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2021年6月27日日曜日

川端望・銀迪「現代中国鉄鋼業の生産システム: その独自性と存立根拠」を『社会科学』(同志社大学人文科学研究所)に発表しました

 同志社大学人文科学研究所発行の『社会科学』誌に,院生の銀迪さんとの共著論文を発表しました。極度の鉄鋼オタク論文ですが,一応,生産システムの理論的考察を深めたつもりです。また実証的には,21世紀初めの中国鉄鋼業の爆発的成長は大型高炉一貫システムだけによって担われたものではなく,むしろその中心には,中低級品の需要に対する中小型高炉一貫システムによる供給があったこと,誘導炉によるインフォーマル極小ロット生産も相当な寄与をしていたことを明らかにしました。それは技術水準が低かったことをあげつらっているのではなく,その逆で,これらの中小型システムが需要に応えたのだから経済的には合理的だったと評価しています。

 次の問題は,企業・産業レベルで視た場合にはどのような企業が鉄鋼生産を担っていたかということです。そして,このように建設用を中心とした中低級品の需要に民営企業が応えようとしていた時に,政府が実行した産業政策はどのような目的と内容を持ち,どのような役割を果たしたかです。これらは,銀さんが主要著者となって論じる予定で,前者はディスカッション・ペーパー,後者は学会報告までできています。私は,これらの研究が論文として仕上がるように,ここからは支援に徹します。


川端望・銀迪(2021)「現代中国鉄鋼業の生産システム: その独自性と存立根拠」『社会科学』51(1), 同志社大学人文科学研究所,1-31。 

こちらが続編のDP版
銀迪・川端望(2021)「高成長期の中国鉄鋼業における二極構造 ―巨大企業の市場支配力と小型メーカーの成長基盤の検証―」TERG Discussion Paper, 452, 1-34。



2021年6月15日火曜日

日本製鉄における国際競争の論理:伸びる市場と縮む市場

  日本製鉄の橋本英二社長が中国鉄鋼業との競争の厳しさを盛んに訴えているが,日本国内では反応が鈍い。これは,他の産業と異なり,中国製鋼材に日本市場にあふれているわけではないからだろう。実は,中国政府自体も貿易摩擦を警戒するのと脱炭素のため,鉄鋼輸出を抑制しているの現実だ。

 それでは中国鉄鋼業との競争とは虚構の煽り文句なのかというと,そうではない。中国製品が海外にあふれるというのとは違う形で起こっているのだ。以下のグラフでお分かりの通り,コロナ以前から鉄鋼需要は中国とインドで伸びていて,日本やその他の地域計では伸びていない。そして,中国とインドの鉄鋼業は,すでに伸びた需要の分を国産化するくらいの競争力は持っている。ということは,他国の鉄鋼業が,拡大する中国とインドに割り込みにくくなっているということである。しかし,それ以外の地域は成長していない。これが,中国およびインド鉄鋼業との競争である。

 この壁を超える方法はクロスボーダーM&Aである。つまりインドか中国で生産拠点と販売ルートを手に入れてしまえばいい。しかし,中国は鉄鋼業への過半数出資禁止を解除したばかりであり,政治情勢から見ても入りにくい。だからこそ日鉄はアルセロール・ミタルと共同でインドのエッサールを買収して,AM/NS Indiaを設立したのである。これにより合弁ながら粗鋼生産能力960万トンを獲得した。一方,コロナ危機を経て日本では2025年度までに1000万トンを削減すると発表している。瀬戸内製鉄所(旧呉製鉄所)は丸ごと廃止され,九州製鉄所八幡地区小倉(旧小倉製鉄所)も非一貫化する。鹿島も高炉1基が止まる。伸びる市場を獲得し,すぼむ市場からは足を抜いていく。日鉄の目指すところは国内生産4400万トン,海外生産5000万トンという内外逆転である。



