フォロワー

2018年11月28日水曜日

カルロス・ゴーンの逮捕は法の適切な執行なのか

 カルロス・ゴーンの逮捕劇についてはいろいろな角度から論じることができるだろう。とりあえず,検察には法をちゃんと執行して欲しい,法律違反は取り締まり,権力乱用はしないでくれという立場からみると,カルロス・ゴーン逮捕にはわからない点が多すぎる。郷原信郎弁護士や細野祐二氏の指摘がすべて正しいかどうかはわからないが,以下の点を私は知りたい。

1)ゴーンの報酬は有価証券報告書に記載すべきものであったのか。どうしてそう言えるのか。
2)そうだったとして,なぜ日産自動車でなくゴーンほか1名という個人が罪を問われるのか。有価証券報告書未記載に責任を負うのは法人としての日産自動車ではないのか。
3)ゴーンの部下が「内部告発」したというのなら話としてわかるが,何がどう「司法取引」なのか。司法取引した当人は,どのような重大情報を検察に与えたのか。
4)ゴーンが会社の金で買った不動産を私的に利用していたことは倫理的に問題なのは当然として,それで刑事的に罪を問える,例えば会社に損害を与えたから背任を問うべきとまで言えるのか。

 これまでマスコミの報道記事は,客観報道のふりをした表面報道に過ぎないと思う。検察の行動と法の整合性が客観的に問われるときは,きちんと論点を立てて,「この点はおかしくないか,説明が必要だ」と追及しなければならない。それが本来の客観報道であり,権力に対する必要な監視ではないのか。

「ゴーン氏逮捕は「ホリエモン、村上ファンドの時よりひどい」 郷原信郎弁護士が指摘」ITmediaビジネスONLINE,2018年11月27日。

細野祐二「「カルロス・ゴーン氏は無実だ」ある会計人の重大指摘」現代ビジネス,2018年11月25日。

2018年11月27日火曜日

Abstract of my new paper titled "Development of the Vietnamese iron and steel industry under international economic integration"

  My discussion paper titled "Development of the Vietnamese iron and steel industry under international economic integration" will be uploaded on the site of Tohoku University Repository in next month. Both English and Japanese versions will be available. The abstract is as follows:

  This study discusses the development of the Vietnamese iron and steel industry under international economic integration. In particular, this study investigates what type of enterprise was responsible for this development, as well as the economic and managerial logic that can explain this development. The analysis provides suggestions for industrial development under international economic integration in developing economies.
  Under trade and investment liberalization, private enterprises and foreign capital firms have been the main participants in the development of the Vietnamese iron and steel industry. However, such development did not occur via a simple laissez-faire approach. Each enterprise type and the government faced challenges. Ownership and management reform were required of state-owned enterprises, and local private enterprises had to ensure market creation through innovation, by making full use of the local condition. Foreign enterprises had to introduce the huge funds and state-of-the-art technology. Moreover adaption to local society influenced their projects’ progress. Thus, the government should review and monitor large-scale projects from both economic and social viewpoints. The Vietnamese iron and steel industry recorded steady growth because some of these conditions were met, while some unachieved conditions caused problems.
  This case suggests that industrial development under international economic integration is possible. In addition, such integration requires not only a market mechanism but also an entrepreneurial spirit that encourages market creation and government policies that complement the market’s role and resolve social issues.

Related papers

2018年11月26日月曜日

「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」要旨の先行公開

 来月上旬に,ディスカッション・ペーパー「国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展」を日本語・英語双方で公開します。ここで要旨を先行公開します。

要旨
 本稿は,国際経済統合下におけるベトナム鉄鋼業の発展について論じる。とくに,この発展を担ったのはどのようなタイプの企業であるのか,この発展はどのような経済的・経営的ロジックによって説明できるのかを検討する。これらを通して,発展途上国における国際経済統合下の産業発展についての示唆を得る。
 ベトナム鉄鋼業の発展は,貿易・投資の自由化推進という経済環境の下で,国有企業ではなく,民間企業と外資企業を主な担い手として実現した。しかし,自由放任政策のみで発展が実現したわけではなく,企業と政府は様々な課題を解決しなければならなかった。国有企業には所有・経営改革が必要だった。民間企業はローカルな諸条件を生かしたイノベーションと市場開拓を遂行しなければならなかった。外資企業は大規模な資本動員と最新技術の導入,そして現地社会への適応を求められた。政府は経済的・社会的観点から,大規模プロジェクトに対する適切な審査と監視を行わねばならなかった。ベトナム鉄鋼業は,これらの条件のうちいくつかを満たして順調な成長を遂げた。ただし,いくつかの条件が達成できなかったために問題も生じた。
 ベトナム鉄鋼業の事例が示唆するのは,国際経済統合下の産業発展は可能であること,そしてそのためには市場メカニズムを作動させるだけでなく,市場を創造する企業者行動と,市場の役割を補完し社会問題を解決する政府の政策と行動が必要だということである。

