フォロワー

2020年3月29日日曜日

ロックダウンも「要請」ベース。有効に機能させたいなら,政府・都道府県は経済的損失に補償する約束を

今後,政府が緊急事態宣言を出すことは大いにありうるが,その時,多くの人が「えっ!何でそうなるの!」と思うことになるだろう。その時のための思考整理メモ。抽象的過ぎるが、いまのうちにやっておかないと、次から次へと事件が起きて個別的にしか考えられなくなる恐れがある。シェア先は参考になる記事。。

 ロックダウン=都市を封鎖したり、強制的な外出禁止や生活必需品以外の店舗閉鎖などを行ったりする措置について,日本では,例え緊急事態宣言が出されてもさほど強力に,強制力や罰則を伴って実行されるわけではなく、「要請」ベースになる。法律のつくりから、そうなる。

 緊急事態宣言のもとで都道府県知事が比較的強力にできることは,1)外出の自粛や施設の利用制限や停止を要請し,必要なら指示すること,2)緊急物資の配送を要請すること,3)食品・医薬品などについて売渡を要請したり収用したりすること,4)臨時の医療施設のために土地・建物を収容すること,5)感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、または汚染された疑いがある場所の交通を制限し、または遮断すること,6)物資の補完や収容のために立ち入り検査を行うことなどがある(正確には法律家の解説を読まれたい。1,2,3,4,6は新型インフルエンザ特措法による。5は感染症法に基づく措置なので,緊急事態宣言がなくてもできる)。

 ただ,従わない場合の罰則はあるものと,ないものがある。例えば,外出の自粛については罰則がない。

 例えば、外出の自粛について,いま東京都で行っていることと緊急事態宣言の下で行われるいわゆる「ロックダウン」の違いとは,何の法的根拠もない行政の長からの「お願い」レベルから法的根拠はあるが罰則のない「要請」に変わるだけである。これは、人をわけのわからないもやもやした気持ちにさせる。

 このいろいろなことが「要請」ベースで行われる方式がどのような事態を生み出しうるかについて、考えておくべきことがいくつかあるように思う。

1.「要請」だから効果がないかというと,やり方次第ではおそらくあるだろう。例えば,1)施設の利用制限に公共交通機関の駅やバスステーションを加えれば,交通各社はおそらく従うので,外出・移動は事実上大きく制限されるだろう。また、2)自粛を破ったものに対するごうごうたる非難がネットやマスメディアで沸き上がると予想される。それに,外出を控えさせる効果があるかと言えば、それなりにあるだろう。ただし,おそれく晒し,いじめ,濡れ衣,不公平を伴いながら。

2.「要請」に自主的に従ったという形であることにより,それ以上の国家的強権を発動させないという効果はある。警察・自衛隊の強制力をバックに行政が進められる事態が恒常化することまでは進まない可能性はある。

3.しかし、「要請」に従わない人々に対する非難が高まり、より強権的な措置を待望する世論が盛り上がることも予想される。そこで,何らかのアクシデントの際に超法規的措置が行政機関・警察・自衛隊によって取られる事件が起こったりすると、世論がこれを支持し、より強権的な立法が行われることもありうる。

4.「要請」に従ったために営業や雇用に深刻な損害が生まれるが,自主的に従ったのだからということで補償を求めることが権利として認められず,行政の恩恵的措置としての救済しか与えられないおそれがある。その経済的損害は深刻で、経済危機を悪化させる。

5.「要請」への協力による経済的損失には補償を求めにくいことからも、強制と補償のセットの方がより望ましいのではないかという議論が浮上する可能性もある。

 当面の話として、内容が妥当な「要請」を効果的に実現し、かつ法と民主主義を守るという見地で考えるならば、この記事が述べるように、「要請」に従った場合の経済的補償を政府・都道府県が明確にすることが効果的だろう。これによって住民の側には「要請」に応じる動機が生まれて感染拡大防止の効果が上がり、かつ生活・営業が守られる。

 長い目で見れば、「お願い」「要請」と称して責任ある決定を行わず、さりとて強権的に「決定」した場合にはその在り方が民主的に検証されないという、日本の政治・行政の在り方が試練にさらされているのだろう。

