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2019年10月27日日曜日

地図は鬼門中の鬼門:米中合作アニメ映画『アボミナブル』がベトナムで上映中止になった件

 米中合作アニメ映画『アボミナブル』がベトナムで上映中止になった件。原因は,映画内に登場する南シナ海の地図に,中国が主張する国境線である九段線が書かれていたから。

 地図は鬼門中の鬼門,地雷中の地雷である。地図を,とくに境界線を描くというのは,高度に政治的な行為になりやすい。黙って「普通に」してれば政治的にならないというものではない。必要がないなら描かない,必要がない部分を描かない,国境を書かない,色を塗り分けないなどの目的意識的な工夫をして,なんとか非政治性や中立性を確保できるくらいに思った方がいい。さもないと,意識していようといまいと,客観的には特定の政治的立場の宣伝を行うことになってしまう。その政治宣伝を思わぬところで押し付けられた場合の反応は激しくなる。

 私にも覚えがないわけではない。以前に「東アジアプロジェクト」と言う共同研究をやっていたが,あるチラシに東アジアの地図を載せようとしたところ,以下のような問題に突き当たった。

*国別の色の塗分けはトラブルの元。係争地域について特定の判断をすることになるから。
*国境線を記すのもトラブルの元。この記事と同じ。
*端っこはどこまで東アジアとするかも,実は微妙な問題を含む。この時はそうではなかったが,ロシアの人々を含めた共同研究の場合もあるので,日本の右上をどこまで描くかですら,問題の種になるおそれがある。

 結局,東アジア全域を単色で塗りつぶし,またどこまでが東アジアかもボケた表現とする地図にした。

 また,ある共同研究の報告書で冒頭の中国の地誌に関する部分の原稿を中国人の先生に書いていただいたところ,彼が受けた標準的な地理教育に従い,九段線の内側まで中国とする文章を出してきたので,お願いして変えてもらったことがある。むろん,ベトナムの主張通りに変えるのではなく,どこまでが中国の領土かという話を含まない文章にしていただいたのだ。いや,その先生も日本のことは意識していたのか,尖閣諸島の記述はなかったのだが,それ以外の国との係争地域には考えが及ばなかったのだろう。

 かくして地理は政治である。本学では地理の専攻は理学研究科にあるが,大阪市大では文学研究科にあった。政治経済学的視角が生き残っている分野の一つは経済地理学だ。いずれももっともなことだ。

「アニメ映画「アボミナブル」、ベトナムで上映中止 南シナ海の地図巡り」CNN.co.jp,2019年10月15日。


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