2018年11月22日木曜日

韓国政府による「和解・癒やし財団」の解散決定について

 韓国政府による,慰安婦被害者支援のための「和解・癒やし財団」の解散決定について,暫定的にコメントする。

*韓国政府の見地に対して
・前政権による日韓合意が慰安婦被害者本人の意向を無視したものであったことを,文在寅政権が問題視するのはありうる。そこまではわかる。
・しかし,政府当局者も言うように,「韓日間の公式合意」であることから,「慰安婦合意の破棄や再協議を要求しない」というのも常識的な線というものだろう。それもわかる。
・しかし,韓国政府が慰安婦被害者支援のための「和解・癒やし財団」を解散するという場合,どうしても問題は起こらざるを得ない。
・韓国政府当局者は「日本政府が誠意ある姿勢でこのため(被害者の方々の名誉と尊厳の回復および傷の癒やし)に努力することを期待する」というが,日本政府は,そのつもりで「和解・癒やし財団」にお金を拠出したはずだ。そう認められたから合意が成立したのだ。
・それではだめだというのであれば,1)韓国政府は日本政府が拠出したお金はどのように扱うのかという問題が起きる。また,より根本的な問題として,2)公式合意を破棄はしないけれど,合意はまちがっていることなので遂行できない,日本政府はもっと別なことをして欲しいという立場を表明しているが,「最終的かつ不可逆的な解決」という合意を破棄せずに,別なことをしてほしいと要請するのは,さすがに矛盾している。
・それでも別なことをしてほしいというのであれば,それが何であるかを表明するのは,韓国政府側の責任であろう。それは何なのか。韓国メディアの日本語記事も見ても,どこにも見つからない。『朝鮮日報』のイム・ミンヒョク論説委員も文在寅政権は「自分たちはどのようにして真の謝罪と法的責任認定を引き出すのかについて、何の答えも出していないし、答えがあるわけでもない」と指摘している。要求項目が不明なまま「誠意ある姿勢」を要求して,日本が先に提案しろというのは,いくら何でも無茶である。それで話が進むわけがない。
・文在寅政権としては不本意であろうが,「和解・癒し財団」という方式が適切でないと考えたとしても,日韓の外交合意を破壊しないのであれば,やるべきは「和解・癒し財団」の解散ではなく,韓国の国内政策としての追加措置なのではないだろうか。

*日本政府がとるべき態度について
・日本政府が「日韓合意で終わったのだ」とだけ言い放つのは,適切ではない。日韓合意には,「安倍晋三首相は日本国の首相として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に心からおわびと反省の気持ちを表明する」という趣旨がある。この「おわびと反省」の立場を堅持していることを表明し続けねばならない。そうしなければ,おわびや反省は本心ではなかったのかと,韓国のみならず国際社会から疑われるだろう。
・「何度も謝罪しなければならないのはおかしい」という人がいるかもしれないが,そうする必要はないのだ。改めて謝罪するのではなく,「謝罪した立場にいまも変わりはない」と言い続けることが大事なのである。それは,政治だけの問題ではなく,倫理的にも当然のことだろう。
・政府が「日韓合意で終わったのだ」とだけ言い放つことによって,日本国内にある,慰安婦などいなかったという極論を始め,反韓国感情を煽り立てる効果があることは明らかだ。安倍政権がそれを放置するのは不適切であり,自ら選んだ「おわびと反省」という見地に照らして不誠実だ。自ら表明した正式見解を守ることが安倍政権の責任だ。慰安婦とされた女性たちに対する,お詫びと反省の気持ちをずっと維持していること,その具体的な形として「和解・癒し財団」への拠出を行ったこと,そのようなものとして日韓合意は有効であることを,内外に発信するのが妥当だと考える。

