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2018年12月6日木曜日

「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業」を公開しました

 拙稿「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」日本語版・英語版を公開しました。ダウンロードいただけます。
 
 本稿は学術雑誌掲載を目的としたものではなく,鉄鋼業やベトナムの産業開発に関わる企業,政府,マスメディア,大学・調査機関の研究者などの方々に参考にしていただくためのものです。2017年に初の大型一貫製鉄所が稼働して,ベトナム鉄鋼業は新時代に入りました。これを機に,20世紀末から21世紀初頭の産業発展について評価しようとしたものです。

川端望[2018]「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」TERG Discussion Paper, No.395。日本語版。

英語版はこちら。


2018年12月4日火曜日

宝鋼が江蘇省塩城市において新たに銑鋼一貫製鉄所を建設するという報道に接して

 中国の宝鋼が江蘇省塩城市において新たに銑鋼一貫製鉄所を建設するという報道があった。第1期に粗鋼生産800-1000万トン,最終的に2000万トンを目指すとのこと。

 過剰能力削減政策の下,新製鉄所の建設は「減量置換」ルールに従わねばならないはずだ。宝鋼といえども例外ではない。つまり,本来淘汰対象でない設備を積極的に閉鎖し,閉鎖能力を下回る範囲でだけ新能力を設置することができる。宝鋼の場合,親会社の宝武集団の範囲内で古い製鉄所を2000万トン以上閉鎖するか,他の鉄鋼企業が閉鎖した能力分を能力新設権として何らかの形で購入してくるなどの措置が必要なはずだ。

 これまでも宝武集団は,集団内で1000万トンを廃棄して,能力900万トンの湛江製鉄所を建設しているし,さらに8月にも,400万トンの淘汰分を湛江製鉄所の同程度の拡張にあてると発表している。

 湛江の拡張は予想の範囲外だったが,さらに新製鉄所を設置するとなるとおおごとだ。宝武集団は粗鋼生産能力1億トンを目標としているが,湛江と新製鉄所が2期まで完成すれば,合計して3300万トンは2015年以後稼働の最新鋭設備となるわけだ。

 中国政府は,国全体として過剰能力削減を推し進めつつ,設備構成を大型・最新のものに入れ替え,かつ企業としては有力企業への集中を図っている。そして,有力企業として具体的な動きを見せているのが宝武集団だ。

 宝武集団は確かに中国において,先進国と類似の設備・製品構成を持つという意味で最強の競争力を誇っている。しかし,同時に国務院傘下の中央国有企業である。宝鋼集団の大規模化は,鉄鋼業において,チャンピォン企業の育成という意味と,国有企業の役割肥大化という二つの側面を持つと考えられる。

「中国・宝鋼、江蘇省塩城に新製鉄所を建設 第1期8200億円、粗鋼産年1000万トン、最終的に2000万トン」『日刊鉄鋼新聞』2018年12月4日。

2018年11月27日火曜日

Abstract of my new paper titled "Development of the Vietnamese iron and steel industry under international economic integration"

  My discussion paper titled "Development of the Vietnamese iron and steel industry under international economic integration" will be uploaded on the site of Tohoku University Repository in next month. Both English and Japanese versions will be available. The abstract is as follows:

  This study discusses the development of the Vietnamese iron and steel industry under international economic integration. In particular, this study investigates what type of enterprise was responsible for this development, as well as the economic and managerial logic that can explain this development. The analysis provides suggestions for industrial development under international economic integration in developing economies.
  Under trade and investment liberalization, private enterprises and foreign capital firms have been the main participants in the development of the Vietnamese iron and steel industry. However, such development did not occur via a simple laissez-faire approach. Each enterprise type and the government faced challenges. Ownership and management reform were required of state-owned enterprises, and local private enterprises had to ensure market creation through innovation, by making full use of the local condition. Foreign enterprises had to introduce the huge funds and state-of-the-art technology. Moreover adaption to local society influenced their projects’ progress. Thus, the government should review and monitor large-scale projects from both economic and social viewpoints. The Vietnamese iron and steel industry recorded steady growth because some of these conditions were met, while some unachieved conditions caused problems.
  This case suggests that industrial development under international economic integration is possible. In addition, such integration requires not only a market mechanism but also an entrepreneurial spirit that encourages market creation and government policies that complement the market’s role and resolve social issues.

