フォロワー

2020年4月11日土曜日

西浦教授と私たちの行く手を阻む,社会の壁と国家の壁

  西浦博教授はこの記事で「リスクを説明した上での選択」を強調し,イビデンスに基づく深刻な予測を発表して「みんなに真剣に行動を考えてほしかったんです」という。それは教授が民主主義を前提にしているからだと思う。日本が独裁国家でないならば,そして私たちが,これからもそうでないようにしたいと思うならば,対策は国家から問答無用で強要されるだけのものであってはならない。私たちが考えて,選び取らねばならない。政府は専門的見地を踏まえて権力を行使し,自らの力の使いようについて市民に明確に説明しなければならない。いずれが欠けても8割は無理なのだ。

 6割でいいとは言ってないし,7割から8割とも言っていない。値切っては感染は収束しない。科学に基づく自分の計算では8割しかない。そう伝えることに西浦教授は多大な困難を感じている。社会におけるコミュニケーションの困難と,政治的利害や力関係による事実の捻じ曲げ。行く手を阻む社会の壁と国家の壁を西浦教授は乗り越えようとしている。おかしいのは社会だけでなく国家だけでもなく,両方だ。改めるべきは私たちの行動と権力の振るわれようの両方だ。双方を改めなければ感染は爆発する。

岩永直子・千葉雄登「「このままでは8割減できない」 「8割おじさん」こと西浦博教授が、コロナ拡大阻止でこの数字にこだわる理由」Buzzfeed,2020年4月11日。

2020年4月9日木曜日

会社には内定者を自殺に追い込む権利などない

正式に労働者となっていないものに内定者研修をタダ働きで強要するのは労働法制に違反しないのか。指揮権の下にない人間にどうして「毎日サイトに書き込め」と命令できるのか。会社の業務に関係ない部分まで自己開示する必要がどうしてあるのか。必要な仕事ができればよいはずなのに,どうして血みどろになる必要があるのか。終業時刻を超えて終電まで話し込むことを強要してよいのか。百歩譲ってそれが自発的行為だとしても,正規業務でない以上,終電まで話し込む労働者を高く評価し,そうしない労働者を低く評価することは不適切ではないのか。
 かくも不適切な管理を,まだ正式に労働者となっていない内定者に強要して自殺に追い込む権利が,パナソニック産機システムズとかいう会社にはあるのか。

岡林佐和・吉田貴司「内定者にSNSで「辞退して。邪魔です」 入社前に自殺」朝日新聞デジタル,2020年4月9日。

2020年4月8日水曜日

日本でもできる外出抑制の強い措置:危険な出勤をさせることを,労働契約法上の安全配慮義務違反として禁止せよ

日本の法制でもできる,外出抑制のための強い措置はある。
「使用者が労働者に危険な出勤をさせることは,労働契約法上の安全配慮義務違反である」
という行政解釈を,政府が出すことだ。これで出勤する人は減らせる。法解釈として,それほど無茶なことではないと思う。ぜひ政府にやって欲しいし,政府がやらないならば,野党が国会で政府を追及して実行を迫って欲しい。
 少し具体的に言う。「風邪症状のある人を出勤させる人」は,確定診断を受けていない軽症者・無症状者が多いと考えられる現状では,新型コロナウイルスを拡散させる恐れのある行為である。また現状では,緊急事態宣言の対象と重なるとみなせる「感染拡大警戒地域」では「10人以上の集会,イベント」,また「感染確認地域」では「50人以上の集会,イベント」(※)相当の行為を強制するような通勤環境,職場環境に労働者を置くことは,感染を拡大させる行為である。したがって,これらをすべて安全配慮義務違反とすべきである。
※地域と人数の対応はいずれも4/1専門家会議の分析・提言による。

2020年4月4日土曜日

クラスター対策班の西浦教授が「クラスター対策」から「社会的隔離」への移行をはっきりと主張。人と人との接触を80%減らせば感染爆発を防げる

クラスター対策専門家のTwitterが開設されて,西浦教授自ら動画に登場されている。対策がはっきりと2局面に分けられ,新たな対策を行うべき時が来たことが示されている。人と人との接触を80%減らすための社会的隔離だ。

第1段階:クラスター対策。1)接触者を追跡。2)3密を控える行動変容。これで2次感染を見つけ,感染者がいても他の感染者にうつらないようにする。全感染者数が少なく,接触者を追跡できる間有効。
https://twitter.com/ClusterJapan/status/1246260779541655553

