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2025年11月22日土曜日

高市政権下での経済政策についての覚書:対案の方向性

 高市政権下での経済政策についての覚書。評価と対案の方向性


*総需要刺激はインフレ・円安を加速するので生活を救えない

 高市政権が,補正予算と減税で生活を支援しようということ自体は結構である。しかし,それだけやればインフレと円安を加速し,効果は台無しになってしまう。供給能力が限られている局面で需要だけ刺激してはだめなのである。


*生活救済と社会改革を再分配で

 いまは,生活救済は,総需要を過熱させないように再分配で行わねばならない。高収益の大企業や富裕層に課税する。また社会的な環境・安全コストを賄うための課税,たとえば地球温暖化対策,タバコの健康被害対策,インフラ劣化対策,山林保全,オーバーツーリズム対策などのための課税などを強めねばならない(だから出国税引き上げはよい)。所得税は単純減税でなく,累進性を強めて富裕層には増税しなければならない。中間層以下は減税し,課税最低限以下の個人には逆に給付すべきだ。消費税減税でもよいが,必ず富裕層増税とセットにするべきだ。同じようにNISAは拡大しても良いが大口のキャピタルゲイン課税は強める。
 こうして総需要はプラマイゼロに近づけてインフレと円安を抑えると同時に,再分配で物価高対策をするのである。


*賃上げを政策支援する

 人手不足なのにGDPは上がらず実質賃金が上がらず,物価だけが上がるのは異常である。労働組合が頼りにならないので対策が難しい。政策でできることとしては,賃金が物価高に追いつくように,最低賃金引上げ速度を上げるべきだろう。非正規へのボーナス支給や退職金支給を促す働き方改革法制の充実も必要だ(緊急には行政解釈の強化でもよい)。賃上げはもちろん「賃金・物価スパイラル」につながるが,賃上げ分の価格転嫁は,他の理由で起こっているインフレよりはましである。


*人の面から供給能力を高める

 供給能力の方も高めねばならない。画期的イノベーションも必要ではあるが,まずは足りないのが人であることに注意すべきだ。だからといって労働時間規制を緩和しては過労死社会への逆戻りである。そうではなく,女性全般と高齢者全般が自らの意志で正規雇用につけるように環境整備すべきだろう。非正規労働者はジョブ型正社員や短時間勤務正社員に転換して職務に見合ったボーナスや退職金を支給する(上記)。退職後再雇用で賃金が激減することを防ぐために,賃金の職務対応部分を明示する法制化をめざし,さしあたり現行法制内で行政解釈を強める。外国人労働者は,日本語能力要件の引き上げや労働市場テストによる総枠制限で数を調整する。そうして,一方では日本人と競合しないようにしながら,他方で外国人労働者自身が買いたたかれたり搾取されないようにし,全体としてスキルを高める。
 これらは,供給能力を高めると同時に,労働の時間単価は上げることになる。こうして企業経営者には,低賃金利用の誘惑をなくして生産性向上を促す。


*中小企業の活性化

 労働者を支援する政策により,コストアップで苦しくなる中小企業も確かにあるだろう(※)。そこですべきは救済のための融資や給付ではない。技術支援や経営活性化支援,事業継承支援を強化する。また下請け法を厳格に適用して,大企業による交渉力格差を乱用した搾取を止める。商業分野ではまちづくり提案に支援する。こうして,競争を公平化して真面目な中小企業に有利としつつ,全体の生産性を高めていく。


※ちなみに国立大学の管理職としても個人的には困るのだが,日本全体を考えた政策論としてはやむを得ない。この対策としては,運営費交付金を,せめて人事院勧告対応賃上げ分と水光熱費値上がり分だけ補填すべきである。これは,公的セクターの賃上げ実現という需要面と,科学・技術の水準の支えという供給面の双方にとって必要なことである。


 以上。しばらくはこの線で考えたい。なお,この議論に不足しているのは社会保障とその財政の在り方であって,これはもっと勉強しないと何とも言えない。

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