フォロワー

2020年2月14日金曜日

日本製鉄の設備集約について

日本製鉄は厳しい設備集約に乗り出した(※1)。高炉を一度に4基も休止するのは1980年代の円高不況期以来のことではないか。対象となる製鉄所の製銑・製鋼設備を見ておくと以下の通り。*が休止する設備。確かに稼働率が悪いことがわかる。
 日鉄和歌山製鉄所について追加コメントすると,この製鉄所は製鋼工程以降は大きくはビレット連鋳→継目無鋼管造管と,スラブ連鋳→他の製鉄所へ供給,中鴻鋼鉄(台湾)に外販,というルートに分かれる。今回,第1高炉を休止すると生産量は半分になるわけだが,どちらの生産量を減らすかという問題がある。スラブ連続鋳造機を1ストランド休止するということなので,おそらくスラブを中国鋼鉄に外販する部分を減らすのではないか。
 2000年代前半にホット・ストリップ・ミルを閉鎖し,スラブは中国鋼鉄(台湾)グループの中鴻鋼鉄に外販する契約を結んでいた。あわせて,高炉を持株会社東アジア連合鋼鉄の下に移し,そこに中国鋼鉄が出資する形としていた(※2)。ところが2018年に高炉は新日鉄住金に統合され,中国鋼鉄は東アジア連合鋼鉄の持ち株比率を30%から20%に縮小するという報道がある(※3)。和歌山からスラブを台湾に送るスキームを縮小するのではないだろうか。
 呉製鉄所については,関連会社を含めて3300人の雇用が影響を受ける(※4)。日本の高炉メーカーは,ある時期までは各社単独での「終身雇用」維持を図ったが,1980年代は出向先,1994年代は転籍先を含む「継続雇用」は守るという姿勢に変わり,労働組合もそれに合意して来た(※5)。しかし,一貫製鉄所を丸ごと閉鎖するというのは,地域当たりで見ればこれまでにない大掛かりな設備縮小である。はたしてこれまでの雇用政策で臨むことができるのだろうか。そして,会社との協調姿勢を保ってきた労働組合はどうするのだろうか。

日鉄日新製鋼呉製鉄所
*第1高炉2650m3(1995年4月改修稼働)
*第2高炉2080m3(2003年11月改修稼働)

*転炉90t(1965年4月稼働)
*転炉90t(1966年11月稼働)
*転炉185t(1979年12月稼働)

生産能力推計:銑鉄345万トン(出銑比2,365日操業)。粗鋼383万トン(銑鉄比90%)

粗鋼生産実績()内は推定稼働率
2018年度279万トン(73%)
2017年度248万トン(65%)
2016年度360万トン(94%)

日本製鉄和歌山製鉄所
*第1高炉3700m3(2009年7月稼働)
第2高炉3700m3(2019年2月稼働)

転炉260t
転炉260t
転炉260t
電炉80t

生産能力推計:銑鉄540万トン,粗鋼652万トン(転炉の銑鉄比90%,電炉はスクラップ100%,1日25チャージ,261日操業とした)。

粗鋼生産実績
2018年度432万トン(66%)
2017年度456万トン(70%)
2016年度446万トン(68%)

日本製鉄八幡製鉄所(小倉地区)
*第2高炉2150m3(2002年4月改修稼働)

*転炉70t
*転炉70t
*転炉70t
*転炉70t

生産能力推計:銑鉄157万トン,粗鋼174万トン

粗鋼生産実績
2018年度118万トン(68%)
2017年度120万トン(69%)
2016年度121万トン(70%)

出所)設備規模は『日鉄ファクトブック』,『日鉄日新製鋼ガイドブック』。生産量は呉は『鉄鋼年鑑』の日新製鋼生産高を呉のものとみなした。日鉄は『日鉄ファクトブック』各年版より。能力と稼働率は川端推計。

※1「生産設備構造対策と経営ソフト刷新施策の実施について」日本製鐵プレスリリース,2020年2月7日。
https://www.nipponsteel.com/common/secure/news/20200207_700.pdf


※2 川端望(2005)『東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム』ミネルヴァ書房,pp. 126-127。

