フォロワー

ラベル 大学問題 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 大学問題 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019年6月1日土曜日

消えざるを得ないとすれば,どのような大学から順に消えるべきか

 消えていく大学がちらほらとある一方で,国立大学の定員を見直すという話題もちらちら見え始めています。お前は国立大学の教員だから言えるんだと言われればその通りですが,それでも申します。1)学生が集まらず,定員割れを起こしている大学から順に退出するのが妥当です。これに反することをやってはいけません。2)大学という名にふさわしい授業を行っていない大学から順に退出するのが妥当です。財務省をニュースソースに,高校・中学並みの英語の授業をしている国立大学あることを,ことさらに取り上げる報道がありましたが,それどころの騒ぎではない私立大学は存在しないのか,よく調査してはどうかと申し上げたい。

「広島国際学院大 募集停止へ」NHK NEWS WEB,2019年5月31日。



2019年5月29日水曜日

続々:留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について

 法務省が,日本の大学を卒業した留学生が就職できる範囲を広げ,日本語能力がN1に達しているのであれば,接客業や小売業でも認めるという報道がありました。
 以前に書きましたように(1,2),私はホワイトカラー業務や専門職への就職制限を緩和することには賛成ですが,ブルーカラー業務への就職制限を緩和することには反対です。今回も,接客業や小売業のホワイトカラー職(例:コンビニの購買担当業務やシステム開発業務)への就職ならばいいですが,コンビニの店員,居酒屋の店員への就職を含むならば反対です(私の言うブルーカラー職は現場での肉体労働による販売労働を含みます)。
 留学生が卒業してブルーカラー業務に就く可能性を閉ざせと言っているのではありません。そのような場合は,「特定技能」の資格に応募しなおす仕組みとすべきです。そして,「特定技能」の対象に接客業や小売業を含めた上で,それらの語学能力要件をN1にすればよいのです(「特定技能」全般についてはN4でなくN3にすべきです)。そうして,「特定技能」の受け入れ総数を管理します。それだけのことです。今回の政策には,そういう適切な制度設計をせずに,手っ取り早く人手不足を解消したいという安直な姿勢が見えます。このようなことを,法改正なしに法務省の告示だけで行うなどとんでもないことです。
 この政策ではなぜまずいかを説明します。何よりも,留学生に日本語能力だけを身に付けさせてブルーカラー業務に就職させるというルートを念頭に置いて,教育体制も整っていないのに留学生の大量獲得を目指すというモラル・ハザードが,一部の大学に発生するおそれがあるからです。東京福祉大学事件を念頭に置くならば,これは決して杞憂ではないでしょう。留学生を対象とする高等教育を形骸化させる危険があります。
 もうひとつは,人数に制限がないからです。「特定技能」の人数管理もあまり適切に行われているとは言えませんが,一応,ぼんやりとした総枠はあります。しかし,「特定活動」には全く総枠はありません。日本の労働市場の状態と関係なく外国人労働者の参入を認めるのは,適切ではありません。景気の状態によって,日本の高卒の若者との競合を招きかねません。
 外国人労働者を適切に受け入れることは必要です。同時に,留学生に対する高等教育の質を向上させるために,必要な工夫をすべきです。安易な政策は,日本の高等教育の効果をそぎ,質の低い職を外国人大卒者におしつけることになりかねません。

「専門外の接客業OKに 法務省、留学生の就職先を拡大」朝日新聞デジタル,2019年5月28日。
https://www.asahi.com/articles/ASM5X3TKYM5XUTIL026.html

出入国在留管理庁「留学生の就職支援のための法務省告示の改正について」2019年5月28日。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00210.htm

前稿
「留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について」Ka-Bataブログ,2018年10月22日。
「続・留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について」Ka-Bataブログ,2018年11月3日。

参考
「東京福祉大学問題から見える,歯止めなきトップダウンのダメさ加減」Ka-Bataブログ,2019年4月13日。
濱口桂一郎「留学生の就職も「入社型」に?」hamachanブログ(EU労働政策雑記帳),2018年10月25日。
濱口桂一郎「ジョブ型入管政策の敗北」hamachanブログ(EU労働政策雑記帳),2019年5月29日。