イム・ミンヒョク「【萬物相】慰安婦財団解散、「文在寅式解決法」とは一体何なのか」『朝鮮日報 日本語版』2018年11月22日。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/11/22/2018112280008.html
「韓国政府「慰安婦合意、破棄・再協議要求せず…日本の誠意ある努力に期待」」『中央日報日本語版』2018年11月22日。
https://japanese.joins.com/article/375/247375.html
「慰安婦財団解散 日本の真摯な姿勢に期待=韓国外交当局」『聨合ニュース』2018年11月21日。
https://m-jp.yna.co.kr/view/AJP20181121004900882?section=japan-relationship/index

<関連>「従軍慰安婦問題に関する河野談話についてのノート:企業経営研究者の立場から A Note on the Statement by the Chief Cabinet Secretary Yohei Kono on the Issue of "Comfort Women" (2014/3/3)」Ka-Bataアーカイブ。
https://riversidehopearchive.blogspot.com/2018/10/a-note-on-statement-by-chief-cabinet.html

2018年11月21日水曜日

財務大臣が「人の税金で大学に行ったんだ」と放言する自己否定

 麻生さんの「人の税金で大学に行ったんだ」発言。その前後も音声ファイルで分かった。前後を無視した一方的中傷でもなければ,文脈無視でもなかった。大学の財源多様化を訴えた話でも何でもなかった。まさに東京大学に行ったことを「人の税金で言った」というただそれだけの発言だった。

 「どの口が」ということもある。大金持ちの親御さんの金で学習院大学に行ったであろう麻生さんが,税金で大学に行くことを批判するのはどうなのだろう。親の金で行くのも税金で行くのも,自分だけの力ではないことには変わりない。麻生さんが威張って良い根拠は何もないと思う。

 とはいえ,私は別に,自力で大学に行くのが偉いという価値観を支持したいのではない。その逆だ。

 麻生さんが学習院大学に行けたのは,一方で麻生産業(現・麻生セメント)の総帥である親御さんのおかげであり,他方で税金を財源とする私学助成のおかげだ。私だってそうだ。両親のおかげ,税金のおかげで国立大学に行けたのだ。ほとんどの人は,自分自身の力だけで学校に行っているわけではない。たいていは両親・親類に支援してもらい,税金に支援してもらっているのだ。

 そして,それでいいのだ。そうであるから,教育の機会均等が守られるのだ。

 麻生さんが間違っているのは,親に感謝するのでもなく,税金の役割を尊ぶのでもなく,「人の税金で大学に行く」ことを批判し,自分自身の力だけで行くことを正しいかのように言っていることだ。最も深刻なのは,麻生さんは財務大臣だということだ。財務大臣が税制の再分配機能を否定してどうするのか。

「麻生氏『人の税金で大学に』東大卒視聴批判」『毎日新聞』2018年11月17日。

技能実習制度の問題を「特定技能」ビザで繰り返してはならない:外国人労働者受け入れをめぐって

 技能実習生は27万4225人(2017年12月)。対して,2017年の失踪者が7089人というのは異常すぎる。単純計算で2.6%が失踪していることになる。どう考えても個人の問題ではなく,制度に欠陥がある。

 失踪した実習生を対象とした調査によると,失踪の理由(複数回答)は確かに「低賃金」が67.2%で1929人だが,うち「低賃金(契約賃金以下)」が144人(5.0%),「低賃金(最低賃金以下)」が22人(0.8%)いる(『朝日新聞』報道)。そして,「月給10万円以下」が1627人(56.6%)ということは,実際には契約賃金以下あるいは最低賃金以下の実習生がもっといたはずだ。

 この待遇なのに,48%は母国の送り出し機関には100万円以上を払っている。明らかにおかしい。正しくない情報に誘われて来日したか,受け入れる企業や農家が約束や法律を破ったか,その両方かだろう。

 神戸国際大学の中村智彦教授が聞き取った受け入れ団体職員の話からは,企業側が賃金に加えて,監理団体等にも費用を支払わねばならないことをよく認識していない場合があることがうかがえる。「トラブルになるのは、実習生側は月に10万円しかもらっていない。一方の企業側は20万円近く支払っている。その意識のギャップが、双方の不満になってぶつかることがある」と言う。受け入れ企業も十分に制度を理解してないケースがあるのではないか。

 政府は,技能実習が最大5割「特定技能」に変わる見込みとしているが,成り行き任せではだめだろう。「特定技能」にすれば解決する問題,たとえば通常の雇用契約にし,転職の自由があれば解決する問題も確かにあるだろう。しかし,技能実習でも「特定技能」でも共通する問題,たとえば不正確な情報の流通や,言葉の不自由さや法的知識不足につけこんで労基法を守らない雇用主の問題などもある。これらを一つ一つ取り上げ,どうすれば同じ問題を「特定技能」ビザでの労働者で繰り返さないかを徹底審議すべきだ。