※3 中鋼出售日本東亞聯合鋼鐵公司股權,總交易金額為新台幣9.33億元,中時電子報,2019年11月11日
https://www.chinatimes.com/realtimenews/20191111002712-260410?chdtv

※4「呉製鉄所 全面閉鎖の衝撃~冬の時代に入った鉄鋼業界~」NHK NEWS WEB,2020年2月10日。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200210/k10012279851000.html

※5 川端望(2017)「日本鉄鋼業の過剰能力削減における政府の役割」TERG Discussion Paper, No. 371, pp.12-14。
http://hdl.handle.net/10097/00121018

2020年2月6日木曜日

クレイトン・クリステンセン教授の逝去によせて

 クレイトン・クリステンセン教授が亡くなられた。私は彼の破壊的イノベーション理論に気づくのが遅れ,2010年代になってから慌てて学部ゼミの教科書に採用して学んだ。記録によると2014年度第1学期に『イノベーションへの解』,2018年度第1学期に『イノベーションの最終解』と「日本は「イノベーションのジレンマ」を超えられるか」,それに「資本家のジレンマ」,第2学期にThe power of market creationを輪読している。おかげで自分の考えも随分と変わったと思う。とくに日本の産業政策における既存大企業優先策の問題点と,発展途上国における地場企業の台頭の可能性と意義については,クリステンセンを学ぶことなしに考えを深めることはできなかったろう。どうか安らかにお休みください。

 Harvard Business Reviewは同誌掲載の論稿を紹介しているが,私はこの他にBOPの市場開拓を破壊的イノベーション論で基礎づけたHart and Christensen (2002)と,低成長に陥った先進国資本主義の限界そのものに迫ったChristensen and Bever (2014)が,重要な社会的意義を持つと思う。

The Editors, The Essential Clayton Christensen Articles, Harvard Business Review Website, January 24, 2020.
https://hbr.org/2020/01/the-essential-clayton-christensen-articles

Hart, Stuart L. and Christensen, Clayton M. (2002). The great leap: Driving innovation from the base of the pyramid, MIT Sloan Management Review, 44(1), Fall.
https://sloanreview.mit.edu/article/the-great-leap-driving-innovation-from-the-base-of-the-pyramid/

Christensen, Clayton and Bever, Derek van (2014). The Capitalist’s Dilemma, Harvard Business Review, June.
https://hbr.org/2014/06/the-capitalists-dilemma


2020年1月24日金曜日

2019年の中国鉄鋼業の状況と,能力置換プロジェクト公告・登録の停止通知について

 1月22日,国家発展改革委員会は「鋼鉄行業2019年運行情況」を公表した。それによると,2019年の中国銑鉄生産は8億937万トン(前年比5.3%増),粗鋼生産は9億9634万トン(同8.3%増),鋼材生産は12億477万トン(同9.8%増)であった。鋼材は重複計算を含むので,実際は10億トン程度であろう。鋼材輸出は6429万3000トン(前年比7.3%減),輸入は1230万4000トン(同6.5%減)であった。
 粗鋼の方が銑鉄より前年比の増加率が高い。これは,製鋼工程での原料における銑鉄比率が低まり,鉄スクラップ比率が高まったことを意味する。鋼材生産の伸び,輸出の減少,輸入の減少から内需の増減を計算すると,単純計算で1億390万6000トンの内需拡大があったことになる。米中貿易摩擦やそれと関連した景気の減速にもかかわらず,鉄鋼生産は好調であり,貿易摩擦激化につながる輸出増は起こらなかったのだ。
 ただし,企業間競争が激しいことも読み取れる。鋼鉄工業協会会員企業の売り上げは10.1%伸びたが,利潤は30.9%も減少し,売上高利潤率は4.43%と,前年比で2.63パーセントポイント下降した。
 翌23日,国家発展改革委員会弁公庁と工業和信息化部弁公庁は,「関于完善鋼鉄産能置換和項目備案工作的通知」(発改電〔2020〕19号)を公表した。この通知は,1)鉄鋼生産能力置換方策の公告とプロジェクト登録の暫定的停止,2)現在の鉄鋼生産能力置換プロジェクトの自主検査を指示している。産業発展司によるその解説では,a)粗鋼生産が記録的な水準に達し,需給不均衡を引き起こす可能性があること,b)一部の能力が集中的に投資されるために需給バランスが崩れるリスクが高くなること,c)能力移転の科学的論証が不十分であり,地域の産業構造や環境の許容量や省エネ・汚染物質排出削減の観点から見て,構造調整の所定の結果を達成するのが難しいことを指摘している。
 この通知は重要な意味を持つ。中国政府は鉄鋼業の過剰能力を抑制するために,2016-2018年の3年間に,旧式・小型設備を中心に粗鋼生産能力を閉鎖させた。そしてそれと同時に「能力置換」政策を実施した。これは,閉鎖する設備と新設する設備を共に明示し,後者の製銑・製鋼能力が前者と同等か下回る場合にのみ設備投資を認めるというものであった。政策が文字通りに運用されれば,製銑・製鋼能力は中国全体として増えることなく,現代化されるはずであった。しかし,これまでも政策運用上のエラーや例外的措置によって,減量置換の原則を潜り抜けてしまった能力が存在すると推定されていた。私は,2016-2018年の能力削減実績が,政府によれば1.55億トンであるのに,同じ政府の公式統計を時系列で見ると1億トンにしかならないことの原因の一部は,ここにあったと推定してきた。そして今,能力置換が想定通りの効果を上げないおそれがあることを,政府自身が認めるに至ったのである。

