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2020年3月27日金曜日

コロナ経済危機に対する実物経済面での経済対策メモ

コロナ経済危機に対する実物経済面での経済対策メモ。金融危機回避策はまた別。随時改訂。講義でも話すこと。

 この危機に立ち向かう上では,1)緊急に必要な,数日から数か月程度で実行されるべき政策と,2)景気を浮揚させるもう少し長いスパンの政策を区別する必要がある。

 1)の緊急対策の目的は,生活と営業を守り,雇用を守ることに尽きる。「需要」の規模は重要だが,必ず生活,営業,雇用に沿って行わねばならない。無関係なところでは,むやみに需要を刺激すべきでない。また,緊急対策はコロナウイルス感染症の流行下で行われる。感染症対策を妨げず促進すること,感染症への国民の不安を和らげることも需要な条件となる。

 2)では総需要と総供給の関係が問題になる。需要不足を防ぐと同時に,供給制約が現れてくることに注意しなければならない。

 ここでは1)についてコメントする。

 1)緊急に必要なのは,a)「企業の資金ショートの防止」,b)「家計の所得低下の防止」とc)「失業の防止」,d)「失業の救済」とe)「低所得者の生活維持」である。「企業の売上支援」は,1)の段階では目的にすべきではなく,b)c)d)e)の結果として実現するようにすべきだ。

 規模的に大盤振る舞いすべきであるが,抽象的に「需要増のための総額」を大盤振る舞いするだけでは不十分だ。b)c)d)e)によって,国民・住民の不安を緩和することができる。

・a)c)のため,流動性は無制限供給しなければならない。無担保・無保証・無利子融資を拡大する。後でゾンビ企業化するという懸念は,1)の段階で考えることではない。

・b)とe)のためには,現金給付も効果はある。やるなら10万円以上の規模で行うべきである。ただし,一時金をもらったところで,失業したり,今後数年間所得が低下するかもないという時には,不安は払しょくできない。何より失業しないことが肝心だ。b)にはもっと強力な対策が必要であり,さらにc)d)も必要だ。失業防止というマクロ経済政策の基本視点を忘れ,現金を配れば万能であるかのように語ることは適切でない。なお,貯蓄に回ることを防止するために商品券にすべきだという議論があるが,意味がない。貯蓄できる家計は,商品券を用いた分だけ現金を貯蓄に回すだろうからだ。また,国民の不安緩和という目的に対しては,現金と商品券では効果は段違いである。

・b)e)のために公共料金の緊急減免も効果がある。

・b)のためには,学校休校の影響で休業する人だけでなく,風邪程度の症状で休むすべての人と,そうした家族・同居人を看護するすべての人のための実質有給休暇の保障が必要だ。ただ,中小企業の経済的苦境にも配慮しなければならない。政府機関や独法には風邪症状で休める有給休暇を直ちに導入する(すでにかなり実施されているのはよい)。企業には,一時措置として同様の有給休暇を義務づけた上で,その負担は政府が全面的に企業を補填するそちをとる。あるいは無給休暇を義務づけた上で,事後的に労働者に減収分を全額給付する。いずれも技術的には企業の休暇記録と賃金台帳で簡単にできる。上記の実効性を確保するとともに,感染症対策に寄与するため,風邪症状のある労働者を出勤させることは労働契約法上の安全配慮義務違反であることを明示する。

・b) では個人事業主・フリーランスの所得補償も必要になる。水準の算定は要検討だが,課税証明から前年並みとするか,業種ごとに相場を決めるか,より一律の金額にするなどがありうる。

・b)e)のため,生活保護要件の緊急緩和と審査の迅速化を行う。中長期のモラル・ハザードを気にしている場合ではない。

・c)のため,雇用調整給付金の支給要件緩和をしているのは,緊急措置としては適切だ。長い目で見ると日本的雇用慣行の歪みを維持してしまう効果を持つが,この際,やむを得ない。

・d)失業給付の拡充が必要。モラル・ハザードを気にしている状況ではない。失業給付を拡充すると雇用主が安易に解雇しないかという疑問がありうるが,危機の時は問題にならない。失業給付の水準など考慮する余裕もなく解雇したり,倒産したりするからだ。

・b)e)を補強するため,法技術的に緊急に可能ならば消費税の一時減税が望ましい。緊急に軽減税率を全財・サービスに適用して5%とする。また,所得税についても,中低所得層を減税するか,マイナスの税額控除を導入して低所得層を支援することが考えられる。ただし,時間が不可避的にかかる措置は2)にまわす。

・a)について,イベント自粛や飲食需要停滞による損失に対しては一時金で支援する。1)の段階では,まちがっても,外食や旅行を促す商品券など配布してはならないし,高速道路を無料になどしてはならない(生活必需品を輸送する業者にはしてもよい)。それは密閉,密集,密接会話を避けよという感染症対策に正面から反する破滅的政策だ。2)の段階で検討すればよい。

・a)d)について,企業の売り上げと雇用をつくりだす需要刺激は,感染症対策と整合するように選別的に行うべきであり,感染症対策,医療体制の強化,病院以外の療養施設の緊急整備,国民の自宅療養支援(生活支援物資調達と宅配手配),テレワーク・遠隔授業の財政支援,宅配業者での雇用促進などがある。公共事業全般を拡大することは,1)の段階では適切でなく,内容によっては感染症対策に逆行する。

・中長期的に2)の段階では,サプライ・チェーンも傷んでいる現状ゆえに,景気対策の方法を誤るとボトルネックが発生してインフレが生じる恐れがある。しかし,これは2)の課題であるし,1)の国民生活防衛のところでは短期的には問題にならない。現時点では,国民の生活必需品の需要が延びてもすぐに物価が上昇する恐れは小さいし,多少上昇しても国民生活防衛のための給付をためらうべきでない。

2020年3月26日木曜日

文科省は授業全体のネット化を妨害し,パンデミック下でも面接授業を義務づけるつもりか

 ようやく出た,大学の授業の開始に関する文部科学省の方針。おおむね常識的なことが書いてあるが,一つ重大な問題がある。新型コロナウイルスのパンデミック下でも,授業全体をネット化(遠隔授業化)することはまかりならないと読める内容を含んでいるのだ。

 授業に関する主な内容は以下の通り。
1)単位制度による10週または15週(セメスター)の期間については,学習内容を確保できるならば弾力的に取り扱ってよい。シラバスも変更してよいが,学生に丁寧に説明すること<通知2(1)>。
2)遠隔授業の試験は柔軟な形態で行ってよい<通知2
(2)>。
3)4月から大学に来られない留学生を,4月に入学したものとみなすことは差し支えない<通知2(4)>。
4)遠隔授業の例
・オンラインリアルタイム双方向方式。
・教材をネット上に準備し,学生が視聴するeラーニング方式。過大提出や質問受付もネットで行う。MOOCを使ってもよい<通知3(1)>。
5)元来,遠隔授業で習得できる単位数には60単位という制限があるが,「面接授業の一部を遠隔授業によって実施する場合であって,授業全体の実施方法として,主として面接授業を実施するものであり,面接授業により得られる教育効果を有すると各大学等の判断において認められるものについては,上記上限の算定に含める必要はない」。「主として面接授業により修得した単位として扱い,上記上限の算定に含めない場合には,学則において当該事項を定める必要はない」<通知3(2)>。
6)専ら通信教育を受けることは在留資格「留学」に応じた活動とは認められないが,「今般の新型コロナウイルス感染症の対策として,学校運営上の対策を講じる目的などの観点から,必要な範囲内において,遠隔授業を実施することは,在留資格「留学」に応じた活動として認められる場合がある」(通知3(4))。
7)授業料の減免について柔軟に対処せよ<通知4(1)>。