 私は,まじめに技能実習を実施していて,問題点も熟知している監理団体や経営者の意見を聞きたい。彼/彼女らならば,実習の効果を上げ,コンプライアンスに努めるためにどれほどの手間暇をかけているか,どこに手抜きや誤解の罠が潜んでいるか,どう改善すればよいかを知っているはずだ。

「技能実習生の失踪動機「低賃金」67% 法務省調査 月給「10万円以下」が過半」『日本経済新聞』2018年11月18日。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3790481017112018EA3000/
「月給数万円、借金100万円…失踪した技能実習生の実態」『朝日新聞』2018年11月20日。
https://www.asahi.com/articles/ASLCM5FP6LCMUTIL01Q.html
中村智彦「5年間で延べ2万6千人失踪 ― 外国人技能実習制度は異常すぎないか」Yahoo!Japanニュース,2018年11月6日。
https://news.yahoo.co.jp/byline/nakamuratomohiko/20181106-00103150

「あと1年かけて,「技能実習」を「特定技能」に転換する計画を作るべきだ:入管法改正による外国人労働者受け入れについての意見」Ka-Bataブログ,2018年11月10日。
https://riversidehope.blogspot.com/2018/11/1.html

2018年11月15日木曜日

「異次元緩和」への依存は邦銀をハイリスクな投融資に走らせていないか

大槻奈那「邦銀が「次の金融危機」の引き金を引くのか 投資家の暴走で世界でゾンビ企業が急増」東洋経済ONLINE,2018年11月12日。3ページ目に掲載されているグラフに驚いた。いつのまにか銀行の与信総額で邦銀が日,英,独を抜いている。融資先が順調に拡大しているならば邦銀のプレゼンスが上がっているということだが,そう喜んではいられない状況だ。アメリカは多少巻き戻したとはいえ日本の異次元緩和は続いているし,10年単位でみれば世界的な金利抑制傾向が続いている。それでもインフレ率は上がらないという傾向が世界的に続いている(福田慎一『21世紀の長期停滞論』平凡社,2018年)。世界の銀行は運用難に戸惑い,思い余ってハイリスク・ハイリターンの投資・融資に流れている。邦銀の与信もそうした融資で伸びているというのだ。
 もはや,通貨収縮によるデフレが問題という局面ではない。日本のアベノミクスが「方向は良いが不十分」とみる人は,利下げの余地がなくなっても日銀の国債買い上げによって金融機関にリスク資産へのリバランシングを促せるならばなお緩和の効果は期待できるというが(例えば野口旭[2015]『世界は危機を克服する』東洋経済新報社),それは資本の需要を無視して供給側からバブルを煽る行為ではないか。
 問題は,金利を下げて通貨供給を試みるだけでは,投資と消費の意欲が喚起されず,インフレ率が上がらないことだ。少なくとも日本では,金融ではなく実物的に考えることが必要だ。新市場を開拓する成長産業のタネをまき,芽を育て,キャッシュを眠らせずに賃上げと再分配で個人による支出に導き,成長を下支えする発想が必要な局面だ。金融政策から財政政策と社会政策に移す時だ。
 もちろん,それでも難題は残る。一つは財政赤字であり,もう一つは,これほど短期資金の浮動性が高いと,バブルを伴いながらでないと成長産業が現れないということだ。しかし,金融緩和一本やりで進み続けるよりははるかにましだろう。

大槻奈那「邦銀が「次の金融危機」の引き金を引くのか 投資家の暴走で世界でゾンビ企業が急増」東洋経済ONLINE,2018年11月12日。

関連投稿
日銀による金融政策だけで物価を上げようとすることの限界について (2018/6/16),Ka-Bataアーカイブ。
アベノミクスのどこを変えるべきか? 野口旭『アベノミクスが変えた日本経済』(ちくま新書,2018年)に寄せて (2018/5/13)

『ウルトラマンタロウ』第1話と最終回の謎

  『ウルトラマンタロウ』の最終回が放映されてから,今年で50年となる。この最終回には不思議なところがあり,それは第1話とも対応していると私は思っている。それは,第1話でも最終回でも,東光太郎とウルトラの母は描かれているが,光太郎と別人格としてのウルトラマンタロウは登場しないこと...