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2018年11月26日月曜日

「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」要旨の先行公開

 来月上旬に,ディスカッション・ペーパー「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」を日本語・英語双方で公開します。ここで要旨を先行公開します。

要旨
 本稿は,国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展について論じる。とくに,この発展を担ったのはどのようなタイプの企業であるのか,この発展はどのような経済的・経営的ロジックによって説明できるのかを検討する。これらを通して,発展途上国における国際経済統合下の産業発展についての示唆を得る。
 ベトナム鉄鋼業の発展は,貿易・投資の自由化推進という経済環境の下で,国有企業ではなく,民間企業と外資企業を主な担い手として実現した。しかし,自由放任政策のみで発展が実現したわけではなく,企業と政府は様々な課題を解決しなければならなかった。国有企業には所有・経営改革が必要だった。民間企業はローカルな諸条件を生かしたイノベーションと市場開拓を遂行しなければならなかった。外資企業は大規模な資本動員と最新技術の導入,そして現地社会への適応を求められた。政府は経済的・社会的観点から,大規模プロジェクトに対する適切な審査と監視を行わねばならなかった。ベトナム鉄鋼業は,これらの条件のうちいくつかを満たして順調な成長を遂げた。ただし,いくつかの条件が達成できなかったために問題も生じた。
 ベトナム鉄鋼業の事例が示唆するのは,国際経済統合下の産業発展は可能であること,そしてそのためには市場メカニズムを作動させるだけでなく,市場を創造する企業者行動と,市場の役割を補完し社会問題を解決する政府の政策と行動が必要だということである。

2018年11月13日火曜日

徴用工裁判において新日鐵住金が問われること :政府の協定解釈とは別に,当事者としての事実に関する見解を

 徴用工裁判において新日鐵住金が問われること。法的に請求権協定で決着済みかどうかというのは国家間の問題だが,新日鐵住金は,前身企業が当事者であった立場として,原告に向かい合わねばならない。つまり,当事者として,原告に対してどのような人事管理を行ったのかという事実と,それを現在どのように評価しているのかだ。これは,国際法でそのことをどう解釈するかとは別の問題として,避けられないことだ。当然,韓国での裁判で新日鐵住金は自己の立場を主張したはずだから,それを改めて内外に説明すべきだろう。私は,そのように思う。

 念のためと思い,公式の社史において,新日鐵住金が原告たちが該当する人事労務をどのように評価しているかを確かめた。

<韓国大法院判決が認定した,原告の労役従事先と状況>
 原告は4名でうち3名は既に死亡。
・原告1と原告2は,平壌で出された応募に1943年9月ごろに応じて,日本製鉄大阪製鉄所で訓練校とした働いた。賃金の大部分がが振り込まれた通帳と印鑑が寄宿舎の舎監によって管理された。原告 2 は逃げだしたいと言ったことが発覚し、寄宿舎の舎監から殴打され体罰を受けた。1944年に強制的に徴用され,それ以後,労働に対する対価が支給されなくなった。1945年6月ころには清津製鉄所に移動させられた。ここでも賃金はまったく支給されなかった。ソ連軍によって清津工場が破壊されてソウルに逃れた。
・原告3は1941年,報国隊として動員されて日本にわたり,日本製鉄釜石製鉄所で働いた。賃金はまったく支給されなかった。最初の6か月間は外出も許可されなかった。1944年に徴兵された。
・原告4は1943年1月ごろ,群山部の指示を受けて募集に応じ,日本製鉄八幡製鉄所で働いた。賃金はまったく支給されず,休暇もなかった。日本の敗戦後,帰国せよという日本製鐵の指示を受けて帰国した。
 よって,原告4名のうち,原告1と2は1944年以後法的な意味で徴用された可能性がある。原告3と4,原告1と2の応募当時は法的な意味の徴用ではない。韓国大法院は,より広い意味の強制動員を「徴用」と呼んでいるものと推定される。

