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2018年12月28日金曜日

ファーウェイ排除が日本経済に与える影響

 12月27日に出たファーウェイのプレスリリース「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」(※1)。日本からの調達金額の大きさが注目される。念のため財務省統計と照合したが,2017年のファーウェイの調達額4900億円は,確かに日本の対中輸出の約3.3%になる(※2)。今年は4%になるという同社の試算も嘘ではあるまい。
 半導体の専門家である湯之上隆氏によると(※3),もしファーウェイとの取引が禁止されると,部品,例えばソニーのCMOSセンサ,東芝メモリのNANDフラッシュメモリ,TDKのセラミックコンデンサなどが輸出できなくなる。またファーウェイ向けに台湾のTSMCが行う半導体製造も縮小するので,製造装置ビジネスでは例えば東京エレクトロン,スクリーン,日立国際電気,荏原製作所,日立ハイテクノロジーズが直接に影響を受け,海外製の半導体製造装置に供給している日本の部品メーカーも影響を受ける。さらに,シリコンウエハ,レジスト,薬液,ガスなど日本企業のシェアが高い半導体素材ビジネスも打撃を受けるという。
 間の悪いことに,アベノミクスの下で利益を上げながら手元に現金や金融資産をためるばかりだった日本企業が,2017年から設備投資を伸ばし始め,史上最高金額にまで至らせている(※4)。このタイミングで需要側からショックを受けると危険ではないか。
 米国に追随したり風評や感情によって動くのではなく,事の重大さを理解したうえで証拠に基づいて議論しないと,米中ハイテク摩擦を出発点に日本に不況を呼び込むことになりかねない。

※1「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」華為技術日本株式会社代表取締役社長 王剣峰(ジェフ・ワン),2018年12月27日。
※2「輸出相手国上位10カ国の推移(年ベース)」財務省貿易統計。
※3 湯之上隆「米国によるファーウェイCFO逮捕は、日本企業に“とてつもない大打撃”を与える」Business Journal,2018年12月15日。
※4 「『日経』連続記事『景気回復 最長への関門』に見る日本経済の変化と新たな不安」Ka-Bataブログ,2018年12月7日。

2018年12月27日木曜日

続・松井和夫先生のこと

 不意に思い出したのだが,私は前期課程2年の時,松井和夫先生(日本証券経済研究所大阪研究所主任研究員)の経済学部連続講義「証券市場論」に珍しくちゃんと出席していた。昼食を生協のレストラン「ルポー」でご一緒した時,先生を招へいする窓口になっていらっしゃった鴨池治教授(マクロ経済学,金融論)も別の席においでだった。鴨池教授は,こちらにやってきて松井先生の隣に座り,しばらくお話をされていた。アメリカでトービンのQが1を下回っているためにM&Aが誘発されることなどが話題であった。やがて,鴨池教授はご自身の席に戻られた。と,松井先生はやおら私に向き直り,「君,レーニンはな」と,独占と金融資本について語り始めたのである。なるほど,先生はこうやって,証券業界に求められる博学のエコノミストであり,かつ根底ではマルクス経済学者として,たくましく生きていらっしゃるのだなと思った。
 日本証券経済研究所大阪研究所主任研究員・後に大阪経済大学教授の松井先生は,もっと思い出されるべき研究者だと思う。同じ研究所に同じ時においでだった奥村宏先生が日本企業・企業間関係研究者として広く知られているように,松井先生はアメリカ企業・企業間関係研究者として,もっと知られるべきだと思う。

松井和夫教授略歴・業績目録。この目録掲載の雑誌論文84本には,『証研レポート』に執筆されたレポートは含まれていない。
http://www.osaka-ue.ac.jp/file/general/5125

松井和夫先生のこと(2014/10/19)Ka-Bataアーカイブ。

Revised version of "Development of the Vietnamese Iron and Steel Industry under International Economic Integration"

I found a typing error in an English version of my paper that I sent you two weeks ago. If you got it until Dec 12, please download the new edition. Revision record is at the end of the new version. Sorry to trouble you.

