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2020年3月17日火曜日

金融危機に対するバブル的救済が、実物的不況に対する実物的需要喚起を脇に押しやる危険について

 経済面での新型コロナウイルス危機は、1997年のアジア金融危機や2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)と異なり、金融危機とその伝播をきっかけとするものではない。グローバルに伝播したのは新型コロナウイルスであり、それにより実物経済需要が急速に減退していることが原因である。もっとも、アメリカ、ヨーロッパ、日本では景気は昨年から後退傾向を見せていたので、さらなるひと押しであったと言える。
 実物の需要不振による不況に対する対策は、本来、金融危機とは異なる。1997年や2008年のように、流動性の無制限供給、金融商品取引の緊急の規制、金融機関の整理と救済、投資家のパニック制止が先行し、またメインになるのではない。実物的需要の減退を食い止め、営業と生活を防衛する措置を先行させ、市民全般の不安を緩和することを中心に据えなければならない。それが本筋のはずだ。
 しかし、金融危機がいったん生じると、自己再強化的に連鎖し、たちまち恐慌の主役を乗っ取ってしまう。金融システムが崩壊し、それが実物経済に逆流する流れの方が強くなってしまう。そのため各国政府や国際機関は、本来とるべき実物的な需要喚起と社会不安の緩和措置、すなわち医療の充実や家計への所得保障、企業への運転資金の融資といったことよりも、信用連鎖の崩壊を食い止めることに全力を傾けねばならなくなる。
 実物の需要減退を食い止めることなく信用恐慌防止に駆け回るということは、効率的でない金融機関や金融機構をも守り、投機家を破産させないということである。救済のために供給された通貨がただちに産業的流通に回らずに金融的流通に回るということでもある。これは、次のバブルの種をまく可能性を秘めている。金融的流通を駆け回るマネーは、増殖の根拠を求め、次の成長産業らしきところ探し、見つかれば一気に流れ込む。そうした動きは、株高で利潤は大きいのに投資は停滞し、賃金は上がらず格差が拡大するという形の、さほど盛り上がらない好況しか生まない。世界金融危機後に21世紀の長期停滞と呼ばれた現象だ。
 ここには、救済においても次の成長においても、明らかな本末転倒がある。しかし、こうした本末転倒をある程度まで避けることができなくなってしまっているのが、現代のグローバル金融資本主義だ。ちょうど、治療薬とワクチンが開発されない限り、新型コロナウイルスの感染を、低いピークで遅らせることはできてもなくすことはできないことと似ている。グローバル金融資本主義の病を治療する方法を見つけて世界の多数が合意しない限り、世界恐慌を防ごうとすれば金融機関中心のバブル的救済をせずにいられないのだ。
 実物の不況に対して、実物の対策で応じていき、それによって金融危機も食い止めるというのが最も望ましいシナリオだ。だが、グローバル金融資本主義は、そのシナリオから各国政府や国際機関を逸脱させる危険を秘めていることも直視しなければならない。

2019年12月20日金曜日

グローバリゼーションの失速、景気の減速、地政学的リスクの増大、気候変動:多層的ガバナンスの構築は間に合うのか

 昨日12月19日の『日本経済新聞』に掲載されたイアン・ブレマー「『未曽有の難局』に備えよ」。ブレマー氏の言うことを圧縮すれば以下のようになる。

・「グローバル化の加速で「見捨てられている」と感じている人は数多く存在する」。この「認識は特に先進国の中産階級に浸透している。
・この認識のため「グローバル化の勢いがほぼ1世紀ぶりに失速し始めた」。
・「そのグローバル化の失速が最悪のタイミングで到来している」。
・「世界景気は減速しつつある」。景気は循環するものだが、「今後はこれまでのように持ち直す保証はない。というのも、新たに二つの要素が重要になっているからだ」。
・「一つ目は地政学的な要素だ」。地政学上の動きにも循環があり、「『後退』期には、国際機関の有効性や国際協調の機運が衰え、国際紛争や対立が増える」。
・「二つ目は気候変動の要素だ」。
・「現代社会は未曽有の状況に陥っている。グローバル化、地政学、そして経済が同時にマイナスに転じつつある一方で、世界の状況は過酷さを増しつつある」。

