テッド・チャンの中短編集から考えさせられるのは,時間に対する感覚や意識的・無意識的な思考の枠組み,あるいは思い込みが,私たちのものの見方,考え方,人生に対するとらえ方を深いところで規定しているということだ。作者は,その感覚,枠組み,思い込みが通用しない世界を見せてくれる。ただし,読者の感覚を暴力的に揺さぶって怯えさせるのではない。時間が,私たちが普段考えているのとは違う形,違う秩序を取り,違う風に流れる,あるいはそもそも流れない世界を鮮やかに構築して,そこに読者をいざなうのだ。そして,別の見方,別の考え方,別のとらえ方があると気が付かざるを得ないようにしてくれる。運命がすべて決定されているとしても,それを受け入れて価値ある人生を送ることは可能だろうか。逆に運命に無数のバラエティがあるならば,決断に意味があるだろうか。過去を正確に知ることは,現在にどのような可能性をもたらすだろうか。テッド・チャンの世界では,それらの問いがまったく自然に目の前に現れてくるのだ。
Ted Chiang, Exhalation: Stories, Alfred A. Knopf, 2019.
https://www.amazon.com/Exhalation-Stories-Ted-Chiang/dp/1101947888/
テッド・チャン(大森望訳)『息吹』早川書房,2019年。
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014399/
Ted Chiang, Stories of you life and others, Vintage Books, 2002.
https://www.amazon.com/Stories-Your-Life-Others-Chiang/dp/1101972122
テッド・チャン(浅倉久志ほか訳)『あなたの人生の物語』ハヤカワ文庫,2003年。
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/11458.html
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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2020年1月13日月曜日
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