先日公表した拙稿「国際経済統合下のベトナム鉄鋼業」の英語版において数値の誤記がありました。12月12日に修正済みの版と差し替えさせていただきました。たいへんおそれいりますが,12日以前に東北大学機関リポジトリ(TOUR)より英語版を入手された方は,再度ダウンロードくださるよう,お願い申し上げます。修正版には末尾にRevision recordがあることで,元の版と区別できます。日本語版にはこの誤記はありません。余分なお手間をかけて申し訳ありません。

Nozomu Kawabata[2018]. Development of the Vietnamese Iron and Steel Industry under International Economic Integration, TERG Discussion Paper, No.396.

2018年12月23日日曜日

追悼・石橋雅史氏。「将軍を狙う覆面鬼」のヘッダー指揮官

俳優の石橋雅史氏が逝去された。私は彼の良い観客とは言えないが,『バトルフィーバーJ』のヘッダー指揮官がすばらしい悪役だったことは知っている。とくに印象的だったのは第50話「将軍を狙う覆面鬼」。
 『バトルフィーバーJ』は「5人のチーム」+「メカ・巨大ロボット」というスーパー戦隊のフォーマットを確立した1979年放映開始の番組だ。その特徴は,上と下の世代,アナクロ権威主義とモラトリアム主義の混合。彼らの所属は国防省であり(防衛省でも防衛庁でもない,れっきとした国防省が日本にある!),上司は倉間鉄山将軍で,戦前派風の剣の達人(演じるのも東映時代劇の雄,東千代之介)。ところがバトルフィーバー隊の若者はバトルジャパン,バトルフランス,バトルコサック,バトルケニア,ミスアメリカと名付けられたインターナショナルで(実際に外国人なのは初代アメリカだけだが),かつ軽めの若者である。遊びすぎたり調子に乗って敵エゴスをなめてかかったりして,鉄山将軍に「馬鹿者!」と怒られる。それが妙にかみ合っている。そして,エゴスは悪の結社というよりカルト宗教。首領サタンエゴスは神で,石橋氏演じるヘッダーは戦闘指揮官であると同時に祭祀であり,怪人を「皇子」「神の子」と敬う。このノリを,バブルはおろか1980年代も来る前に出したのは,なかなか先駆的だったと思う。
 そのような中,このエピソードはあからさまに時代劇である。脚本は上原正三。エゴスの指揮官ヘッダーは,邪心流の武道の開祖,鬼一角の門下生であった。そして,鬼一角は,鉄山の師,藤波白雲斎に30年前破門されていたのだ。邪心流の極意は「卑怯も兵法なり」。ヘッダーはその言葉に忠実に鬼一角を殺し,白雲斎をも暗殺して,鉄山将軍を誘い出す。バトルフィーバー隊の若者を「雑魚」と言い切り,鉄山を倒すことのみに執念を燃やす2代目鬼一角ヘッダーと,鉄山との決闘の時が来た!
 一切の迷いなく「卑怯も兵法なり」と信じ,憎しみのみに身を委ねるヘッダー。石橋雅史氏の鬼気迫る演技は,39年たっても印象的である。

『バトルフィーバーJ』Amazon Prime Video.
https://www.amazon.co.jp/dp/B01LYI86Z5/

2018年12月15日土曜日

フランスデモの解説記事から,民主政治とマクロ経済政策のジレンマを考える

 同僚の小田中直樹教授による「黄色いベスト」運動の長期・中期・短期の背景解説。たいへんわかりやすい。そして救いがない。ここにはフランスだけではない,多くの先進諸国の政治と経済政策がはまりこんでいるジレンマがあると,私は思う。

