俳優の三谷昇氏が亡くなられた。読売新聞の報道では、『ウルトラマンタロウ』出演とタイトルに書いてくれている。そう,特撮オタクにとっては,三谷氏と言えば『ウルトラマンタロウ』である。もちろん他にも,『帰ってきたウルトラマン』第22話のピエロ,映画『宇宙からのメッセージ』のカメササ,『電子戦隊デンジマン』第13話のアドバルラー人間態,『宇宙刑事ギャバン』の魔女キバなどもあるが。
三谷氏は、『タロウ』の最終盤3話に、ZATの二谷一美副隊長として出演された。前任の荒垣副隊長の東野英心氏が骨折したことを受けてのピンチヒッターだったということだ。
3話だけの出演だったが、第52話「ウルトラの命を盗め!」(脚本:石堂淑朗,監督:筧正典,特撮監督:大木淳)では堂々主役を務められた。このエピソードは,終盤の『タロウ』にいくつか見られるシリアス編である。宇宙では戦争が続いており,怪獣ドロボンはそこにウルトラ兄弟を巻き込もうとして地球にやってくる。ウルトラマンジャックはこれを止めようとして返り討ちにあり,地球ではタロウと協力して自らのカラータイマーをはぎとられてでもドロボンを阻止しようとする。そしてドロボンの人質となった二谷は,タロウがたたかいやすいように自らの命を絶とうとこめかみにZATガンを当てるのだ(幸い,故障かエネルギー切れで不発だったが)。
どうにかドロボンを撃退し,ウルトラマンジャックも二谷も助かってラストシーン。人質になってしまったことを副隊長失格だと言って自席に座ろうとしない二谷に(画像1),東光太郎(篠田三郎)が言う。
東「副隊長,それはいけないですよ。」
二谷「いいんだ。」
東「隊長が死ねば副隊長が指揮を執り,副隊長が死ねば北島さん,北島さんがだめなら南原さん。ZATの規則は,そうでしょ?」
二谷「まあ,そりゃあ。」
東「なら,副隊長は死ぬまで副隊長です」。二谷の表情が,何かに気づいたかのように変わる。そして,ここまで勢いよくたたみかけていた光太郎は,静かに言う(画像2)。「あそこに座ってない時は,死んだ時です。」
二谷「……わかった。」
東「わかったら,どうぞ!」
自席に戻った二谷が威勢よく「定時警戒態勢,出動!」を命じてエピソードは閉じられる(画面2)。
「あそこに座ってないときは,死んだときです」。平常なら縁起でもないが,ドロボンとの戦いの後なので説得力がある。自分の心情だけで職責を放棄してはならない。生きているのだから、するべきことをしなければならない。命を捨てても任務を果たそうとしたあなたならば,わかっていらっしゃるのではないですか。副隊長は,生きて帰って来てくれたではないですか。光太郎はそう問いかけたのである。
ここで『タロウ』の世界に奥行きが生まれる。明るくおちゃらけているZATも,実は死と隣り合わせの職場なのである。戦闘の場でなく作戦室の平常時の会話でそのことを表現したこのシーンは貴重なものだと,私は思う。
どうぞ安らかにお休みください。
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