学部ゼミテキスト選定。今年度の第1学期はリチャード・ボールドウィン『世界経済 大いなる収斂』を読んだ。ボールドウィン教授は技術革命を中心にグローバリゼーションを段階的に論じ,基本的にはその必然性と積極的意義を強調した。すなわち,ICTがもたらす第2のアンバンドリング,グローバル・バリュー・チェーン革命により,新興国が経済発展の機会を得て,一部がそれを実現し,かつての「大分岐」に対比される「大いなる収斂」をもたらすとした。このすじみち,いわばグローバリゼーション下の産業論のロジックを学ぶことは,産業発展論という看板を掲げる当ゼミの学部生にとっても有益だった。
しかし,ボールドウィン教授自身が率直に認めるように,グローバリゼーションは先進国の産業構造調整問題,経済格差問題を生んだし,発展途上国のごく一部を成長させたに過ぎないために成長した国とそれ以外の国の格差も広がった。初発的な工業化で先進国初の多国籍企業に依存したことが,その先の経済発展に問題を起こさないのかどうかということも残された問題だった。これらの問題を考察するには,グローバリゼーションの限度をも理論的に論じた研究を活用しなければならない。
というわけでジュンク堂書店であれこれブラウジングした結果,第2学期はダニ・ロドリック(岩本正明訳)『貿易戦争の政治経済学 資本主義を再構築する』白水社,2019年(原書:Dani Rodrik, Straight Talk on Trade: Ideas for a sane world economy, Princeton University Press, 2017)を読むこととした。ロドリック教授は,ハイパーグローバリゼーション,すなわち経済のグローバル化をどこまでも進め,ガバナンスもグローバル化するという道は非現実的であるとし,国民国家をはじめとする多様な制度による分割された統治と限られたグローバリゼーションのありかたを探求している。その理論的探究は,今日の米中貿易戦争やEUの政治・経済的動揺,TPPやアジアの経済統合という諸問題と直接格闘しながらの営みだ。
第1学期に読んだ本のロジックを全面的には否定しないが限定条件が多数加わり,ロジックも純経済的なものから政治経済的なものへと複雑化する。読解の難易度もやや上がる。というわけでゼミ生の学びにも適していると期待する。
ダニ・ロドリック(岩本正明訳)『貿易戦争の政治経済学 資本主義を再構築する』白水社,2019年。
リチャード・ボールドウィン(遠藤真美訳)[2018]『世界経済 大いなる収斂:ITがもたらす新次元のグローバリゼーション』日本経済新聞出版社,3500円+税。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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