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2019年1月21日月曜日

学部ゼミテキストはリチャード・ボールドウィン『世界経済 大いなる収斂』

先日,ジュンク堂書店をうろうろして学部ゼミの教科書を選んだ。これがよさそうだ。産業論かつ世界経済論になっているところが当ゼミになじむ。つまり,新技術が経済組織を変えていく論理に貫かれているところと,世界的な資源配分と比較優位と国際分業によって各国の産業構造が決まるとされているところ(逆ではない)がいい。というか,2016年の原著,2018年の訳本刊行に気づかなかったのがうかつだった。

リチャード・ボールドウィン(遠藤真美訳)[2018]『世界経済 大いなる収斂:ITがもたらす新次元のグローバリゼーション』日本経済新聞出版社,3500円+税。



2019年1月18日金曜日

ラブロフ外相の「なぜ日本は、第2次世界大戦の結果を全面的に受け入られない世界で唯一の国なのか」発言について

 ラブロフ外相の「なぜ日本は、第2次世界大戦の結果を全面的に受け入られない世界で唯一の国なのか」発言

 それは第2次世界大戦において旧ソ連が行ったことが不当だからである。

 確かに第二次大戦の結果,アジアにおける大日本帝国の植民地支配は断罪された。それはもっともだ。朝鮮半島を併合したこと,中国の一部に満州国などという傀儡政権を立て,他の地域も植民地化しようとしたこと,東南アジアを武力支配したことは否定されてしかるべきだった。

 だが,大日本帝国の過ちが許されないからといって,連合国の行ったことがすべて正当化されるわけではない。第二次大戦における日ソ関係において,国際法に違反し日ソ中立条約を破ったのはソ連だ。対等な国際条約によって日本領土となった千島列島や,あまつさえ千島列島でもない歯舞諸島と色丹島まで占領したのはソ連だ。第二次大戦においてソ連が大日本帝国に対して行ったことは,いや中国東北部や千島に居住していた日本人に対して行ったことは,まったく正当化できない。

 サンフランシスコ条約において,戦後日本は,かつて植民地支配した領域すべてを放棄することを確認した。当たり前だ。だが,千島列島を放棄しなければならない道義はなかった。戦後の政治の力関係の中で不当に放棄させられたのだ。

 南千島は千島でないという不可解な理屈で「北方領土」などという意味不明の概念を創出したのは日本側の混乱だ。しかし,だからといって,第二次大戦においてソ連が行ったことは正当化されない。それを後継国家たるロシアが正当化することも適当ではない。

「日ロは『パートナーには程遠い』、ラブロフ外相が発言」AFP BB NEWS,2019年1月16日。

<参照>当ブログ主の千島問題についての見解はこちら。
プーチンの平和条約呼びかけの問題点と千島列島(北方領土)問題解決の方向 (2018/9/13),Ka-Bataアーカイブ。




2019年1月16日水曜日

択捉と国後は南クーリル(千島)だが,歯舞と色丹は南クーリル(千島)ではない:ラブロフ外相の発言について

 1月14日のロシアのラブロフ外相発言について。私の意見では,「択捉と国後は南クーリル(千島)だ」というのはロシア政府が歴史的に妥当で,日本政府の主張に無理がある(以下,「政府」を略)。しかし「歯舞と色丹も南クーリル(千島)だ」というのはロシアの主張に妥当性はなく,日本の方が正しい。この四島をまとめて「北方領土」と呼ぶことに合理的な根拠がないという点ではロシアが正しく日本に問題があるが,もともと千島でない歯舞,色丹まで戦後処理の結果と称して占拠していることについては,ロシアの行為が不法であり,返還を求める日本の方がもっともだ。
 四島をまとめて扱う限り,どちらの言うことも,どこかでおかしくなり,力関係と妥協でことを決めるしかなくなる。しかし,スターリン時代に批判的で,かつ経済的に困窮していたエリツィン時代と異なり,現在,ロシア側は,日本に対して譲歩せざるを得ないような状況にはないように思える。

「北方領土はすべてロシアの主権だと認めよ」 ロシアのラブロフ外相が河野太郎外相に迫る(会見全文),Huffington Post日本版,2019年1月15日。

※「北方領土」問題についての私見は以下の通り。
北方領土問題か千島問題か (2016/10/5),Ka-Bataアーカイブ。
プーチンの平和条約呼びかけの問題点と千島列島(北方領土)問題解決の方向 (2018/9/13),Ka-Bataアーカイブ。