<社史の記録>
 原告が働いた製鉄所のうち,大阪製鉄所は,現在では大阪製鉄という,新日鐵住金系ではあるが別の会社のものとなっている。釜石製鉄所,八幡製鉄所は,新日鐵住金の製鉄所として引き継がれている。清津製鉄所は,現在の北朝鮮に立地しているので,新日鐵住金の手を離れている。よって,日本製鐵の社史,釜石製鉄所,八幡製鉄所の所史を点検するのが妥当だろう。

・『日本製鐵株式會社史 1934-1950』日本製鐵株式會社史編集委員会,1959年(東北大学附属図書館所蔵)。内地において徴用を行ったこと,学徒動員,女子挺身隊,勤労報国隊などを受け入れたこと,清津では朝鮮人の補充には困難はなかったが内地人の求人難が深刻であったことが記されており,昭和20年8月15日現在の労務者在籍人数を記した表では特別労務者の一種として朝鮮人工員という項目が,学徒,俘虜,女子挺身隊,新規徴用工,養成工と並んで書かれている。戦時における人員確保の困難の中での労務構成の複雑化として評価されている。
・『鉄と共に百年』新日本製鐵釜石製鐵所,1986年(東北大学附属図書館所蔵)。人員の膨張を論じたところで,学徒動員,徴用工,女子挺身隊のことが記されているが,朝鮮人労働者を対象とした記述はない。
・『八幡製鉄所八十年史』新日本製鐵八幡製鐵所,1980年(私物)。「部門史 下」において,昭和17年以後,労務者強制徴用が行われたこと,昭和18年には「中国大陸および朝鮮半島からの強制徴用労務者,さらには俘虜,囚人までをも動員計画の中に取り入れていった」(449頁)こと,学徒,女子挺身隊,勤労報国隊を受け入れたことが記されている。そのことは,労務構成の複雑化をもたらしたとされている。

<簡単な考察>
・八幡製鉄所史においては,「朝鮮半島からの強制徴用労務者」を働かせたことが,この表現で事実として認められている。
・それ以外の記述では,戦時労務の一部として朝鮮人工員が存在したことが認められている。
・強制徴用労務者を働かせたことに対する,企業自身としての評価は記されていない。

 新日鐵住金は,前身企業である日本製鐵が,原告たちをどのように採用し,働かせたかについては,自ら確認し,評価しなければならないはずだ。韓国での裁判ではこれらをどのように行ったのか。そして現在,請求権協定の解釈や,判決の当否は別として,前身企業の行為を後継企業としてどのように事実認定し,評価しているのかを社会に明らかにする責任がある。それは,政府の問題ではない。企業が政府から自立しているのであれば,自ら責任を負うべき領域だと私は思う。

