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2025年9月19日金曜日

ウルトラ兄弟の永遠と純粋,人間の有限性と美醜:『ウルトラマンタロウ』第24-25話が描いたもの

 『ウルトラマンタロウ』第24話「これがウルトラの国だ!」,第25話「燃えろ!ウルトラ6兄弟」は,脚本:田口成光,監督:山際永三,特殊技術:佐川和夫という,第1話と同じ黄金トリオによる前後編である。以前より書いているように,『タロウ』は第1話でタロウが生まれ,最終回にいなくなるという裏設定がつくりこまれているのだが,この前後編はウルトラの国とウルトラ兄弟という,堂々たる表の設定をパワー全開で振り切ったものである。ウルトラの国の設定は,劇中でも内山まもるのマンガまで挟んで解説されたが,放映前から小学館の学習雑誌等で大々的に宣伝され,小学生だった私を含む視聴者の期待を煽りに煽ったものである。

 しかし,痛快で楽しいの夢の国に見えて,よく見るとリアルな世界も描かれていて,両者が融合して成り立っているのが『タロウ』の特徴である。宇宙であり近未来にして1973年の日本なのだ。

 この前後編では,宇宙蛾の大群と怪獣ムルロアによって地球が襲われる。そして光を嫌うムルロアの吐いた黒煙によって地球は闇に包まれてしまう。このムルロアとたたかうタロウの物語が,怪獣に翻弄される岩森家の小学生6人兄弟や,タロウ不在のもとでムルロアに立ち向かうZATの物語と並行して進行するのである。

 本編に登場する岩森家の小学生6人兄弟は,家でも町内でも「ウルトラ兄弟」と呼ばれている。その両親(なぜか父親は石堂淑朗氏が演じている)は結婚以来初めての二人きりの旅行に出るが,宇宙蛾とムルロアに襲われて飛行機が遭難し,亡くなってしまうのである。兄弟たちは,ムルロアの黒煙で暗闇に閉ざされ,電気も水道も止まってしまった自宅に残される。その上,タロウ=東光太郎が下宿する白鳥家の井戸に水をもらいに行った長男は,蛾にとりつかれたトラックに轢かれてしまう。一方,宇宙科学警備隊ZATは神出鬼没のムルロアと宇宙蛾に苦戦するばかり。ついに,未完成の,推進装置もついていない新型爆弾AZ1974を生身で怪獣に飛び降りて取り付けるという奇策に出る。その役を買って出た上野隊員に荒垣副隊長は「ちゃんといのちだけは持って逃げるんだぞ」と声をかける。

 その頃,一度はムルロアに敗れたタロウは,ウルトラの母に導かれてウルトラの国に到着する。そこでは,バードンに倒されて死んだはずのゾフィーが復活した姿を目の当たりにする。タロウは兄弟と多重合体して,ウルトラタワーの奥深くに隠されたウルトラベルを取り出し,その神秘の音色で地球を取り巻く黒煙を一掃するのだ。

 ここで対比されているのは,永遠に近い命を持ち,一度死んでなお生き返るウルトラ兄弟と,限られた命しか持たない人間たちである。ついにムルロアは倒れ,岩森家の兄弟は,長男も回復して笑顔を取り戻すが,両親はもう帰って来ないのだ。たとえウルトラ兄弟たちが守ってくれるとしても,人間は限られた命を生きる以外にないのである。

 しかも,対比はそれだけにとどまらない。ウルトラベルは,地球を守ろうとするウルトラ兄弟の純粋な気持ちに反応して作動した。しかし,人間は純粋ではない。そもそも怪獣ムルロアは,「ヨーロッパの或る国」が行ったトロン爆弾の実験で破滅したムルロア星から襲来したのである(※1)。呼び寄せたのは人間の行為である。ムルロアと宇宙蛾は光に引き寄せられ,光を嫌う。ZATは電灯の使用を禁止したが,断水している街で一山当てようとした水売りは,ヘッドライトをつけてトラックを動かす。そこに宇宙蛾が群がって運転を誤り,岩森家の長男を轢いてしまうのだ。また,ムルロアに襲われた第3コンビナートは,他社との競争に負けたくないために,光をともして操業を再開する。コンビナートの従業員に至っては「アニマルだよ,アニマルになってがんばらなくちゃ,日本はだめになっちゃうんだ」とわめきながら蛾を払おうとして,再出現したムルロアの吐く液を浴び,骨まで溶けてしまう。ウルトラ兄弟は,どんな人間も命がけで守ってくれる。しかし,地球と日本には,優しい両親もいれば助け合う兄弟もいるし,勇気をもって怪獣に立ち向かう人々もいるが,私欲に捕らわれた人もいるのだ。

 こうしてこの前後編は,ウルトラ兄弟の永遠と人間の有限性,ウルトラ兄弟の純粋さと人間の美醜の交錯を対比した(※2)。私たちは永遠でも純粋でもないが,それでも生きているし,生き続けようとするのだ。

※1 実際にフランスがムルロア環礁で1966年から核実験を行っていたのであるから,そのまんまの名称である。しかも,ウルトラシリーズマニアの方ならすぐわかるように,ムルロアは『ウルトラセブン』第26話「超兵器R1号」のギエロン星獣と同じ立場なのである。田口氏が「超兵器R1号」の設定を借りたのは,ネタに詰まってのパクリではあるまい(私は,中高生の時はそう思っていたことを,このたび深く自己批判する)。この前後編は「超兵器R1号」と異なり,軍拡競争のもたらす破滅性を問うのではなく,そのかわりに,ムルロアに襲撃された日本に暮らす大人たちの,欲にまみれた姿を描いたのである。

※2 なお,この前後編は特撮のレベルも高く,本編とよく融合している。もちろん,アニメ合成の部分やウルトラの国のミニチュアなどにおもちゃ感はある。しかし,第3コンビナートに陽が昇るシーン,全身から黒煙を吐き出すムルロアの描写などがかもしだす画面の立体感はテレビとは思えない。そして,宇宙蛾の大群。ミニチュアで蛾の雰囲気を出すのは一般的にも難しい上に,円谷プロの人々にとって鬼門である。かつて『怪奇大作戦』第2話「人喰い蛾」で,人が溶けるシーンと蛾の飛び具合が円谷英二の不評を買い,撮り直しとなった大事件があった。当然,山際監督も佐川特撮監督も知っていたはずである。しかし,この前後編では同じ轍をふまなかった。まず,影絵のように大量の宇宙蛾が迫ってくる特撮シーンが実におぞましい。そして,どうしてもおもちゃっぽくになる本編の操演の蛾も,もっぱらナイトシーンで,人や電灯やコックピットガラスにまとわりつくことで,リアルなうっとおしさを醸し出していた。『怪奇大作戦』では,操演のおもちゃに人喰いという役割まで背負わせたのところに無理があったのであり,山際・佐川両氏はそこに気づいたのであろう。見事なリベンジであった。


2025年9月19日現在特別配信中

第24話「これがウルトラの国だ!」
https://www.youtube.com/watch?v=zOYdQS4u5qw

第25話「燃えろ!ウルトラ6兄弟」
https://www.youtube.com/watch?v=uKECUF5LDmg

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