 1,2,3,4,7は問題ない。

 5が引っ掛かる。授業が「主として面接授業」でなくなった場合,例えば1回から終回まで遠隔授業とした場合には,「遠隔授業の単位」として学則に明記し,その単位数は上限の範囲内に納めなければならないとも読める。それでは,いくつかの大学が行っているように4月からの通常の授業(面接授業で会った授業)全体を遠隔授業とすることも,上記2条件をクリアーしない限り認められないという話になりかねない。パンデミック下でも遠隔授業は60単位限度だというのだ。
 6の「認められる場合がある」も問題だ。文科省のさじ加減一つで認められない場合もあると読める。授業が主に遠隔授業となった場合,留学生の在留資格「留学」が取り消されることもありうるかのようだ。

 いずれも馬鹿げている。新型コロナウイルス危機下に限ってでよいから,緊急に,より柔軟な対応を定めるべきだ。私個人は,密閉,密集,密接会話を回避することを前提に,できるだけリアル授業をやりたいと思っているが(例:3分の1ずつリアル講義出席。3回に2回はネット配信で受講。普段の3倍,学生と学生の距離をあける),感染流行の状況によっては学部全体の100%遠隔授業もやむを得ないと思う。それを認めないかのような通知を送って来ないでほしい。この緊急時に大事なことは現場において教育を続行できるようにすることであって,現場の手足を縛ることではない。

文部科学省「令和2年度における大学等の授業の開始等について(通知)」2020年3月24日。
メニューページ(学校に関する情報)
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html
直リンク
https://www.mext.go.jp/content/20200324-mxt_kouhou01-000004520_4.pdf

※4/2追記。4月1日に以下の新しい通知が出て,やや改善された。「一方,新型コロナウイルス感染症に対する対応の影響により,こうしたケースが積み重なることで,60単位の上限に達してしまう事態が生じることも想定されることから,今後,文部科学省において,各大学等における遠隔授業に係る実施状況や各大学等からの要望等も踏まえつつ,必要がある場合には,今回の新型コロナウイルス感染症対策としての遠隔授業に係る単位数の上限の見直しについて所要の検討を行うことも視野に入れてまいります」とある。しかし,「行うことも視野に入れてまいります」などと書いている場合なのでしょうか。行なっていただかねばならない。

文部科学省「学事日程等の取扱い及び遠隔授業の活用に係るQ&A等の送付について」2020年4月1日。
メニューページ
https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html#coronavirus001
直リンク
https://www.mext.go.jp/content/20200401-mxt_kouhou01-000004520_6.pdf

2020年3月25日水曜日

中国政府が無症状者を感染者数にカウントしていないことについて

時事が,中国で多くの無症状者が感染者にカウントされていないと香港紙からの孫引きで報じているが(シェア先),それは以前から分かっている話で,また中国も秘密にも何もしていない。例えば,中国が無症状者を感染者数に含めないことについて,2月にはNatureでもその適否が議論になり,3月初旬に日本でも報じられた(※1※2)。

 また,もともとのSCMP紙の記事(※3)は中国政府が感染者数を過小表示してけしからんと非難しているのではない。感染者のうち無症状者はどのくらいの割合なのかを推計することの難しさを論じた記事だ。その材料の一つとして,無症状者の扱いが国によって異なることが指摘されており,その中で中国の例も扱われているのだ。

(引用)「WHOは症状があろうとなかろうと陽性となったすべての人を確定例(感染者)と見なしている。韓国もそうだ。しかし中国政府は2月7日にガイドラインを変更し,症状のある患者だけをカウントするようになった。アメリカ,イギリス,イタリアは単純に,ウイルスに曝露されていた医療労働者を除いて,症状のない人は検査しない」(引用おわり)
 ちなみに日本の場合は,無症状の人は普通は検査されず,クラスターの感染経路追跡の際には検査される。

 このように,無症状者の扱いで感染者数が変わるので感染者総数を比較しにくいという問題として記事は報道している。そもそも無症状者までは検査しない傾向の国(アメリカ,イタリア,日本。イギリスはしているという意見もあり),する傾向の国(韓国),するけどカウントしない国(中国)もあるからだ(イギリスは検査するという指摘もある)。だから日本に対しても,国内外で「オリンピックをやりたいから検査を少なくして感染者数を少なく見せているのだろう」などと疑う人がいるのである(そうではないことは※4を参照)。

 中国が無症状者をカウントしていないのは,別に感染者数を減らすためではない。それならば,この方針を定めた2月7日の「新型冠状病毒肺炎防控方案(第4版)」が出た後,公式発表で中国の感染者が激減するか,少なくとも増加の勢いが落ちたはずである。しかし実際は逆であり,激増したのだ。それも武漢・湖北省で。リンク先をご覧いただければ一目でわかる(※5)。ドンと増えているのが2月12日である。

 この方案は,無症状者を感染者数から除く一方,湖北省でのカウント基準を変えた。それは,武漢・湖北省においてあまりの患者の多さにPCR検査がまにあわなくなり,CT画像など臨床的な診断によっても新型コロナウイルス感染者だと確定してよいという基準に変更したのだ(このことは私も2月13日の投稿で紹介した (※6)。医療現場は感染者数を少なく見せるどころの状態ではない。感染者だと確認できないと感染者用の治療ができないし,医療従事者の防護措置も十分できない。だから,重い症状の人を早く診断して欲しいという意見には理由があった。ただ,その後,このカウント方法は結局適切でないということになり,PCR検査,ウイルスDNAシークエンシング検査,抗原抗体反応の検査という3つの検査のいずれかで陽性を判断するものに改められた。これも,もうわかっている話だ。

 なお,無症状者を除くと事態が深刻でないように見えるかというと,そうではない。致死率がはね上がるからだ。この点でも,無症状者をカウントしないのは事態を深刻でないように見せるためではない。

 まとめると,時事の報道はもともとのSCMP紙の記事の主旨を逸脱して「中国政府は感染者数を意図的に小さく見せていた。けしからん」というニュアンスに偏っているが,それはミスリーディングだ。

 ただ,私も,中国政府は無症状者の数字はきちんと地方別に出すべきだと思う。とくに困るのは,この4万3000人が武漢・湖北省に多いのかそれ以外に多いのかがわからないことだ。武漢・湖北省とそれ以外では,当然前者の方が致死率が高い。医療崩壊を起こしたからである。逆に,湖北省以外は,医療崩壊を起こさずに,感染者が大量であり,大量に検査した貴重な先例になっているのだ。つまり,湖北省以外の中国は,医療が維持できた場合に「本当はどのくらいの致死率なのか」を考える貴重なデータだ。だから,感染者数にカウントしなくても,別扱いの無症状者として数値を公表すべきだと思う。


「中国、4万3000人計上せず 無症状の感染者除外で―香港紙報道」時事ドットコムニュース,2020年3月23日。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020032300117&g=int

※1 Scientists question China’s decision not to report symptom-free coronavirus cases, Nature News, Feb. 20, 2020.
https://www.nature.com/articles/d41586-020-00434-5
※2 「コロナウイルス、中国は症状のない患者をカウントしていない。科学者でも分かれる賛否」Yahoo!ニュース(ハーバービジネスオンラインより)2020年3月1日。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200301-00213815-hbolz-soci&p=1
※3 Josephine Ma, Linda Lew and Lee Jeong-ho, A third of coronavirus cases may be ‘silent carriers’, classified Chinese data suggests, South China Morning Post, March 22, 2020.
https://www.scmp.com/news/china/society/article/3076323/third-coronavirus-cases-may-be-silent-carriers-classified
※4 「「多数のPCR検査がなされていないから,感染者が本当は何人いるかわからない」ことについて」Ka-Bataブログ,2030年3月6日。
https://riversidehope.blogspot.com/2020/03/pcr_6.html
※5 武漢および湖北省の累積感染者数(「新型冠状病毒肺炎湖北実時疫情」騰訊新聞)
https://news.qq.com/zt2020/page/feiyan.htm#/area?pool=hb
※6 川端2月13日Facebook投稿。
https://www.facebook.com/nozomu.kawabata.5/posts/1375294509303174
現在の診断基準(「新型コロナウイルス関連肺炎診療ガイドライン(試行第 7 版)」日本語訳)
https://www.tri-kobe.org/files/user/assets/docs/covid-19_chinaGLv7.pdf