「2018年10月30日韓国大法院判決」法律事務所の資料棚。




2018年10月17日水曜日

鉄鋼業の地球温暖化防止策として,スクラップ利用の拡大を

 東京都内で開催中の世界鉄鋼協会の大会。『日刊鉄鋼新聞』によれば,世耕経済産業大臣は「日本の優れた省エネ技術・低炭素技術の普及を進め、また石炭の替わりに水素を使って鉄鉱石を還元すると同時に、発生するCO2を分離・回収する世界最先端の技術開発を支援していきたい」とあいさつした。
 水素還元とCO2分離・回収は,高炉法など鉄鉱石からの鉄源製造を低炭素化するために重要だ。そのために,鉄鋼業界は革新的製鉄プロセス技術開発COURSE50に取り組んでいる。しかし,その計画によれば,この二つの技術は2030年までに開発され,2050年までに実用化・普及するものであって,CO2排出量の削減率は30%だ。一方,IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が10月8日に発表したところでは,地球温暖化の影響は予想より深刻に表れそうであり,これを防止するには産業革命以前からの気温上昇をこれまで目標としてきた2度でなく1.5度に抑える必要があり,そのためには全世界の人為的な正味二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに2010年の水準から約45%減少させ,2050年頃に「正味ゼロ」を達成する必要があるという。全世界の削減率と日本鉄鋼業の削減率が同じである必要はないとはいえ,鉄鋼業は産業セクターにおいて電力産業に次ぐCO2発生源であり,日本は世界第2位の粗鋼生産国である。社会から要求される速度にまにあわないのではないか。
 実は,これらの技術開発のほかにも,既に使用な技術の範囲でも温暖化対策はやりようがある。鉄源として,高炉で鉄鉱石を還元して製造する銑鉄ではなく,鉄スクラップを用いることだ。その場合,製鋼段階では,電気炉ならば鉄源のほとんどに鉄スクラップを用いることができるし,転炉でも10数パーセントは使用できる。世耕大臣が,この情勢下でスクラップ使用拡大について触れないのは,どうなのか。
 世界の製鉄国の中で,生産量第2位の日本とトップの中国は転炉製鋼比率が高く,電炉比率が低い。具体的には,2016年の転炉製鋼比率が世界全体73.8%,日本77.8%,中国93.6%,電炉製鋼比率が世界全体25.7%,日本22.2%,中国6.4%だ(世界鉄鋼協会統計)。正確な数値の入手が困難であるものの,日本と中国では,鉄源として銑鉄の利用比率が高く,スクラップ利用比率が低いことはまちがいない。ここを変化させることで,CO2排出量を抑えることが可能だ。
 中国は,違法な地条鋼廃絶によるスクラップ原料の転用という課題が発生したのを機会に,電炉増設を奨励し始めた。もともとの比率が低すぎるとか,急速な転換で電極価格を世界的に高騰させるなどの問題はあるものの,長期的には望ましい方向だ。日本でも電炉製鋼比率の向上,高炉・転炉法でのスクラップ利用比率拡大について,もっと政策的重点を高めるべきではないか。メーカーへの負担が過度にならないように配慮するにせよ,CO2排出規制を,スクラップ利用を有利とする形で設計するのが自然なことではないか。

【世界鉄鋼協会東京大会】世耕経済産業大臣「今こそ過剰生産能力削減を」ORICON NEWS, 2018/10/17(元記事は『日刊鉄鋼新聞』2018年10月17日提供)。

IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の政策決定者向け要約を 締約国が承認,プレスリリース 18-072-J 2018年10月16日,国際連合広報センター。

2018年10月11日木曜日

薄スラブ連続鋳造機は鉄鋼業界をさらに破壊するか?:製鉄プラント小型化の潮流

 製鉄プラント小型化の潮流が強まっていることについて,『日刊鉄鋼新聞』が記事にした。小型化の中心は薄スラブ連続鋳造機とコンパクトストリップミルの直結システムだが,条鋼のマイクロミル,中型高炉もこの潮流に加えられている。
 薄スラブ連鋳のもともとの目的は,設備当たり生産量が小さくても熱延コイル生産に参入できるようにすることだった。薄スラブ連鋳に直結したストリップミルならば,最小効率規模が100万トンにでき,400万トン程度必要なコンベンショナルなホットストリップミルよりはるかに低くなる。こうして薄スラブ連鋳は,先進国の電炉メーカーと新興国の高炉・電炉メーカーが鋼板分野に参入する手段として用いられるようになった。特に中国の場合,小型・中型高炉技術は国産のものがあるため,これと薄スラブ連鋳を組み合わせて銑鋼一貫生産する方式が複数企業によって採用された。この動きは,拙著『東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム』※1に記したように,実は1990年代から顕著になっていたのだが,このところ加速していることは確かだろう。
 その最大の理由は,この記事に書かれているように品質の向上により適用範囲が広がったことだと思われる。従来,薄スラブ連鋳-コンパクトストリップミルによるホットコイルは,用途が建設用に限定されていた。私が2000年代後半に調査したタイの二つのミルも(拙稿「タイの鉄鋼業」※2参照),適用範囲を広げることに困難を抱えていた。ところが,現在では「エネルギー用の鋼管や一部の自動車用途にも耐え得る」と報道されている。
 アメリカの電炉メーカーによる鉄鋼業界の破壊disruptionは,C.クリステンセンがローエンド型破壊的イノベーションの重要例としたものである。薄スラブ連鋳ーコンパクトストリップミルによる業界の破壊disruptionは,世界的規模で新たな局面を迎えているのかもしれない。

