『ウルトラマンA』第14話「銀河に散った5つの星」(脚本市川森一,特殊技術佐川和夫,監督吉野安雄。1972年6月30日放映)。『ウルトラマンZ』にエースと超獣バラバが登場したのを記念して,先月公式配信されていた。
このエピソードは第13話『死刑!ウルトラ5兄弟』と前後編になっており,ウルトラ兄弟が勢ぞろいで十字架にかけられたり,最強の敵エースキラーが登場したり,当時はかなり話題になったものだ。
しかし,よく見ると田口成光氏が書かれた前編と,市川森一氏が書かれた後編ではトーンが全く異なっている。
前編は,まあ自己犠牲と兄弟愛の話である。自分を助けようとした兄をバラバに殺された少年と,兄弟を思うエースが重ねられている。
異次元人人ヤプールの謀略で裏宇宙の星,ゴルゴダ星に集められたウルトラ5兄弟は,絶対零度の寒さに襲われ窮地に陥る。しかも,地球にはバラバが出現。エネルギーを分けるから地球に帰れと諭す兄弟たちにエースが「それでは兄さんたちが死んでしまう」「嫌です」と抵抗すると,ウルトラマンが「バカ!」とビンタする。
スポ根か。
ウルトラ4兄弟は十字架にかけられ,ヤプールはその姿を地球人に見せつける。地球ではエースがバラバに敗れる。ここまでが前半。
自分を犠牲にしても兄弟を守ろうという,こう言っては何だがよくある話であり,「バカ!」とビンタすると人が言うことを聞き,視聴者が感動するというのは,1970年代前半まで青春・家族ドラマの定石であった。
さて,後半。ここからとんでもない話になる。他の多くの市川作品がそうであるように,裏切りと救済の物語である。
ゴルゴダ星にはヤプールの最強ロボットエースキラーが出現。磔にされたウルトラ兄弟から必殺技のエネルギーを吸い取り自分のものにする。実験台として登場したエースロボットは,あっさりエースキラーに破壊される。この時,視聴していた7歳の私や友人たちは,それまで怪獣図鑑などでしか存在を知らなかったゾフィのM87光線が,本人ではなくエースキラーによってはじめて使われたことに驚愕したものだ。
超獣攻撃隊TACの高倉司令官は,ヤプールの拠点となっているゴルゴダ星を超光速ミサイルNo.7で破壊せよと言う。そうすればウルトラ4兄弟を殺すことになると抗議する北斗星司。M78星雲をM87星雲と言い間違えるなど,例によってどこか間が抜けているがそれどころではない。しかし,ミサイル計画は強行される。地球人は,自分たちを救い続けてくれたウルトラ兄弟を裏切る。
しかも高倉司令官は,北斗をNo.7のパイロットに指名する。No.7は有人式であり,裏宇宙への突入準備までは人が操縦してから,友人ロケット部分を切り離して脱出するのだ。No.7打ち上げの日。星司にかけよる南夕子隊員。「星司さん。エースの兄弟たちを,あなたは自分の手で」。「おれが止めても,誰かがやるだけだ。他の者にはやらせない」。星司は,命がけで自分を地球に帰してくれた兄弟を裏切らねばならない。
発射されるNo.7。だが切り離し装置が故障する。高倉司令官は「予定は変更できない。超光速に切り替えてゴルゴダ星に突入してくれ」と命じる。TACは隊員である北斗を裏切る。
竜隊長が介入する。「北斗。その必要はない。ミサイルの方向を変えて,ただちに地球に帰還せよ」。「計画の指揮官はあなただが,TAC隊員たちの命をあずかっているのは私です。これから先は,私が指揮を執る」。竜隊長は特攻を決して命じない。なおも「司令官命令だ。そのままゴルゴダ星に突入せよ」と言い放つ高倉司令官を,ついに殴り倒す竜。だが北斗は「やめてください。俺は行きます」と言う。「ゴルゴダの星のウルトラ兄弟たちとともに死なせてください」。兄弟を殺す運命を受け入れてしまった北斗は,もう地球に帰ることはできないのだ。
