フォロワー

2020年3月22日日曜日

2頭のクジラが株式市場を支えきれなくなる時が来た

日本の株式市場を支えてきた2頭のクジラが危うくなっている。孫引きで恐縮だが『日経ヴェリタス』はGPIFの運用資産に3月13日現在、内外株式で約15兆円、債券で約5兆円の損失が発生していると推定している(※)。運用資産は169兆9900億円だから、10%を少し上回るほどが吹き飛んでいる。また、3月18日に黒田総裁が国会で語ったところでは、日銀が保有するETFには2-3兆円の含み損が発生している。バランスシート上の保有額は29兆970億円だから、含み損が大きい方であればその10%程度が吹き飛んでいる。

 GPIFについては、問題は明らかだ。GPIFの責任は年金積立金を運用して増やすことである。増やせないならば当然に責任が生じる。ポートフォリオを変えて国内株式の構成を大きくし、リスクを取ったのだから、株価が下がれば損失が出るのは当たり前だ。その責任をとり、投資政策を再検討することが求められる。問題の構造は明確だ。

 日銀は少し話が異なる。日銀は利益のためにETFを買っているのではない。民間企業の経済活動の成果を日銀が吸い上げることに何の正統性もないからだ。日銀は建前としては「リスク・プレミアムを下げるため」、自分では決して言わないが、わかりやすく言えば株価を支えるためにETFを買っているのだ。

 なので株価が暴落したいま、日銀はダブルバインドに陥っている。一方で、自らの目的に沿って株価を支えるために、日銀はさらにETFを買い増そうとしている。この投資家は、暴落中に2-3兆円の含み損を出して、さらに買い向かおうというのだ。損失は不可避だ。しかし、自己利益を重視してETF購入をストップすれば、日銀というクジラ投資家の撤退が悪材料となり、さらに株価は下落して恐慌を加速させるだろう。日銀は買うも地獄、買わないも地獄の構造にはまってしまっている。こうなると、どうしたらよいという提案のしようもない。2010年以来、ETFをだらだらと買い続けたこと自体が間違いだったのだ。

 なお、日銀がETFで含み損を出した場合、少なくとも引当金を積む必要がある。そして剰余金が減り、政府への納付金が減る。日銀は倒産しないが、損失を出すことには独自の問題がある。これはやや複雑なので、別途ノートしたい。

湯池正裕「日銀総裁「現時点で含み損2~3兆円」 保有中のETF」朝日新聞デジタル,2020年3月18日。
https://www.asahi.com/articles/ASN3L5WF2N3LULFA025.html

※「安倍政権、消費税「減税」論浮上…日銀、ETF含み損で巨額損失か、揺らぐ中央銀行の信頼」Business Journal,2020年3月16日。
https://biz-journal.jp/2020/03/post_146916_2.html

「公的資金による2頭のクジラが株価を支えきれなくなる時」2019年2月5日,Ka-Bataブログ。
https://riversidehope.blogspot.com/2019/02/blog-post.html

2020年3月21日土曜日

専門家が提案したのは「大阪府・兵庫県『内外』の不要不急な往来の自粛」であって、「大阪と兵庫の『相互』の往来自粛」ではないと思うのだが

誰か聞き間違えたか読み間違えたかしてそのまま発表してしまい、引っ込みがつかなくなって修正せずにおくといういつものパターンではないのか。専門家が提案したのは「大阪府・兵庫県『内外』の不要不急な往来の自粛」であって、「大阪と兵庫の『相互』の往来自粛」ではないと思うのだが。

以下のリンク上から3番目。「大阪府・兵庫県における緊急対策の提案(案)」参照。
http://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/2019ncov/dai9kai2019ncov.html

直リンク
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/37375/00358663/05_shiryo1.docx

2020年3月19日木曜日

PCR検査の話だけを議論するのは適切でない。肝心なのは感染不安や風邪・肺炎の苦しみを軽減すること

PCR検査について、もっとやれという人は政府を非難し、重症者特定とクラスター追跡でよいという人はもっとやれと言う人を非難にする。政策を誤らせないために議論することは必要だが、検査の話だけに限って延々とやるのはのは適切でない。

 見なければならないのは、感染したと特定されていないが、風邪・肺炎症状の人、自分や家族が感染したかもしれないと不安に思っている人がたくさんいるということだ。この人たちを支援するための議論をもっと増やすべきだ。

 検査をもっとやって感染者を見つけろと言うならば、多くの人が軽症の感染者と認定されたときにどう治療するのかを、あわせて言うべきだ。病床が足りなくなるから、一般病院に広げねばならないし、入院の優先順位を決めねばならない。準備せずに行えば医療崩壊を起こす。それは防げても、多くの人を自宅療養とせざるを得ないだろう。韓国やイタリアのように、病院ではない療養施設を緊急に設置してそこに収容しなければならないかもしれない。そうした準備の議論を併せてやらないと不誠実だ。

