面・生産面で、P_pがP_gに置き換わる。ソ連加えて支出や分配時に、価格による市場調整機能が組み込まれている程度が低い、といったイメージでしょうか。
意味不明な投稿でしたら申し訳ございません。
・拡張的財政政策は,必ずしも左翼だけが進めるものではありません。資本蓄積促進のために進められる場合もあるからです。緊縮政策にはならないというだけで,政治的には右にも左にもなり得ます。1960年代後半や70年代や90年代には自民党政権が財政支出を増やしていました。
削除・財政支出をただ増やしただけで共産主義になることなどないです。何のためにどこで増やすのかが問題です。財政政策によって市場の失敗を補完するのか,市場メカニズムの基本的な部分を計画経済に変えていくのかは,内容次第です。
・市場経済で貨幣経済である限り,マクロバランスはマルクス経済学でも否定されません。貨幣経済でなくなれば別ですが,いまたいていのマルクス主義者も,そんなことを現実的なタイムスパンでは考えていないでしょう。
話が大きすぎてお答えとして十分かわかりませんが,とりあえず以上のようにリプライいたします。
ありがとうございます。また回答がおくれまして申し訳ございません。大変勉強になります。財政の持続可能性の議論に興味がありその流れから、財政拡大は左翼的という指摘を応用経済学の先生からうけて、その流れから左翼的、共産主義、社会主義とはそもそもなんだったのかな、という疑問がわいてきて質問させていただきました。ぼんやりとした質問しかできずに申し訳ございません。もしよろしければ追加で質問させてください。
削除共産主義的と資本主義的をわける主な指標としては、下記という理解でよいでしょうか。
・私有財産をどの程度認めるか
・価格調整メカニズムが働かない市場の規模がどれほどか
資本主義と共産主義をマクロの支出、分配、生産、マクロバランスで比較すると下記のイメージとなりますでしょうか。
⇒究極の共産主義:C = I_p = 0、I_g + g = 100
家計の消費は、政府から補給(100%ベーシックインカム)。→CはGに置き換わる
民間企業はない。I_pはI_gに置き換わる
⇒究極の資本主義:C+I_p=100、I_g = g = 0
家計への社会保障はない。民間保険等で市場メカニズムでカバー
公営企業はない。インフラ、生命、国防にかかわる活動も民間企業が100%カバー
⇒究極の共産主義:W = P_p = 0, P_g + T = 100
家計、民間企業への所得税率100%
⇒究極の資本主義:W + P_p =100、P_g + T = 0
家計、民間企業への所得税率0%
⇒生産面については共産主義、資本主義はどちらも同じ。
一番目のコメントに対して。 まず,この講義で私はマルクスとケインズによって資本主義経済を理解し,資本主義経済におけるマクロ経済政策を論じています。しかし,体制として共産主義を主張するものではありません。あくまで資本主義を前提とした政策の話をしているのです。マルクスを使って資本主義を論じたら,体制として共産主義を主張することになるわけではありません。どうして共産主義体制についての質問をこの投稿に寄せられるのかが,いまひとつ理解しかねます。
削除その上で,存じている限りで申しますと,集権的計画経済の失敗以後,ポスト資本主義としての社会主義や共産主義の社会の経済メカニズムは,まだ十分に定説を見ていないと思います。どういう社会でなければならないか,これまでの社会の発展史から見て,次はどういう特徴を持つ社会可,くらいまでは予想できます(私も政治経済学入門の講義では,そのくらいは話しています)。しかし,商品流通と市場,貨幣を廃止できるのか,できないのか。あるところまで維持して,ある段階で廃止するのか,市場と貨幣に変わる経済調整メカニズムは何なのか,はまだ多くのマルクス主義者にとってもはっきりしないと思います。
マクロバランスがどうなるかは,貨幣経済であるかどうかでかわります。価格タームのマクロバランスは,当然貨幣経済を前提としているからです。貨幣経済でない場合は,実物タームのマクロバランスが必要になるでしょうね。
分配面で見て、政府活動が大きくなってきて政府への分配を大きくする必要がでてきたときに税制をどうするかを考えたときに、
返信削除・現状の税制は税率を政府がきめていて、市場メカニズムが働いていないので共産主義的な税制
・金融緩和・財政拡張の結果によるインフレ税については、物価水準という市場メカニズムが働いているので資本主義的な税制
と考えるのはおかしいでしょうか。
二番目のご質問に関して。おかしいです。資本主義におけるマクロ経済政策に保守的なものとリベラルなもの,右派や左派があるのは確かですが,税率の決定方式にいちいち「共産主義的」「資本主義的」というラベルを貼るのは不適当だと思います。
削除先生、ご回答いただきありがとうございます。勉強になりました。また返信、お礼が遅れまして申し訳ございません。共産主義的、資本主義的というのも、ラベル付けの意図ではなかったのですが、深く考えずに使った言葉でした。不快なコメントとなってしまっておりましたら重ねまして申し訳ございませんでした。
削除いえいえ。不快ということはないです。ただ,投稿に関連がないと,話がどんどん広がってしまって対応しがたいのでご了解ください。
削除経済体制の問題は,昨日公開した政治経済学入門の動画の告知の方にお寄せください。YouTubeのコメント欄は対応し切れないので閉鎖しておりますが,こちらでは書き込むことができます。