東北大学大学院経済学研究科は,2023年8月24日の教授会において,博士論文「日本における初期綿糸紡績技術の研究」の提出により,玉川寛治氏に博士(経済学)の学位を授与することを決定しました。審査は,結城武延(主査),川端望,阿部武司の3名が行いました。この学位論文は,10月2日に東北大学機関リポジトリTOURにて公開されました。シェア先で全文PDFをダウンロードいただけます。
本論文は,歴史ミステリーもかくやと思わせるような謎解きとなっています。著者は「日本綿の繊維の短さが初期日本紡績業の困難の最大要因であった」というシンプルな命題の真実性を明らかにし,これを軸に,技術史,経済史上の謎を次々と解き明かしていきます。関心のある方はぜひご覧ください。審査の詳細は日本経済史専門の結城,阿部先生にリードしていただきましたが,本論文の審査に携われたことは,私にも大変な幸いであり,学びとなりました。
「本論文は、著者の長年にわたる研究の集大成として執筆されたもので、極めて独創性が高く、実証的にも確度の高い研究成果である。すなわち、技術史及び産業考古学の観点から当時の紡績技術と生産工程を復元・再構成した上で、日本綿の繊維の短さが初期日本紡績業の困難の最大要因であったことを明らかにし、さらに紡績業者がその事実を認識して原料転換と新たな技術選択を行っていく過程を説明したことである。産業革命期日本の紡績業に関する先行研究はその重要性から膨大にあるが、意外にも始祖三紡績の実態や官営紡績所から大阪紡績会社をはじめとした民間会社への移行過程における技術・機械・原料選択に関する要因は不明な点が多く、それらを明らかにした本論文の学術的貢献は非常に大きいといえる。この研究が可能になったのは、元紡績技術者でもあった著者が独自に収集した広範な資料群を駆使したからにほかならない。」(審査報告より抜粋。この報告書も間もなくTOURに掲載されます)。
<目次紹介>
第1章 序論
第2章 日本における紡績業発達史の概要
第3章 始祖三紡績
第4章 官営愛知紡績所から大阪紡績会社へ
第5章 繭糸織物陶漆器共進会(第二区二類綿糸)で明らかにされた紡績技術
第6章 日本綿・中国綿からインド綿・米綿・エジプト綿へ
第7章 インド綿・米国綿・エジプト綿用の紡績機械
第8章 ミュール精紡機とリング精紡機の選択をめぐる諸問題
第9章 結論
なお,玉川氏には以下の著書がありますので,併せてご紹介します。
玉川寛治『「資本論」と産業革命の時代―マルクスの見たイギリス資本主義』新日本出版社,1999年。
前田清志・玉川寛治編集『日本の産業遺産〈2〉―産業考古学研究』玉川大学出版部,2000年。
玉川寛治『製糸工女と富国強兵の時代―生糸がささえた日本資本主義』新日本出版社,2002年。
玉川寛治『飯島喜美の不屈の青春―女工哀史を超えた紡績女工』学習の友社,2019年。
本文ダウンロードページ
玉川寛治『日本における初期綿糸紡績技術の研究』
0 件のコメント:
コメントを投稿