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2019年11月26日火曜日

中国の鉄鋼生産能力は本当はどれくらいあるのか?過剰能力削減政策で本当はどのくらい削減されたのか?

「中国鉄鋼業の生産能力と能力削減実績の推計―公式発表の解釈と補正―」をTERG Discussion Paper, No.414として発表しました。中国の鉄鋼生産能力は本当はどれくらいあるのか?2016-2018年の過剰能力削減政策では,本当はどのくらい削減されたのか?これらは公式統計の数字だけではわからず,また公式統計と政府発表が矛盾しているというおかしなことになっています。統計の解釈と補正によって,事実に迫ろうとしたものです。研究者,実務家の方々のお役に立てば幸いです。

こちら(東北大学機関リポジトリTOUR)よりダウンロードできます

2019年11月25日月曜日

大澤昇平氏のTwitterについての統計的差別論からの考察

 東大の大澤昇平特任准教授のTwitterについて,ひとつ前の投稿で所感を述べたが,そこで積み残した課題について考察したい。それは統計的差別という課題であり,企業や大学が直面する話題だ。私は「日本経済」の講義で雇用システムも取り上げるので,学生に説明できるようにしておきたいので考えてみる。

 まずおさらいしておくと,大澤氏は「弊社Daisyでは中国人は採用しません」とツイートし,その理由として「中国人のパフォーマンス低いので営利企業じゃ使えないっすね」と言ったが,その根拠は何も示さなかった。これは,単純な偏見であり差別だ。すでに多くの人がこれを指摘している。東大の情報学環・学際情報学府はこれを不適切発言であり東京大学憲章に反すると認め(※1),マネックスグループは大澤氏の寄付講座に対する寄付を停止すると発表した(※2)。

 これらとは別に検討しておかねばならないのは,彼が以下のように言い放っていることだ(2019年11月25日17時分までチェック)。数値は発言順序とは限らないが,各発言の前後も確かめたので,文脈を曲げて切り取っていることはないはずだ。

1「整理すると,私企業が『個人が努力によって変えられない属性』(例:人種・国籍・年齢・性別)に基づき採用を決定するのは是が(ママ)否かの議論です。これはHR Techとも密接に関係します。」(11/22 午後4:25)(※3
2「既にHR Tech(AI)の領域では,採用時に人物属性を考慮した自動穿孔を行っており,インプットには人種や国籍だけでなく性別や年齢が含まれる。私のことをレイシストと『なんかそれっぽい名前』でレッテル貼りしたからといって,これらの属性とパフォーマンスの因果関係が突然無に帰すわけではない」(11/22 午後3:25)(※4
3「採用時にパフォーマンスと相関する指標を考慮に入れて何が悪いんでしょうか」(11/22 午後1:24)(※5
4「今回の採用方針が統計的差別にあたると認定されたところで、「では、私企業が業績を向上する目的で、統計的差別をすることは許されないのか」という点には大いに議論の余地があります。
 人物属性を考慮に入れることが不当なのであれば、企業の書類選考はすべて不当ということになります。」(11/25 午後0:11)(※6

 1-3は24日までのもので,4は25日のものだ。これは24日に公表された彼の同僚の明戸隆浩氏のブログ(※7)を受けてのことではないかと思われる。Twitterでは,私が追跡した限り統計的差別という概念を明示したやりとりはなかったからだ。

 さて,再三繰り返すが,彼は中国人のパフォーマンスが劣るというデータを全く出していないので,ここから行う議論にかかわらず,単純な偏見によって差別しているに過ぎない(しかも,前の投稿でも書いたが,差別の上に,何事かと思うほど現実とズレている)。