 1970年代後半以後の先進諸国における政治的スペクトラムにおいて,なにがしかの穏健左派から穏健右派までに共通するのは「財政赤字の膨張を抑制すること」である。EUの場合,やっかいなことに通貨価値の維持と財政赤字の抑制が制度自体に組み込まれている。
 ここで経済が停滞してくると,厄介なことが起こる。穏健右派はもちろん,穏健左派も「庶民にやさしい経済政策」を主張しづらくなる。とくに万年野党の場合はとにかく,政権を取ろうとすると,政策を整合させるために積極的に種々の構造調整策を打ち出すのだが,これが拡大か緊縮かというマクロ経済の二分法においては緊縮策になってしまう。
 これはいまにはじまったことではなく,1970年代後半から世界に広がった動きだ。ヨーロッパの社会民主主義政党やアメリカの民主党が通貨価値維持を語り,財政再建を語り,福祉効率化を語り,そのかわり企業競争力を強化して所得と雇用を何とか増やすのだ,だから労働運動や社会運動は企業行動をあまり制約するな,と語るのを,いま50歳以上の人はずっと見てきたはずだ(私の大学院生時代にも,EUを専門とし,ヨーロッパ統合についての楽観論を自らの持ち味とし,社会民主主義を支持していた教授は堂々とそのように主張していた)。
 しかし,そうすると,有力な政治勢力のいずれもが「庶民にやさしい経済政策」を主張しないことになる。「企業の競争力を強化して何とかする」という方法は,1980年代までの日本では何とか機能したものの,現在の先進諸国で十分機能していないことは明らかだ。それでは,格差と貧困が我慢の限度を超えた時にどうなるのか。その支持は,従来の穏健左派から穏健右派までのどこにも向かわない。むしろ,それら全体が庶民無視だとして糾弾される。フランスの「黄色いベスト」運動も左派でも右派でもなく,とにかくマクロン政権と「庶民にやさしくない経済政策」を糾弾しているようだ。
 こうした状況で支持が集中するグループがあるとすれば,魅力的なリーダーを持っているか,宣伝が巧みか,それなりに草の根活動をしているグループだ。それは経済的にはアメリカのサンダースを含む新しいタイプの社会主義勢力のようなラディカル左派か,あるいはトランプやヨーロッパの極右のように,整合的な経済政策はないが政治的敵を作り上げ,こいつらをやっつければ庶民は豊かになれると煽るグループだ。
 いまや先進諸国では,穏健左派から穏健右派までの政治グループは「財政赤字の膨張を抑制すること」にこだわる限り,庶民を敵に回してしまうというジレンマにはまり込んでいる。多くの経済学者や政治学者は,「増税による負担が必要だということをきちんと市民に知らせて説得せよ」という話が大好きで,何十年もうわごとのように繰り返しているが,もはやそれも機能していない。それでは政治家は選挙で支持されない。経済学者が,経済法則を勝手に変えられないというならば,この議会制民主主義の法則もお説教では変えようがない。延々と説教を続けると学者まで「何をお高くとまってやがる」とデモの対象にされかねない。

 では,このジレンマから抜け出す道は,どこにあるのか。民主主義を否定すれば権力的弾圧策という解決策があるが,そんなことが許されるべきではない。しかし,安定のためにはそれもやむを得ないという勢力が膨張することも十分ありうる。
 そうした最悪の解決策は避けて,庶民を主人公とする民主主義を守ることが前提ならば,とにかくある程度「庶民にやさしい経済政策」をするしかない。軍隊やら大企業やらベンチャー企業やらにやさしいか厳しいかは別として,少なくとも庶民に「も」やさしくなければならない。
 方策の一つ目は,「財政赤字を気にしない」ことである。二つ目は,「財政赤字はともかく,金融を無茶苦茶に緩めることで何とかする」ことである。これらには,深く考えずに実行する場合から,経済学的に財政or/and金融をいくら緩めても大丈夫なのだと証明する種々のリフレーション派までのスペクトラムがある。日本のアベノミクスは建前上はふたつめに属しているが,客観的には一つ目の側面も持っている。
 三つめは,「緊縮ではない構造調整を行い,何とか財政赤字を一定範囲に抑えつつ,庶民にやさしい経済政策も実行する」である。これは統合された潮流とは言えないが,日本で言えば,1990年代の終わりから神野直彦氏や金子勝氏が主張してきた「セーフティネットの貼り換え」論などが,本来は該当する。アメリカのサンダースたちや,ヨーロッパの極左などがどこに該当するのか,残念ながら不勉強でわからない。
 一つ目と二つ目の路線の弱点は,本当にそこまで財政と金融を拡張して大丈夫なのかということもあるが,より直接的には金融・財政を派手に拡張した割には経済成長率がわずかであり,庶民にやさしい状態が一向に実現しないことである。せいぜい緊縮よりはましだというにとどまる。そして,株式投機や建設・不動産で儲けられるものだけは大儲けするという格差が生じやすい。つまりは今の日本の状態だ。
 三つ目の路線は,種々の政策を整合させる必要があるため,部分的にはともかく,トータルにマクロ経済的目標を達成できるほど強力に推進され難いという弱点がある。ヨーロッパの左派の政策には,この路線が社会保障や教育に部品として多かれ少なかれ入っているのだが,それでもマクロ経済政策全体として「財政赤字の制約」に流されてしまう傾向が強まっているから厄介だ。また,もう一つ,この路線は成長より再分配を重視するのだが,失業率が高い時には最大の「庶民にやさしい経済政策」は失業解消なので,有効需要全体を増やす成長政策も取らざるを得ないという矛盾を抱えている。