2019年1月13日日曜日

Facebookに反政府的投稿のブロックを求めるベトナム政府

 サイバーセキュリティ法がきっかけとなって,ベトナムが中国のようなネット統制,端的には自国のネットを世界から孤立化させる政策をとりそうな気配が表れている。そのような政策は,ベトナムの経済・社会の首を絞めるに等しい。 
 中国には,ネット孤立化という措置ををしたくなる衝動に政府がかられるほどの社会的不安定性があり,そのような措置をする(本来は浪費とも言うべき)資源投入をするキャパシティが国家権力にあり,孤立化のマイナスを補いうるほどの国内市場の大きさがあり,グローバルに用いられる技術やプラットフォームを遮断して国内に代替品をつくりだすことができる技術をもった企業が,幸か不幸か存在する。そのいずれも,ベトナムにはない。
 ドイ・モイ後のベトナムは,中国以上に対外開放に頼って,全方位での友好関係と物的・金融的・人的・情報的交流により,発展してきた。あらゆる意味での国境の遮断は,ベトナム経済・社会の衰退につながると,私は考える。

「情報通信省、フェイスブックの違反を指摘」『ベトジョーベトナムニュース』2019年1月11日。


2019年1月12日土曜日

日本政府は対抗措置の分野を拡大させず,韓国政府は不作為にたてこもらずに,双方知恵を絞るべき

 文在寅大統領記者会見。韓国政府が「日本も韓国も三権分立の国だ。韓国政府は司法の判決を尊重しなければならない。日本政府も判決内容に不満はあっても、『どうすることもできない』という認識を持ってもらう必要がある」という見地であることは確認できた。しかし,そうすると「解決のために互いが知恵を絞るべきだ」というのはどういうことなのか。「知恵を絞る」と言っても,最高裁判決を執行して新日鐵住金の資産を差し押さえたうえでのことだ,と韓国政府が考えるのであれば,日本政府がさらなる対抗措置に出るのは必至だろう。

 日本政府が申し入れている日韓請求権協定に基づく協議,あるいは今後ありうる国際司法裁判所への提訴について,韓国側が応じた場合についてもいろいろ考えるべきことはあるのだが,文大統領の態度から見て,協議にも提訴にも韓国側が応じないのではないかと予想される。韓国政府は「司法の判決を尊重する」とだけ言って,自らの請求権協定解釈を積極的に提示するのを回避したがっているように見える。韓国政治の専門家である木村幹教授が何度も解説されているところによると,韓国政府は積極的に日本を非難したいのではなく,むしろ対日外交を深刻な問題ととらえていないということだ。本日の会見も,日韓関係について全く触れずに終わりそうになったところを,NHKの記者がやや強引に質問して何とか発言を引き出したのだという。だから,「知恵を絞るべきだ」と言っているが,実際には韓国政府では絞りはせずに,ひたすら日本に対応を求めるという可能性がある。

 そうすると,安倍政権・自民党の対応はエスカレートするだろう。既に議論されているように,元徴用工問題をはみ出して韓国に対する関税引き上げとかビザの優遇措置停止などの措置を始めるだろう。しかし,そうすると元徴用工や請求権協定についてきちんと話ができなくなり,国を単位とした日韓の非難の応酬になってしまう。つまり,日韓政府の対話が成り立たず,問題を正面から扱わない結果,国家間の抜き差しならない感情的対立にエスカレートするおそれがある。

 今後,両国政府は表舞台では請求権協定に基づく協議や国際司法裁判所への提訴をめぐってやり取りするようになるだろう。規範論あるいは願望として言えば,対立のエスカレートはいずれも望ましくないことを悟り,様々なルートで本気で「知恵を絞る」ことをして欲しい。少なくとも日本政府には,関税やビザをどうこうするなどして,問題を国家間対立に拡大させないで欲しい。元徴用工問題は元徴用工問題として解決すべきなのだ。また韓国政府は,行政府としての主体的見解を示さず,自らは解決に乗り出さないという不作為は事態を悪化させ,深刻化させるということを認識して,自らも「知恵を絞る」ようにして欲しい。

