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2018年10月11日木曜日

薄スラブ連続鋳造機は鉄鋼業界をさらに破壊するか?:製鉄プラント小型化の潮流

 製鉄プラント小型化の潮流が強まっていることについて,『日刊鉄鋼新聞』が記事にした。小型化の中心は薄スラブ連続鋳造機とコンパクトストリップミルの直結システムだが,条鋼のマイクロミル,中型高炉もこの潮流に加えられている。
 薄スラブ連鋳のもともとの目的は,設備当たり生産量が小さくても熱延コイル生産に参入できるようにすることだった。薄スラブ連鋳に直結したストリップミルならば,最小効率規模が100万トンにでき,400万トン程度必要なコンベンショナルなホットストリップミルよりはるかに低くなる。こうして薄スラブ連鋳は,先進国の電炉メーカーと新興国の高炉・電炉メーカーが鋼板分野に参入する手段として用いられるようになった。特に中国の場合,小型・中型高炉技術は国産のものがあるため,これと薄スラブ連鋳を組み合わせて銑鋼一貫生産する方式が複数企業によって採用された。この動きは,拙著『東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム』※1に記したように,実は1990年代から顕著になっていたのだが,このところ加速していることは確かだろう。
 その最大の理由は,この記事に書かれているように品質の向上により適用範囲が広がったことだと思われる。従来,薄スラブ連鋳-コンパクトストリップミルによるホットコイルは,用途が建設用に限定されていた。私が2000年代後半に調査したタイの二つのミルも(拙稿「タイの鉄鋼業」※2参照),適用範囲を広げることに困難を抱えていた。ところが,現在では「エネルギー用の鋼管や一部の自動車用途にも耐え得る」と報道されている。
 アメリカの電炉メーカーによる鉄鋼業界の破壊disruptionは,C.クリステンセンがローエンド型破壊的イノベーションの重要例としたものである。薄スラブ連鋳ーコンパクトストリップミルによる業界の破壊disruptionは,世界的規模で新たな局面を迎えているのかもしれない。

「製鉄プラント『小型化』ブーム」『日刊鉄鋼新聞』2018年10月9日(冒頭のみネット掲載)。

※1川端望[2005]『東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム』ミネルヴァ書房。
※2川端望[2008]「タイの鉄鋼業:地場熱延企業の挑戦と階層的企業間分業の形成」(佐藤創編『アジア諸国の鉄鋼業:発展と変容』日本貿易振興機構アジア経済研究所,251-296頁)。

2018年10月10日水曜日

アマゾンは,どのような場合に出店者の事業に自ら参入するか

プラットフォーム研究に挑む院生が見つけて来て,来週ゼミで読む新しい論文。要は,プラットフォーム企業が補完的事業に自ら参入するのはどんな場合かを,アマゾンが出店者の売っているような商品を自ら売り出す場合を事例にして考察する論文。自ら参入すればもうかるかもしれないが,出品者に「サメと泳ぐようなものだ」と思われて去られてしまうと,プラットフォームのエコシステムを自ら破壊することになりかねないという矛盾は,どう解決されているのかということだ。戦略系トップジャーナルのSMJに載っているが,新しすぎてまだGoogle Scholarにインデックスされていない。ディスカッションペーパーの時点で33回引用されている。先日のアジア経営学会で,プラットフォームと垂直分裂に向かう傾向と,コア企業が自ら垂直統合する傾向の関係について議論したところだったので,ちょうどいい。
Feng Zhu and Qihong Liu (2018), Competing with complementors: An empirical look at Amazon.com, Strategic Management Journal, 39(10), 2618-2642.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/smj.2932

2018年10月9日火曜日

研究方法論に取り組まざるを得ないことについて

 先週より大学院ゼミ開始。各自の研究報告のほかに,研究認識論・研究方法論の文献も読むことにし,各種検索結果,院生がレフェリーからこの間受けた指摘などを手掛かりにして以下を選んだ。とにかく,当ゼミからの投稿は私本人を含め「事実発見と事例分析はよくできてる,実践的インプリケーションもOK。だがリサーチ・クエスチョンが弱い,理論的テーマが不明瞭,事例選択の根拠が希薄,理論的インプリケーションが薄い」等々と言われやすい。個人的学問観としては言いたいこともあるが,国際誌にもっと載せるためには,ここを何とかしなければ。
Sinkovics, Noemi [2017], "Pattern matching in qualitative analysis," in C. Cassell et al., The SAGE hand book of qualitative business and management research methods, Sage Publications, Ltd.
https://uk.sagepub.com/en-gb/asi/the-sage-handbook-of-qualitative-business-and-management-research-methods/book245704https://www.e-elgar.com/shop/handbook-of-qualitative-research-methods-for-international-business
→高いが,注文した。
Ghauri, P.[2004]. “Designing and conducting case studies in international business research” in Rebecca Marschan-Piekkari and Catherine Welch eds, Handbook of qualitative research methods for international business, E.Elgar, 109-124.
https://www.e-elgar.com/shop/handbook-of-qualitative-research-methods-for-international-business
→附属図書館にあった。
Fletcher, M. et al. [2018]. Three pathways to case selection in International business, International Business Review, 27(4), 755-766.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0969593117301142
→附属図書館購入の電子ジャーナルにあった。