「東京「ロックダウン」も封鎖できません? 「要請」で乗り切るためにも「補償と現金」を」弁護士ドットコムニュース,2020年3月28日。
https://www.bengo4.com/c_18/n_10982/

2020年3月28日土曜日

帰国者の空港からの移動を自己責任に任せるのは、感染を拡大する最低最悪の政策。政府は統一指揮のもとに帰宅と健康観察の支援を

 ここ数日間の新型コロナウイルス感染の動きでは、明らかに外国から帰国した人々の感染が増えている。したがって、帰国者に各自十分な健康観察行動をとっていただくこと、その足取りを確認できるようにしておくことは非常に重要だ。
 ところが政府は「水際対策の抜本的強化」をいいながら、帰国者の検疫はするものの、健康観察は本人任せであり、昨日まで何も支援して来なかった。とくに危険なのは、空港から自宅等への移動についてタクシーを含む公共交通機関の使用を禁止しておきながら、移動手段を見つけられずに困っている人を放置していたことだ。これでは、せっぱつまった人がこっそりタクシーや電車に乗るのは当たり前である。政府のいい加減な方針がそうした逸脱を促し、事実上は感染拡大を促進し、見えないクラスターを発生させる危険を高めている。帰宅手段確保を自己責任に任せ無支援でいることは、今この瞬間、最低最悪の政策である。
 したがって、政府は緊急に資金、人員、車両を動員し、海外から日本に帰国した人々の自宅等への移動を支援し、1人1人の待機・健康観察場所を確認し、その実施状況をモニタリングすべきだ。それは、過保護でも何でもない。感染拡大を防止する最も有効な方策だ。
 本日、ようやく動きがあり、河野防衛相は自衛隊に災害派遣命令を出し、待機施設への輸送業務や生活支援のため、成田空港に派遣したとのこと。都道府県知事の要請をまたない防衛相決定による派遣だそうだ。これは緊急措置としてはよい。しかし、政府として水際対策に組み込んだ帰国者支援の決定を行い、統一した指揮の下、持続的に行えるよう規模を拡大すべきだ。厚生労働省のQ&Aはまだ何も修正せず自力帰宅を促すだけのものだ。
 また、このような移送業務に自衛隊を用いるのが有効かどうかも至急検証すべきだろう。物量や防護体制の問題で自衛隊にしかできないのであればそうすればよい。他の空港について都道府県知事から要請すればよいだろう。しかし、通常の行政組織と民間企業にむいた仕事であれば、自衛隊は検疫に集中してもらい、バス会社等への緊急発注を行い、運転と案内、モニタリングの人員を稼働させるべきだろう。とくにモニタリングは自衛隊に適した業務ではないことには注意が必要で、むしろ政府と自治体とが連携しなければならない。厚労省、自衛隊、自治体の連携が必要かもしれず、政府が統一した方針を出す必要がある。
 これらのためにバス会社に緊急発注を行ったり、誘導やモニタリングのための人を追加雇用することは、それにかかわる人々に感染リスクを負っていただくという問題はありつつも、経済的には有効な景気対策ともなりうる。直ちに大盤振る舞いで予算をつけるべきだ。

「水際対策の抜本的強化に関するQ&A」2020年3月26日版。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19_qa_kanrenkigyou_00001.html#Q4-1
Q:対象となった者は、空港等から待機場所の自宅(又は宿泊施設等)までどのように移動すればいいですか。
A:出国前に、家族や会社を通じて空港から自宅までの交通手段を御自身で確保していただくようお願いします。電車、バス、タクシー、航空機(国内線)などの公共交通機関を使用しないようお願いいたします。
Q:移動手段が自分で確保できない場合、どうすれば良いですか。
A:出国前に移動手段を確保していただきますようお願いします。(万が一用意できていない場合、用意できるまでご自身で空港周辺の宿泊施設等を確保していただきそこで待機いただくことになります。)

<参考>台湾も当初同じ問題を抱えていましたが,3月4日から「防疫タクシー」の制度が導入されています。 別のページによれば「防疫バス」もあるとこと。

こちらのキャンペーンに賛同しました。よろしければご覧ください。
【海外一時帰国者、帰国を考えている人からの切実な思いよ届け!】
〜緊急帰国者の経済面・衛生面の不安解消をお願いします!〜
http://chng.it/bPB8XZHg4H