テレビ会議システムを使ったオンラインリアルタイムゼミに向けての学生アンケート

 ゼミは学部・大学院ともオンラインリアルタイムで行うしかなさそうだ。とりあえずゼミ生のネット環境やハードウェア環境を確認すべくアンケートを実施。ついでにGoogleフォームの使い方を覚える。
 大講義はリアルができないとしたら,おそらくオンラインリアルタイムではなく録画配信だろう。Meetの録画やインターネットスクールへのアップロードは簡単だが,動画編集ソフトがない。一発撮りはつらいので,mp4ファイルを切ってつなぐだけでいいからソフトは必要だ。無料ソフトもあるようだが,年度末の残予算が少しあるので,PowerDirector 18 Ultra アカデミック版を注文。

<質問項目(選択肢は略)>
・ご自身の氏名を記入してください。
・Google Hangouts Meetを利用したことがありますか。
・大学アカウントにログインできますか。
・大学アカウントでGoogle Hangouts Meetの「ミーティングに参加または開始」という画面を表示してください。表示できますか。
・時間割通りのゼミ時間帯にMeetでのオンラインゼミを行う場合,主な受講場所はどこになりそうですか。
・その場合に,ネット接続方式はどのようなものになりますか。
・上記を用いる場合にネット接続料の個人負担が発生しますか。
・ネット接続回線を確保するために追加支出が必要になりますか
・受講の際の主なハードウェア環境を教えてください。
・ハードウェア環境を整えるために追加で購入しなければならないものがありますか。あるとすれば何を購入しなければなりませんか。
・オンラインリアルタイムゼミについての意見,不安,要望,その他自由に書いてください。


2020年3月23日月曜日

専門家会議の見解を踏まえて授業を行う方法

3月19日付専門家会議の「状況分析・提言」別添の【多くの人が参加する場での感染対策のあり方の例】。授業に応用しなければなるまい。それぞれが,自分の持ち場で実行することが肝心だ。

 片カッコ数字と○がついているのが専門家会議の言葉。→以下が私の職場対策用メモ。もっと良い知恵があればご教示お願いします。なお授業対策に限ったが,当然教授会・会議対策も必要。
 これはオーバーシュートが起こらず,ロックアウト(都市封鎖。外出制限。移動制限)が実施されていない状態を想定したものなので,もしそこまで事態が進んだ時には当然変更しなければならない。

1)人が集まる場の前後も含めた適切な感染予防対策の実施
○参加時に体温の測定ならびに症状の有無を確認し、具合の悪い方は参加を認めない。
○過去2週間以内に発熱や感冒症状で受診や服薬等をした方は参加しない。
○感染拡大している地域や国への訪問歴が14 日以内にある方は参加しない。
○体調不良の方が参加しないように、キャンセル代などについて配慮をする。

→風邪症状のある学生,感染拡大地域・国への訪問歴が14日以内にある学生には登校しないことを勧告する。また,診断書がなくても風邪症状による欠席を教員は承認し,不利に扱わないことを申し合わせる。講義内容を(動画配信でも資料配信でもよいので)ネット配信し(東北大学では東北大学インターネットスクールを活用),欠席者が学習できるようにする。
期末の学力確認(試験)における欠席の扱いを別途検討する。追試験の基準を緩めざることが考えられるが,同時にモラル・ハザード対策も必要。状況を見ながら今後決定する。

○発熱者や具合の悪い方が特定された場合には、接触感染のおそれのある場所や接触した可能性のある者等に対して、適切な感染予防対策を行う。
→発熱者の接触者に健康観察を求め,3条件のより厳格な厳守を勧告する。

○会場に入る際の手洗いの実施ならびに、イベントの途中においても適宜手洗いができるような場の確保。
→教室・演習室付近の消毒薬設置数を増やす。

○主に参加者の手が触れる場所をアルコールや次亜塩素酸ナトリウムを含有したもので拭き取りを定期的に行う。
→事務職員が行う。

○飛沫感染等を防ぐための徹底した対策を行う(例えば、「手が届く範囲以上の距離を保つ」、「声を出す機会を最小限にする」、「咳エチケットに準じて声を出す機会が多い場面はマスクを着用させる」など)(※)
→講義室・演習室では,座席を一つおきに用いる。それを満たせるならば通常の講義・演習を行う(これで大丈夫か,椅子の間隔や教室の構造について要点検)。教員がもっぱら発言する講義では,教員と学生の距離が近い小講義室,演習室では教員がマスクをする。演習や,学生も多く発言する講義では,教員も学生も全員マスクをする。「一つおき」を満たせない場合は以下のようにする。

*大人数の講義
1)「一つおき」の原則を守りながら初回ガイダンスを行う。必要なら同一内容で2回行う。
2)以下のいずれかとする。
a)同一講義を2回に分けて行う。
b)講義を行ないながら,同時にMeetその他のシステムでリアルタイム配信する。
c)リアル講義を開催した後に,Meetで同一内容を録画し,ネット配信する。
d)テレビ会議システム(東北大学はMeet契約済)を用いてオンラインリアルタイム講義とする。ただしシステム障害に注意し,対処には,研究支援部門職員の支援を得つつも教員が責任を持つ。
e)リアル講義やオンラインリアルタイム講義は行わず,教員が講義を録画し,ネットにアップロードして学生が各自時間を選んで視聴する。教員は,受講者が視聴したかどうかをシステム(東北大学ではISTU)で確認する。
*少人数の講義と演習(※※)
1)「一つおき」の原則を守りながら初回ガイダンスを行う。必要なら同一内容で2回行う。
2)以下のいずれかとする。
a)Meetその他のシステムでオンラインリアルタイム演習とする。
b)より大きな教室を借りて「一つおき」を確保する。
c)演習を細分化して,2クラスに分けて行う(例:3年生と4年生を分ける)。

2)クラスター(集団)感染発生リスクの高い状況の回避
○換気の悪い密閉空間にしないよう、換気設備の適切な運転・点検を実施する。定期的に外気を取り入れる換気を実施する。
→換気の弱い講義室に強化工事を行う。

○人を密集させない環境を整備。会場に入る定員をいつもより少なく定め、入退場に時間差を設けるなど動線を工夫する。
→※参照。

○大きな発声をさせない環境づくり(声援などは控える)
→※※参照。演習対策でカバー。

○共有物の適正な管理又は消毒の徹底等
→マイク回しを行わない。マイク,机,いす,ドアノブ,事務室カウンターなどの消毒を徹底。事務職員が行い,過重労働であればTAの業務に追加し,それでも足りなければ消毒要員のアルバイトを雇う。

3)感染が発生した場合の参加者への確実な連絡と行政機関による調査への協力
○人が集まる場に参加した者の中に感染者がでた場合には、その他の参加者に対して連絡をとり、症状の確認、場合によっては保健所などの公的機関に連絡がとれる体制を確保する。
○参加した個人は、保健所などの聞き取りに協力する、また濃厚接触者となった場合には、接触してから2週間を目安に自宅待機の要請が行われる可能性がある。
→上記のように対応することを,学生生活担当委員会の任務とする。

4)その他
○食事の提供は、大皿などでの取り分けは避け、パッケージされた軽食を個別に提供する等の工夫をする。
○終了後の懇親会は、開催しない・させないようにする。
→大学生協に協力を依頼。1)弁当の大規模販売を行ってもらい,昼食・夕食は教室や研究室で取ってもらう。2)食堂のテーブルレイアウトを工夫し,多人数が密集しないようにする。対面でのゼミコンパ,花見宴会を禁止する。桜の下を散歩する花見は可。

厚労省。専門家会議の見解ページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html
PDF直リンク
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf

※4/2追記。過去1週間の流行状況と4/1の専門家会議の結果を踏まえると,上記よりもリアルでの接触を制限しなければ成り立たないだろう。感染拡大警戒地域ではリアル授業は全面中止し,オンラインに限らざるを得ないだろう。感染確認地域では人と人の距離をヨーロッパ基準の2メートルに拡大しなければならないし,さらに「50名以上の集会,イベント」に該当する,1室50名以上の講義はできないだろう。