「韓国ムン大統領 「徴用」めぐる裁判で「互いに知恵絞るべき」」NHK NEWS WEB,2019年1月10日。

2019年1月10日木曜日

定年延長問題があらわにする賃金改革の難しさ

 民間と言い公務員と言い,定年延長問題で明らかになるのは賃金改革の難しさだ。
 公務員の定年延長案に述べられているように,超高齢社会に対応して現行制度をベースにして定年を延長しようとすれば,雇う側の予算制約がある以上,高齢になったら賃金を下げるという制度になる。それはそれで現実的だ。
 しかしこれは,「同じ仕事をやり続けていても,年齢が高くなったら賃金を下げますよ」ということであり,ベクトルは「逆年功」だが,年功による賃金決定を改めて宣言することになってしまう。つまり,「同一(価値)労働同一賃金はやりません」「賃金は職務に対応していません」「むしろ生計費を世帯主が稼いでくるという事情を考慮して,年齢で賃金が決まるのです」と,いまになってわざわざ強調しているのと同じである。
 ところが,こうした慣行を続けることが,大きく見ると超高齢社会を困難に陥れる。人口減少・超高齢社会を持続可能にするためには,新たな働き手として,一度は退職した高齢者と,一度は退職した中高齢女性を想定するしかない。これらの高齢者,中高年女性は,「正社員には生計費に即して年齢で決まる賃金が払われる」という年功賃金の慣行のもとでは,その年齢ゆえに正社員として採用されることが少ない。しかし,非正規として低賃金に甘んじるのでは,家庭の重要な稼ぎ手になることができない。とくに単身高齢者は,長寿ゆえに,また少子化故に,そして未婚率上昇ゆえに,社会に占める比率が増えるから重大な問題だ。
 だから,この問題を解決するには,正規と非正規の区別がなく,職務を指定して人が募集され,その職務の価値によって賃金が決まる制度・慣行が必要だ。「この仕事ができるなら誰でも(性別は当然として)年齢に関係なく同じ賃金で雇います。年功ではさほど昇給もしませんが減給もしません」という制度・慣行だ。年齢差別禁止の法制がこれを後押しする。これならば,いったん退職した高齢者全般と中高年女性も,まともな賃金で再就職できるだろう。
 しかし,正社員のところで「世帯主の生計費で賃金は決まります」という原理を改めて確認してしまうと,そうはいかなくなる。中高年は正社員として採用されない。高齢者は再雇用されても,「定年前の世代と異なり,家族を養うという事情を考慮しなくてよいから賃金が下がることは合理的」と言われてしまう(長澤運輸事件の判決はまさにそのようなものであった)。
 このように考えると,日本の賃金形態はたいへんな矛盾に直面していると言える。一方で,現在の制度・慣行の下で正社員の雇用を少子高齢化に対応させるために,役所を先頭に若いころの年功と高齢になってからの逆年功を実行し,「同一(価値)労働同一賃金」を事実上否定している。その一方,長期的に少子高齢社会を成り立たせるためには「同一(価値)労働同一賃金」に向かわねばならない。両者は真っ向から矛盾している。これは保守,リベラルを問わず,誰が取り組んでも直面する難問だ。


2019年1月6日日曜日

日本政府が日韓請求権協定についての認識を韓国政府に問いただすのが正道だ:「徴用工」裁判原告側が申し立てた日本企業の資産差し押さえに安倍首相が対抗措置の検討を指示した件

 安倍首相は,「徴用工」裁判で韓国の原告側が日本企業の資産差し押さえを裁判所に申し立てたことについて,国際法に基づく具体的な対抗措置の検討を関係省庁に指示したと報道されている(※)

 日本政府は,日韓請求権協定での合意が無視されていると受け止めているのだから,この点を協定の相手である韓国政府に問いただすのが,第一にやるべきことだと思う。韓国政府は「司法は行政と独立だから行政は何もできず判決に従うだけだ」という立場なのか,「最高裁判決の請求権協定解釈は行政府としても正しいと思う」という立場なのか,「最高裁判決は外交上,そのまま放置できないとは考えている」という立場なのか,それを問いただすのだ。まずは二国間で行った方が良いと思うが,ICJに提訴して争うこともありうるだろう。木村幹教授が指摘されるように(※※),そうしたところで話が誰に有利に向かうのかはわからないのだが,それでも,いちばんましな争い方にはなると思う。争うべき法的争点をちゃんと取り上げて争うことになるからだ。

 心配なのは,一方では韓国政府が判決に対するスタンスをあいまいにしたまま司法の差し押さえ手続きを黙ってみている,他方で日本政府がこの問題に本質的に関係ないところで対抗措置を取る,ということだ。安倍首相は「国際法に基づく」という断りを入れているから,そんな変てこな争い方はしないだろうと期待したいところだが,この間の両国政府を見ているとやりかねない。そうなると,双方が全くかみ合わないまま,国民感情の対立が激化していく。それだけはやめてほしいと心より願う。

 なお,直接の当事者である新日鐵住金が問われていることについては,以前に書いた通り(※※※)なのでくりかえさない。

※「『徴用』資産差し押さえ 安倍首相が対抗措置の検討指示」NHK NEWS WEB,2018年1月6日。

※※木村幹「「元徴用工判決」への誤解を正す ICJ提訴は必ずしも有利にならない」Newsweek日本版,2018年12月7日。

※※※「徴用工裁判において新日鐵住金が問われること :政府の協定解釈とは別に,当事者としての事実に関する見解を」Ka-Bataブログ,2018年11月13日。

信用貨幣は商品経済から説明されるべきか,国家から説明されるべきか:マルクス派とMMT

 「『MMT』はどうして多くの経済学者に嫌われるのか 「政府」の存在を大前提とする理論の革新性」東洋経済ONLINE,2024年3月25日。 https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/daa72c2f544a4ff93a2bf502fcd87...