2020年3月27日金曜日

コロナ経済危機に対する実物経済面での経済対策メモ

コロナ経済危機に対する実物経済面での経済対策メモ。金融危機回避策はまた別。随時改訂。講義でも話すこと。

 この危機に立ち向かう上では,1)緊急に必要な,数日から数か月程度で実行されるべき政策と,2)景気を浮揚させるもう少し長いスパンの政策を区別する必要がある。

 1)の緊急対策の目的は,生活と営業を守り,雇用を守ることに尽きる。「需要」の規模は重要だが,必ず生活,営業,雇用に沿って行わねばならない。無関係なところでは,むやみに需要を刺激すべきでない。また,緊急対策はコロナウイルス感染症の流行下で行われる。感染症対策を妨げず促進すること,感染症への国民の不安を和らげることも需要な条件となる。

 2)では総需要と総供給の関係が問題になる。需要不足を防ぐと同時に,供給制約が現れてくることに注意しなければならない。

 ここでは1)についてコメントする。

 1)緊急に必要なのは,a)「企業の資金ショートの防止」,b)「家計の所得低下の防止」とc)「失業の防止」,d)「失業の救済」とe)「低所得者の生活維持」である。「企業の売上支援」は,1)の段階では目的にすべきではなく,b)c)d)e)の結果として実現するようにすべきだ。

 規模的に大盤振る舞いすべきであるが,抽象的に「需要増のための総額」を大盤振る舞いするだけでは不十分だ。b)c)d)e)によって,国民・住民の不安を緩和することができる。

・a)c)のため,流動性は無制限供給しなければならない。無担保・無保証・無利子融資を拡大する。後でゾンビ企業化するという懸念は,1)の段階で考えることではない。

・b)とe)のためには,現金給付も効果はある。やるなら10万円以上の規模で行うべきである。ただし,一時金をもらったところで,失業したり,今後数年間所得が低下するかもないという時には,不安は払しょくできない。何より失業しないことが肝心だ。b)にはもっと強力な対策が必要であり,さらにc)d)も必要だ。失業防止というマクロ経済政策の基本視点を忘れ,現金を配れば万能であるかのように語ることは適切でない。なお,貯蓄に回ることを防止するために商品券にすべきだという議論があるが,意味がない。貯蓄できる家計は,商品券を用いた分だけ現金を貯蓄に回すだろうからだ。また,国民の不安緩和という目的に対しては,現金と商品券では効果は段違いである。

・b)e)のために公共料金の緊急減免も効果がある。

・b)のためには,学校休校の影響で休業する人だけでなく,風邪程度の症状で休むすべての人と,そうした家族・同居人を看護するすべての人のための実質有給休暇の保障が必要だ。ただ,中小企業の経済的苦境にも配慮しなければならない。政府機関や独法には風邪症状で休める有給休暇を直ちに導入する(すでにかなり実施されているのはよい)。企業には,一時措置として同様の有給休暇を義務づけた上で,その負担は政府が全面的に企業を補填するそちをとる。あるいは無給休暇を義務づけた上で,事後的に労働者に減収分を全額給付する。いずれも技術的には企業の休暇記録と賃金台帳で簡単にできる。上記の実効性を確保するとともに,感染症対策に寄与するため,風邪症状のある労働者を出勤させることは労働契約法上の安全配慮義務違反であることを明示する。

・b) では個人事業主・フリーランスの所得補償も必要になる。水準の算定は要検討だが,課税証明から前年並みとするか,業種ごとに相場を決めるか,より一律の金額にするなどがありうる。

・b)e)のため,生活保護要件の緊急緩和と審査の迅速化を行う。中長期のモラル・ハザードを気にしている場合ではない。

・c)のため,雇用調整給付金の支給要件緩和をしているのは,緊急措置としては適切だ。長い目で見ると日本的雇用慣行の歪みを維持してしまう効果を持つが,この際,やむを得ない。

