6月27日の『日経』紙版に掲載されていたファーウェイP30 Proの部品コスト内訳がネット公開されていた。現代の機械・電機産業はきめの細かい工程間の国際的分業・協業を前提に成り立っている。これを破壊すれば,その影響が極めて広い範囲に及ぶ。
ところで,日本の電機産業の比較優位が最終製品から部品にシフトして久しいが,この部品表はいろいろと考えさせられる。表からは各国企業による供給の部品点数,合計コストがわかるので,1部品当たり平均単価は算出できる。ランキング表からは最高金額の部品もわかる。
供給部品数
中国(国産):80
日本:869
アメリカ:15
韓国:562
台湾:83
部品当たり平均単価
中国:1.733ドル
日本:0.096ドル
アメリカ:59.36ドル
韓国:0.05ドル
台湾:0.348ドル
最高金額の部品
中国:京東方科技集団製有機ELディスプレイ84ドル
日本:ソニー製カメラ15.5ドル。
アメリカ:マイクロン製DRAM40.96ドル
韓国:サムスン電子製NAND型フラッシュメモリー28.16ドル
台湾:企業名不明ボディーパネル25ドル
総じて日本企業は単価の安い部品を極めて多数供給している。製品の技術的な支えとして採用されているという意味で競争力があるが,高い付加価値を獲得してはいない。韓国企業も同様の性格を持つ。対してアメリカ企業は単価が極めて高い部品を少数供給しており,コア部品を供給する少数企業が高い付加価値を享受している。中国企業は,国産品ということもあって他国と単純比較できないが,有機ELディスプレーとアプリケーションプロセッサというコア部品の国産化に成功していることは,やはり注目しなければならない(製造を海外のODMに委託しているかもしれないが)。こうした例がファーウェイP30だけとは思えない。
工程間国際分業を,企業が組織する付加価値創出と取得の連鎖としてみた概念としてグローバル・バリュー・チェーン(GVC)がある。技術水準は付加価値創出につながるが,自動的に付加価値取得につながるわけではない。日本の電機企業は,世界から多くの部品を採用されてはいるが,コア部品において既に必ずしも技術的にトップではない,また売れている部品にも高い金額を払ってもらえない,GVCにおけるこの立ち位置は,持続可能性のあるものなのだろうか。
なお,部品表を使った分析でGVC分析では,iPodとhpのノートPCを事例とした以下の論文が有名。
Jason Dedrick, Kenneth L. Kraemer and Greg Linden, Who profits from innovation in global value chains?: a study of the iPod and notebook PCs, Industrial and Corporate Change, Volume 19, Issue 1, February 2010, Pages 81–116.
https://doi.org/10.1093/icc/dtp032
https://www.researchgate.net/publication/46513172_Who_Profits_from_Innovation_in_Global_Value_Chains_A_Study_of_the_iPod_and_Notebook_PCs
「スマホ分解 見えた相互依存」『日本経済新聞』2019年6月27日。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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