2018年10月8日月曜日

『特撮秘宝』第8号。「特撮の悪役」

『特撮秘宝』第8号。一般社会に紹介できるネタがほとんどないのだが,表紙を飾る『ウルトラマンA』第23話『逆転!ゾフィ只今参上』の巨大ヤプールにはかろうじてメジャー感があり,わかる人ならわかるかもしれない。このエピソードでは,怪しい老人が「お前は俺を信じなさい,ほれ信じなさい,ほれ信じなさい」と歌うと子どもたちがぞろぞろついていき,異次元に連れ去られていく。

 砂浜で老人が「花はとっくに死んでいるのだ」と言えば,子どもたちは「そうだ,死んでいるのだ!」と唱和する。そして忽然と消える。北斗星司(ウルトラマンA)は,猿人に変身して火を噴く老人に崖から落とされて負傷する。しかし,そのこと自体をTACの仲間に信じてもらえない。いや,それでも南夕子(ウルトラマンA。当時合体変身だった)は信じようとするのだが,二人で事件現場に行って見ると,砂浜自体がない。北斗は,異変を告げたはずなのに,逆に自らが異常とされ,疎外されていく(まあ,北斗隊員はいつもそうだったけど)。

 脚本を自ら書いて監督した真船禎氏のインタビューによれば,氏は戦後直後の価値観の急転換を念頭においてこの話を書いたのだという。

「だから,あそこで一番やりたかったのは,老人が子どもたちを集めて,「海は青いか?」「海は青い」と答えると,「違う!海は黄色だ」って言うと,海が本当に黄色になっちゃう。それが洗脳っていうものですよ。でも,「この人は怖いから,言うとおりにしとこう」だったら,まだいいんですよ。一番怖いのは,本当に黄色く見えちゃうっていうことなんです」
「僕は小学生時代に,信じて死ねって言われて,死ぬつもりだった。ところが一夜明けたら,今から生きろと。命が大事だって。何が真実なんですか?」(ともに84ページ)

 それでも30分のヒーロー番組だから,真船監督はBパートでAを勝利させ,真実はこちら
にあるとした。しかし,ヤプールは怨念となってウルトラマンシリーズに繰り返し現れる。人が人に裏切られ,語りかけても信じてもらえない世界をつくろうとする。それがヤプールの復讐だ。

『特撮秘宝』第8号,洋泉社,2018年。
https://www.amazon.co.jp/dp/480031545X


2018年10月7日日曜日

これまでの研究ノート

 これまでの研究ノートはGoogle+に投稿して,公式サイトからリンクしておりました。関心のある方は,以下をご覧ください。今後のノートも,事後に公式サイトからリンクします。

公式サイトの研究ノート集
http://www.econ.tohoku.ac.jp/~kawabata/arekore.htm

2018年10月6日土曜日

経団連会長の就活ルール廃止発言について:新卒一括採用の改革か,たんなる大学教育軽視か 

 2021年4月入社の就職活動は,採用面接を6月解禁にするなど現行ルールが維持される見通しだ(『東京新聞』2018年9月22日)。

 就活ルール廃止を言い出した経団連の中西会長は,9月3日の定例会見で「「終身雇用など基本的なところが成り立たなくなっている。(活動を)一斉にやることもおかしな話だ」と発言したという(『朝日新聞』2018年9月22日)。つまり,就活ルールの廃止が終身雇用の弱体化と連動しているし,新卒一括採用を廃止することと連動させたいというのだ。これをめぐってあれやこれやのコメントが飛び交っている。

 だが中西会長も,また多くのコメンターも肝心なことを語っていない。それは,経団連加盟企業のほとんどは,新卒規一括採用の廃止意向など表明していないということだ。

 新卒一括採用とは,「経団連加盟企業が同じ時期に採用活動をすること」だけではない。一番肝心なのは,「新規学卒者だけを対象にして,やるべき職務を明示せずに,「入社」させること」である。これこそが本質であり,これをやめない限り,いくら採用活動を前倒し使用が各社各様にしようが,新卒一括採用をやめたことにはならない。

 新卒一括採用では,学卒者を組織の一員として「入社」させる。そして,就くべき職務は会社が割り当てる。就くべき職務を労働契約で取り決めていないので,配置転換や転勤は基本的に会社の裁量だ。その代わり,ある職務が組織再編で消滅しても,会社は別の職務を割り当てる義務を負う。特定の職務で成績が悪くても「組織の一員」として失格とまで言えなければ解雇はされないので,希望すれば定年まで終身雇用される確率が高い。逆に,解雇とは,特定の仕事だけでなく「組織の一員」として働くことができない,極端に問題のある者とみなされる。これが新卒一括採用と終身雇用の関係であり,濱口桂一郎氏の言うメンバーシップ型雇用である。

