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2020年6月22日月曜日

ジョブ型雇用を妨げているのは労働時間管理ではない:『日経』の記事について

本日の『日経』1面(有料記事だが登録すると月10本無料で読める)「ジョブ型」労働規制が壁」(林英樹記者)

 たいへん申しにくいが,「働き方改革」について,ここ2,3年の『日経』本紙の記事はおかしい。別にリベラルや左派でないから悪いとか言っているのではない。制度の理解があさっての方向に外れている。しかもそういう記事がしばしば1面に載っている。

 「ジョブ型雇用」を「企業が職務内容を明確にして」処遇するというのはいいが,「成果で社員を処遇する」が余計である。ジョブ型かメンバーシップ型かは成果主義かどうかとは関係ない。仕事内容をマニュアル化して,これをやったら時給いくらだよという単純な時間給アルバイト雇用もジョブ型である。そのポイントは成果主義ではなく,「誰がやっても同じ賃金」ということであり,年齢,勤続,学歴,正社員か否か,いわんや性別に一切無関係に支払われるということだ。ジョブ型かつ成果給だと「誰が挙げても成果は成果」となる。そのポイントも「誰があげたのかは関係ない」という匿名性であって,労働時間とはまた別のことだ。

 次に,「成果より働いた時間に重点を置く日本ならではの規制」というのもおかしい。先進国や発達した新興国で,労働時間規制がない国などないし,日本が無闇に厳しいわけでもない。
 確かに時間管理が難しい仕事はある。冒頭に出てくるIT企業に勤める女性が「パソコンやスマートフォンの操作履歴を会社に把握され,午後5時の就業後にメール1本遅れなくなった」は,テレワークで課題になる,働いたり休んだりが細切れになり,夕方以後にも発生する場合への対処である。しかし,これは新たな時間管理方式が必要だということであって,時間管理をなくすべきだということではない。時間管理がない状態では,企業側は遠慮会釈なくノルマを課せるので,長時間労働はひどくなるだろう(学生さんのための例示をすると,オンライン講義において,総勉強時間の管理がない下で課題を出され放題の学生のような状態だ)。

 あらゆる職種に高度プロフェッショナル制や裁量労働制を導入しろというのも,制度をはき違えている。高プロや裁量労働制のポイントは「プロフェッショナル」と「裁量」であり,その意味は指示・命令がそぐわない仕事ということである。だから,時間を含めて自分で働き方を決めた方がいいということだ。それにふさわしい仕事には導入したらよかろう(本学の教員は専門業務型裁量労働制であり,私はそれでいいと思っている)。指示・命令により労働者を拘束して働かせる仕事は,たとえ「時間と成果が比例しない」にしても,拘束して働かせたことに対価を払わねばならず,拘束を過剰にして労働者の健康を損なってはならない。指示・命令を受ける仕事に高プロや裁量労働制を導入したら,長時間労働はひどくなる一方だ。現に裁量労働制なのに出勤時間があり,遅刻すると処罰される不適切制度も横行している。

 テレワーク下での労働時間管理は確かに難しく,改革しなければならない。成果主義がふさわしい仕事に成果給を導入して給料を上積みし,裁量的な仕事には裁量労働制を導入して自由裁量で働けるようにする必要はあるだろう。しかし,何もかも労働時間管理のせいにしてそれをなくしてしまうのでは,筆者が労基法のせいにしている「長時間労働を美徳とする企業文化」はますますひどくなるだろう。


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