2019年5月25日土曜日

リンク集:年俸制適用拡大をはじめとする国立大学法人等人事給与マネジメント改革について

久しぶりに組合サイドのセミナーをしなければならず,国立大学教員への年俸制適用拡大について調べる。意外と,金額的に直ちに響くのは最後の社会保険料のところだったりするので注意。 「統合イノベーション戦略」閣議決定,2018年6月15日。 https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/tougo_honbun.pdf 「人事給与マネジメント改革の動向及び今後の方向性」文部科学省 高等教育局 国立大学法人支援課,中央教育審議会大学分科会制度・教育改革ワーキンググループ(第17回) 配付資料,2018年7月31日。 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/043/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/08/03/1407795_5.pdf 「人事給与マネジメント改革に関する Q&A(ver.2.1)」2018年9月12日。 https://ha4.seikyou.ne.jp/home/kumiai/18/QandA2-1.pdf 「国立大学の教育研究活性化を促進する人事給与マネジメント改革に関する基本的な考え方について―特に業績評価と新しい給与システムの在り方について―」一般社団法人国立大学協会,2018年11月2日。 https://www.janu.jp/news/files/20181102-wnew-HR-Payroll.pdf 「厳格な業績評価に基づく新たな年俸制」エルムの森だより:北海道大学教職員組合執行委員会ブログ,2018年11月8日。 http://elm-mori.hatenablog.com/entry/2018/11/08/143653
「国立大学法人等人事給与マネジメント改革に関するガイドライン~教育研究力の向上に資する魅力ある人事給与マネジメントの構築に向けて~」文部科学省大臣官房人事課・高等教育局国立大学法人支援課・研究振興局学術機関課,2019年2月25日。 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/11/1289344_001.pdf シニアガイド編集部「『年俸制は毎月均等の金額で受け取った方が得』は本当か!?」シニアガイド,株式会社インプレス,2016年2月23日。 https://seniorguide.jp/article/1001686.html 深田俊彦「相談室Q&A 年俸制を適用することによって,社会保険料の支払いに何か違いが生じるのか」『労政時報』第3912号,2016年7月8日。 https://www.ohno-jimusho.co.jp/news/pdf/news20160729_2.pdf

2019年4月23日火曜日

「ジョブ型」通年採用は「仕事に即した処遇」と「年齢不問」を意味することは認識されているか:「採用と大学教育の未来に関する産学協議会の中間とりまとめと提言」を検討するにあたって

 経団連と,就職問題懇談会座長,国大協会長や私大連会長などがつくる「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が中間とりまとめと共同提言を発表した。全体として,前向きに検討すべき点を多く含んでいるが,現時点でどのメディアも報道していない,「もしかして忘れてない?大丈夫?」という点が二つあるので,まずそれだけ大急ぎで述べておきたい。

1.「ジョブ型採用」の意味
 「今後の採用とインターシップあり方に関する分科会」の中間とりまとめは,「ジョブ型採用」を「新卒,既卒を問わず専門スキルを重視した通年での採用,また留学生や海外留学経験者の採用」としている。

 やや,ずれている。

 「ジョブ」型採用とは,技能=skillでなく,job=職務を指定した採用だ。つまりは,範囲はいろいろあるとしても,やるべき仕事を指定した採用だ。やるべき仕事を指定しているから,それに必要な専門スキルによって選考するのだ。それがわかっているならいいのだが,どこにもそう書かれていないので,不安を覚える。
 スキルを指定して採用したあげく,どの仕事に就けるかは白紙で会社が決めて,協調性と努力主義を評価しながら年功的に処遇するという,今までと同じ方式ではどうしようもない。
 普通に考えれば,ジョブ型で採用すれば,ジョブ型で処遇するのが整合的だ。すなわち,1)ジョブ=職務のグレードと職務の成果に対応した給与とし,2)ジョブが変わらない限り昇進や配置転換や転勤はなく,3)ジョブが存在してそれを当該労働者が正常に遂行できる限り雇用され続けるが,4)ジョブが消滅する場合は解雇される。現在,日本企業の大半では,そのような人事管理を正社員に対して行っていない(非正規には,差別的低賃金で,かつ3)を除いて適用している)。ジョブ型の処遇に踏み込むつもりはあるのだろうか,ないのだろうか。

