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2018年10月6日土曜日

産業革新投資機構の行方を危惧する

 産業革新機構の産業革新投資機構への再編。効率が悪く,望ましくないことにお金を使い,民業を圧迫するおそれが強いので,やめた方がよかった。これまであった産業革新機構は,ベンチャーに投資すると言いつつ,既存企業をむやみに救済し,むやみに日本企業の所有下にとどめようとするばかりであり,ベンチャーファンドとしての成績は惨憺たるものであった。その総括はきちんとなされていない。

 会員記事なのでシェアしなかったが,『日本経済新聞』2018年9月26日の記事も指摘しているように,官製ファンドとは「政府や産業界の意向に翻弄されやすい体質」を持っている。そのことが経済的に重大なのは,「産業界」とはすでにその地位を確立している大企業のことだからだ。

 日本経済が停滞を脱するために,新技術・新産業は必要だ。しかし,新技術の開発と実用化は,既存大企業だけでできるものではない。既存大企業には既に行った膨大な固定資本投資があり,そこそこの利潤を上げている既存事業があるからだ。対して,新産業は小さく生んで大きく育てるものであり,参入当初は規模も小さければ利潤率も低い。既存大企業にしてみれば,参入するインセンティブが弱い。参入しても,お付き合い程度,他社をけん制する程度になってしまい。本気で,社運をかけてやることにはなりにくい。

 だから,新産業の担い手として重視すべきは,新規参入企業なのである。新規参入者は,失うものを持っていないので,小さい市場,低い利潤率からでも出発することができるからだ。C.クリステンセンが繰り返し言うように,このインセンティブの非対称性がもっと重視されねばならない。新規参入企業のトライアル数が多くなるような支援が望まれるし,ある程度成長したベンチャーに対しては,それが既存大企業を脅かしそうであれば脅かしそうであるほど,支援することが望まれる。それが産業の新陳代謝だからだ。

 もう一度,別の表現で言う。与党の政治家や経済産業省に影響力をもっている既存大企業を追い抜き,ひっくりかえしそうなベンチャーを応援することこそが,日本経済を救うのだ。これは産業革新機構の後継組織に向いた仕事ではない。産業革新機構は,既存企業を救済し,むやみに日本資本の所有にこだわることで,日本経済の将来をかえって曇らせたのである。このことの総括がなされないままに設立された産業革新投資機構の行方は,大いに懸念される。
複数ファンドで新ビジネス創出 産業革新投資機構が発足 AIなど照準『ITmediaエグゼクティブ』2018年9月26日。
http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1809/26/news073.html

2018年9月27日のFacebook投稿を転載。

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