『産業学会研究年報』第36号刊行

 『産業学会研究年報』第36号,発行されました。今号は,査読制度改革後の最初の号です。「招待論文」「投稿論文」のそれぞれの性格を明確にしました。また書評選考プロセスを改革し,NDL-ONLINEを用いて会員著作を見逃さないようにしました。論文10本,書評15本が掲載されています。

 編集委員長になってから3冊目を無事に発行出来て一安心です。なお,昨年発行の第35号はJ-Stageで公開されました。
■ 招待論文
□ ふくしま医療機器クラスターの現状と課題,今後の動向(石橋毅)
■ 投稿論文
□ 日本における介護ロボットの普及課題-ビジネス・エコシステムの視点に基づいて-(北嶋守)
□ 医療機器におけるAM技術の普及-中小製造業を事例にして一(藤坂浩司)
□ テスラの事業戦略研究・序説(佐伯靖雄)
□ カーエレクトロニクス部品の国内需要に関する試算-産業連関表におけるデバイス製品からの推計-(太田志乃)
口 自動車部品ビジネスにおけるトップ・セールスの有効性について-人脈による企業間関係構築の媒介性と速度感の視点からの考察-(宮川正洋)
□ 日本の法人向け自動車販売における企業間関係(岸田淳)
□ 周辺地域における航空機部品受注と次世代航空機への対応一秋田県を事例として一(山本匡毅)
□ ファーストリテイリングのSDGsに向けての未来戦略(畑中艶子)
□ デザイン経営における感性のマッチング-岩手県内中小企業における実験的取組みに基づく実証研究からの考察-(三好純矢・近藤信一)
■書評
塩地洋・田中彰編著『東アジア優位産業:多元化する国際生産ネットワーク』中央経済社,2020年3月(赤羽淳)
前田啓一・塩地洋・上田曜子編著『ASEANにおける日系企業のダイナックス』晃洋書房,2020年10月(肥塚浩)
明石芳彦『進化するアメリカ産業と地域の盛衰』御茶の水書房,2019年3月(川端望)
公文溥・糸久正人編著『アフリカの日本企業:日本的経営生産システムの移転可能性』時潮社,2019年3月(小林哲也)
中島裕喜『日本の電子部品産業』名古屋大学出版会、2019年2月(佐伯靖雄)
山﨑朗編著『地域産業のイノベーション・システム:集積と連携が生む都市の経済』学芸出版社,2019年2月(松原宏)
奧山雅之『地域中小製造業のサービス・イノベーション : 「製品+サービス」のマネジメント』ミネルヴァ書房,2020年5月(山﨑朗)
加藤秀雄・奧山雅之『繊維・アパレルの構造変化と地域産業 : 海外⽣産と国内産地の行方』文眞堂,2020年8月(杉田宗聴)
赤松裕二『フルート製造の変遷 : 楽器産業の製品戦略』大阪公立大学共同出版会,2019年11月(中道一心)
久保隆行『都市・地域のグローバル競争戦略-日本各地の国際競争力を評価し競争戦略を構想するために-』時事通信社、2019年1月(杉浦勝章)
李澤建『新興国企業の成長戦略: 中国自動車産業が語る"持たざる者"の強み』晃洋書房,2019年11月(上山邦雄)
石鋭『改革開放と小売業の創発:移行期中国の流通再編』京都大学学術出版会,2020年3月(田中彰)
十名直喜『人生のロマンと挑戦 : 「働・学・研」協同の理念と生き方』社会評論社,2020年2月(熊坂敏彦)
中瀬哲史・田口直樹編著『環境統合型生産システムと地域創生』文眞堂,2019年3月(中山健一郎)
日野道啓『環境物品交渉・貿易の経済分析 : 国際貿易の活用による環境効果の検証』文眞堂,2019年12月(堀井伸浩)

岡橋保信用貨幣論再発見の意義

  私の貨幣・信用論研究は,「通貨供給システムとして金融システムと財政システムを描写する」というところに落ち着きそうである。そして,その前半部をなす金融システム論は,「岡橋保説の批判的徹底」という位置におさまりそうだ。  なぜ岡橋説か。それは,日本のマルクス派の伝統の中で,岡橋氏...