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2018年12月13日木曜日

経済力が向上した在日中国人は何人くらいいるのだろうか

 昨日出た中島恵「在日中国人の驚くべき経済力向上ぶり、20歳女子が高級マンション住まい…」によせて。数字で見ると,2018年6月現在の在留中国人は74万1656人,この記事にあてはまりそうな,企業家,ホワイトカラー,専門職など,肉体労働以外の働き方をして,相対的に豊かな暮らしができそうな人をビザの種類で試算してみると(※),11万254人です。加えて,永住者や家族滞在ビザの人たちの中にも,一定数豊かな人がいる。まあ,結構な数です。当ゼミの修了生も,日本で大金持ちになった人はまだいないとは思いますが,名の知れた企業や,知る人ぞ知る企業に就職しています。日本のビジネスの活性化に貢献していると思いますよ。税や保険料も普通に日本で納めていますし。

法務省「在留外国人統計 国籍・地域別 在留資格(在留目的)別 在留外国人」における中国人のうち在留資格が教授,芸術,宗教,報道,高度専門職1号イ,ロ,ハ,高度専門職2号,経営・管理,法律・会計業務,教育,技術・人文知識・国際業務,企業内転勤,特定活動(特定研究及び情報処理・本人),特定活動(高度人材・本人)である者の合計。このうち一番多いのは技術・人文知識・国際業務の8万825人で,日本の大学を卒業して日本でホワイトカラー職に就職した人が取ることの多いビザ。

中島恵「在日中国人の驚くべき経済力向上ぶり、20歳女子が高級マンション住まい…」DIAMOND ONLINE,2018年12月12日。

2018年12月9日日曜日

日本の書籍流通改革の核心は返品条件付き売買の見直し

 星野渉「日本の書店がどんどん潰れていく本当の理由」東洋経済ONLINE,2018年12月9日,は,日本の書籍流通がその根本からの見直しを迫られていることを示唆している。
 以前に私は,日本の書籍流通の特徴の一つは再販売価格維持行為であり,もう一つは返品条件付き売買(委託販売制とよく呼ばれるが正確ではない)であるとした上で,その変革の主戦場は再販ではなく返品条件付き売買だろうと述べたことがある()。この判断は妥当だったと思う。この記事は,今まさに,再販制ではなく,返品条件付き売買を見直さないと業界が再生しないことを示しているのだ。返品可能であることと引き換えに書店が強いられてきた粗利益率の低さを改善しないと,書店経営は成り立たないからだ。
 
 (引用)「返品率を大幅に引き下げることができれば,日本でも人々を引き付ける魅力を備えた書店なら,まだまだ開店・営業していくことが可能になる」。

 返品率を下げる方策は二通り考えられる。ひとつは,現行制度を維持しながら,返品率を画期的に下げる取り組みをすることだ。そのためには,取り次ぎが書籍を選んで書店に送りつけるパターン配本をやめねばならない。そして,取り次ぎと書店の双方が危機感を持って,客のニーズを読み,ポリシーを持った配本を行うことが必要だ。当然,大手取次と全国の書店が連携した組織的な取り組みが必要だ。そのためには,出版流通事業が赤字に転落した大手取次が,腹をくくって改革に取り組まねばならない。寡占企業であるが故に,その責任はひときわ重い。他方で,書店は取り次ぎへの依存をやめ,死活問題として品ぞろえに取り組まねばならない。
 もうひとつは,よりラディカルな解決策だ。つまり,買い切り制に移行することだ。この場合,よほど大規模か個性的な書店のみが健全経営を達成し,かなりの書店はリスクがとれずに消えていくことになるだろう。
 どちらを実行しても容易ではない道のりになる。しかし,どちらも実行できないのであれば,書店の減少が加速する現状が続くだけだろう。

星野渉「日本の書店がどんどん潰れていく本当の理由 決定的に「粗利」が低いのには原因がある」東洋経済ONLINE,2018年12月9日。

※出版物の再販売価格維持行為に関するノート(中小出版社とアマゾンとの間での紛争に寄せて) (2014/5/10),Ka-Bataアーカイブ。

拙速な入管法改正は遺憾だが,実践的な準備をしながら意見をたたかわせるしかない

 入管法改正がものすごいスピード審議で通されてしまった。私は「外国人労働者を受け入れる以外に道はないが,ちゃんと準備をしろ」派なので,今国会での成立には反対であったが,できてしまったものは仕方がない。できる限りの実践的な準備をすべきだろう。
 暫定的には,1)外国語・外国人対応で苦慮する自治体に対し,政府から財政,人員上の支援を行うこと,2)受け入れ人数を決定する仕組みを作り,各界の意見を反映させられるようにすること,3)日本人の雇用と競合しないように労働市場テストを行うことについて検討し,制度設計をしてみること。その公平性について基準をつくること(自国民雇用を守るための労働市場テストは多くの国で実施されているが,効力を持たせることがむずかしいし,差別にならない工夫も必要),4)技能実習生やブラジル等の日系人受け入れの教訓を踏まえて,生活困難,教育問題,人権侵害や差別,住民間対立が生じやすいポイントを洗い出し,改善策を講じること,5)日本の大学を卒業した留学生の就労職種を緩和する案については,法務省の判断だけで緩和せず,大学を含む各界の意見を聴取すること,などを提案したい。与野党は,法改正で議論を終わりとすることなく,これらの実践的な課題について意見を戦わせてほしい。

「増える外国人住民 苦慮する自治体 3割が「対応追いつかぬ」」NHK NEWS WEB,2018年12月5日。


 

