Vaclav Smil, Still the Iron Age: Iron and Steel in the Modern World, Butterworth-Heinemann, 2016.
流し読みながら、ようやく通読できた。スミル氏は,食料,エネルギー,環境問題の専門家として知られており,その著作はいくつか日本語にも訳されている。しかし,氏の知識は恐ろしいほど範囲が広い。鉄鋼にも及んでいるというだけでなく、鉄鋼の歴史,技術,経済,社会のいずれの側面にも及んでいる。昔読んだもので言うと中澤護人『鋼の時代』(岩波新書,1964年)を思い出させる。本書は,残念ながら私にはとても書けそうにない,鉄鋼についての総合的な理解を得るために不可欠の著作である。
代替素材が出現し,また先進諸国では経済・社会の非物質化(Dematerialization)が進行しているとはいえ,著者はタイトルにある通り『今もなお鉄の時代』であり,それは容易には終わりそうにないと考えている。
「今後半世紀を見通しても,我々の最良の工学的,科学的,経済的理解にもとづく結論は以下のようになるに違いない。我々の文明が鉄鋼(steel)なしにたちゆくという現実的可能性はない。この金属に対するグローバルな依存の規模はあまりにも大きく,急速に極小化することができない。われわれはアルミニウムの33倍,あらゆるプラスチックの合計の約6倍の鉄鋼を使っているのである」(終章より)。
そして著者は、新製鉄技術が高炉に取って代わることのハードルも高いと考えている。それは、技術とは、開発されるだけでは完成したことにはならず、経済的な大規模生産を実現しなければならないものだからである。
「いずれにせよ,たとえ成功裏に実証されたとしても,すべての新製鉄技術は,手ごわい目標に立ち向かい,実証実験からパイロットプラントへ,そして大規模生産へという決定的な移行を遂げねばならないだろう。現代的な高炉における熱的・化学的効率と,その大規模な作業量,高い生産性,すぐれた寿命の長さは,同様のパフォーマンスを示す大規模な還元技術を考案することを極めて困難にしているのである。」(同上)
著者は、鉄鋼技術の科学的研究や研究室での開発の歴史だけではなく、実際に社会で生産に用いられてきた歴史を踏まえてこのように述べている。これが本書を重要な社会的意義を持つものにしている。
技術が市場とコストという経済的テストに合格しなければならないという命題は深刻である。経済的合理性を考慮しながら、地球温暖化防止のポイント・オブ・ノーリターンに間に合うように、鉄鋼技術を脱炭素化することは可能だろうか。これが読後に残される問題である。
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https://www.sciencedirect.com/.../9780.../still-the-iron-age
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