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2018年12月31日月曜日

小田中直樹『フランス現代史』をいただきました

 小田中直樹『フランス現代史』。著者よりいただきました。私は「黄色いベスト」運動を,しばらく「なんじゃ,ありゃ」くらいにしか思っていなかったのですが,小田中さんが『現代ビジネス』に書かれた紹介でことの重大さに気づき,これは『フランス現代史』も読まねばと思いました。まんまとひっかかったというか,この本は,きわめてタイミングよく出版されたわけですね。

小田中直樹[2018]『フランス現代史』岩波書店。

小田中直樹「フランスデモ、怒りの根底にある「庶民軽視・緊縮財政」の現代史」現代ビジネス,2018年12月14日。

「フランスデモの解説記事から,民主政治とマクロ経済政策のジレンマを考える」Ka-Bataブログ,2018年12月15日。



2018年12月30日日曜日

和久峻三氏の訃報に接して:『権力の朝』のこと

 作家の和久峻三氏が10月に亡くなられていたという報道があった。和久氏と言えば「赤かぶ検事」シリーズが有名で,フランキー堺主演でテレビにもなった。私は,最後の1992年放映のシリーズだけ美保純目当てで視ていた。
 だが,和久氏にはよりスケールの大きな怪作も発表している。

『権力の朝』(主婦の友社,1978年。角川文庫,1980年)。



 不穏な文言が連続する目次をご覧いただきたい。



(注。小説前半部分のあらすじの一部を明かします)

 19XX年。経済危機に陥った日本では,国民の不満を巧みに吸収した日本労働党,社会進歩党からなる革新連合が総選挙で多数を占め,保守党との政権交代を実現しようとしていた。そこに,最高裁長官が殺害されるという事件が起き,さらに現首相と副総理が武装集団によって誘拐されてしまう。国会は労働党の党首を新首相に指名したが,内閣総辞職の手続きも天皇による首相任命の手続きもできない。現首相もその代行も不在だからだ。しかも,現首相は誘拐される前日に治安出動を命令していたのだ。新政権の合法的成立を阻止しようとするクーデターか?そして,「権力の朝」に待ち受ける陥穽とは?

 ちなみに革新連合の側の主な登場人物は日本労働党の宮川顕三委員長と不二芳夫書記局長。ここで(笑)や(苦笑)が出る人は中高年であり,若者は「誰だよ,それ?」だろう。

 高校生の私は,この小説を読み,議会制民主主義において多数を獲得すること,政府を掌握すること,そして国家権力を獲得することの三つは,決してイコールではないのだと思い,権力の本質は暴力であるが,それは正当性をまとい,正当性を通してのみ動くものであるのだと思うようになった。誠に安上がりな政治学習であった。すでに廃版だが,アマゾンでは1円で中古本を買える。

補足:1円の時もありますが,めちゃくちゃ高いときもあります。

和久峻三[1980]『権力の朝』角川文庫。




『アジア経営研究』第14,15号を1月1日よりネット公開

 『アジア経営研究』第15号(2009年),第14号(2008年)電子版の入力・点検作業完了。2019年1月1日にJ-STAGEで公開します。これでようやく過去10年分の公開にこぎつけました。以下はラインナップの一部です。

第14号
大会招待講演
長谷川治清「世界のアジア経営研究の動向:テーマと視点」
招待論文
藤本隆宏・葛東昇・呉在烜「東アジアの産業内貿易と工程アーキテクチャ」
統一論題論文
善本哲夫「日本企業のものづくり展開とアジア力」
土屋勉男「アジア自動車産業の競争力と日本メーカーの戦略」
川端望「東アジア鉄鋼企業の比較分析」
湯之上隆「生産能力から見た東アジアの半導体産業の国際競争力」

第15号
大会記念講演
永池克明「グローバル経営の新潮流とアジア」
統一論題論文
秋野晶二「エレクトロニクス産業におけるグローバルな生産構造の変化とアジアEMS企業の成長」
中原裕美子「グローパル開発ネットワークの諸類型とその決定要因」