第2段階(シェア先はこっち):感染者が増えた時。放置すると指数関数的に感染者が増える。いままでの対策(接触20%減少)では少し増加が送らされるだけ。しかし接触を80%減らす「社会的隔離(ソーシャル・ディスタンス」ができれば,感染者数は劇的に減らせる(ゼロにはならない)。そして再びクラスター対策へ。
https://twitter.com/ClusterJapan/status/1246314012389675009

 別記事では,西浦教授は東京は上記で第2段階とした局面に相当し「外出自粛のお願い」では20%減少でしかなく,「ヨーロッパに近い外出制限が必要」とはっきり述べている(「人と人との接触 8割削減で感染収束へ 専門家グループ」NHK NEWS WEB,2020年4月3日)。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200403/k10012366951000.html

 東京をはじめとする該当地域では,もはやほかに道はなかろう。

所得が減少した人に30万円給付策の矛盾:給付は緊急に必要だが,所得はもう数か月してから落ち込むおそれがある

この現金給付策が報じられている通りの内容ならば,不公平感を招くので根本的に改善した方がいい。

 現金給付の良いところは,様々な事情で困難に陥っている人々を,事情の細かなところ,つまり生活がいつ,どうして苦しくなったかを問わずに一律にすべての個人を救済できるところだ。この政策はその効果を大きくそいでいる。大きなところで一つだけ述べる。

 それは,給付が緊急に求められるのに,所得の減少を早期に確認しなければならないために,大きな不公平が生じることだ。給付を緊急に実現するためには,所得減少をある時点からある時点まで,例えば3月までとか4月までという時点で測らねばならない。しかし,このコロナ危機は長く続くものと予想されるので,所得減少がいつやってくるかは人によりさまざまである。例えば5月給付のために,4月までに所得が減少した人を対象としたとする。しかし,5月に人々が手続きをしているまさにその頃,急激な所得減がやってきて苦しむ人々がたくさん出ると思う。その時に生じる不公平感は半端ないものになる。

 雇用と所得の減退はまだまったくピークではなく,これからやってくるものだ。なぜなら,遅かれ早かれ緊急事態宣言が出される可能性は高いし,仮に出されなくても,外出自粛要請,したがって営業の停止は,もっともっと広がり,強まらざるを得ないからだ。その経済的影響は大きい。井上寛康・戸堂康之両教授の試算によれば,東京23区の生活必需産業以外の経済活動が1か月すべてストップすると,所得の減少は東京で9.3兆円,東京以外で18.5兆円,合計27.8兆円でGDP比5.25%に及ぶ。所得減が様々なタイミングで様々な人々に襲い掛かるだろう。

 だから,3月とか4月までの所得減少で給付対象を決めると,その直後からはもう実態とずれがひどくなり,人々の不公平感と不満がかえって高まる。さりとて,基準点を遅くして2020年度前半期に所得が減少した世帯などと考えていたら,まったく緊急策ではなくなってしまう。

 この点を急速に是正する必要があると,私は考える。全個人(単位は個人の方がよい)に一律給付するか,一律給付の上で事後に累進課税の所得税率を調整して高所得者から返してもらう方式か,どうしてもそれが政治的に通らないならば所得水準による制限だけつけて一律給付した方がよいと思う。

「新型コロナ 現金給付1世帯30万円 一定水準まで所得減少の世帯」NHK NEWS WEB,2020年4月3日。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200403/k10012366431000.html

安達裕哉「スパコンが示した「東京封鎖(ロックダウン)」の結果に、愕然とした。」Books&Apps,2020年4月2日(井上・戸堂教授の試算結果が紹介されている)。
https://blog.tinect.jp/?p=64402

2020年4月2日木曜日

足りないのは本当にPCR検査能力なのか。クラスター追跡能力ではないのか

 4月2日付『日本経済新聞』紙の1面。「コロナ検査、世界に後れ 1日2000件弱で独の17分の1」と題して,日本のPCR検査数が少ないことを問題にしている。

 だが,本当に足りないのはPCR検査とその能力なのか。

 日本のPCR検査数が少ないことについて,これまでは専門家会議により「クラスター追跡と重症者同定のために行っていて,その方が効率よく感染拡大を食い止められるから」と説明されてきた。それでよかったと私も思う。だが,その方針はよいとしても,ここまで感染者数が増えてくると,検査が間に合っていないのではないかという疑問は,確かにわく。

