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2020年10月6日火曜日

「誰もがいつでも,どこでも,安全,確実に,そして,安価に利用できる」トークン型CBDCの存在意義とその限界:木村武氏の論稿に寄せて

 日銀から日本生命に転職して話題になった木村武氏の中央銀行デジタル通貨(CBDC)論。さすがに日銀が要となっている債務決済のしくみを踏まえて立論されている。「鍵となるのは,デジタル社会における中銀マネーと民間マネーの交換可能性の確保であり,そのことは,決済システムの効率性や安全性の改善を責務とする中央銀行の本流といえよう」という論点は重要だ。民間マネーと中央銀行マネーの二階建て構造を踏まえた上で,著者が「誰もがいつでも,どこでも,安全,確実に,そして、安価に利用できる」デジタル支払い手段としてCBDCに存在意義があるとするのも同意できる。

 さて,著者の見解を私の責任で延長すると,端的に次のような事態が想定できると思う。

 「誰もがいつでも,どこでも,安全,確実に,そして,安価に利用できる」トークン型CBDCがもし登場すれば,民間電子マネーは小口支払い手段としては存在意義と競争力を失うだろう。なにしろ,どの店でもCBDCで支払えるし,個人間送金もスマホ一つでできるのだから。つまり,もともと現金払いだった小口支払は,すべてCBDC払いに置き換えることができる。 

 民間電子マネーは単なるキャッシュレス支払いだけではユーザーを集められなくなり,付加的なサービスの効用によって集客しなければならなくなるだろう。

 CBDCに残される最大の問題は,災害により情報インフラが損壊した場合に使用困難に陥るリスクだ。そういう時には,従来と同様,物理的現金以外に頼るものがなくなる。日本における自然災害の深刻さを考えると,預金やCBDCを物理的現金に円滑に交換できる可能性を確保しておかねばならない。それが銀行の支店という形であり続けるかどうかは別として,そのような場所や人手を確保し続けねばならない。この制約が,CBDCで紙の現金を置き換える限度を規定すると私は考える。

木村武「中央銀行デジタル通貨の役割を根っこから考える」ニッセイ基礎研究所,2020年9月28日。

<関連投稿>

「中央銀行デジタル通貨:口座型はまったく不合理であり,トークン型に絞って検討すべき」2019年12月4日。

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