国家発展和改革委員会「鋼鉄行業2019年運行情況」2020年1月22日。
https://www.ndrc.gov.cn/fggz/cyfz/zcyfz/202001/t20200122_1219726.html
国家発展改革委員会弁公庁・工業和信息化部弁公庁「関于完善鋼鉄産能置換和項目備案工作的通知」発改電〔2020〕19号,2020年1月23日。
https://www.ndrc.gov.cn/xxgk/zcfb/tz/202001/t20200123_1219768.html
国家発展改革委員会産業発展司「深化供给側結構性改革 促進鋼鉄行業高質量発展——《関于完善鋼鉄産能置換和項目備案工作的通知》解読」2020年1月23日。
https://www.ndrc.gov.cn/xxgk/jd/jd/202001/t20200123_1219770.html


※川端望(2019)「中国鉄鋼業の生産能力と能力削減実績の推計―公式発表の解釈と補正―」TERG Discussion Paper, 414, pp.1-8, November。
http://hdl.handle.net/10097/00126428


牧野邦昭『新版 戦時下の経済学者』中央公論新社,2020年を読んで

牧野邦昭『新版 戦時下の経済学者』(中央公論新社,2020年)読了。本書は「個々の経済学者が自身の経済学研究に基づいて主張した思想や行動が,現在の視点から見て当時の日本社会や経済学の動きのなかでどのような役割を果てしており,最終的にはどのような形で総力戦体制に取り込まれざるを得なかったか」(まえがき)を論じている。2010年に刊行された旧版を,著者のその後の研究の進展を踏まえて改訂したものである。

 登場するのは河上肇と有沢広巳を除くと非マルクス経済学者であり,柴田敬,山本勝市,大熊信行,難波田春夫,高田保馬,荒木光太郎,中山伊知郎,安井琢磨といった顔ぶれである。戦時下のマルクス・元マルクス経済学者を論じた本として長岡新吉『日本資本主義論争の群像』ミネルヴァ書房,1984年があるが,異なる問題意識から書かれたとは言え,同書と本書には重要な補完関係があるように私には思える。同一時代の経済学者の生き方を論じたマル経版,近経版として併読する価値があるようにも思えた。なお,「近代経済学」という言い方がなぜ日本に定着したかも本書の一つのテーマである。