・d)失業給付の拡充が必要。モラル・ハザードを気にしている状況ではない。失業給付を拡充すると雇用主が安易に解雇しないかという疑問がありうるが,危機の時は問題にならない。失業給付の水準など考慮する余裕もなく解雇したり,倒産したりするからだ。

・b)e)を補強するため,法技術的に緊急に可能ならば消費税の一時減税が望ましい。緊急に軽減税率を全財・サービスに適用して5%とする。また,所得税についても,中低所得層を減税するか,マイナスの税額控除を導入して低所得層を支援することが考えられる。ただし,時間が不可避的にかかる措置は2)にまわす。

・a)について,イベント自粛や飲食需要停滞による損失に対しては一時金で支援する。1)の段階では,まちがっても,外食や旅行を促す商品券など配布してはならないし,高速道路を無料になどしてはならない(生活必需品を輸送する業者にはしてもよい)。それは密閉,密集,密接会話を避けよという感染症対策に正面から反する破滅的政策だ。2)の段階で検討すればよい。

・a)d)について,企業の売り上げと雇用をつくりだす需要刺激は,感染症対策と整合するように選別的に行うべきであり,感染症対策,医療体制の強化,病院以外の療養施設の緊急整備,国民の自宅療養支援(生活支援物資調達と宅配手配),テレワーク・遠隔授業の財政支援,宅配業者での雇用促進などがある。公共事業全般を拡大することは,1)の段階では適切でなく,内容によっては感染症対策に逆行する。

・中長期的に2)の段階では,サプライ・チェーンも傷んでいる現状ゆえに,景気対策の方法を誤るとボトルネックが発生してインフレが生じる恐れがある。しかし,これは2)の課題であるし,1)の国民生活防衛のところでは短期的には問題にならない。現時点では,国民の生活必需品の需要が延びてもすぐに物価が上昇する恐れは小さいし,多少上昇しても国民生活防衛のための給付をためらうべきでない。

2020年3月26日木曜日

文科省は授業全体のネット化を妨害し,パンデミック下でも面接授業を義務づけるつもりか

 ようやく出た,大学の授業の開始に関する文部科学省の方針。おおむね常識的なことが書いてあるが,一つ重大な問題がある。新型コロナウイルスのパンデミック下でも,授業全体をネット化(遠隔授業化)することはまかりならないと読める内容を含んでいるのだ。

 授業に関する主な内容は以下の通り。
1)単位制度による10週または15週(セメスター)の期間については,学習内容を確保できるならば弾力的に取り扱ってよい。シラバスも変更してよいが,学生に丁寧に説明すること<通知2(1)>。
2)遠隔授業の試験は柔軟な形態で行ってよい<通知2
(2)>。
3)4月から大学に来られない留学生を,4月に入学したものとみなすことは差し支えない<通知2(4)>。
4)遠隔授業の例
・オンラインリアルタイム双方向方式。
・教材をネット上に準備し,学生が視聴するeラーニング方式。過大提出や質問受付もネットで行う。MOOCを使ってもよい<通知3(1)>。
5)元来,遠隔授業で習得できる単位数には60単位という制限があるが,「面接授業の一部を遠隔授業によって実施する場合であって,授業全体の実施方法として,主として面接授業を実施するものであり,面接授業により得られる教育効果を有すると各大学等の判断において認められるものについては,上記上限の算定に含める必要はない」。「主として面接授業により修得した単位として扱い,上記上限の算定に含めない場合には,学則において当該事項を定める必要はない」<通知3(2)>。
6)専ら通信教育を受けることは在留資格「留学」に応じた活動とは認められないが,「今般の新型コロナウイルス感染症の対策として,学校運営上の対策を講じる目的などの観点から,必要な範囲内において,遠隔授業を実施することは,在留資格「留学」に応じた活動として認められる場合がある」(通知3(4))。
7)授業料の減免について柔軟に対処せよ<通知4(1)>。

