講義用Q&A
Q:日銀のETF購入も金融緩和としてなされていますが,日銀がETFを購入するとマネーストックは増えるでしょうか。
A:場合によります。日銀がETFを購入する時には,信託銀行に対して金銭を信託することによって行います。なので,まず日銀は信託銀行が持つ日銀当座預金口座にお金を振り込みます。信託銀行はこれをいったん引き出し,預金とは別の信託勘定に移します。これを用いてETFを購入して保管しますが,これは日銀の資産として記帳されます。
信託銀行がETFを購入するときは証券会社に発注します。証券会社は株式バスケットを入手し,運用会社に預けてETFを設定してもらいます。このとき,信託銀行の信託勘定にある現金は,証券会社に移動しなければなりません。
ここで,証券会社が日銀に当座預金を持っていれば,証券会社名義の日銀当座預金として預け入れられます。結果として,日銀当座預金だけが増えていますからマネタリーベースは増えてマネーストックは増えません。もちろん,証券会社が増えた当座預金という資産を運用する仕方によっては増えます。
証券会社が日銀に口座を持たない会社であれば,預金は以下のように移動します。
・信託銀行の信託勘定で現金減
・証券会社の持つ現金増。預け入れにより銀行に持つ当座預金増
・その銀行が日銀に持つ日銀当座預金増
この場合,結果が異なります。日銀当座預金残高のみならず,証券会社が銀行に持つ当座預金という預金通貨も増えていますから,マネタリーベースとマネーストックは両方増えることになります。
Q:日銀のETF購入で株価が上がったとすれば,投資家の手持ちマネーは増えるわけですが,この時,マネーストックは増えるでしょうか。
A:直接的には,ある一つの場合を除いて増えません。日銀のETF購入で株価が上がったとして,上がった株は誰かが売って,誰かが買っています。この時,株式の買い手は買うお金を持っていたはずです。自分のものであったり,銀行以外の誰か(個人や証券会社やノンバンク)から借りた場合は,そのお金はもともと経済内部で流通していた,マネーストックに含まれていたお金です。なので,そのお金で株式を買ってもマネーストックは変動しません。株価が高くなるというのは,株式と交換されるマネーの金額が増えるだけです。
ただし,投資家が銀行からお金を借りて株式を買った場合だけは,信用創造によって預金通貨が増えるので,直接的にマネーストックが増えます。
また,株価の上昇が実物資産への投資を活発にし,それによって信用創造が盛んになった場合には,間接的にマネーストックが増えます。
ETFの購入は金融緩和としての効果は限られています。むしろその役割は,上場企業の株価を底支えすることであって,そういうものとして是非を考えるべきと思います。これについての私の意見は以下の記事をご覧ください。
「日本銀行がETFを買うお金はどこから来るか?:日銀のETF購入(1)」2020年4月16日。
https://riversidehope.blogspot.com/2020/04/etfetf1.html
「日銀のETF購入は上場企業優遇の財政政策ではないのか:日銀のETF購入(2)」2020年4月16日。
https://riversidehope.blogspot.com/2020/04/etfetf2.html
「日銀がETFで損失を出すとはどういうことか:日銀のETF購入(3)」2020年4月16日。
https://riversidehope.blogspot.com/2020/04/etfetf3.html
※2024年1月30日。ETFが信託であることを踏まえて記述を訂正。
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