 本書にはいくつかのストーリーがあり,どれに深い印象を受けるかは読者の問題関心による。私の場合,読んでいてまったく昔のことと思われなかったのは,戦時下での経済学のイデオロギー化である。具体的には,一般均衡理論の紹介者であり戦時下でも経済学は経済学として存立するとした中山伊知郎らの「純粋経済学」と,国家が政治的な力を以て財や労働の配分を行うという大熊信行らの「政治経済学」や,日本の後発的な経済発展は「国体」に包摂されて共同関係となることで支えられるという難波田春夫らの「日本経済学」の対立のところだ。後二者には具体的内容がないので,今となっては純学問的には中山らの方に分がある。ところが戦時体制下では,経済政策を学問的に論じようとしても,どちらが戦時体制に貢献しており,どちらが敵対していて怪しからんかという文脈から離れられなかった。だから瀧川事件や天皇機関説事件で知識人を攻撃していた右翼中の右翼のはずの蓑田胸喜が,中山を擁護して新体制運動を批判するということも起こった。「資本主義原理の変革を伴う経済統制を主張するにしろ,市場の重視を訴えるにしろ,何を言っても『マルクス主義者』『アカ』そうでなければ『自由主義者』『資本主義擁護者』として批判されるというダブルバインド状態が生じることになった」(158ページ)。何を言っても政治的レッテルの応酬になるというこの光景は,戦後も今に至るまでも,社会科学者におなじみのものである。「あとがき」で著者が述べるように,「研究をしていくなかで実感したことは,人間がその時代の制度や支配的な思想から逃れることがいかに難しいかということである。自身が普遍的な立場に立っているつもりで発言しても,また心の底から善意で行動していても,それが結局のところ特定の制度や思想を支える役割を果たすことになってしまう」のだ。

 本書は,この困難を投げかけて終わっている。では,どうしたらよいのだろうか。私自身にも正直,解らない。少なくとも経済学者は,学問は学問として政治的な都合を離れて追求することを任務としつつ,それでも自分たちが社会に埋め込まれ,何かを促進したり抑制したりしていることに自覚的でなければならないだろう。

著者のもう一つの著作『経済学者たちの日米開戦:幻の『秋丸機関報告書』の謎を解く』への感想はこちら。私はこちらを先に読んだが,本書新版の方が説得力が高いと思う。
https://riversidehope.blogspot.com/2020/01/2018.html

牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』新潮社,2018年を読んで

 牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』新潮社,2018年。日米の経済抗戦力の巨大な格差を分析した「幻の報告書」が握りつぶされたのが問題だという,先行研究の捉え方を覆し,むしろ握りつぶされずに正確な情報が伝わったのに開戦阻止につながらなかった,いや開戦を後押しさえしたかもしれないという逆説を主張した本である。この逆説はたいへん面白かった。

 これは「経済学者の合理的判断をちゃんと聞けばよいのに,聞かないからおかしなことになる」という,現代の経済学者が大好きなストーリーでは,秋丸機関報告書の問題は解釈できないということである(そもそもこうしたストーリーは,<私は合理的で冷静だ。でも,政治家や軍人は違うんだよなあ>という暗黙の前提に立っており,あまり信用してよいものではない)。さらに,学者は,ハイ・コンテキストな状況に対して,どう発言するべきなのかという問題提起を含んでいる。中立的な発言が特定方向の決定を後押しする,はなはだしくは,ある行為に対する否定的見解が,むしろその行為を決意させる(自己破壊する予言)ような状況にどう立ち向かうべきなのかという問題だ。

 ただ,後半の,それでも開戦に踏み切ったという理由の説明のところで,個人の選択に関する抽象的なモデルで推論してしまっているところが残念だった。1)開戦が決定されるのは集団の力学の中でだと考えた方が妥当であり,個人の意思決定モデルから推論することは適当とは言えないのではないかという点と,2)歴史書として書くならば,開戦の意思決定も理論モデルではなく,それを歴史的な過程に即して実証すべきではないかという点に,疑問が残った。本書の結論自体が,ハイ・コンテキストな問題を経済学の理論で切り取れる範囲で評価することの問題を示しているように思えるのだ。