 1,2,3,4,7は問題ない。

 5が引っ掛かる。授業が「主として面接授業」でなくなった場合,例えば1回から終回まで遠隔授業とした場合には,「遠隔授業の単位」として学則に明記し,その単位数は上限の範囲内に納めなければならないとも読める。それでは,いくつかの大学が行っているように4月からの通常の授業(面接授業で会った授業)全体を遠隔授業とすることも,上記2条件をクリアーしない限り認められないという話になりかねない。パンデミック下でも遠隔授業は60単位限度だというのだ。
 6の「認められる場合がある」も問題だ。文科省のさじ加減一つで認められない場合もあると読める。授業が主に遠隔授業となった場合,留学生の在留資格「留学」が取り消されることもありうるかのようだ。

 いずれも馬鹿げている。新型コロナウイルス危機下に限ってでよいから,緊急に,より柔軟な対応を定めるべきだ。私個人は,密閉,密集,密接会話を回避することを前提に,できるだけリアル授業をやりたいと思っているが(例:3分の1ずつリアル講義出席。3回に2回はネット配信で受講。普段の3倍,学生と学生の距離をあける),感染流行の状況によっては学部全体の100%遠隔授業もやむを得ないと思う。それを認めないかのような通知を送って来ないでほしい。この緊急時に大事なことは現場において教育を続行できるようにすることであって,現場の手足を縛ることではない。

文部科学省「令和2年度における大学等の授業の開始等について(通知)」2020年3月24日。
メニューページ(学校に関する情報)
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html
直リンク
https://www.mext.go.jp/content/20200324-mxt_kouhou01-000004520_4.pdf

※4/2追記。4月1日に以下の新しい通知が出て,やや改善された。「一方,新型コロナウイルス感染症に対する対応の影響により,こうしたケースが積み重なることで,60単位の上限に達してしまう事態が生じることも想定されることから,今後,文部科学省において,各大学等における遠隔授業に係る実施状況や各大学等からの要望等も踏まえつつ,必要がある場合には,今回の新型コロナウイルス感染症対策としての遠隔授業に係る単位数の上限の見直しについて所要の検討を行うことも視野に入れてまいります」とある。しかし,「行うことも視野に入れてまいります」などと書いている場合なのでしょうか。行なっていただかねばならない。

文部科学省「学事日程等の取扱い及び遠隔授業の活用に係るQ&A等の送付について」2020年4月1日。
メニューページ
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html#coronavirus001
直リンク
https://www.mext.go.jp/content/20200401-mxt_kouhou01-000004520_6.pdf

2020年3月25日水曜日

中国政府が無症状者を感染者数にカウントしていないことについて

時事が,中国で多くの無症状者が感染者にカウントされていないと香港紙からの孫引きで報じているが(シェア先),それは以前から分かっている話で,また中国も秘密にも何もしていない。例えば,中国が無症状者を感染者数に含めないことについて,2月にはNatureでもその適否が議論になり,3月初旬に日本でも報じられた(※1※2)。

 また,もともとのSCMP紙の記事(※3)は中国政府が感染者数を過小表示してけしからんと非難しているのではない。感染者のうち無症状者はどのくらいの割合なのかを推計することの難しさを論じた記事だ。その材料の一つとして,無症状者の扱いが国によって異なることが指摘されており,その中で中国の例も扱われているのだ。

(引用)「WHOは症状があろうとなかろうと陽性となったすべての人を確定例(感染者)と見なしている。韓国もそうだ。しかし中国政府は2月7日にガイドラインを変更し,症状のある患者だけをカウントするようになった。アメリカ,イギリス,イタリアは単純に,ウイルスに曝露されていた医療労働者を除いて,症状のない人は検査しない」(引用おわり)
 ちなみに日本の場合は,無症状の人は普通は検査されず,クラスターの感染経路追跡の際には検査される。

 このように,無症状者の扱いで感染者数が変わるので感染者総数を比較しにくいという問題として記事は報道している。そもそも無症状者までは検査しない傾向の国(アメリカ,イタリア,日本。イギリスはしているという意見もあり),する傾向の国(韓国),するけどカウントしない国(中国)もあるからだ(イギリスは検査するという指摘もある)。だから日本に対しても,国内外で「オリンピックをやりたいから検査を少なくして感染者数を少なく見せているのだろう」などと疑う人がいるのである(そうではないことは※4を参照)。

