アメリカにHertha Metalsという会社がある。MITで機械工学と材料科学の学位を取得したLaureen Meroueh氏が設立した鉄鋼ベンチャーである。同社が開発中の技術Flex-HERSは,溶融還元法の一種のようであり,現在は天然ガス,将来は水素で鉄鉱石を還元する製法のようだ。注目すべきは,同社が,DRIグレード(高品位鉄鉱石)のペレットを使わずとも,低品位鉱石からでも粉鉱石からでも,ワンステップで磁石用高純度銑鉄や低炭素合金鋼を製造できると主張していることだ。
鉄鋼業は現代の社会生活に不可欠の産業であるが,炭素で鉄鉱石を還元する過程から二酸化炭素が排出されるために地球温暖化を促進するという問題を抱えている。水素による直接還元法はその解決策の中心を担うとされているが,現在開発中のプロセスでは,高品位鉄鉱石を使わないと,高コスト,低歩留まりになってしまうという弱点を持っている。産出されるのが固体の還元鉄であって不純物が混じったままであるためだ(伝統的な高炉では溶けた銑鉄が生産されるので,不純物=スラグは浮かせて除去することができる)。
ところがFlex-HERSの場合,説明やテストプラントの映像を見る限り,産出するのは溶銑または溶鋼である。プロセスが溶融還元法なのでスラグは除去できるということだろう。わからないのは,Hertha Metalsはどのようにして天然ガスによる高温の溶融還元(溶融状態の直接還元)を実現しているかである。そこはまだ秘匿されているようだ。技術についての同社サイトの説明は具体的ではない。
Hertha Metalsは,すでに1700万ドルの資金を調達し,現在はテキサス州で日産1トンのデモ生産を行っている。次の段階では年産50万トンの工場を設置するとのこと。果たして商業生産の域に到達できるのかどうか,注目する必要がある。
Hertha Metals社公式サイト
https://herthametals.com/
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