2019年7月2日 Facebook投稿。
2020年1月23日 一部改訂してBlogger掲載。



2020年1月19日日曜日

「この外国人をホワイトカラー職務に就かせる」と約束して肉体労働をさせる違法行為は,外国人労働者も日本人労働者も大学をも脅かす

 「“高度外国人材”として働けない」NHKニュースおはよう日本,2020年1月14日で報道されているように,「技術・人文知識・国際業務」ビザの外国人労働者に土木作業,倉庫の整理,牛舎の片づけやえさやりなどをさせているのは違法行為である。外国人労働者当人でなく,会社によって引き起こされている違法行為だ。研修のために入社後数か月現業の技能労働をさせるのはよいが,当然本人にその計画を理解してもらわねばならない。ここで摘発されているのはそのような例ばかりでなく,恒久的に肉体労働に従事させられていたのだろう。
 NHKで取り上げられている例は留学生ではない。だが,同じようなことが留学生が日本の大学を卒業・修了した場合に行われると,大学のあり方にも影響が出てくる。
 現在,事実上の就労目的での留学が拡大していると報道されており,その対象が日本語学校から,一部でたらめな留学生受け入れを行っている大学に広がっている。そこでは法の抜け道としてのアルバイト就労が問題になっている。そうした状況下で,学校卒業後に日本で就労できるかどうかを在留資格の切り替えによって管理することは,不正常な就労を防ぐ砦になっている。「大卒でホワイトカラー職への採用が決まったら『技術・人文知識・国際業務ビザ』に切り替えられるし,実際にホワイトカラー業務に就ける」という条件を崩してはいけないのだ。ここが崩れると,外国から日本の大学に留学して,学部卒業後,ブルーカラー業務につくというルートができてしまう。一方で日本の留学生受け入れ拡大策を国際交流でもイノベーション促進策でもない単純労働力確保政策にしてしまうものであり,高等教育の無駄遣いだ。他方で「特定技能」資格によってブルーカラー外国人労働者の質と処遇を保証しようという制度が骨抜きになって,ブルーカラー外国人労働者の需給管理が困難となってしまう。端的に供給過剰になって外国人労働者の処遇は下がるし,日本人労働者との競合が発生する恐れがある。
 だから労働政策の立場から見ても大学の立場から見ても,このような違法行為は厳重に取り締まらねばならない。日本の大学を卒業した留学生が労働者となる場合は,会社がブルーカラー職務でなくホワイトカラー職務に就けると約束した場合にのみ「技術・人文知識・国際業務」ビザへの切り替えを認めるという,現在の制度を守らねばならない。そして会社には,その約束を守らせねばならないのだ。

<関連投稿>
「外国人留学生が卒業後に起業することは促進すべきだが,在学中の起業は認めるべきではない理由」2019年6月13日。
「続々:留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について」2019年5月29日。
「続・留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について」2018年11月3日。
「留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について」2018年10月22日。


2020年1月13日月曜日

テッド・チャン『息吹』『あなたの人生の物語』を読んで

テッド・チャンの中短編集から考えさせられるのは,時間に対する感覚や意識的・無意識的な思考の枠組み,あるいは思い込みが,私たちのものの見方,考え方,人生に対するとらえ方を深いところで規定しているということだ。作者は,その感覚,枠組み,思い込みが通用しない世界を見せてくれる。ただし,読者の感覚を暴力的に揺さぶって怯えさせるのではない。時間が,私たちが普段考えているのとは違う形,違う秩序を取り,違う風に流れる,あるいはそもそも流れない世界を鮮やかに構築して,そこに読者をいざなうのだ。そして,別の見方,別の考え方,別のとらえ方があると気が付かざるを得ないようにしてくれる。運命がすべて決定されているとしても,それを受け入れて価値ある人生を送ることは可能だろうか。逆に運命に無数のバラエティがあるならば,決断に意味があるだろうか。過去を正確に知ることは,現在にどのような可能性をもたらすだろうか。テッド・チャンの世界では,それらの問いがまったく自然に目の前に現れてくるのだ。

Ted Chiang, Exhalation: Stories, Alfred A. Knopf, 2019.
https://www.amazon.com/Exhalation-Stories-Ted-Chiang/dp/1101947888/
テッド・チャン(大森望訳)『息吹』早川書房,2019年。
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014399/

Ted Chiang, Stories of you life and others, Vintage Books, 2002.
https://www.amazon.com/Stories-Your-Life-Others-Chiang/dp/1101972122
テッド・チャン(浅倉久志ほか訳)『あなたの人生の物語』ハヤカワ文庫,2003年。
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/11458.html


論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」の研究年報『経済学』掲載決定と原稿公開について

 論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」を東北大学経済学研究科の紀要である研究年報『経済学』に投稿し,掲載許可を得ました。5万字ほどあるので2回連載になるかもしれません。しかしこの紀要は年に1回しか出ませんので,掲載完了まで2年かかる恐れがあ...