2020年3月22日日曜日

2頭のクジラが株式市場を支えきれなくなる時が来た

日本の株式市場を支えてきた2頭のクジラが危うくなっている。孫引きで恐縮だが『日経ヴェリタス』はGPIFの運用資産に3月13日現在、内外株式で約15兆円、債券で約5兆円の損失が発生していると推定している(※)。運用資産は169兆9900億円だから、10%を少し上回るほどが吹き飛んでいる。また、3月18日に黒田総裁が国会で語ったところでは、日銀が保有するETFには2-3兆円の含み損が発生している。バランスシート上の保有額は29兆970億円だから、含み損が大きい方であればその10%程度が吹き飛んでいる。

 GPIFについては、問題は明らかだ。GPIFの責任は年金積立金を運用して増やすことである。増やせないならば当然に責任が生じる。ポートフォリオを変えて国内株式の構成を大きくし、リスクを取ったのだから、株価が下がれば損失が出るのは当たり前だ。その責任をとり、投資政策を再検討することが求められる。問題の構造は明確だ。

 日銀は少し話が異なる。日銀は利益のためにETFを買っているのではない。民間企業の経済活動の成果を日銀が吸い上げることに何の正統性もないからだ。日銀は建前としては「リスク・プレミアムを下げるため」、自分では決して言わないが、わかりやすく言えば株価を支えるためにETFを買っているのだ。

 なので株価が暴落したいま、日銀はダブルバインドに陥っている。一方で、自らの目的に沿って株価を支えるために、日銀はさらにETFを買い増そうとしている。この投資家は、暴落中に2-3兆円の含み損を出して、さらに買い向かおうというのだ。損失は不可避だ。しかし、自己利益を重視してETF購入をストップすれば、日銀というクジラ投資家の撤退が悪材料となり、さらに株価は下落して恐慌を加速させるだろう。日銀は買うも地獄、買わないも地獄の構造にはまってしまっている。こうなると、どうしたらよいという提案のしようもない。2010年以来、ETFをだらだらと買い続けたこと自体が間違いだったのだ。

 なお、日銀がETFで含み損を出した場合、少なくとも引当金を積む必要がある。そして剰余金が減り、政府への納付金が減る。日銀は倒産しないが、損失を出すことには独自の問題がある。これはやや複雑なので、別途ノートしたい。

湯池正裕「日銀総裁「現時点で含み損2~3兆円」 保有中のETF」朝日新聞デジタル,2020年3月18日。
https://www.asahi.com/articles/ASN3L5WF2N3LULFA025.html

※「安倍政権、消費税「減税」論浮上…日銀、ETF含み損で巨額損失か、揺らぐ中央銀行の信頼」Business Journal,2020年3月16日。
https://biz-journal.jp/2020/03/post_146916_2.html

「公的資金による2頭のクジラが株価を支えきれなくなる時」2019年2月5日,Ka-Bataブログ。
https://riversidehope.blogspot.com/2019/02/blog-post.html

2020年3月21日土曜日

専門家が提案したのは「大阪府・兵庫県『内外』の不要不急な往来の自粛」であって、「大阪と兵庫の『相互』の往来自粛」ではないと思うのだが

誰か聞き間違えたか読み間違えたかしてそのまま発表してしまい、引っ込みがつかなくなって修正せずにおくといういつものパターンではないのか。専門家が提案したのは「大阪府・兵庫県『内外』の不要不急な往来の自粛」であって、「大阪と兵庫の『相互』の往来自粛」ではないと思うのだが。

以下のリンク上から3番目。「大阪府・兵庫県における緊急対策の提案(案)」参照。
http://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/2019ncov/dai9kai2019ncov.html

直リンク
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/37375/00358663/05_shiryo1.docx

2020年3月19日木曜日

PCR検査の話だけを議論するのは適切でない。肝心なのは感染不安や風邪・肺炎の苦しみを軽減すること

PCR検査について、もっとやれという人は政府を非難し、重症者特定とクラスター追跡でよいという人はもっとやれと言う人を非難にする。政策を誤らせないために議論することは必要だが、検査の話だけに限って延々とやるのはのは適切でない。

 見なければならないのは、感染したと特定されていないが、風邪・肺炎症状の人、自分や家族が感染したかもしれないと不安に思っている人がたくさんいるということだ。この人たちを支援するための議論をもっと増やすべきだ。

 検査をもっとやって感染者を見つけろと言うならば、多くの人が軽症の感染者と認定されたときにどう治療するのかを、あわせて言うべきだ。病床が足りなくなるから、一般病院に広げねばならないし、入院の優先順位を決めねばならない。準備せずに行えば医療崩壊を起こす。それは防げても、多くの人を自宅療養とせざるを得ないだろう。韓国やイタリアのように、病院ではない療養施設を緊急に設置してそこに収容しなければならないかもしれない。そうした準備の議論を併せてやらないと不誠実だ。

 検査方法が今のままでよいというのならば(私も原則としてそう思うが)、風邪・肺炎症状の人が、感染が特定されなくても自宅療養できるように公的支援を行う必要性を認識すべきだ。自宅療養・看護での感染の危険を減らし、仕事を休むに休めない状況がないように労働法制で支援し、緊急の給付で財政的負荷を下げることが肝心だ。そうせずに抑制された検査を支持するだけでは、熱や咳があるのに「すぐには医者に行くな」「自宅療養しろ」と言われて我慢し、困っている人たちを意識の外に押しやりかねない。

 反省を込めて言うが、感染症への不安を持ち、風邪や肺炎で苦しんでいる人の負荷を下げることが大事なのであって、政府や反政府論者の間違いを批判すること自体を目的にしたり、権力者や権力批判のワイドショーを馬鹿にすること自体に熱中するのは適切ではない。

2020年3月18日水曜日

自宅療養者と家族への支援を

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、名古屋市では医療機関のベッドの調整がつかず、自宅療養を余儀なくされている人が感染者4人いるとのこと。

 感染者が増えれば自宅療養が増えること自体はやむを得ない。ただ、政府・自治体は自宅療養者を支援して欲しい。1人暮らしでセルフケアするのも大変ならば、素人の対応で家族感染を起こさないようにするのもたいへんだ。看護する家族が、世話の必要な小さな子どもやお年寄りに濃厚接触せずにいるのは困難だ。役所や医療機関からネットやリアルでの見守り、アドバイス、マスク・消毒薬・タオル・シーツ・対処療法用の適切な薬の宅配、無料支給を。休業補償と解雇されない保障を漏れなく。それは不況の底支えにもなる。

「医療機関のベッド調整つかず 感染の4人が自宅療養に 名古屋」2020年3月17日、NHK NEWS WEB。

2020年3月16日月曜日

風邪症状で仕事を休む人と看護する人全員に休暇と給付を

 新型コロナウイルス危機に対応するアメリカの経済政策には,以下の内容が含まれているという。私はこれは良いセンスだと思う。

(引用)「法案では新型コロナの影響を受けた労働者に2週間の有給病気・家族休暇を付与。企業は費用をカバーするために税額控除を受けられる。
 労働者はまた、自身が隔離されたり、病気の家族を世話する必要が生じたりした場合に、最大3カ月の無給休暇を取ることができる」。

 この無給休暇による減収を、事後の政府からの給付金で支えるとなおよい。
 日本の休業補償は、小中高休校の影響を受けたご家族にしか適用されない。そうではなく、風邪症状で仕事を休まざるを得ない人や、そうした人々を自宅で看護するために仕事を休まざるを得ない人全員に休暇と給付を与えるべきだ。その負担を負えない企業に対しては支援する。これにより、1)生活困窮を防ぎ、2)自宅療養への不安を軽減し、3)需要を維持する。一石三鳥だ。