「製鉄プラント『小型化』ブーム」『日刊鉄鋼新聞』2018年10月9日(冒頭のみネット掲載)。

※1川端望[2005]『東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム』ミネルヴァ書房。
※2川端望[2008]「タイの鉄鋼業:地場熱延企業の挑戦と階層的企業間分業の形成」(佐藤創編『アジア諸国の鉄鋼業:発展と変容』日本貿易振興機構アジア経済研究所,251-296頁)。

2018年10月6日土曜日

製鉄所に刻まれたアメリカ鉄鋼業衰退の歩み

 『ワシントンポスト』10月3日の記事に寄れば,アメリカ高炉メーカーはトランプ政権の保護関税のおかげで,一息ついている。しかし,経営側・労働側ともに長期低落傾向を食い止める戦略を持たない限り,いくら保護をかけても一時的な効果しかないであろう。
 記事にあるように,高炉メーカーは海外メーカーだけとではなく,国内の電炉メーカーとも競争しなければならない。電炉メーカーの多くはノンユニオンで,最新技術を取り入れて,製品構成を鋼板類に広げている。対して高炉メーカーは,一部,拠点になりそうな製鉄所(USスチールゲイリーとかアルセロールミタルUSAインディアナハーバーとか)もあるにはあるが,多くはリストラして生き残った設備を継ぎ合わせて使用しており,組織率も組合員数も低落傾向にあるとはいえUSWA(全米鉄鋼労働組合)に組織されている。
 それでも,倒産したことのないUSスチールはまだましな方かもしれない。破産法第11条を申請して経営破綻した多くのアメリカ高炉メーカーは,労働協約を無効化し,年金債務を帳消しにし,設備簿価を極度に切り下げて再生された。だから,技術・設備が十分現代化されていないのに,コストが安いということになっている。それでも,輸入鋼材の圧力に耐えられないのだ。
 この写真を手掛かりにしてみよう。クレアトン市長リチャード・ラッタンツィ氏が背にしているのはUSスチールクレアトン工場だ。クレアトン工場は,モン・バレー製鉄所の一部である。モン・バレー製鉄所は全体としては銑鋼一貫製鉄所,すなわち原料処理(コークス,焼結)-製銑-製鋼-圧延-表面処理を行うコンプレックスだ。しかし,その実態は,モノンガヒラ川沿いに点在する四つの工場である。クレアトン工場がコークスを生産し,エドガー・トムソン工場が製銑・製鋼(精練・連鋳)を行ってスラブを作り,アーヴィン工場が薄板熱延,冷延,亜鉛めっきを行い,フェアレス工場もまた亜鉛めっきを行う。だが,かつてはクレアトン工場,エドガー・トムソン工場も,フェアレス工場もみな一貫製鉄所であった(アーヴィン工場だけは初めから圧延工場だった)。度重なる工場閉鎖,相対的に優位な工場だけを残す生産システム再編成の結果,四つの工場を河川輸送でつないで,かろうじて一貫体制を維持するようになったのである。四つの工場の航空写真をグーグルマップでみると,アーヴィン工場以外では空き地が多い。とくにフェアレス工場は空き地が面積の過半を占める。そこにはかつて,高炉,平炉や転炉,圧延機が並んでいたのだ。



2018年10月5日のFacebook投稿を修正のうえ転載。

論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」の研究年報『経済学』掲載決定と原稿公開について

 論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」を東北大学経済学研究科の紀要である研究年報『経済学』に投稿し,掲載許可を得ました。5万字ほどあるので2回連載になるかもしれません。しかしこの紀要は年に1回しか出ませんので,掲載完了まで2年かかる恐れがあ...