半沢直樹シリーズ。私は原作は四つとも読んでいて,テレビドラマは現在の第2シリーズしか見ていないのだが,原作を読むと第3弾までと第4弾『銀翼のイカロス』に激しいギャップを感じて仕方がない。
半沢は銀行員としての職務に誠実であって,それゆえに行内の不正・腐敗,職務を曲げた権力抗争に立ち向かう。それはどの話でも同じだ。しかし,第3弾までの半沢は,バブル崩壊後の銀行の営みと社会的役割そのものに問題があることをも自覚している。晴天に傘を差しだし,雨天で取り上げることも自覚しているし,自分たちを「薄汚れた金貸し」だとも思っている。「倍返し」のポリシーや怒りに任せた行動も,作者は決して全面的に肯定しているのでなく,一つの生き方として描いている。そこが面白いのだ。
ところが原作第4弾では,構図が「銀行対国家」であるせいか,半沢は腐敗や不正を別とすれば,銀行の立場そのものを全面肯定し,作者自身もそこに何の疑いも挟まない。半沢は正義の味方である。その正義とは何かといえば,帝国航空の企業年金を減額し,従業員を徹底削減し,不採算路線を切り捨てる再建計画を推し進め,銀行の債権を全額回収することである。対して,これを妨害し,政治介入による微温的な再建計画を対置して銀行に債権放棄を迫る新政権の女子アナ出身国土交通大臣やその背後の大物老政治家は,極悪非道,勘違い,無能,腐敗の極まった連中として描かれている。
さすがにそのままテレビにしてはまずいと思ったのか,現在放映中の第2シリーズ後半(前半は第3弾)では二つの点が修正されている。まず,半沢が作成した帝国航空の再建案では,経営陣が経営責任をとることがリストラの前提である。また,半沢は帝国航空の労働現場をまわって,現場のオペレーションがしっかりしていることを確認し,再建計画を従業員大会でも話し合い,削減される人員のスキルに見合った再就職先を懸命に探している。帝国航空の経営陣は,経営を救おうとする半沢に感謝するとともに,従業員を帝国航空から追い出す半沢を憎むというアンビバレントな感情を抱いている。なので,原作よりむしろ物事は多面的に把握されている。原作のような,債権回収に専念して容赦ないリストラを進める半沢であれば,視聴者に支持されないであろう。
それにしても,原作第4弾の,何のためらいもないリストラ半沢,完全に正義の半沢が,作者の本心なのだろうか。
作者は,懸命に営業を続ける民間企業の経営者や中間管理職に,常にリスペクトをもって描いてきた。しかし,帝国航空の職場については,原作では何も触れていない。政治介入によって食い物にされて来た国策企業は,上から下まで丸ごと腐敗しているものと考えていたのかもしれない。しかし,そうなのか。テレビドラマで沿う修正せざるを得なかったように,帝国航空の現場にも日々懸命に働いている人々がいるのだ。バブルに踊り,その夢が破れた銀行においても,半沢が誠実に働いていたように。
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