 検査方法が今のままでよいというのならば(私も原則としてそう思うが)、風邪・肺炎症状の人が、感染が特定されなくても自宅療養できるように公的支援を行う必要性を認識すべきだ。自宅療養・看護での感染の危険を減らし、仕事を休むに休めない状況がないように労働法制で支援し、緊急の給付で財政的負荷を下げることが肝心だ。そうせずに抑制された検査を支持するだけでは、熱や咳があるのに「すぐには医者に行くな」「自宅療養しろ」と言われて我慢し、困っている人たちを意識の外に押しやりかねない。

 反省を込めて言うが、感染症への不安を持ち、風邪や肺炎で苦しんでいる人の負荷を下げることが大事なのであって、政府や反政府論者の間違いを批判すること自体を目的にしたり、権力者や権力批判のワイドショーを馬鹿にすること自体に熱中するのは適切ではない。

2020年3月18日水曜日

自宅療養者と家族への支援を

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、名古屋市では医療機関のベッドの調整がつかず、自宅療養を余儀なくされている人が感染者4人いるとのこと。

 感染者が増えれば自宅療養が増えること自体はやむを得ない。ただ、政府・自治体は自宅療養者を支援して欲しい。1人暮らしでセルフケアするのも大変ならば、素人の対応で家族感染を起こさないようにするのもたいへんだ。看護する家族が、世話の必要な小さな子どもやお年寄りに濃厚接触せずにいるのは困難だ。役所や医療機関からネットやリアルでの見守り、アドバイス、マスク・消毒薬・タオル・シーツ・対処療法用の適切な薬の宅配、無料支給を。休業補償と解雇されない保障を漏れなく。それは不況の底支えにもなる。

「医療機関のベッド調整つかず 感染の4人が自宅療養に 名古屋」2020年3月17日、NHK NEWS WEB。

2020年3月17日火曜日

金融危機に対するバブル的救済が、実物的不況に対する実物的需要喚起を脇に押しやる危険について

 経済面での新型コロナウイルス危機は、1997年のアジア金融危機や2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)と異なり、金融危機とその伝播をきっかけとするものではない。グローバルに伝播したのは新型コロナウイルスであり、それにより実物経済需要が急速に減退していることが原因である。もっとも、アメリカ、ヨーロッパ、日本では景気は昨年から後退傾向を見せていたので、さらなるひと押しであったと言える。
 実物の需要不振による不況に対する対策は、本来、金融危機とは異なる。1997年や2008年のように、流動性の無制限供給、金融商品取引の緊急の規制、金融機関の整理と救済、投資家のパニック制止が先行し、またメインになるのではない。実物的需要の減退を食い止め、営業と生活を防衛する措置を先行させ、市民全般の不安を緩和することを中心に据えなければならない。それが本筋のはずだ。
 しかし、金融危機がいったん生じると、自己再強化的に連鎖し、たちまち恐慌の主役を乗っ取ってしまう。金融システムが崩壊し、それが実物経済に逆流する流れの方が強くなってしまう。そのため各国政府や国際機関は、本来とるべき実物的な需要喚起と社会不安の緩和措置、すなわち医療の充実や家計への所得保障、企業への運転資金の融資といったことよりも、信用連鎖の崩壊を食い止めることに全力を傾けねばならなくなる。
 実物の需要減退を食い止めることなく信用恐慌防止に駆け回るということは、効率的でない金融機関や金融機構をも守り、投機家を破産させないということである。救済のために供給された通貨がただちに産業的流通に回らずに金融的流通に回るということでもある。これは、次のバブルの種をまく可能性を秘めている。金融的流通を駆け回るマネーは、増殖の根拠を求め、次の成長産業らしきところ探し、見つかれば一気に流れ込む。そうした動きは、株高で利潤は大きいのに投資は停滞し、賃金は上がらず格差が拡大するという形の、さほど盛り上がらない好況しか生まない。世界金融危機後に21世紀の長期停滞と呼ばれた現象だ。
 ここには、救済においても次の成長においても、明らかな本末転倒がある。しかし、こうした本末転倒をある程度まで避けることができなくなってしまっているのが、現代のグローバル金融資本主義だ。ちょうど、治療薬とワクチンが開発されない限り、新型コロナウイルスの感染を、低いピークで遅らせることはできてもなくすことはできないことと似ている。グローバル金融資本主義の病を治療する方法を見つけて世界の多数が合意しない限り、世界恐慌を防ごうとすれば金融機関中心のバブル的救済をせずにいられないのだ。
 実物の不況に対して、実物の対策で応じていき、それによって金融危機も食い止めるというのが最も望ましいシナリオだ。だが、グローバル金融資本主義は、そのシナリオから各国政府や国際機関を逸脱させる危険を秘めていることも直視しなければならない。