 政府・各党はこのアメリカの政策の詳細を調べ、日本の条件に適合した方策を作ってほしい。民間企業の有給休暇を政府が法律で与えるというのは、日本ではすぐにできないかもしれないが,それなら無給の休業を認め,給付金で支えればよい。事後に企業の出勤記録と賃金台帳を提出してもらい,労働者に直接支払うのだ。そのくらいのしくみは,やろうと思えばできるはずだ。

「米下院、新型コロナ対策法案可決 無料検査や病気休暇盛り込む」ロイター,2020年3月14日。








 

株価が下がれば含み損が出るのは当たり前。当たり前でないのは日銀がETFを買い続けて来たこと

 日銀はあまりにも多くのETF(指数連動型上場投資信託受益権)を購入している。3月10日現在の保有額は29兆969億7140万1千円である。ちなみに,2月29日よりも2000億円以上増えている(日銀バランスシート)。そのため,新型コロナウイルス危機に際してジレンマに直面している。一方では株式市場安定のためにさらに買い支える行為に乗り出しており,それが上記の保有額増につながっている。他方でその程度のことでは株価下落は抑えられず,保有するETFにはすでに含み損が発生していると考えられる。黒田総裁は日経平均株価で1万9500円程度が損益分岐点と国会で述べたが,先週末3月13日の終値は1万7431円だったから。買い増すのが日銀のポリシーだが,それは日銀に損失を発生させる危険をさらに増す。

 そもそも,日銀はなぜETFを購入するのか。経済危機に際して信用崩壊を防ぐために一時的に買い入れたのではない。2010年以来,延々と買い続けてきたのだ。
 これは金融緩和ではない。日銀は「リスク・プレミアムを低下させるため」と説明しているが,端的に株価を下落しにくくするためだ。銀行として融資を行うことや債券を購入すること,すなわち信用を供与することと,エクイティ投資とは全く性質が異なる。投資信託を通した間接的投資とはいえ,エクイティ投資とは,日銀自身が資本家になってリスクを取り,企業に投資することに他ならない。
 株式投資を恒常的に行っているのだから,日銀には景気がよければ利益が上がり,経済危機に際して損失が出るのは当然の帰結である。貸した金は返してくれということができるが,エクイティ投資は自らリスクをとったのだから投資した資本が利益を生まなければ自分が損をするのだ。それは何もおかしくない。

 おかしいのは,中央銀行が自ら株式投資家にならなければ投資を支えられないという日本経済における投資の停滞性であり,それに対して民間経済の再編成を促さずに,中央銀行の恒常的株式買い支えに寄生させてどうにかしようという政策方針だ。もともとがおかしかったのだ。

「保有ETFの含み損には引当金必要、十分注視する=黒田日銀総裁」Reuters,2020年3月10日。



2020年3月14日土曜日

「何もしてもらえない」という不安に政府が応えなければ,検査キットに飛びつく人は多いだろう

 孫正義氏は簡易PCR検査100万人分の提供をしたいと表明したが,批判が多いことを受けて撤回し,マスク100万枚無料提供に切り替えたようだ。

Twitter 孫正義@masason

 孫氏への批判自体はもっともだ。何度も言うが,PCR検査の感度が70%程度しかなく,新型コロナウイルス感染症に対する特効薬もない以上,検査は重症者同定のために医師の判断に拠って行い,軽症者は感染以前に風邪の症状があるうちから自宅療養するという日本政府方針の方針は合理的だ。

 だが,ここで言いたいのはそのこと自体ではない。孫氏が今回,検査キットの提供を止めるとしても,やがて(あるいはまもなく)誰かが提供を始めるかもしれず,その配布は少なくない人に受け入れられるだろうということだ。なぜならば,医学的・公衆衛生的な見解にかかわらず,多くの人が検査を求めているからだ。その根底には「自分または家族が感染しているのではないか」という不安があり,「それなのに行政と医療機関は何もしてくれずに,病院に来るな,軽症なら自宅療養せよとばかり言う」という不満があるからだ。

 強い不安・不満が社会行動を引き起こすこともまた確実である。敢えて言えば,それは医学的見地がどうあれ社会科学的にありうることであり,それもまた科学的に理解すべき現象なのだ。

 だから,検査を求める心理に対して,医学・公衆衛生的に間違っていると非難するだけでは問題は解決しない。医学や公衆衛生の見地を曲げる必要はないが,それに立脚しながらも,不安・不満にこたえる社会的な対策が必要なのだ。

 では,どうすべきなのか。ここからは頭の体操レベルの話しかできないし,いくつかはこれまで書いたことの繰り返しだが,私は以下のことが必要だと思う。FB友人で政治・行政に携わる方には,左右を問わずご一読いただけると幸いだ。

1.政府や専門家会議,自治体,医療機関は,PCR検査や簡易キットの不正確さを指摘してもいいが,「そんなものを信じるな」的対応をしない。それでは行政と医療機関への不満はますます募る。
2.簡易キットなどで陰性と判定された人にも,あくまで安心して危険な行動をしないように呼び掛ける。要するに,密閉された空間で多人数で集まり,発話・会話しないことを繰り返し呼びかける。
3.陽性が判明して治療を求める人には,無症状または軽症であれば自宅療養としてもらうことを徹底する。ただし,ただ「家にいて人に感染させるな」と命じるだけの態度を取らない。みな「何もしてもらえない」ことが不安だからだ。行政は,自宅療養を系統的に支援することが必要だ。例えば,看護ツールの提供,定期相談体制,いざというときに医療機関につなぐ連絡体制。
4.医療機関のパンクを防ぐとともに家族内感染を防ぐために,韓国の生活治療センターのような一時療養施設の設置を検討する(自宅療養支援に集中するのが良いか,一時療養施設も設置する方が良いか,韓国の事例を調べて,今から検討しておく)。
5.「風邪症状があって自宅療養する」ことの社会的ストレスと経済的負担を下げる社会政策を打つ。すなわち,風邪症状があって自宅療養することについての休暇を認めるように政府機関に強制し,民間企業に要請する。あわせて,風邪症状がある従業員に出勤を命じることを労働契約法上の安全配慮義務違反であると厚労省から通知する。
 上記休暇を政府機関では有給にする。企業が経営事情から有給に出来ない場合も多くなると思われるので,後日,給与相当分を労働者に直接還付する制度をつくる。企業の休暇に関する記録と賃金台帳から給付額を算定する。

 具体的方策がこれでよいかはともかくとして,政府や専門家会議は,医療崩壊を防ぐとともに,「何もしてもらえない」という不安を緩和するように努めるべきだ。



2020年3月10日火曜日

自分や家族が新型コロナウイルスに感染しているのではないかという不安と,自宅療養への不安にどう応えるのか

 これまで書いてきたように、私は新型コロナウイルス感染症のPCR検査と自宅療養に関する限り、専門家会議と日本政府の方針は間違っていないと思う。しかし、家族、友人、学生と話しているうちに、間違っていなければいいというものではなく、このままでは人々の不安・不満が募るばかりではないかとも思うようになってきた。以前も一度書いたが、もっと整理してみたい。

1.自分や家族が感染したのではないかという不安
 PCR検査は、重症者と既往症のあるハイリスク感染者を特定し、それにふさわしい治療を受けさせるために、医師の判断によって行われる(もはや保険が適用され、保健所の判断は不要になった)。何度も書いたがそれは正しい。
 だが、多くの人は不安になる。風邪のような症状があって、COVID-19かもしれないから確かめて欲しいと思うからであり、自分が感染していないことを確認したいからだ。しかし、そのように言っても多くの場合、医師は「必要ない」という。それどころか、コールセンターが「むやみに検査のために病院に行かない方がいい」という。
 不安で仕方がないのに、検査してもらえず、病院で診てももらえないというないという不満が募る。