 ブレマーの思想には詳しくないので、さしあたりこの記事だけを出発点に考えよう。確かに、相当警戒した方がよい情勢だと思う。では、解決の方向はどこにあるのだろうか。
 国際協調とグローバル・ガバナンスだけでは、これを乗り切ることはできないだろう。学部ゼミで読み終えたダニ・ロドリック『貿易戦争の政治経済学』などを踏まえると、もう少し修正が必要かもしれない。
 気候変動はグローバル・ガバナンスでなければ解決できないが、通商紛争はナショナルなガバナンスを回復させながら国際的調整を行わないと激化するばかりだ。例えば、WTOを機能麻痺から救うことはどうしても必要である反面、社会的セーフティ・ネットはそれぞれの国で構築されねばないからだ。両者はどうしても矛盾する。
 矛盾のないグローバルな制度もなければ、国際紛争を激化させるばかりのナショナリズムでも解決しない。中間にあるはずのリージョナリズム(国より大きい方。EUとかASEANとか)も必要ではあるが両者にとって代わるほどではない。だから、両者の対立が通商紛争に現れる際の調整様式を、当面はプラグマチックに対応しながら、形を整えていくしかないように思う。
 難局に対応するために、多層的なガバナンスを模索する時期に入ったというべきなのかもしれない。しかし、特定の民族や社会集団を非難するキャンペーンで支持を獲得し、権力を持ったら仲間内に利権を配るような政治が、解決への努力を妨げているのが現実の動きだ。まにあうのだろうか。

「『未曽有の難局』に備えよ  イアン・ブレマー氏 米ユーラシア・グループ社長」『日本経済新聞』2019年12月19日。

2019年9月9日月曜日

第2学期学部ゼミテキストはダニ・ロドリック『貿易戦争の政治経済学:資本主義を再構築する』

 学部ゼミテキスト選定。今年度の第1学期はリチャード・ボールドウィン『世界経済 大いなる収斂』を読んだ。ボールドウィン教授は技術革命を中心にグローバリゼーションを段階的に論じ,基本的にはその必然性と積極的意義を強調した。すなわち,ICTがもたらす第2のアンバンドリング,グローバル・バリュー・チェーン革命により,新興国が経済発展の機会を得て,一部がそれを実現し,かつての「大分岐」に対比される「大いなる収斂」をもたらすとした。このすじみち,いわばグローバリゼーション下の産業論のロジックを学ぶことは,産業発展論という看板を掲げる当ゼミの学部生にとっても有益だった。
 しかし,ボールドウィン教授自身が率直に認めるように,グローバリゼーションは先進国の産業構造調整問題,経済格差問題を生んだし,発展途上国のごく一部を成長させたに過ぎないために成長した国とそれ以外の国の格差も広がった。初発的な工業化で先進国初の多国籍企業に依存したことが,その先の経済発展に問題を起こさないのかどうかということも残された問題だった。これらの問題を考察するには,グローバリゼーションの限度をも理論的に論じた研究を活用しなければならない。
 というわけでジュンク堂書店であれこれブラウジングした結果,第2学期はダニ・ロドリック(岩本正明訳)『貿易戦争の政治経済学 資本主義を再構築する』白水社,2019年(原書:Dani Rodrik, Straight Talk on Trade: Ideas for a sane world economy, Princeton University Press, 2017)を読むこととした。ロドリック教授は,ハイパーグローバリゼーション,すなわち経済のグローバル化をどこまでも進め,ガバナンスもグローバル化するという道は非現実的であるとし,国民国家をはじめとする多様な制度による分割された統治と限られたグローバリゼーションのありかたを探求している。その理論的探究は,今日の米中貿易戦争やEUの政治・経済的動揺,TPPやアジアの経済統合という諸問題と直接格闘しながらの営みだ。
 第1学期に読んだ本のロジックを全面的には否定しないが限定条件が多数加わり,ロジックも純経済的なものから政治経済的なものへと複雑化する。読解の難易度もやや上がる。というわけでゼミ生の学びにも適していると期待する。


ダニ・ロドリック(岩本正明訳)『貿易戦争の政治経済学 資本主義を再構築する』白水社,2019年。

リチャード・ボールドウィン(遠藤真美訳)[2018]『世界経済 大いなる収斂:ITがもたらす新次元のグローバリゼーション』日本経済新聞出版社,3500円+税。





2019年1月21日月曜日

学部ゼミテキストはリチャード・ボールドウィン『世界経済 大いなる収斂』

先日,ジュンク堂書店をうろうろして学部ゼミの教科書を選んだ。これがよさそうだ。産業論かつ世界経済論になっているところが当ゼミになじむ。つまり,新技術が経済組織を変えていく論理に貫かれているところと,世界的な資源配分と比較優位と国際分業によって各国の産業構造が決まるとされているところ(逆ではない)がいい。というか,2016年の原著,2018年の訳本刊行に気づかなかったのがうかつだった。

リチャード・ボールドウィン(遠藤真美訳)[2018]『世界経済 大いなる収斂:ITがもたらす新次元のグローバリゼーション』日本経済新聞出版社,3500円+税。



論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」の研究年報『経済学』掲載決定と原稿公開について

 論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」を東北大学経済学研究科の紀要である研究年報『経済学』に投稿し,掲載許可を得ました。5万字ほどあるので2回連載になるかもしれません。しかしこの紀要は年に1回しか出ませんので,掲載完了まで2年かかる恐れがあ...