ベトナム天然資源環境省(MONRE)が鉄スクラップ輸入禁止を検討中との報道があった。無茶苦茶である。鉄スクラップは廃棄物ではなく,原材料である。確かに,オイルが入ったままの機械のような,雑品と呼ばれる質の悪いスクラップもあり,それが環境汚染の元になることはありうる。しかし,それは分類をきちんとし,条件を定めて規制すればよいことであって,鉄スクラップの主要銘柄(ヘビーなど)を一律輸入禁止にするなど,常識を完全に逸脱している。
ベトナムの2017年鉄スクラップ供給高は902万2712トン,うち内需で使用するのが882万2000トンだが,国内供給は462万1000トンしかなく,440万1712トンを輸入している。鉄スクラップの輸入を禁止したら,電炉メーカーの操業と経営は成り立たない。これは鉄鋼業に対する虐殺行為と言わねばならない。紙面の記事によればベトナム鉄鋼業協会(VSA)は抗議しているが当然である。
なお,この問題の背景として,質の低いスクラップが現実に汚染を引き起こしている事情は否定できない。しかも,困ったことに日本からの輸入品にも,品質の低いものが紛れているのである。業界紙の記述からも,私自身が聞き取った関係者の証言からも,そのように言って間違いない。スクラップ回収,輸出業務については,日本産業の品質は自慢できるものではないのだ。改めねばならない。
「ベトナム政府、鉄スクラップ輸入禁止検討 鉄鋼業、輸出国に打撃も」『産業新聞』2018年12月13日。
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
フォロワー
登録:
コメントの投稿 (Atom)
『ゴジラ -1.0』米アカデミー賞視覚効果賞受賞によせて:戦前生まれの母へのメール
『ゴジラ -1.0』米アカデミー賞視覚効果賞受賞。視覚効果で受賞したのは素晴らしいことだと思います。確かに今回の視覚効果は素晴らしく,また,アメリカの基準で見ればおそらくたいへんなローコストで高い効果を生み出した工夫の産物であるのだと思います。 けれど,私は『ゴジラ -1.0...
-
文部科学省が公表した2022年度学校基本調査(速報値)によれば,2022年度に大学院博士課程に在籍する学生数は7万5267人で,2年連続で減少したとのこと。減少数は28人に過ぎないのだが,学部は6722人,修士課程は3696人増えたのと対比すると,やはり博士課程の不人気は目立...
-
山本太郎氏の2年前のアベマプライムでの発言を支持者がシェアし,それを米山隆一氏が批判し,それを山本氏の支持者が批判し,米山氏が応答するという形で,Xで議論がなされている。しかし,米山氏への批判と米山氏の応答を読む限り,噛み合っているとは言えない。 この話は,財政を通貨供給シ...
-
製鉄所の再編・統合に隠れてあまり注目されていないが,日本製鉄は11月1日に,広畑製鉄所の製鋼工程を冷鉄源溶解法から電炉法に置き換えることを,第2四半期決算説明の一部として発表した。 鉄鋼業界は,1980年代の円高不況期に過剰設備の削減に乗り出したが,この時,新日鉄(当時)の...
0 件のコメント:
コメントを投稿