2.自宅療養への不安
 いまは、風邪のような症状がある人から自宅療養することが大切だ。それによって感染の拡大を防ぐことができるからだ。何度も書いた通り、それは正しい。
 だが、多くの人は不安になる。自分や家族の風邪の症状がだんだん重くなってきても、コールセンターは「むやみに病院に行かない方がいい」と言う。病院に行っても、風邪や肺炎の治療はしてもらえることもあるが、とにかく自宅で安静にせよとしか言われることもある。
 1人暮らしで身の回りの世話を自力でしながら自宅療養せよと言われるのも辛いが、家族がいて感染させないようにしなければならないのも不安だ。子供やお年寄りが感染して自分が家族の場合、どうやったら看病しながら自分への感染を防ぐのかというのも不安だ。そもそも子どもやお年寄りが風邪を引いた場合、濃厚接触せずにいるのは困難だ。一人でお風呂に入れない場合はどうしたらいいのか。
 症状がだんだんと重くなってきて、COVID-19ではないかと不安になっても、上記のようになかなか検査もしてもらえない。不満が募る。あげく、今後感染者総数が増えると病床が塞がり、検査して「陽性」と分かっても軽症者だと自宅待機、自宅療養になる可能性がある。

 これを要するに、COVID-19ではないかという不安と、自宅療養への不安、そしてその双方について「何もしてもらえない」という不満を抱く人が多くなっていく可能性がある。

 専門家会議と政府の方針は、1)医療崩壊を防いで死亡者を少なくするためと、2)感染拡大のスピードを落とす上で正しい。しかし、これは一個人にとってみると、「自分のことより社会的に感染を拡大させないことを考えよ」と言われているに等しい(「無闇に病院に行かない方がいい」は本当は自分の利益になるのだが、病院が当てにならないと感じてしまう)。自分のためには「何もしてもらえない」と見えてしまう。それでは、方針は実行されないし、社会は不安定になってしまう。民主主義の社会では、政府方針の実行も人々の気持ちと意思と自発的行動にかかっているからだ。

 政府や専門家会議には、この二つの不安・不満を緩和する対策にもっと力を注いでほしい。私は素人なので専門的に的を射た方法がわからないが、例えば、十分ではないにせよ以下のようなことはできるのではないか。まちがっているかもしれないので、もっと専門的に検討してほしい。その際、医療と公衆衛生の見地に加え、心理学的見地を十分に考慮してほしい。
 1)医師が必要と認めた場合の検査はとどこおりなく行われるようにする。
 2)「誰でも検査すべきだ」などとマスコミや政治家が言う場合は反論すればいいが、一般市民が訴える場合には、自治体窓口や医療機関は「あなたは間違っている」などと言わずに、いかに不安で苦しい状態にあるのか、よく話を聞くようにする。時間がかかってしまうので、このためにも相談、カウンセリングの窓口、電話を受ける体制は拡充する。
 3)自宅療養について、当人及び家族の負担を和らげる支援措置を取る。Youtubeで自宅療養の方法をわかりやすく映像で流す。自宅療養する重い風邪の人にも、今後増えるかもしれない感染が判明した入院待機の人にも、一定の基準を決めた上で、政府・自治体が調達したマスク、シーツ、消毒液、手袋、タオルと、自宅療養のわかりやすい手引きを無償支給する。自宅療養者とその家族には、特別な体制で電話、メール、チャットでの相談に乗る。

2020年3月9日月曜日

新型コロナウイルスが引き起こす経済危機に対して,マクロ経済政策は何ができるか:緊急措置と景気対策

先進諸国はこぞって金利の引き下げを行っている。新型コロナウイルスがもたらしうる経済危機に対して,マクロ経済政策は何ができるだろうか。まだ大まかなことしか考えられないが,メモしておこう。

*金利引き下げは緊急の企業救済には有効だが,景気対策としては機能しないだろう
 金利引き下げは,緊急避難的には有意義だ。経済活動の停滞によって企業の資金繰りが危うくなるので,中小企業を中心に,さしあたりの決済資金と運転資金を欠く企業が多発する恐れがある。これを支えるための金融緩和は役に立つ。安倍総理が表明した,中小・小規模事業者などに実質無利子・無担保融資を行うことも,大規模かつ迅速に実行されれば適切だ。
 だが,景気を支えるためには,さほどの力はない。論者によって起点は異なるが,最大公約数的に言っても世界金融危機以後,金融緩和は有効性を喪失しつつある。いかに短期金利を引き下げても需要は盛り上がらず,ゆるやかなディマンドプル・インフレが起こらない。まして,この新型コロナウイルス危機にあっては,金利が下がったら投資を拡大するとか住宅を建てるということはほとんどない。あるとすれば,感染症・公衆衛生関連分野や,停滞する社会活動を代替する分野(ネット会議,ネット教育,宅配など)に限られるだろう。金利引き下げで投資を盛り上げるのは困難だ。

*財政拡充も緊急の生活救済には有効だが,景気対策としては分野・方法を考える必要がある
 となると,やはり金融政策ではなく財政政策の有効性を検討しなければならない。財源論や財政赤字はさほど問題ではない。自国通貨建て債務を多少拡大したところで各国政府が破たんしたり,長期金利が急騰することはない(ここは信用貨幣論・MMTが正しい)。日本が年度末なので予算を組むのにテクニカルな問題があることくらいだろう。
 ここでも財政政策でも緊急対応は有効なはずだ。小中高の休校に伴う家族の休業,企業活動の停滞による休業,さらに雇用縮小など,家計を脅かす要因が次第に深刻化しつつある。他方で,マスクなど一部の品目を除けばいまのところ生活物資は値上がりしていない。このようなときに必要かつ有効なのは,人々の生活を支える現金給付にほかならない。「ばらまきはよくない」と脊髄反射すべきでない。緊急措置としてのばらまきは有効だ。ばらまいたお金は確実に支出につながるからであり,また,いまのところ悪性インフレになる心配もないからだ(警戒は必要だが)。政府の休業補償措置は良い方向だが,フリーランス救済などに思い切って拡充し,さらにCOVID-19患者が治療で仕事を休む場合の公的所得保障,風邪程度の症状でも有給の特別休暇が取れる措置を企業に奨励して補助金を給付、失業給付の拡充,生活保護基準の一時的緩和などの措置を取るべきだろう。
 しかし,景気を支えるとなると,話が変わってくる。新型コロナウイルス危機では需要が停滞するだけでなくサプライチェーンの停止・寸断により供給も停滞するからだ。供給が停滞しているところにお金だけ投じて有効需要創出策をとっても,物価が上がるだけだ。これは各国政府・エコノミストが望んでいたインフレではない。望ましいのは,企業と個人の所得が増えて実際に財・サービスが買えて生活が豊かになり,その需要超過でゆるやかなディマンドプル・インフレになることだ。実質的に買えるものは変わらないか少なくなってしまうコストプッシュインフレやボトルネックインフレになるのでは,何の意味もない。この点はよく検討しなければならない。低所得層支援を持続的に行って需要の下支えにしつつ,医療・健康分野やサプライチェーン再構築支援など真に投資につながる支援を行うように,支出の分野・方法をよく考える必要があるだろう。

2020年3月7日土曜日

「社会経済の機能を可能な限り維持しながら感染拡大を抑制する」というモードを崩してはならない

安倍政権による中国,韓国からの入国規制は,小中高の一斉休校と同じく専門家会議の意見を聞いたものではない。感染症対策で専門家の意見抜きに,もっぱら政治判断で大胆な措置をするのは適切でない。
 この措置の行く末について,押谷仁教授は非常に重要なことを言っている。
「危険な地域から人を受け入れないことは感染症対策としてはあり得る。ただ、危険な地域は東南アジアや米国などにも広がっており、全部やらなければならなくなる」(『東京新聞』2020年3月6日)。
 そうなったらどうなるのか。
 私が先日の専門家会議の会見を見て感銘を受けたのは,現在の感染症対策を「武漢というところは,社会機能を停止させることで感染の拡大の収束に向かおうとしたが,わが国の現時点では社会経済活動を可能な限り維持しつつ感染拡大抑制の対応策を取るという,そう言うバランスを持ってやることが求められている」と理解し,その線で進めようとしていることだ。的確なとらえ方だと思う。社会科学者がもっと早く言うべきだったと反省した。この方向性を守るべきだ。そうすることで,日本社会の強靭さを示すべきだ(買い占め騒動など,強靭でないところも確かにあるが)。
 海外からの入国規制を,イタリア,フランス,イギリス,アメリカと広げていったらどうなるのか。確かに,感染者は互いに行き来しなくなる。それはいい。しかし,人と物と金と情報も行き来しにくくなる。無人運転とネットですべてが動くわけではないからだ。その影響は大きい。わが日本は自給自足しているわけではないからだ。
 そうすれば,社会の機能を停止してウイルスを抑え込むというモードに移行する。感染症対策のモードだけでなく,社会のモードが移行する。
 それは危険だ。感染症で死ぬ人が減ったとしても,物不足,コストプッシュインフレ,所得低下,失業により,健康状態が悪化し,死ぬ人が増える恐れが大きくなる。それでは本末転倒だ。
「社会経済の機能を可能な限り維持しながら感染拡大を抑制する」というモードを崩してはならないと,私は思う。