 だが,彼が言い放つ1-4の主張は,人事・労働・教育関係での深刻な課題に関わるので考えてみたい。

 一言でいうと,彼の主張は<統計的差別の肯定>だ。ここでの統計的差別とは,採用において一人一人の職務遂行能力を測定するのではなく,その候補者が属する母集団(国籍,人種,性別など)を設定し,その母集団の能力を統計的に何らかの指標で評価し,候補者もそれと同等であろうと推定して採否を決定することだ。わかりやすい例としては,長期の教育訓練を必要とする職務について採用を行うとして,<女性は短期勤続の傾向がある>という統計的認識をもとに,女性の候補者を個々にテストするまでもなく一律不採用にする,といったことだ。同じく業務に高度な日本語能力が必要だとして,候補者を個々にテストせず<日本人以外は日本語能力が劣っている可能性が高い>という統計的認識をもとに,<採用対象は日本人のみ>とすることだ。企業の採用以外でも,学校の入学であり得る。<過去の統計的結果として,女子は医師になったとき結婚や出産で離職することが多かった。だから病院と提携している医科大学が,女子を入学試験で一括して不利に扱っていた>という例があったことは,記憶に新しい。

 当人の能力やパフォーマンスにかかわらず,変えることのできない属性を理由に低い処遇にしているのだから,統計的差別も明らかな差別だ。よって是正されねばならない。ここは社会的規範としてはまったく動かないところなのであって,これから話す経済合理性云々によって調整されることはあっても完全に覆ることはない。差別はよくないのだ。

 統計的差別は,もともとの統計が虚偽で偏見だった場合にはお話にならない。今回の彼の認識などがそうだ。話が難しくなるのは,統計的な相関関係としては正しい場合だ。

 社会の人権に対する認識が変化するとともに,色々な分野の差別が批判されるようになる。しかし,企業には(場合によっては学校にも),統計的差別を行いたいという誘惑が付きまとう。それは,統計的差別が,差別している主体が過去の統計データに基づいて,経済合理的に行動することで起こるからだ。仮に,偏見によって差別しようという意図がない場合でも,差別したほうが得だから差別するという誘惑が働く。なぜならば,採用候補者の能力や勤続見通しを丁寧にチェックするには膨大なコストがかかるため,属性ごとに一括して扱った方が低コストになるからだ。だから統計的差別はなくなりにくく,深刻なのだ。

 低コストだから仕方がないというのは,企業の利潤追求の論理である。それはそれとして存在する。しかし,社会には,人権をはじめとする,守らねばならない社会的規範も存在する。企業の論理と社会的規範が衝突するときは,人権と社会的規範の優先度をできるだけ上げねばならない。とはいえ,極端な高コストにより企業活動が困難になってしまっては採用そのものも社会も成り立たない。だから,コストにかかわらず絶対に許されないこと,企業にとって過大な負担となることを避けながらできるだけなくすべきことなど,何段階かに分けながら,差別のない選考をするように調整を行うしかない。これが統計的差別をめぐって長年議論され,法制や政策上も工夫されてきたことだ。この課題は,近年,AIが人事選考に用いられるようになって先鋭化している。コストを下げるために,AIが性別や人種に基づいて候補者を一括評価してよいのかどうかという問題だ。例えばAmazonではAIによる採用を行ってきたが,女性に対するバイアスを示したために中止したと報じられている(※8)

 統計的差別は,実は経済的にも合理的でない可能性がある。正確に能力を測定していないということは,有能な人の力を活かせないことになる。だから,短期的に当該企業には低コストで合理的でも,長期的に,かつ/または社会的には合理的でないことがありうるのだ。例えば女性が活躍できない経済のパフォーマンスが結局は下がるというのが,私たちの国がまさにいま直面していることだ。このような場合は,人権と倫理の面だけではなく,経済合理性の面からも差別是正が望ましいことになる。