高倉を追い出したところにバラバ出現の報告。竜隊長は,あえて南夕子隊員を交信台に残して出撃する。「星司さん。わたしが見える?」「いや,こちらからは見えない」「わたしは見ているわ」「夕子!」「星司さん!」。その時ウルトラリングが光る!「星司さん,手を出して!早く!」スクリーンに手を差し出すと,二人は空間を超えてエースに合体変身した。肝心な時の主導権は,常に夕子にある。
ゴルゴダ星に降り立つエース。「兄さんたち。私も兄さんたちとともに死のう」。変身できても事態は好転していない。エースは兄弟を救うことをあきらめ,死にに来たのである。出現するエースキラー。スペシウム光線で,エメリウム光線で,ウルトラブレスレットでエースを攻撃する。ともに死のうとする瞬間に,エースはウルトラ兄弟の力によって裏切られる。
その時,ウルトラ兄弟の最後の力がエースに放射される。必殺技スペースQにより粉砕されるエースキラー。エースは兄弟たちと別れて地球に戻りバラバを倒す。
事件が解決してTAC本部で北斗と南の誕生パーティが準備される。二人とも7月7日が誕生日なのだ。あの二人はもしかして双子,いや似ていない。恋人同士か,いやそんな感じじゃねえなあと噂する隊員たち。その頃,二人は屋上で星空を見上げていた。
北斗「一年に一度,あの天の川で牽牛と織姫が会うんだね」。
南「牽牛と織姫って,恋人同士なの?」。
北斗「うん」。
南「……あたしたちは,いったい何なのかしら」。
北斗「え?」。
北斗!お前はどうしていつもそうなんだ。
だが,ここは北斗が鈍いと言うだけの問題ではない。隊員たちと違って,北斗と南は,自分たちがウルトラマンエースに合体変身することを知っている。地球を守るためにエースになって,兄弟たちとともに闘おうとしていることを,二人だけの秘密として知っている。しかし,第1話でもこの話でも北斗や南とエースとは別の人格だ。北斗と南は,自分たちが地球人としてエースや兄弟を裏切ってしまったこと,北斗が,他の誰かにされるくらいならと自分自身の手でエースの兄弟を殺そうとしたことも知っている。エース自身が兄弟たちとともに死のうとしていたことも,兄弟の力でエースとともに自分たちも殺されようとしたことも,エースの力ゆえに助かったことも知っている。そんな私たちはいったい何なのか。いったい北斗隊員と私が一体になっても何ができるのか。
ウルトラマンでさえも,裏切りから逃れることはできない。まして人間においておや。その宿命は自分自身だけでは解決できない。唯一救いがあり得るとすれば,それは他者から思いがけない形でやって来る。人間の力が尽きた時にのみウルトラマンは現れるかもしれない。組織が自分を見捨てた時に,それに歯向かって守ってくれようとする仲間が立ち上がるかもしれない。自分からは見えなくても,誰かが自分を見ていてくれているかもしれない。死ぬしかないと思った時に,奇跡が起こるかもしれない。たいていは起こらないから奇跡なのであるが,奇跡と名付けてでも,それが起こることを信じずにはいられないのだ。だから,なにもできなくても,罪を背負ってしまっても,なお北斗と南はお互いを信じ,エースを信じるしかないのだ。
市川森一氏は『ウルトラマンA』のメインライターであったが,この「銀河に散った5つの星」を最後に,いったん降板してしまう。何かを描き切ってしまったのだろう。番組に幕を引くために第48話「ベロクロンの復讐」と第52話「明日のエースは君だ!」で復帰するが,それらはもっと救いのない,怨念と裏切りの物語であった。
「「裏切り」の物語としての『ウルトラマンA』最終回「明日のエースは君だ!」」Ka-Bataブログ,2020年5月7日。