2018年12月7日金曜日

『日経』連続記事「景気回復 最長への関門」に見る日本経済の変化と新たな不安

 一昨日から今朝にかけての『日経』1面の「景気回復 最長への関門」(上・中・下)は考えさせられる。よく読むと内容は深刻だ。来年度の「日本経済」講義のヒントになる。掲載されたグラフ3点を見るとわかりやすい。私の観点から再構成すると以下のように読める。
 国内だけを見れば,アベノミクスの超金融緩和とだらだらとした財政拡張が,ようやく,4年もたって,2017年から設備投資増には効き始めたように見える。しかし,消費の方は依然として停滞している。実質雇用者報酬が縮小する悲惨な事態は2016年にようやく止まり,上向きになったが,可処分所得はアベノミクス開始前にわずかに及ばない程度だ。これは,社会保障と税の負担のためだ。
 ところが世界を見ると,米中貿易戦争をきっかけに景気の減速傾向が強まっている。これは外需に依存し,いつまでたっても途上国のように円安を待望する日本産業にとって不気味なことだ。
 設備投資はようやく伸び始めた。賃金は少しずつ上昇しているが,消費は伸びない。これまで依存できた外需は雲行きが怪しくなってきた。それでは,いったい何をつくってどこに売るのか。
 日本経済のこれまでの局面は「アベノミクスで拡張政策をとったが,輸出と企業利益は増えても投資は増えず,雇用は増えても賃金は上がらず消費も伸びない」というものだった。しかし,また別の局面に入りつつあるのではないか。

「景気回復 最長への関門(上)世界経済に頭打ち感 中国の変調、アジアに影」『日本経済新聞』2018年12月5日朝刊。

「景気回復 最長への関門(中)「賢い工場」活発な設備投資 外需と業績、懸念材料に」『日本経済新聞』2018年12月6日朝刊。

「景気回復 最長への関門(下) 力不足の「メリハリ消費」 増えない可処分所得」『日本経済新聞』2018年12月7日朝刊。


2018年12月6日木曜日

My paper "Development of the Vietnamese Iron and Steel Industry under International Economic Integration" is now available

Now my paper "Development of the Vietnamese Iron and Steel Industry under International Economic Integration" is downloadable from TOUR (Tohoku University Repository) site.

Nozomu Kawabata[2018]. Development of the Vietnamese Iron and Steel Industry under International Economic Integration, TERG Discussion Paper, No.396.

Japanese version is here.


「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業」を公開しました

 拙稿「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」日本語版・英語版を公開しました。ダウンロードいただけます。
 
 本稿は学術雑誌掲載を目的としたものではなく,鉄鋼業やベトナムの産業開発に関わる企業,政府,マスメディア,大学・調査機関の研究者などの方々に参考にしていただくためのものです。2017年に初の大型一貫製鉄所が稼働して,ベトナム鉄鋼業は新時代に入りました。これを機に,20世紀末から21世紀初頭の産業発展について評価しようとしたものです。

川端望[2018]「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」TERG Discussion Paper, No.395。日本語版。

英語版はこちら。


2018年12月4日火曜日

宝鋼が江蘇省塩城市において新たに銑鋼一貫製鉄所を建設するという報道に接して

 中国の宝鋼が江蘇省塩城市において新たに銑鋼一貫製鉄所を建設するという報道があった。第1期に粗鋼生産800-1000万トン,最終的に2000万トンを目指すとのこと。

 過剰能力削減政策の下,新製鉄所の建設は「減量置換」ルールに従わねばならないはずだ。宝鋼といえども例外ではない。つまり,本来淘汰対象でない設備を積極的に閉鎖し,閉鎖能力を下回る範囲でだけ新能力を設置することができる。宝鋼の場合,親会社の宝武集団の範囲内で古い製鉄所を2000万トン以上閉鎖するか,他の鉄鋼企業が閉鎖した能力分を能力新設権として何らかの形で購入してくるなどの措置が必要なはずだ。

 これまでも宝武集団は,集団内で1000万トンを廃棄して,能力900万トンの湛江製鉄所を建設しているし,さらに8月にも,400万トンの淘汰分を湛江製鉄所の同程度の拡張にあてると発表している。

 湛江の拡張は予想の範囲外だったが,さらに新製鉄所を設置するとなるとおおごとだ。宝武集団は粗鋼生産能力1億トンを目標としているが,湛江と新製鉄所が2期まで完成すれば,合計して3300万トンは2015年以後稼働の最新鋭設備となるわけだ。

 中国政府は,国全体として過剰能力削減を推し進めつつ,設備構成を大型・最新のものに入れ替え,かつ企業としては有力企業への集中を図っている。そして,有力企業として具体的な動きを見せているのが宝武集団だ。

 宝武集団は確かに中国において,先進国と類似の設備・製品構成を持つという意味で最強の競争力を誇っている。しかし,同時に国務院傘下の中央国有企業である。宝鋼集団の大規模化は,鉄鋼業において,チャンピォン企業の育成という意味と,国有企業の役割肥大化という二つの側面を持つと考えられる。

「中国・宝鋼、江蘇省塩城に新製鉄所を建設 第1期8200億円、粗鋼産年1000万トン、最終的に2000万トン」『日刊鉄鋼新聞』2018年12月4日。

『ウルトラマンタロウ』第1話と最終回の謎

  『ウルトラマンタロウ』の最終回が放映されてから,今年で50年となる。この最終回には不思議なところがあり,それは第1話とも対応していると私は思っている。それは,第1話でも最終回でも,東光太郎とウルトラの母は描かれているが,光太郎と別人格としてのウルトラマンタロウは登場しないこと...