 このように考えると,彼が3で「採用時にパフォーマンスと相関する指標を考慮に入れて何が悪いんでしょうか」と言い放ったことは,二つの問題を含んでいる。一つは相関関係は因果関係ではないということだ。彼は2では「因果関係」と言っているが,ここで問題になっている属性のうち,国籍,人種,性別について示されるのは相関であって因果など証明されていない。○○人のパフォーマンスが悪かったとしても,それは○○人であるからではなく別の要素かもしれない。例えば,教育を受ける機会がなかった人はみなパフォーマンスが悪かったのだが,社会的事情で○○人には教育を受ける機会が少なかった場合,などだ(彼は相関関係も示していなかったのだから,何度も言うが無茶苦茶だ)。もう一つは,相関というのは集団についての統計的関係であって,候補者一人一人のパフォーマンスを測った結果ではないということだ。だから統計的差別であり,それは基本的に是正されるべきだ。もちろん,現実に企業にかかるコストを想定した場合,差別是正の社会的要請と企業経営の合理性の要求との間で調整は必要だ。しかしそれは合理的に調整すべきということであって,差別を是正しなくてよいということではない。

 4の最初の文章,「私企業が業績を向上する目的で、統計的差別をすることは許されないのか」ついて言えば,逆に問う必要がある。大澤氏はこれまで,できる限り差別をなくす必要性には何も注意を払っていない。では,意のままに統計的差別をしてよいかと思っているのか。差別をなくす必要性を最大限尊重しながら企業活動の合理性を維持するという調整に取り組む気はあるのだろうか。

 4の2番目の文章「人物属性を考慮に入れることが不当なのであれば、企業の書類選考はすべて不当ということになります」はすりかえだ。書類選考によって,候補者個人の属性と能力・パフォーマンスについて因果関係を十分に推定できる場合,例えば資格の取得などでその資格に関連した職務遂行能力が推定できる場合は,それで選別するのは当然だ。業務に高度な日本語を用いる場合,日本語能力資格を指標にするのももっともだ。書類選考はちゃんとできるではないか。
 しかし,性別や国籍など,単なる相関関係しか示さない指標を使い,それを因果関係だと強弁して選別するのは統計的差別だ(そして,相関関係すら証明できないような指標で選別するのは偏見による差別だ)。法が強制する規制を守るだけでなく,企業にとって過度な負担とならない範囲で最大限解消しなければならない。そうしなければ,たとえ違法でなくても批判されざるを得ないのだ。

 統計的差別を減らすため,またAIを統計的差別の道具にしないために,2,3,4のような主張は批判され,乗り越えられるべきだ。

※(補足)もともとの氏のツイートが自身が経営するDaisy社の採用方針であることから,それが法律的に許容されるかどうかという議論が起こっている。しかしそこでは,氏が違法とされるかどうかと,差別だと批判を受けざるをえないかどうかが混同している。違法でなくても差別と批判されるべきことがあるのは,当たり前だ。
 その上で,法的なことは濱口桂一郎氏がブログですでに解説されている(※9)ので詳しくはそちらを参照いただきたい。私の理解できる範囲でつづめて言うと,法の上では,国籍や民族や人種を理由に採用しないということに対する判断は複雑だ。a)条約レベルでは日本は人種差別撤廃条約に参加しており,b)しかしこの条約を具体化する国内法はない。c)採用時の差別については,個々の法律で明示的に差別が禁止されている事項や判例で差別と認定されている事項もあれば,d)そうでない事項もある。e)国籍によって採用することは明示的に禁止されていないが,厚生労働省の行政指導では行うべきでないこととされている(※10※11)。他の例をあげると,採用での女性差別は男女雇用機会均等法によって明確に禁止されている。
 だから,大澤氏のもともとの発言について言えば,中国人と言う国籍またはエスニシティを指標にするのは,おそらく日本では直ちに違法とはされないが,行政指導の対象であり,条約の観点からも問題視されるし,社会的には当然批判される。また発言1,2,3,4にあげている指標のうち「性別」を指標にするのはパフォーマンスと見かけ上の相関があっても許されず,直ちに違法である。こういうところになるのだろう。