 中国が無症状者をカウントしていないのは,別に感染者数を減らすためではない。それならば,この方針を定めた2月7日の「新型冠状病毒肺炎防控方案(第4版)」が出た後,公式発表で中国の感染者が激減するか,少なくとも増加の勢いが落ちたはずである。しかし実際は逆であり,激増したのだ。それも武漢・湖北省で。リンク先をご覧いただければ一目でわかる(※5)。ドンと増えているのが2月12日である。

 この方案は,無症状者を感染者数から除く一方,湖北省でのカウント基準を変えた。それは,武漢・湖北省においてあまりの患者の多さにPCR検査がまにあわなくなり,CT画像など臨床的な診断によっても新型コロナウイルス感染者だと確定してよいという基準に変更したのだ(このことは私も2月13日の投稿で紹介した (※6)。医療現場は感染者数を少なく見せるどころの状態ではない。感染者だと確認できないと感染者用の治療ができないし,医療従事者の防護措置も十分できない。だから,重い症状の人を早く診断して欲しいという意見には理由があった。ただ,その後,このカウント方法は結局適切でないということになり,PCR検査,ウイルスDNAシークエンシング検査,抗原抗体反応の検査という3つの検査のいずれかで陽性を判断するものに改められた。これも,もうわかっている話だ。

 なお,無症状者を除くと事態が深刻でないように見えるかというと,そうではない。致死率がはね上がるからだ。この点でも,無症状者をカウントしないのは事態を深刻でないように見せるためではない。

 まとめると,時事の報道はもともとのSCMP紙の記事の主旨を逸脱して「中国政府は感染者数を意図的に小さく見せていた。けしからん」というニュアンスに偏っているが,それはミスリーディングだ。

 ただ,私も,中国政府は無症状者の数字はきちんと地方別に出すべきだと思う。とくに困るのは,この4万3000人が武漢・湖北省に多いのかそれ以外に多いのかがわからないことだ。武漢・湖北省とそれ以外では,当然前者の方が致死率が高い。医療崩壊を起こしたからである。逆に,湖北省以外は,医療崩壊を起こさずに,感染者が大量であり,大量に検査した貴重な先例になっているのだ。つまり,湖北省以外の中国は,医療が維持できた場合に「本当はどのくらいの致死率なのか」を考える貴重なデータだ。だから,感染者数にカウントしなくても,別扱いの無症状者として数値を公表すべきだと思う。


「中国、4万3000人計上せず 無症状の感染者除外で―香港紙報道」時事ドットコムニュース,2020年3月23日。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020032300117&g=int

※1 Scientists question China’s decision not to report symptom-free coronavirus cases, Nature News, Feb. 20, 2020.
https://www.nature.com/articles/d41586-020-00434-5
※2 「コロナウイルス、中国は症状のない患者をカウントしていない。科学者でも分かれる賛否」Yahoo!ニュース(ハーバービジネスオンラインより)2020年3月1日。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200301-00213815-hbolz-soci&p=1
※3 Josephine Ma, Linda Lew and Lee Jeong-ho, A third of coronavirus cases may be ‘silent carriers’, classified Chinese data suggests, South China Morning Post, March 22, 2020.
https://www.scmp.com/news/china/society/article/3076323/third-coronavirus-cases-may-be-silent-carriers-classified
※4 「「多数のPCR検査がなされていないから,感染者が本当は何人いるかわからない」ことについて」Ka-Bataブログ,2030年3月6日。
https://riversidehope.blogspot.com/2020/03/pcr_6.html
※5 武漢および湖北省の累積感染者数(「新型冠状病毒肺炎湖北実時疫情」騰訊新聞)
https://news.qq.com/zt2020/page/feiyan.htm#/area?pool=hb
※6 川端2月13日Facebook投稿。
https://www.facebook.com/nozomu.kawabata.5/posts/1375294509303174
現在の診断基準(「新型コロナウイルス関連肺炎診療ガイドライン(試行第 7 版)」日本語訳)
https://www.tri-kobe.org/files/user/assets/docs/covid-19_chinaGLv7.pdf

