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2019年9月22日日曜日

個別企業がM&Aに「投資」しても社会的には「縮み志向による投資の停滞」が終わるわけではない

 『日経』本紙13版,2019年9月21日1面記事「日立,成長へ1兆円調達」。「これまで日本企業は借金返済を優先し,投資などは抑制してきた。そうした『縮み志向』を抜け出す企業が増えていく可能性がある」との指摘。だが,その紙面に掲載されていた以下のグラフを見て欲しい。




 日立は確かに設備投資は1.6兆円から1.8兆円規模に増やそうとしているが,同時にM&Aなどを0.5兆円から2.5兆円に増やそうとしているのだ。日立が株式市場からROE(自己資本収益率)の観点で評価されるためには,設備投資よりM&Aの方が効果的だという判断からこのような比率になるのだろう。
 確かに日立という個別企業にとってはどちらも「投資」だ。しかし,社会的に見れば(海外投資は国内に投下されないという点はさておくとしても),M&Aは純投資ではなく,資産の持ち手変更のために株式と現金を交換するに過ぎない。こうした動きが広まっても,日本経済への効果としては「縮み志向による投資の停滞」が直接に変わるわけではないのだ。
 もちろん,M&Aによって資産が有効に活用されて利益を生むようになり,その資産をもとにした設備投資も間接的に拡大することはありうる。しかし,それは時間のかかる話だ。また,たとえ個別企業にとってM&Aが成功した場合でも,収益性の高い他社事業をただ傘下に取り込むだけだと,やはり社会的には投資は増えない。M&Aが見込み違いで失敗した場合は言うまでもない。
 M&Aは個別企業にとっては「投資」でも,社会的には(マクロ経済的には)そうではないことに注意しなければならない。

「日立,成長へ1兆円調達 守りから攻めの財務に 22年3月期まで M&A・設備投資向け」『日本経済新聞』2019年9月21日。



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