※1「学環・学府特任准教授の不適切な書き込みに関する見解」東京大学大学院情報学環・学際情報学府,2019年11月24日。
※2「寄付講座担当特任准教授の不適切な書き込みに関する見解」マネックスグループ株式会社代表取締役CEO 松本大
※3,4,5,6 大澤昇平氏Twitter
※7 明戸隆浩「東大情報学環大澤昇平氏の差別発言について」researchmap研究ブログ,2019年11月24日。
※8 Isobel Ashler Hamilton「アマゾンの採用AIツール、女性差別でシャットダウン」Business Insider, 2018年10月15日。
※9 「採用における人種差別と国籍差別」hamachanブログ,2019年11月23日。
※10 「公正な採用選考を目指して」平成31年度版,厚生労働省。
※11 「事業主の皆様へ 外国人雇用はルールを守って適正に」厚生労働省・都道府県労働局・公共職業安定所。


大澤昇平氏のTwitterについての所感:自分の問題を中国人の問題にすり替えているだけでは

<この記事は2019年11月24日15時29分にFacebookに投稿したものですので,それまでに入手可能な情報を反映しています>

 東大の最年少准教授と自らプロフィールに書く大澤昇平特任准教授の「弊社Daisyでは中国人は採用しません」(11/20, 午前11:12)ツイートが差別ではないかと炎上している。彼を雇用する東京大学大学院情報学環・学際情報学府は本日「学環・学府特任准教授の不適切な書き込みに関する見解」を発表した。

 私は,大澤氏がなぜ中国人を採用しないと考えるのかを確かめるために,彼のTwitterを24日12時までたどってみた。安全保障問題とかではなく「中国人のパフォーマンス低いので営利企業じゃ使えないっすね」(11/20,午後1:21)とのこと。

 え?

 世の中には数々の中国人批判もあれば日本人批判もあるが,「営利企業じゃ使えない」という中国人批判は初めて見た。いや,本当に驚いた。いま世界経済は,中国人が経営して中国人が働いている中国企業が急速に台頭しているから,色々変動しているのだが。それを好ましいと思うか嫌だと思うかは人の自由だが,中国人が営利企業でパフォーマンスを上げているという事実そのものを認められないとは。善し悪し以前に,何かがアサッテの方向にずれていないか。

 辛抱して大澤氏の発言をたどってみると,彼は要するに,ある集団の属性とある仕事のパフォーマンスに相関関係があることを以て,その集団から人を採用しないとすることは経済的に合理的だ,社会的にも妥当だと言いたいらしい。これは統計的差別という領域で,本来は真剣に検討しなければならない課題だ。それはそれで別途考えたい。

 だが,彼は今回,AIで大量のデータから集団の属性と仕事のパフォーマンスを分析したわけでも何でもないだろう。現に,いくらたどっても,営利企業において中国人のパフォーマンスが悪い証拠は示されていない。単に彼の個人的体験からの価値判断としか思えない。

 だとすれば,あれこれの理屈はみな空しく,「自分には中国人のエンジニアや労働者を使いこなせないと思った」というだけのことだろう。それならそうとだけ言えばいいのだ。自分個人の自信のなさを,中国人全体に問題があるとすりかえるのは,みっともなくないか。

※「学環・学府特任准教授の不適切な書き込みに関する見解」東京大学大学院情報学環・学際情報学府,2019年11月24日。

たどりたい方へ。大澤昇平氏Twitter

こちらは続編です。「大澤昇平氏のTwitterについての統計的差別論からの考察」。

2019年10月27日日曜日

地図は鬼門中の鬼門:米中合作アニメ映画『アボミナブル』がベトナムで上映中止になった件

 米中合作アニメ映画『アボミナブル』がベトナムで上映中止になった件。原因は,映画内に登場する南シナ海の地図に,中国が主張する国境線である九段線が書かれていたから。

 地図は鬼門中の鬼門,地雷中の地雷である。地図を,とくに境界線を描くというのは,高度に政治的な行為になりやすい。黙って「普通に」してれば政治的にならないというものではない。必要がないなら描かない,必要がない部分を描かない,国境を書かない,色を塗り分けないなどの目的意識的な工夫をして,なんとか非政治性や中立性を確保できるくらいに思った方がいい。さもないと,意識していようといまいと,客観的には特定の政治的立場の宣伝を行うことになってしまう。その政治宣伝を思わぬところで押し付けられた場合の反応は激しくなる。