 ただ,ここで注意しなければならないのは,検査数が多くならない理由だ。それによって問題の所在は異なるように思う。

 1)医師がPCR検査を要請しているのに能力が追い付かなくなっているとすれば,問題は検査能力であり引き上げねばならない。

 2)東京や大阪のような感染拡大警戒地域でPCR検査に関する保健所等の方針に何らかの問題があって検査数を抑制しているのであれば,問題は組織運営であり,改めねばならない。

 3)『日経』に書かれていないが,もし医師からの要請自体が追い付かないこと,つまりクラスターの感染者から濃厚接触者を追跡するのがまにあっておらず,必要な診察が間に合っておらず,したがって検査も少ない可能性もある。ネックが検査能力ではなくクラスター追跡能力の方にある場合だ。この場合は,まずクラスター追跡の人員を拡充して追いかけられるようにしなければならない。

 専門家会議会見で尾身副座長は1)にも触れていた。2)疑う意見もあり得る。だが,専門家会議がいちばん強調していたのは,クラスター追跡が人員不足で遅れてしまっていることだった。もしかすると3)なのかもしれない。

 もし3)だとすれば,現在不足しており,拡充すべきはPCR検査能力だけではなく,クラスター追跡の人的能力なのかもしれない。もっとそこに目を向けないと,事態を見誤るのではないか。政府には「PCR検査能力を増やせ!」というだけではなく「クラスター追跡の人員を増やせ」と言わねばならないのではないか。

「コロナ検査、世界に後れ 1日2000件弱で独の17分の1」『日本経済新聞』2020年4が愚2日。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57517460R00C20A4MM8000/

国内における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施状況(2月18日以降、結果判明日ベース)(3/30まで。民間検査会社等によるものを含む)。厚生労働省。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618022.pdf

2020年4月1日水曜日

七大学・一研究所がオンライン授業を支える授業目的公衆送信補償金制度の早期施行を要請

東北大学を含む七国立大学と国立情報学研究所は,3月30日,文化庁および授業目的公衆送信補償金等管理協会に対して,「授業目的公衆送信補償金制度」を4月から正規に利用できるようにすることを訴える要請を行った。

 遠隔授業には,実は著作権の壁がある。授業の教材として他人の作品をコピーしたり配布したりすることは,通常の授業ではある範囲で認められているが,遠隔授業だと制約は非常に厳しくなる。例えば以下のようになる。ここで「資料」に他人の論文とか他人の作成した図表が使われていると考えて欲しい。

1)オンラインリアルタイムの配信授業で教員が資料を配信しながら講義するのはOK。
2)資料を使ったリアル講義の様子を録画し,事後に学生が視聴するのは不可(!)。
3)資料を使った講義を録画し,事後に学生が視聴するのは不可(!)。

 2)3)は,たとえ視聴できるのが受講生に限られていても不可なのだそうだ。不可を可にするには一つ一つの資料について許諾を得なければならない。これでは身動きはならず,遠隔授業など普及するはずがない。
 そこで2018年に著作権法が改正され,上記のような著作物利用ではいちいち許諾を得る必要をなくし,かわりに学校が補償金を管理団体にまとめて支払い,管理団体が著作権者に分配するしくみをつくることにした。しかし,この法改正は公布日である2018年5月25日から3年以内に施行されるとなっているものの,まだ施行されていない。新型コロナウイルス感染症流行の下で,否応なく遠隔授業に移行せざるを得ない状況では,これは大きな障壁となる。急いでこの「授業目的公衆送信補償金制度」を動かしてもらう必要があるのだ。

「新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた「授業目的公衆送信補償金制度」の早期施行について」東北大学,2020年4月1日。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/04/news20200401-02-7univ.html

「学校における教育活動と著作権」文化庁長官官房著作権課。これが従来の制度。
https://www.bunka.go.jp/chosakuken/hakase/pdf/gakkou_chosakuken.pdf

『ウルトラマンタロウ』第1話と最終回の謎

  『ウルトラマンタロウ』の最終回が放映されてから,今年で50年となる。この最終回には不思議なところがあり,それは第1話とも対応していると私は思っている。それは,第1話でも最終回でも,東光太郎とウルトラの母は描かれているが,光太郎と別人格としてのウルトラマンタロウは登場しないこと...