テレビ会議システムを使ったオンラインリアルタイムゼミに向けての学生アンケート

 ゼミは学部・大学院ともオンラインリアルタイムで行うしかなさそうだ。とりあえずゼミ生のネット環境やハードウェア環境を確認すべくアンケートを実施。ついでにGoogleフォームの使い方を覚える。
 大講義はリアルができないとしたら,おそらくオンラインリアルタイムではなく録画配信だろう。Meetの録画やインターネットスクールへのアップロードは簡単だが,動画編集ソフトがない。一発撮りはつらいので,mp4ファイルを切ってつなぐだけでいいからソフトは必要だ。無料ソフトもあるようだが,年度末の残予算が少しあるので,PowerDirector 18 Ultra アカデミック版を注文。

<質問項目(選択肢は略)>
・ご自身の氏名を記入してください。
・Google Hangouts Meetを利用したことがありますか。
・大学アカウントにログインできますか。
・大学アカウントでGoogle Hangouts Meetの「ミーティングに参加または開始」という画面を表示してください。表示できますか。
・時間割通りのゼミ時間帯にMeetでのオンラインゼミを行う場合,主な受講場所はどこになりそうですか。
・その場合に,ネット接続方式はどのようなものになりますか。
・上記を用いる場合にネット接続料の個人負担が発生しますか。
・ネット接続回線を確保するために追加支出が必要になりますか
・受講の際の主なハードウェア環境を教えてください。
・ハードウェア環境を整えるために追加で購入しなければならないものがありますか。あるとすれば何を購入しなければなりませんか。
・オンラインリアルタイムゼミについての意見,不安,要望,その他自由に書いてください。


2020年3月23日月曜日

専門家会議の見解を踏まえて授業を行う方法

3月19日付専門家会議の「状況分析・提言」別添の【多くの人が参加する場での感染対策のあり方の例】。授業に応用しなければなるまい。それぞれが,自分の持ち場で実行することが肝心だ。

 片カッコ数字と○がついているのが専門家会議の言葉。→以下が私の職場対策用メモ。もっと良い知恵があればご教示お願いします。なお授業対策に限ったが,当然教授会・会議対策も必要。
 これはオーバーシュートが起こらず,ロックアウト(都市封鎖。外出制限。移動制限)が実施されていない状態を想定したものなので,もしそこまで事態が進んだ時には当然変更しなければならない。

1)人が集まる場の前後も含めた適切な感染予防対策の実施
○参加時に体温の測定ならびに症状の有無を確認し、具合の悪い方は参加を認めない。
○過去2週間以内に発熱や感冒症状で受診や服薬等をした方は参加しない。
○感染拡大している地域や国への訪問歴が14 日以内にある方は参加しない。
○体調不良の方が参加しないように、キャンセル代などについて配慮をする。

→風邪症状のある学生,感染拡大地域・国への訪問歴が14日以内にある学生には登校しないことを勧告する。また,診断書がなくても風邪症状による欠席を教員は承認し,不利に扱わないことを申し合わせる。講義内容を(動画配信でも資料配信でもよいので)ネット配信し(東北大学では東北大学インターネットスクールを活用),欠席者が学習できるようにする。
期末の学力確認(試験)における欠席の扱いを別途検討する。追試験の基準を緩めざることが考えられるが,同時にモラル・ハザード対策も必要。状況を見ながら今後決定する。

○発熱者や具合の悪い方が特定された場合には、接触感染のおそれのある場所や接触した可能性のある者等に対して、適切な感染予防対策を行う。
→発熱者の接触者に健康観察を求め,3条件のより厳格な厳守を勧告する。

○会場に入る際の手洗いの実施ならびに、イベントの途中においても適宜手洗いができるような場の確保。
→教室・演習室付近の消毒薬設置数を増やす。

○主に参加者の手が触れる場所をアルコールや次亜塩素酸ナトリウムを含有したもので拭き取りを定期的に行う。
→事務職員が行う。

○飛沫感染等を防ぐための徹底した対策を行う(例えば、「手が届く範囲以上の距離を保つ」、「声を出す機会を最小限にする」、「咳エチケットに準じて声を出す機会が多い場面はマスクを着用させる」など)(※)
→講義室・演習室では,座席を一つおきに用いる。それを満たせるならば通常の講義・演習を行う(これで大丈夫か,椅子の間隔や教室の構造について要点検)。教員がもっぱら発言する講義では,教員と学生の距離が近い小講義室,演習室では教員がマスクをする。演習や,学生も多く発言する講義では,教員も学生も全員マスクをする。「一つおき」を満たせない場合は以下のようにする。