 私にも覚えがないわけではない。以前に「東アジアプロジェクト」と言う共同研究をやっていたが,あるチラシに東アジアの地図を載せようとしたところ,以下のような問題に突き当たった。

*国別の色の塗分けはトラブルの元。係争地域について特定の判断をすることになるから。
*国境線を記すのもトラブルの元。この記事と同じ。
*端っこはどこまで東アジアとするかも,実は微妙な問題を含む。この時はそうではなかったが,ロシアの人々を含めた共同研究の場合もあるので,日本の右上をどこまで描くかですら,問題の種になるおそれがある。

 結局,東アジア全域を単色で塗りつぶし,またどこまでが東アジアかもボケた表現とする地図にした。

 また,ある共同研究の報告書で冒頭の中国の地誌に関する部分の原稿を中国人の先生に書いていただいたところ,彼が受けた標準的な地理教育に従い,九段線の内側まで中国とする文章を出してきたので,お願いして変えてもらったことがある。むろん,ベトナムの主張通りに変えるのではなく,どこまでが中国の領土かという話を含まない文章にしていただいたのだ。いや,その先生も日本のことは意識していたのか,尖閣諸島の記述はなかったのだが,それ以外の国との係争地域には考えが及ばなかったのだろう。

 かくして地理は政治である。本学では地理の専攻は理学研究科にあるが,大阪市大では文学研究科にあった。政治経済学的視角が生き残っている分野の一つは経済地理学だ。いずれももっともなことだ。

「アニメ映画「アボミナブル」、ベトナムで上映中止 南シナ海の地図巡り」CNN.co.jp,2019年10月15日。


2018年12月28日金曜日

ファーウェイ排除が日本経済に与える影響

 12月27日に出たファーウェイのプレスリリース「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」(※1)。日本からの調達金額の大きさが注目される。念のため財務省統計と照合したが,2017年のファーウェイの調達額4900億円は,確かに日本の対中輸出の約3.3%になる(※2)。今年は4%になるという同社の試算も嘘ではあるまい。
 半導体の専門家である湯之上隆氏によると(※3),もしファーウェイとの取引が禁止されると,部品,例えばソニーのCMOSセンサ,東芝メモリのNANDフラッシュメモリ,TDKのセラミックコンデンサなどが輸出できなくなる。またファーウェイ向けに台湾のTSMCが行う半導体製造も縮小するので,製造装置ビジネスでは例えば東京エレクトロン,スクリーン,日立国際電気,荏原製作所,日立ハイテクノロジーズが直接に影響を受け,海外製の半導体製造装置に供給している日本の部品メーカーも影響を受ける。さらに,シリコンウエハ,レジスト,薬液,ガスなど日本企業のシェアが高い半導体素材ビジネスも打撃を受けるという。
 間の悪いことに,アベノミクスの下で利益を上げながら手元に現金や金融資産をためるばかりだった日本企業が,2017年から設備投資を伸ばし始め,史上最高金額にまで至らせている(※4)。このタイミングで需要側からショックを受けると危険ではないか。
 米国に追随したり風評や感情によって動くのではなく,事の重大さを理解したうえで証拠に基づいて議論しないと,米中ハイテク摩擦を出発点に日本に不況を呼び込むことになりかねない。

※1「ファーウェイ・ジャパンより日本の皆様へ」華為技術日本株式会社代表取締役社長 王剣峰(ジェフ・ワン),2018年12月27日。
※2「輸出相手国上位10カ国の推移(年ベース)」財務省貿易統計。
※3 湯之上隆「米国によるファーウェイCFO逮捕は、日本企業に“とてつもない大打撃”を与える」Business Journal,2018年12月15日。
※4 「『日経』連続記事『景気回復 最長への関門』に見る日本経済の変化と新たな不安」Ka-Bataブログ,2018年12月7日。

