フォロワー

2019年6月16日日曜日

フォルモサ・ハティン・スチール:単年度赤字が続くも,国内での同社材への需要は強い。トランプ政権の通商政策は思わぬ後押しに

 ベトナムに立地する台湾系高炉メーカー,フォルモサ・ハティン・スチール(FHS)は,2017年に5.2兆ドン(2億ドル),2018年に2.7兆ドン(1.1億ドル)の赤字を計上した。これは,おおむね予想通りだ。海洋汚染事件で第1高炉稼働が1年遅れて2017年になり,第2高炉も2018年に稼働したばかりだから,年あたりの償却負担や金融費用がかさんで当然だ。
 第2高炉稼働後,半年で200万トン以上の粗鋼を生産したとあるから,年間400万トンペースの稼働状況とみられる。フル稼働で年産700万トンのはずだから,まだ慣らし運転から脱却しきってはいないが,生産増大のペースはそう遅くない。
 国内市場への売れ行きは好調なはずだ。ベトナムはすでに建設用表面処理鋼板の輸出国になっているが,対米輸出に際しては,母材のホットコイルによってアンチダンピング税がかかってしまう。どういうことかというと,中国製,韓国製,台湾製のホットコイルはアメリカからダンピング輸出を認定されている。それらをベトナムの冷延・表面処理鋼板メーカーが母材に用いると,最終製品はベトナムから輸出するのであっても迂回輸出とみなされて課税されてしまう。そのため,ホア・セン・グループなどベトナムの鋼板メーカーは,フォルモサ製ホットコイルを使いたがっている。トランプ政権は,事実上,フォルモサの営業をしてあげているようなものなのだ。

FHSに対するまとまった評価は以下の拙論で行っています。
「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」TERG Discussion Paper, No. 395, 2018年11月。

Steel maker Formosa incurs huge losses despite incentives, Hanoitimes, June 15, 2019.

Vietnam's steelmaker Hoa Sen to purchase hot-rolled coil from Formosa Ha Tinh, Hanoitimes, October 12, 2018.

0 件のコメント:

コメントを投稿

ジェームズ・バーナム『経営者革命』は,なぜトランピズムの思想的背景として復権したのか

 2024年アメリカ大統領選挙におけるトランプの当選が確実となった。アメリカの目前の政治情勢についてあれこれと短いスパンで考えることは,私の力を超えている。政治経済学の見地から考えるべきは,「トランピズムの背後にジェームズ・バーナムの経営者革命論がある」ということだろう。  会田...