J-STAGE『アジア経営研究』トップページ。

2018年12月28日金曜日

ファーウェイ排除が日本経済に与える影響

 12月27日に出たファーウェイのプレスリリース「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」(※1)。日本からの調達金額の大きさが注目される。念のため財務省統計と照合したが,2017年のファーウェイの調達額4900億円は,確かに日本の対中輸出の約3.3%になる(※2)。今年は4%になるという同社の試算も嘘ではあるまい。
 半導体の専門家である湯之上隆氏によると(※3),もしファーウェイとの取引が禁止されると,部品,例えばソニーのCMOSセンサ,東芝メモリのNANDフラッシュメモリ,TDKのセラミックコンデンサなどが輸出できなくなる。またファーウェイ向けに台湾のTSMCが行う半導体製造も縮小するので,製造装置ビジネスでは例えば東京エレクトロン,スクリーン,日立国際電気,荏原製作所,日立ハイテクノロジーズが直接に影響を受け,海外製の半導体製造装置に供給している日本の部品メーカーも影響を受ける。さらに,シリコンウエハ,レジスト,薬液,ガスなど日本企業のシェアが高い半導体素材ビジネスも打撃を受けるという。
 間の悪いことに,アベノミクスの下で利益を上げながら手元に現金や金融資産をためるばかりだった日本企業が,2017年から設備投資を伸ばし始め,史上最高金額にまで至らせている(※4)。このタイミングで需要側からショックを受けると危険ではないか。
 米国に追随したり風評や感情によって動くのではなく,事の重大さを理解したうえで証拠に基づいて議論しないと,米中ハイテク摩擦を出発点に日本に不況を呼び込むことになりかねない。

※1「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」華為技術日本株式会社代表取締役社長 王剣峰(ジェフ・ワン),2018年12月27日。
※2「輸出相手国上位10カ国の推移(年ベース)」財務省貿易統計。
※3 湯之上隆「米国によるファーウェイCFO逮捕は、日本企業に“とてつもない大打撃”を与える」Business Journal,2018年12月15日。
※4 「『日経』連続記事『景気回復 最長への関門』に見る日本経済の変化と新たな不安」Ka-Bataブログ,2018年12月7日。

2018年12月27日木曜日

続・松井和夫先生のこと

 不意に思い出したのだが,私は前期課程2年の時,松井和夫先生(日本証券経済研究所大阪研究所主任研究員)の経済学部連続講義「証券市場論」に珍しくちゃんと出席していた。昼食を生協のレストラン「ルポー」でご一緒した時,先生を招へいする窓口になっていらっしゃった鴨池治教授(マクロ経済学,金融論)も別の席においでだった。鴨池教授は,こちらにやってきて松井先生の隣に座り,しばらくお話をされていた。アメリカでトービンのQが1を下回っているためにM&Aが誘発されることなどが話題であった。やがて,鴨池教授はご自身の席に戻られた。と,松井先生はやおら私に向き直り,「君,レーニンはな」と,独占と金融資本について語り始めたのである。なるほど,先生はこうやって,証券業界に求められる博学のエコノミストであり,かつ根底ではマルクス経済学者として,たくましく生きていらっしゃるのだなと思った。
 日本証券経済研究所大阪研究所主任研究員・後に大阪経済大学教授の松井先生は,もっと思い出されるべき研究者だと思う。同じ研究所に同じ時においでだった奥村宏先生が日本企業・企業間関係研究者として広く知られているように,松井先生はアメリカ企業・企業間関係研究者として,もっと知られるべきだと思う。

松井和夫教授略歴・業績目録。この目録掲載の雑誌論文84本には,『証研レポート』に執筆されたレポートは含まれていない。
http://www.osaka-ue.ac.jp/file/general/5125

松井和夫先生のこと(2014/10/19)Ka-Bataアーカイブ。

Revised version of "Development of the Vietnamese Iron and Steel Industry under International Economic Integration"

I found a typing error in an English version of my paper that I sent you two weeks ago. If you got it until Dec 12, please download the new edition. Revision record is at the end of the new version. Sorry to trouble you.