2018年12月13日木曜日

経済力が向上した在日中国人は何人くらいいるのだろうか

 昨日出た中島恵「在日中国人の驚くべき経済力向上ぶり、20歳女子が高級マンション住まい…」によせて。数字で見ると,2018年6月現在の在留中国人は74万1656人,この記事にあてはまりそうな,企業家,ホワイトカラー,専門職など,肉体労働以外の働き方をして,相対的に豊かな暮らしができそうな人をビザの種類で試算してみると(※),11万254人です。加えて,永住者や家族滞在ビザの人たちの中にも,一定数豊かな人がいる。まあ,結構な数です。当ゼミの修了生も,日本で大金持ちになった人はまだいないとは思いますが,名の知れた企業や,知る人ぞ知る企業に就職しています。日本のビジネスの活性化に貢献していると思いますよ。税や保険料も普通に日本で納めていますし。

法務省「在留外国人統計 国籍・地域別 在留資格(在留目的)別 在留外国人」における中国人のうち在留資格が教授,芸術,宗教,報道,高度専門職1号イ,ロ,ハ,高度専門職2号,経営・管理,法律・会計業務,教育,技術・人文知識・国際業務,企業内転勤,特定活動(特定研究及び情報処理・本人),特定活動(高度人材・本人)である者の合計。このうち一番多いのは技術・人文知識・国際業務の8万825人で,日本の大学を卒業して日本でホワイトカラー職に就職した人が取ることの多いビザ。

中島恵「在日中国人の驚くべき経済力向上ぶり、20歳女子が高級マンション住まい…」DIAMOND ONLINE,2018年12月12日。

2018年12月4日火曜日

宝鋼が江蘇省塩城市において新たに銑鋼一貫製鉄所を建設するという報道に接して

 中国の宝鋼が江蘇省塩城市において新たに銑鋼一貫製鉄所を建設するという報道があった。第1期に粗鋼生産800-1000万トン,最終的に2000万トンを目指すとのこと。

 過剰能力削減政策の下,新製鉄所の建設は「減量置換」ルールに従わねばならないはずだ。宝鋼といえども例外ではない。つまり,本来淘汰対象でない設備を積極的に閉鎖し,閉鎖能力を下回る範囲でだけ新能力を設置することができる。宝鋼の場合,親会社の宝武集団の範囲内で古い製鉄所を2000万トン以上閉鎖するか,他の鉄鋼企業が閉鎖した能力分を能力新設権として何らかの形で購入してくるなどの措置が必要なはずだ。

 これまでも宝武集団は,集団内で1000万トンを廃棄して,能力900万トンの湛江製鉄所を建設しているし,さらに8月にも,400万トンの淘汰分を湛江製鉄所の同程度の拡張にあてると発表している。

 湛江の拡張は予想の範囲外だったが,さらに新製鉄所を設置するとなるとおおごとだ。宝武集団は粗鋼生産能力1億トンを目標としているが,湛江と新製鉄所が2期まで完成すれば,合計して3300万トンは2015年以後稼働の最新鋭設備となるわけだ。

 中国政府は,国全体として過剰能力削減を推し進めつつ,設備構成を大型・最新のものに入れ替え,かつ企業としては有力企業への集中を図っている。そして,有力企業として具体的な動きを見せているのが宝武集団だ。

 宝武集団は確かに中国において,先進国と類似の設備・製品構成を持つという意味で最強の競争力を誇っている。しかし,同時に国務院傘下の中央国有企業である。宝鋼集団の大規模化は,鉄鋼業において,チャンピォン企業の育成という意味と,国有企業の役割肥大化という二つの側面を持つと考えられる。

「中国・宝鋼、江蘇省塩城に新製鉄所を建設 第1期8200億円、粗鋼産年1000万トン、最終的に2000万トン」『日刊鉄鋼新聞』2018年12月4日。

論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」の研究年報『経済学』掲載決定と原稿公開について

 論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」を東北大学経済学研究科の紀要である研究年報『経済学』に投稿し,掲載許可を得ました。5万字ほどあるので2回連載になるかもしれません。しかしこの紀要は年に1回しか出ませんので,掲載完了まで2年かかる恐れがあ...