「<新型コロナ>中韓からの入国規制 首相表明 ビザも停止 指定場所で2週間待機へ」『東京新聞』2020年3月6日。


【LIVE】新型コロナウイルス 専門家会議 会見,2020年3月2日。


2020年3月6日金曜日

「多数のPCR検査がなされていないから,感染者が本当は何人いるかわからない」ことについて

「多数のPCR検査がなされていないから,感染者が本当は何人いるかわからない」ことについて。実はここ数日,複数の学生からこのような話を聞いている。あまり専門外のことに立ち入りたくないが,一応,勤務先大学も専門家会議と政府の方針に沿って学生に色々お願いしている当事者なので,学生に不安や疑問があれば答えねばならない。まとめてみた。

1.PCR検査は感染者数を測定するために行っているのではない
 そもそもPCR検査は感染者数を測定するために行っているのではありません。重症者や,既往症のあるハイリスクの感染者を特定して,そのような人の生命を救い,重篤な状態に陥らせないためにあるのです。誰もかれもについて陽性か陰性かを決めるために行っているのではないのです。人数がわからないから検査がおかしいというものではありません。重症者やハイリスク感染者の命を救うことに役立っていれば有効です。

2.感染者数をPCR検査で把握するのは日本では不可能
 検査がたくさんなされないと,確かに感染者数は正確にはわかりません。北海道の感染者数は3月4日までで82人ですが,専門家会議は940人いるだろうと推定しています。しかし,正確に確かめようとしたら,住民を片端から検査しなければなりません。北海道の人口は528万人もいるので,不可能です。3月2日の政府答弁によれば,検査能力は1日4000人超ですから。つまり,感染者を片端から個別に見つけることはそもそも不可能です。

3.軽症の人に検査して陽性であっても,対処は変わらない
 次に,たとえ軽症の人に検査対象を広げた結果,陽性だとわかったとしても,医療機関や本人がやることは同じだということです。重症になりそうな人は今も検査して,陽性だったら入院させています。無症状の人については次に書きます。問題は風邪の症状があるような軽症の人です。
 軽症の人に検査して陽性であったとしたら,どうなるでしょうか。
 まず医療機関。検査数の少ない今は,軽症でもCOVID-19だとわかったら入院させることが多いようです。けれど,検査数を増やして感染者数が多数見つかった場合は病床が足りませんから,軽症者を入院させることは不可能です。そしてCOVID-19には特効薬がありません。ですから,風邪症状なら風邪の治療,肺炎ならば肺炎の治療をするしかありません。ここがインフルエンザと違います。
 次に本人と家族。ここは,日本政府の方針がポイントです。日本の方針は,「風邪の症状が出たら,自宅で療養し,自宅内で自己隔離してください」です。これを守っている限り,風邪の段階ですでに自宅隔離しています。もし軽症のCOVID-19だとわかっても,やはり自宅隔離なので,やることは同じです。
 だから,軽症の人を検査で見つけ出しても,やることは同じなので意味がないのです。
 それどころか,検査対象を広げて大勢の人が病院に押し寄せれば,それだけで感染が広がる恐れがあり,医療崩壊を引き起こします。良いことより悪いことの方が多いでしょう(ドライブスルー検査をすれば,少し改善するかもしれませんが)。
 この方針にも弱点はあります。日本のビジネスパースンが,風邪症状の段階で自宅療養できるかどうか怪しいということと,自宅隔離は家族にとって簡単でないということです。それは,3月1日の投稿に書いた通りであり,政府はこの弱点を補う措置を取らねばなりません。

4.無症状で人に感染させている人をどうやって見つけるか
 一番問題なのは,無症状の人です。検査をしないと無症状病原体保有者が感染を広げるのではないかという不安はもっともなことです。
 これには完全な解決法がありません。片端から検査して見つけることは,2で書いたように不可能ですし,無理にそこに挑戦しても3で書いたように医療崩壊のもとなのでかえって個人にも社会にも有害です。
 となると,方法は二つだと思います。専門家会議が考えているのもこの二つだと思います。
1)感染のクラスターが発覚した時に,そこから濃厚接触者をたどっていって,無症状なのに他人に感染させている人を見つける。この場合は,濃厚接触者なら無症状でも検査しますので,無症状で感染を広げている人を見つけられる可能性があります。
2)とにかく日本の住民全員に,多人数が肘とひじの触れ合う距離で集まるところに行かないでもらう。無症状感染者の人も感染していない人もそうすれば,感染は広がりません。
  政府がこの措置を有効にするためには,やはり補完措置が必要なように思います。さしあたり大規模時差通勤を全国の政府機関に命令して導入し,自治体と企業に要請します。また,交通各社の協力を得て混雑率を緊急調査し,なお一定以上である路線を使う人には,短時間勤務になってでも通勤時間をずらすことを認め,かつ短時間勤務でも給与を保証するよう,政府機関には命令し,地方自治体と企業には要請します。このくらいは必要だと思います。

 なお,これを書き終えてから,感染症専門家である高山義浩医師のFacebook投稿に接しました。照合してみましたが,上記の見解はたぶん間違っていないと思います。
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=2735521836501306&id=100001305489071

※3月24日修正。4.2)を10-30代の人を対象としていたのを,日本に住む人全員に修正。

2020年3月1日日曜日

PCR検査をしてもらえないと不安になる理由と自宅療養の難しさ:補足措置の必要性についての考察

日本の新型コロナウイルス感染症対策における,いわゆる「なかなかPCR検査してもらえない」問題。希望者全員を検査しろとテレビやSNSで主張する人と,それはすべきではないという専門家の見解を多数読んで,ようやくこの問題の構造が見えてきたように思う。社会的なことを含むので,一応発言する資格はあるだろうから書く。

 まず検査についての私の基本姿勢は,感染症専門家と同じく,二つに分けて考えるべきというものだ。
1.医師が「検査が必要だ」と判断した患者については,迅速に検査すべきだ。これが滞っているのはおかしい。医師会も調査に乗り出しているし,厚労省も問題があることは認めている。改善すべきだ。
2.希望者が全員検査を受けられるようにすることは,検査を受ける当人にとっても社会にとっても利益がないので,すべきではない。

 さて,ここで,専門家が正しいということ自体を書きたいのではない。それはリンク先Buzzfeedの記事をご覧いただきたい。私は,専門家の見解は,事実については医学的に正しく,また行動指針としては,それが実行できれば有効なのだけれど,それでも問題があることについて発言したい。つまり,専門家の見解は,個人の常識的直観に反するので受け入れられにくいところがあり,また,個人と社会にとって実行が難しいところがあるのだ。なお,検査の問題と自宅療養の問題が連動しているので合わせて書く。

 わかりやすくするために,韓国と対比しよう。韓国では,希望者はだれでもPCR検査を受けることができる。そのため,検査数は非常に多くなり,また宗教団体の集団感染もあって感染者数は激増している。また,感染した軽症者については,いまのところ入院させる措置になっている。専門家は軽症者の自宅療養を主張しているが,政府はまだ方針化していない。そして,病床不足が起こっている。