 私は,小田中氏のフランスデモの解説を掘り下げていくと,このような,民主政治とマクロ経済政策上の困難に突き当たるように思うのだ。

小田中直樹「フランスデモ、怒りの根底にある「庶民軽視・緊縮財政」の現代史」現代ビジネス,2018年12月14日。


 

ベトナム天然資源環境省の鉄スクラップ輸入禁止検討は暴挙。背景にある問題には日本の業界も取り組むべき

 ベトナム天然資源環境省(MONRE)が鉄スクラップ輸入禁止を検討中との報道があった。無茶苦茶である。鉄スクラップは廃棄物ではなく,原材料である。確かに,オイルが入ったままの機械のような,雑品と呼ばれる質の悪いスクラップもあり,それが環境汚染の元になることはありうる。しかし,それは分類をきちんとし,条件を定めて規制すればよいことであって,鉄スクラップの主要銘柄(ヘビーなど)を一律輸入禁止にするなど,常識を完全に逸脱している。

 ベトナムの2017年鉄スクラップ供給高は902万2712トン,うち内需で使用するのが882万2000トンだが,国内供給は462万1000トンしかなく,440万1712トンを輸入している。鉄スクラップの輸入を禁止したら,電炉メーカーの操業と経営は成り立たない。これは鉄鋼業に対する虐殺行為と言わねばならない。紙面の記事によればベトナム鉄鋼業協会(VSA)は抗議しているが当然である。

 なお,この問題の背景として,質の低いスクラップが現実に汚染を引き起こしている事情は否定できない。しかも,困ったことに日本からの輸入品にも,品質の低いものが紛れているのである。業界紙の記述からも,私自身が聞き取った関係者の証言からも,そのように言って間違いない。スクラップ回収,輸出業務については,日本産業の品質は自慢できるものではないのだ。改めねばならない。

「ベトナム政府、鉄スクラップ輸入禁止検討 鉄鋼業、輸出国に打撃も」『産業新聞』2018年12月13日。



2018年12月14日金曜日

Godzilla: King of the Monsters (レジェ版ゴジラ2019)への期待と不安

 映像は大丈夫でしょう。話が心配。初めから「三大怪獣地球最大の決戦」だと思ってドンパチだけ見にいけば大丈夫かな。ちなみに前回のGodzillaも,『東宝チャンピオンまつり ゴジラ対ムートー サンフランシスコ大決戦!』だと思えば見られた。まじめに考えだすと,おい核実験正当化かよ,それと核弾頭爆発させて平然としてるよな,とか腹が立ってくるのが,やっかいだった。




論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」の研究年報『経済学』掲載決定と原稿公開について

 論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」を東北大学経済学研究科の紀要である研究年報『経済学』に投稿し,掲載許可を得ました。5万字ほどあるので2回連載になるかもしれません。しかしこの紀要は年に1回しか出ませんので,掲載完了まで2年かかる恐れがあ...