 経団連が本当に新卒一括採用をやめる、または縮小するのであれば,採用の大きな部分を特定の職務を指定したものとし,職務遂行能力のみを基準として採用しなければならない。新卒であるかどうかや年齢で応募を制限してはならない(すでに新卒採用を例外として,年齢指定の禁止が雇用対策法で定められている)。そこまでやる気があるのか。そこまでやるというならば,経済界,政府,大学は制度・慣行の改革について真剣に協議すべきだ。容易ではないし,漸進的にしかできないだろうが,大学も汗をかいて前向きに取り組む価値がある。

 しかし,経団連にも多くの加盟企業にもそこまでやる気は観られない。このままでは,経団連は,ただ採用活動の開始時期を各社の好き放題にしたいだけなのだとみなさざるを得ない。それは雇用改革でも何でもない,ただのわがままである。そして,そこには,大学教育を軽視しながら社員に大卒の肩書だけは求めるというねじれた認識を読み取らざるを得ないのだ。大学など頼れない,採用してから社内で育成すればいいと考えているのだろうが,その方式では企業成長がおぼつかなくなっているから「終身雇用など基本的なところが成り立たなくなっている」のではないか。

 労働市場の入り口を改革するために,やらねばならないことは大学にもあるが,企業にもたくさんある。改革に挑むのか,改革に見せかけて単にわがままを押し通したいのか,経団連の見識が問われている。

2018年9月22日のFacebook投稿を転載。

製鉄所に刻まれたアメリカ鉄鋼業衰退の歩み

 『ワシントンポスト』10月3日の記事に寄れば,アメリカ高炉メーカーはトランプ政権の保護関税のおかげで,一息ついている。しかし,経営側・労働側ともに長期低落傾向を食い止める戦略を持たない限り,いくら保護をかけても一時的な効果しかないであろう。
 記事にあるように,高炉メーカーは海外メーカーだけとではなく,国内の電炉メーカーとも競争しなければならない。電炉メーカーの多くはノンユニオンで,最新技術を取り入れて,製品構成を鋼板類に広げている。対して高炉メーカーは,一部,拠点になりそうな製鉄所(USスチールゲイリーとかアルセロールミタルUSAインディアナハーバーとか)もあるにはあるが,多くはリストラして生き残った設備を継ぎ合わせて使用しており,組織率も組合員数も低落傾向にあるとはいえUSWA(全米鉄鋼労働組合)に組織されている。
 それでも,倒産したことのないUSスチールはまだましな方かもしれない。破産法第11条を申請して経営破綻した多くのアメリカ高炉メーカーは,労働協約を無効化し,年金債務を帳消しにし,設備簿価を極度に切り下げて再生された。だから,技術・設備が十分現代化されていないのに,コストが安いということになっている。それでも,輸入鋼材の圧力に耐えられないのだ。
 この写真を手掛かりにしてみよう。クレアトン市長リチャード・ラッタンツィ氏が背にしているのはUSスチールクレアトン工場だ。クレアトン工場は,モン・バレー製鉄所の一部である。モン・バレー製鉄所は全体としては銑鋼一貫製鉄所,すなわち原料処理(コークス,焼結)-製銑-製鋼-圧延-表面処理を行うコンプレックスだ。しかし,その実態は,モノンガヒラ川沿いに点在する四つの工場である。クレアトン工場がコークスを生産し,エドガー・トムソン工場が製銑・製鋼(精練・連鋳)を行ってスラブを作り,アーヴィン工場が薄板熱延,冷延,亜鉛めっきを行い,フェアレス工場もまた亜鉛めっきを行う。だが,かつてはクレアトン工場,エドガー・トムソン工場も,フェアレス工場もみな一貫製鉄所であった(アーヴィン工場だけは初めから圧延工場だった)。度重なる工場閉鎖,相対的に優位な工場だけを残す生産システム再編成の結果,四つの工場を河川輸送でつないで,かろうじて一貫体制を維持するようになったのである。四つの工場の航空写真をグーグルマップでみると,アーヴィン工場以外では空き地が多い。とくにフェアレス工場は空き地が面積の過半を占める。そこにはかつて,高炉,平炉や転炉,圧延機が並んでいたのだ。



2018年10月5日のFacebook投稿を修正のうえ転載。

岡橋保信用貨幣論再発見の意義

  私の貨幣・信用論研究は,「通貨供給システムとして金融システムと財政システムを描写する」というところに落ち着きそうである。そして,その前半部をなす金融システム論は,「岡橋保説の批判的徹底」という位置におさまりそうだ。  なぜ岡橋説か。それは,日本のマルクス派の伝統の中で,岡橋氏...