 日本の場合は,医師が必要と認めた場合にPCR検査をすることとし,また感染者が増えた場合には,無症状者・軽症者は自治体の判断で自宅療養にすると方針化されている。加えて,風邪程度の症状があったら,検査以前の問題として自宅療養すること,出勤・登校しないことが要請されている。日韓では大きな違いがある。

1)まず検査の問題。無症状,軽症なうちにどちらの不安が募るかと言えば,日本の方だろう。個人としては,なかなか検査もしてくれないし,新型コロナウイルスに対応した特別な治療もしてくれないように見えるからだ。また社会としては,検査不足のために感染者数が過小に表示されているという疑心暗鬼が募るからだ。実際に,そこのところで不安と不満が募っている。

 実は,ここで個人にとって,検査しないことによる不利益はない。「風邪の症状があったら自宅療養する」のが有効なのは、実際に風邪であっても軽症の新型コロナウイルス感染症であっても同じだ。そして,実は軽症である限り,検査してもしなくても医師がやってくれる治療法は同じなのだ。新しい薬がもらえるわけではないし,入院も,これまではほとんどさせてくれたが,もっと感染者が増えれば軽症では不可能になるだろう。なぜかというと,一方で,この新型コロナウイルス感染症について,軽症の場合は対処療法しかないからであり,他方で対応できる病床が限られている上に,ダイヤモンド・プリンセス号対応で首都圏のキャパシティを使ってしまったからだ。重症の人から順に入院させねばならない。なので,無症状や軽症の人にとって,仮に検査しても,しないのと結果は同じになる。だから無理に検査対象を広げない。日本の方針は理屈に合っている。

 にもかかわらず,無症状の住民,軽症の患者からすると,不安や不満は解消しない。そこには理由がある。日本では,多くの人が日常感覚として医療に対し「検査結果に応じて新しい対処をしてもらえる」,「感染しているとわかったら新しい対処をしてもらえる」,「そうあるべきだ」という期待を持っている。私も持っている。ところが今回は,もし希望者全員が検査を受けられるようにすると,「検査結果がどうあれ,対処は変わらない」,「感染しているとわかっても新しい対処は何もない」ということになるのだ,と専門家が言っている。これは多くの人にとって「皆さんの期待には応えられません」と告げられていることを意味するので,不満を覚えるし,健康にかかわるから不安も覚える。感覚的に受け入れがたいので,「全数検査すべきだ」という主張や「検査が少ないのは××の陰謀or利権だ」という議論に惹かれやすくなる。

 私は,ここで政府も専門家も,すじを曲げる必要はまったくないが,市民・住民の心理を踏まえた工法とコミュニケーションがもっと必要だと思う。このままでは疑心暗鬼が募るであろうし,募ることにはそれなりの社会心理的な理由はあるからだ。

 ちなみに韓国の場合,誰でも検査を受けられるから,その時点での不安・不満は日本より少ないだろう。もしこれで,実際に感染者が少なければそれでみな安心して話は終わりである。それならばよかった。しかし,実際には感染者が多数見つかったり,軽症者も含めて病院に殺到した。だから韓国では病床の不足,陰圧病棟を重症者に優先に割り当てられないという困難が生じている。現時点で,いわゆる「医療崩壊」の危険は日本より韓国に生じていると言ってよい。だから韓国のようにすればよいということにはならない。

2)自宅療養の問題。「PCR検査してようがしていまいが,風邪の症状が出た段階から自宅療養する」という日本政府・専門家の見解は,実行できれば正しいと思うが,実行が難しい。

 まず,日本の会社は,風邪くらいでは休ませてくれないおそれがある。ここが最初の壁となる。新型コロナウイルスに感染していれば,さすがに「出勤するな」と言う場合がほとんどだろうが,「陽性か否か」で会社の態度は大きく違うことが多い。インフルエンザもそうだが,日本のビジネスパースンには,「陽性か否か」で自宅待機のお墨付きの有無が決まってしまうのだ。なので,風邪症状の段階で自宅療養を徹底することが難しい。
 だから,日本政府は,「現下の情勢で,風邪の症状がある人を出勤させるのは労働契約法上の安全配慮義務違反であり,許されない。出勤を停止せよ」と企業に通知し,また有給休暇を与えることを要請し,さらに小中校の休校のこともあるので休業補償の制度を緊急に整えるべきだ。そうしないと「風邪で休め」の実行は難しい。

 次に,風邪であれ軽症の新型コロナウイルス感染症であれ,家族がいる場合には感染させないように防護措置を取らねばならない。家族への感染は大いにありうるのに,その防止策の宣伝と支援が弱すぎる。政府方針には,自宅療養のことは書かれていても,家族への感染防止については一言も書かれていない。これでは「病院で何とかしてもらいたい」「入院させてほしい」という心理は募るばかりだ。

 例えば,厚労省の一般向けQ&Aには以下のことが書かれているが,読む人は少ないだろう。(引用)「(1)部屋を分けましょう。(2)感染が疑われる家族のお世話はできるだけ限られた方で。(3)マスクをつけましょう。(4)こまめに手を洗いましょう。(5)換気をしましょう。(6)手で触れる共有部分を消毒しましょう。(7)汚れたリネン、衣服を洗濯しましょう。(8)ゴミは密閉して捨てましょう」。政府は,これをシェア先のBBCの動画のようにもっと大々的に,わかりやすく広報することに重点を置いて,自宅療養への不安を和らげる工夫をすべきではないか。

 日本政府と専門家は,人がどのようなところに不安を持ちやすいか,必要であっても社会においてやりにくいことは何かにもっと注意を払って,医学的見地を補強する措置を取ってほしいと思う。

「新型コロナウイルス、自主隔離でやるべきこと」BBC NEWS JAPAN,2020年2月28日。

https://www.youtube.com/watch?v=8Aiku0QH9S0

岩永直子「新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの?  感染管理の専門家に聞きました」Buzfeed,2020年2月26日。
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-sakamoto

新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)Q13 「家族に新型コロナウイルスの感染が疑われる場合に、家庭でどんなことに注意すればよいでしょうか?」厚生労働省。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q13

2020年2月28日金曜日

トイレットペーパーが輸入できずに足りなくなるというのはデマ:調べたら国産化率97%

2018年のトイレットペーパー需給関係

生産:104万6310トン
輸出:889トン (統計品目4818.10)
輸入:3万2248トン (同上)

見掛消費(生産-輸出+輸入)=107万7669トン
国産化率(生産/見掛消費)=97%
輸入依存率(輸入/見掛消費)=3%

ほとんど国内生産,国内消費。中国から輸入できなくなって足りなくなるというのは悪質なデマ。ありえない。

出所:
生産,出荷,在庫は平成30年経済産業省生産動態統計年報
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/08_seidou.html#menu9
輸出,輸入は財務省貿易統計。コードは4818.10
https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm?M=29&P=0

2020年2月23日日曜日

日本災害医学会理事会の「新型コロナウイルス感染症対応に従事する医療関係者への不当な批判に対する声明」によせて

 私たちは勝手だ。社会の中で生きているのに,自分の好き勝手に生きたいと思う。いずれは死ぬと決まっているのに,死にたくないと思う。できっこないことを一番大事だと決めつけて,一番大事なことだから何をさておいても主張していいのだと思考を停止する。そんな私たちだから,私たちを守ってくれる人のことを理解せずに,石を投げ,差別する。勝手な私たちを,それでも守ってくれる人なのだと気がつかずに。

 鏡を見よう。自分が何をしているのかを考えよう。

「新型コロナウイルス感染症対応に従事する医療関係者への不当な批判に対する声明」日本災害医学会理事会,2020年2月22日。

『ゴジラ -1.0』米アカデミー賞視覚効果賞受賞によせて:戦前生まれの母へのメール

 『ゴジラ -1.0』米アカデミー賞視覚効果賞受賞。視覚効果で受賞したのは素晴らしいことだと思います。確かに今回の視覚効果は素晴らしく,また,アメリカの基準で見ればおそらくたいへんなローコストで高い効果を生み出した工夫の産物であるのだと思います。  けれど,私は『ゴジラ -1.0...