2020年3月16日月曜日

「困っている人を助けたい」ならば、自民党内閣の大臣など辞められてはどうか:森まさこ法相の「検察官は逃げた」発言について

森まさこ法相は,「12歳のとき父が全財産を無くし弁護士に救われたのが」弁護士を目指したきっかけだという。「働きながらの進学。苦しかった」とも言われる(留学記)。消費者保護問題に関心があり,「困っている人を助けたい」という思いが自分を導いて来たとも言われる(公式サイト)。私は東北大学で森氏と別の学部で同学年であった。彼女は男子学生の間で有名人であったからその存在は知っていたが,学生行事の事務連絡でお話しした以外は接点はなかった。そんなことを考えていたのだなあと,しみじみ思う。

 今回の「東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から国民が、市民が避難していない中で最初に逃げたわけです。その時に身柄拘束をしている十数人の方も理由なく釈放して逃げたわけです。災害の時も大変な混乱が生じると思います」という発言は,震災後の検察への怒りが思い起こされてのことだろう。震災後に森氏は野党議員として(当時は民主党政権),2011年10月27日11月24日の参議院法務委員会で,福島地検が「震災直後に福島地検いわき支部が、いわき市は避難地域でもないのに市民を置き去りにして国家機関である検察庁が先に逃げて、その前提として被疑者を釈放した」(11月24日)としている。それが事実であるかは別として,被災地住民への思いから当時このように主張されたのだろう。私は,それは疑わない。

 だが,被災地住民への思いも,いま森氏が行っている,法解釈を強引に変えて東京高検検事長の定年を延長し,その流れで検察官の定年を延長しようという,そんな仕事の中で唐突に語るとおかしなことになる。冒頭の発言は,検察官の定年延長がどうして必要になったのかと問われての発言だ。検察官というのは定年延長しなければ災害時に職場を放棄して逃げるものなのか。また森法相は,災害時に職場を放棄して逃げるような検察官を管轄しており,そんな人たちの定年を延長しようというのか。そんな人たちも定年を延長すれば逃げないのか。
 まちがっているというより,全然関係ないことだろう。

 そう。検察官の定年延長は,森氏の被災地への思いと関係ないのだ。森氏が「困っている人を助けたい」というならば,それとは無縁の特定秘密保護法の推進や検事長の定年延長などに携わらねばならない,自民党内閣の大臣など辞めてはどうか。その方が,ご自身の原点に沿って働けるのではないのか。

ニューヨーク大学ロースクール(NYU)留学体験記。魚拓
http://web.archive.org/web/20130309105748/http://www.nichibenren.or.jp/activity/international/studyabroad/nyu.html

森まさこOfficial Website
https://morimasako.com/

第179回国会 参議院 法務委員会 第2号 平成23年10月27日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=117915206X00220111027&spkNum=131&current=4

第179回国会 参議院 法務委員会 第4号 平成23年11月24日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=117915206X00420111124&current=2

「森法相「国会審議に迷惑」と陳謝 検察逃亡で釈明、野党納得せず」時事ドットコムニュース,2020年3月13日。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020031300607&g=pol

風邪症状で仕事を休む人と看護する人全員に休暇と給付を

 新型コロナウイルス危機に対応するアメリカの経済政策には,以下の内容が含まれているという。私はこれは良いセンスだと思う。

(引用)「法案では新型コロナの影響を受けた労働者に2週間の有給病気・家族休暇を付与。企業は費用をカバーするために税額控除を受けられる。
 労働者はまた、自身が隔離されたり、病気の家族を世話する必要が生じたりした場合に、最大3カ月の無給休暇を取ることができる」。

 この無給休暇による減収を、事後の政府からの給付金で支えるとなおよい。
 日本の休業補償は、小中高休校の影響を受けたご家族にしか適用されない。そうではなく、風邪症状で仕事を休まざるを得ない人や、そうした人々を自宅で看護するために仕事を休まざるを得ない人全員に休暇と給付を与えるべきだ。その負担を負えない企業に対しては支援する。これにより、1)生活困窮を防ぎ、2)自宅療養への不安を軽減し、3)需要を維持する。一石三鳥だ。

 政府・各党はこのアメリカの政策の詳細を調べ、日本の条件に適合した方策を作ってほしい。民間企業の有給休暇を政府が法律で与えるというのは、日本ではすぐにできないかもしれないが,それなら無給の休業を認め,給付金で支えればよい。事後に企業の出勤記録と賃金台帳を提出してもらい,労働者に直接支払うのだ。そのくらいのしくみは,やろうと思えばできるはずだ。

「米下院、新型コロナ対策法案可決 無料検査や病気休暇盛り込む」ロイター,2020年3月14日。








 

論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」の研究年報『経済学』掲載決定と原稿公開について

 論文「通貨供給システムとしての金融システム ―信用貨幣論の徹底による考察―」を東北大学経済学研究科の紀要である研究年報『経済学』に投稿し,掲載許可を得ました。5万字ほどあるので2回連載になるかもしれません。しかしこの紀要は年に1回しか出ませんので,掲載完了まで2年かかる恐れがあ...