クレイトン・クリステンセン教授が亡くなられた。私は彼の破壊的イノベーション理論に気づくのが遅れ,2010年代になってから慌てて学部ゼミの教科書に採用して学んだ。記録によると2014年度第1学期に『イノベーションへの解』,2018年度第1学期に『イノベーションの最終解』と「日本は「イノベーションのジレンマ」を超えられるか」,それに「資本家のジレンマ」,第2学期にThe power of market creationを輪読している。おかげで自分の考えも随分と変わったと思う。とくに日本の産業政策における既存大企業優先策の問題点と,発展途上国における地場企業の台頭の可能性と意義については,クリステンセンを学ぶことなしに考えを深めることはできなかったろう。どうか安らかにお休みください。
Harvard Business Reviewは同誌掲載の論稿を紹介しているが,私はこの他にBOPの市場開拓を破壊的イノベーション論で基礎づけたHart and Christensen (2002)と,低成長に陥った先進国資本主義の限界そのものに迫ったChristensen and Bever (2014)が,重要な社会的意義を持つと思う。
The Editors, The Essential Clayton Christensen Articles, Harvard Business Review Website, January 24, 2020.
https://hbr.org/2020/01/the-essential-clayton-christensen-articles
Hart, Stuart L. and Christensen, Clayton M. (2002). The great leap: Driving innovation from the base of the pyramid, MIT Sloan Management Review, 44(1), Fall.
https://sloanreview.mit.edu/article/the-great-leap-driving-innovation-from-the-base-of-the-pyramid/
Christensen, Clayton and Bever, Derek van (2014). The Capitalist’s Dilemma, Harvard Business Review, June.
https://hbr.org/2014/06/the-capitalists-dilemma
川端望のブログです。経済,経営,社会全般についてのノートを発信します。専攻は産業発展論。研究対象はアジアの鉄鋼業を中心としています。学部向け講義は日本経済を担当。唐突に,特撮映画・ドラマやアニメについて書くこともあります。
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