2023年11月11日土曜日

ライドシェアリングは地域の交通手段確保の観点からこそ検討されるべき

 共同通信の報道によれば,「一般ドライバーが自家用車を使い乗客を有償で運ぶ「ライドシェア」を巡り,都道府県で独自に導入を検討しているのは神奈川、大阪の2府県にとどまる」そうだ。これでよいのだろうか。ライドシェアリングは,地域と地方という観点からこそ検討されるべきだと思うのだが。

 この3月に経済学部産業発展論ゼミを卒業した庄司健人氏の卒業論文「ライドシェアリングの実態と日本への導入の検討」は,ライドシェアリングの新規性を二つに分けて整理した。①タクシー事業に必要な特別な資格を持たないドライバーが自家用車で乗客を輸送することと,②アプリ内ですべてのサービスを完結し,さらに乗客とドライバーの情報の非対称性を解消したこと,である。この二つを区別しなければならない。

 ②は,まだスマホを使えない人がいるという点を除けばよいことずくめであり,①の副作用(公正な取引,安全,言語障壁等)を緩和する作用も持つ。そして,②はタクシー事業でも導入できることであり,現にアプリによる配車サービスとして実現しつつある。

 しかし①は,公共交通機関が豊富な大都市圏とそうでない地方部では異なる作用を引き起こすことに注意しなければならない。日本において,ライドシェアリングの大都市圏への導入は移動需要に対する供給過剰を引き起こす一方,「人口の減少などの影響で既に公共交通機関が廃止され,さらにタクシー事業者も撤退したような地域では,自家用車を用いたライドシェアリングが住民の新しい移動手段として受け入れられる可能性が高い」。これが著者の結論であった。

 私も同意する。ワイドショーやニュースインタビューに都会の人間ばかりを登場させて「安くなったらいいなーなんて思いますけど」「交通混雑がひどくなるんじゃないかなー」とかのんきな寝言をしゃべらせ,議論を見当違いの方向にそらすのをやめるべきだ。導入を検討すべきは大都市ではない。バスもタクシーも鉄道も失われつつある地域の交通手段としての有効さを,真剣に検討すべきだろう。

「ライドシェア9割が未検討 都道府県、安全確保に懸念」『共同通信』2023年11月4日。

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