先日公表した拙稿「国際経済統合下のベトナム鉄鋼業」の英語版において数値の誤記がありました。12月12日に修正済みの版と差し替えさせていただきました。たいへんおそれいりますが,12日以前に東北大学機関リポジトリ(TOUR)より英語版を入手された方は,再度ダウンロードくださるよう,お願い申し上げます。修正版には末尾にRevision recordがあることで,元の版と区別できます。日本語版にはこの誤記はありません。余分なお手間をかけて申し訳ありません。

Nozomu Kawabata[2018]. Development of the Vietnamese Iron and Steel Industry under International Economic Integration, TERG Discussion Paper, No.396.

2018年12月23日日曜日

追悼・石橋雅史氏。「将軍を狙う覆面鬼」のヘッダー指揮官

俳優の石橋雅史氏が逝去された。私は彼の良い観客とは言えないが,『バトルフィーバーJ』のヘッダー指揮官がすばらしい悪役だったことは知っている。とくに印象的だったのは第50話「将軍を狙う覆面鬼」。
 『バトルフィーバーJ』は「5人のチーム」+「メカ・巨大ロボット」というスーパー戦隊のフォーマットを確立した1979年放映開始の番組だ。その特徴は,上と下の世代,アナクロ権威主義とモラトリアム主義の混合。彼らの所属は国防省であり(防衛省でも防衛庁でもない,れっきとした国防省が日本にある!),上司は倉間鉄山将軍で,戦前派風の剣の達人(演じるのも東映時代劇の雄,東千代之介)。ところがバトルフィーバー隊の若者はバトルジャパン,バトルフランス,バトルコサック,バトルケニア,ミスアメリカと名付けられたインターナショナルで(実際に外国人なのは初代アメリカだけだが),かつ軽めの若者である。遊びすぎたり調子に乗って敵エゴスをなめてかかったりして,鉄山将軍に「馬鹿者!」と怒られる。それが妙にかみ合っている。そして,エゴスは悪の結社というよりカルト宗教。首領サタンエゴスは神で,石橋氏演じるヘッダーは戦闘指揮官であると同時に祭祀であり,怪人を「皇子」「神の子」と敬う。このノリを,バブルはおろか1980年代も来る前に出したのは,なかなか先駆的だったと思う。
 そのような中,このエピソードはあからさまに時代劇である。脚本は上原正三。エゴスの指揮官ヘッダーは,邪心流の武道の開祖,鬼一角の門下生であった。そして,鬼一角は,鉄山の師,藤波白雲斎に30年前破門されていたのだ。邪心流の極意は「卑怯も兵法なり」。ヘッダーはその言葉に忠実に鬼一角を殺し,白雲斎をも暗殺して,鉄山将軍を誘い出す。バトルフィーバー隊の若者を「雑魚」と言い切り,鉄山を倒すことのみに執念を燃やす2代目鬼一角ヘッダーと,鉄山との決闘の時が来た!
 一切の迷いなく「卑怯も兵法なり」と信じ,憎しみのみに身を委ねるヘッダー。石橋雅史氏の鬼気迫る演技は,39年たっても印象的である。

『バトルフィーバーJ』Amazon Prime Video.
https://www.amazon.co.jp/dp/B01LYI86Z5/

『ウルトラマンタロウ』第1話と最終回の謎

  『ウルトラマンタロウ』の最終回が放映されてから,今年で50年となる。この最終回には不思議なところがあり,それは第1話とも対応していると私は思っている。それは,第1話でも最終回でも,東光太郎とウルトラの母は描かれているが,光太郎と別人格としてのウルトラマンタロウは登場しないこと...