ちょっと頭を整理しておきたいことがある。新型コロナウイルス感染対策について,
政府の厳格な感染対策→死亡者や感染者の抑制
政府の緩い感染対策→死亡者や感染者の増加
と想定して,あれこれの国をほめたたえたりくさしたりする議論は視野が狭いのではないか。
もちろん,上記のような因果関係はある。けれど,それだけではない。いったんはじまった感染対策の優劣にかかわらず,
対策開始前の相対的に深刻な感染状況→……→死亡者や感染者の増加(手遅れだった)
対策開始前の相対的に軽微な感染状況→……→志望者や感染者の抑制(元が軽かったから何とかなった)
という因果関係は当然ありうるだろう。欧米の厳しいロックダウンが効果を発揮するまでに時間がかかったのは,感染の広がりに気づくのが遅かったので,厳しい措置も手遅れだったということがあるのではないか(専門家の意見を聞かないとわからないが,例えば地域を厳しくロックダウンしても家庭や老人介護施設や病院では濃厚接触してしまうので,もともと感染の蔓延がひどいと効果が減殺されてしまったとか)。
そうすると,時系列では,
1)対策開始前の相対的に深刻な感染状況→政府の厳格な(でも開始が遅かった)感染対策→死亡者や感染者の増加
2)対策開始前の相対的に軽微な感染状況→政府の緩い感染対策(でも開始は遅くなかった)→死亡者や感染者の抑制
ということが起こり得る。
また,経済政策ではよくあることだが
政府の緩い感染対策→危機感を覚えた民間の反応→死亡者や感染者の抑制
ということも当然ありうる。この場合,民間の反応は「賢くて的確だった」場合と,「試行錯誤だったが結果オーライだった」ということの両方があり得る。日本については,こうした因果関係はありうると思う。ということは,
3)対策開始前の相対的に軽微な感染状況→政府の緩い感染対策→危機感を覚えた民間の反応→死亡者や感染者の抑制
ということもあり得る。
これまでの欧米が1),日本が2)または3)だったという仮説を立てるくらいは許されるだろう。ちなみにこの思考法だと,台湾が
4)対策開始前の相対的に軽微な感染状況→政府の厳格な感染対策→死亡者や感染者の抑制
になる可能性がある。また,最近の再度の感染の増加を脇に置くと,中国と韓国が
5)対策開始前の相対的に深刻な感染状況→政府の厳格な感染対策→死亡者や感染者の抑制
の可能性がある。
いずれにせよ,仮説としては許されても,証明は科学的に行われねばならない。ただ,この可能性を考慮せずに,
政府の厳格な感染対策→死亡者や感染者の抑制
政府の緩い感染対策→死亡者や感染者の増加
と想定して,あれこれの国をほめたたえたりくさしたりする議論は視野が狭いのではないか。それだけを,強く言っておきたい。
なお,これからどうなるかはまた別の話であることは言うまでもない。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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