*大人数の講義
1)「一つおき」の原則を守りながら初回ガイダンスを行う。必要なら同一内容で2回行う。
2)以下のいずれかとする。
a)同一講義を2回に分けて行う。
b)講義を行ないながら,同時にMeetその他のシステムでリアルタイム配信する。
c)リアル講義を開催した後に,Meetで同一内容を録画し,ネット配信する。
d)テレビ会議システム(東北大学はMeet契約済)を用いてオンラインリアルタイム講義とする。ただしシステム障害に注意し,対処には,研究支援部門職員の支援を得つつも教員が責任を持つ。
e)リアル講義やオンラインリアルタイム講義は行わず,教員が講義を録画し,ネットにアップロードして学生が各自時間を選んで視聴する。教員は,受講者が視聴したかどうかをシステム(東北大学ではISTU)で確認する。
*少人数の講義と演習(※※)
1)「一つおき」の原則を守りながら初回ガイダンスを行う。必要なら同一内容で2回行う。
2)以下のいずれかとする。
a)Meetその他のシステムでオンラインリアルタイム演習とする。
b)より大きな教室を借りて「一つおき」を確保する。
c)演習を細分化して,2クラスに分けて行う(例:3年生と4年生を分ける)。

2)クラスター(集団)感染発生リスクの高い状況の回避
○換気の悪い密閉空間にしないよう、換気設備の適切な運転・点検を実施する。定期的に外気を取り入れる換気を実施する。
→換気の弱い講義室に強化工事を行う。

○人を密集させない環境を整備。会場に入る定員をいつもより少なく定め、入退場に時間差を設けるなど動線を工夫する。
→※参照。

○大きな発声をさせない環境づくり(声援などは控える)
→※※参照。演習対策でカバー。

○共有物の適正な管理又は消毒の徹底等
→マイク回しを行わない。マイク,机,いす,ドアノブ,事務室カウンターなどの消毒を徹底。事務職員が行い,過重労働であればTAの業務に追加し,それでも足りなければ消毒要員のアルバイトを雇う。

3)感染が発生した場合の参加者への確実な連絡と行政機関による調査への協力
○人が集まる場に参加した者の中に感染者がでた場合には、その他の参加者に対して連絡をとり、症状の確認、場合によっては保健所などの公的機関に連絡がとれる体制を確保する。
○参加した個人は、保健所などの聞き取りに協力する、また濃厚接触者となった場合には、接触してから2週間を目安に自宅待機の要請が行われる可能性がある。
→上記のように対応することを,学生生活担当委員会の任務とする。

4)その他
○食事の提供は、大皿などでの取り分けは避け、パッケージされた軽食を個別に提供する等の工夫をする。
○終了後の懇親会は、開催しない・させないようにする。
→大学生協に協力を依頼。1)弁当の大規模販売を行ってもらい,昼食・夕食は教室や研究室で取ってもらう。2)食堂のテーブルレイアウトを工夫し,多人数が密集しないようにする。対面でのゼミコンパ,花見宴会を禁止する。桜の下を散歩する花見は可。

厚労省。専門家会議の見解ページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html
PDF直リンク
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf

※4/2追記。過去1週間の流行状況と4/1の専門家会議の結果を踏まえると,上記よりもリアルでの接触を制限しなければ成り立たないだろう。感染拡大警戒地域ではリアル授業は全面中止し,オンラインに限らざるを得ないだろう。感染確認地域では人と人の距離をヨーロッパ基準の2メートルに拡大しなければならないし,さらに「50名以上の集会,イベント」に該当する,1室50名以上の講義はできないだろう。

『ウルトラマンタロウ』第1話と最終回の謎

  『ウルトラマンタロウ』の最終回が放映されてから,今年で50年となる。この最終回には不思議なところがあり,それは第1話とも対応していると私は思っている。それは,第1話でも最終回でも,東光太郎とウルトラの母は描かれているが,光太郎と別人格としてのウルトラマンタロウは登場しないこと...