2.「ジョブ型採用」は年齢差別禁止
 中間とりまとめも共同提言も,「新卒,既卒を問わず」とは書いているものの,基本的に大学生や,大学を卒業してまもない者しか念頭に置いていない文章になっている。

 大丈夫か。

 多くの人が普段忘れているが,わが日本には雇用対策法により採用の年齢制限禁止が規定されている。「ハードな重労働!高齢者には到底無理! 40歳以下で募集します」も「若者向けの洋服の販売スタッフなので30歳以下で募集しても問題ないよね?」も「社長が40歳、その他のスタッフも皆30代以下。業務上指導しづらいし、中高年齢者は浮いてしまうので、30代以下しかとれない!」も「PC操作や夜間業務もたくさんスキルや体力面で、高齢者は不安なので若い人を募集」も,採用条件に年齢を入れたら最後,すべて違法なのである(「その募集・採用。年齢にこだわっていませんか?」厚生労働省リーフレット)。

 ただ,「長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合」は,1)対象者の職業経験について不問とすること,2)新卒者以外の者について、新卒者と同等の処遇にすることを条件として例外的に許されているのだ。だから,「20○○年3月大学卒業見込みの者」に限った新規学卒採用が行えるのだ。

 「ジョブ型採用」を行った場合,この例外規定は適用されるだろうか。まともに考えれば,されないと思う。職務に対応した「専門スキル」を基準に採用し,通年で採用し,新卒,既卒は関係ないとする以上,年齢を制限できないと見るのが理屈だろう。「ジョブ型採用だけど若年層に限ってくれ」というのでは,理屈が立たず,中高年男女から差別だという訴訟が頻発するだろう。

 とすると,「ジョブ型採用」の場合,新卒者は,少し年齢が上の既卒者のみならず,数多くの,あらゆる年齢の,転職・中途採用希望者と,専門スキルで競争しなければならないのだ。

 それが良いとか悪いとか言っているのではない。制度の整合性を保とうとすれば,そうならざるを得ないのだ。

 経団連側は,またもっと心配なのは大学側は,さらにそれ以上に心配なのは報道しているマスメディアは,上記2点を分かったうえで「ジョブ型採用」の拡大について論じているのだろうか。心配である。

 皮肉でなく,この一文が杞憂であって,まともに議論が深まることを希望する。

採用と大学教育の未来に関する産学協議会「採用と大学教育の未来に関する産学協議会 中間とりまとめと共同提言」(2019年4月22日))経団連ウェブサイト。

<関連投稿>
「経団連の「就活ルール」廃止と「提案」をどう受け止めるか」Ka-Bataブログ,2019年2月22日。
「「事務職になりたい」は過去へのあこがれだが「転勤がないように働きたい」は未来への要求だ」Ka-Bataブログ,2018年11月6日。
「就活ルール廃止後に求められる改革の基本方向」Ka-Bataブログ,2018年10月11日。

2019年4月17日水曜日

研究活動の停滞は大学院教育の停滞も招く

文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査に対する国立大学関係者の回答。

1.「(研究活動の停滞が)教員が持つ最先端の知識の陳腐化を招き、教育・指導の質の低下につながっている」85%(「どちらかというとそうである」を含む)
2.「(授業料や国からの運営費交付金でまかなう)基盤的経費のみでは学生が卒業・修士・博士論文を執筆するための研究を実施することが困難」78%(同上)

 まったくそのとおりと私も感じる。学部生と院生では多少異なるが,院生の場合は特にはっきりしている。これを理解するポイントは,院生の教育の根幹は,院生の研究を支援するところにあるということだ。
 1はシンプルな話で,教員の研究水準が低くなれば,その教員に論文を読んでもらってコメントをもらう院生の水準もおおむね低下する。2も深刻であって,院生に独自の研究費というのはない大学がほとんどだ。教員が使う講座費や,部局・大学の共通ユーティリティ(図書館とかネット環境とか)だけでは院生の研究を支援することはできず,院生がよほどの大金持ちでない限り身動きならなくなる。
 具体的に言おう。私のゼミでは,院生の研究支援に資金が必要なのは以下のような場合だが,いずれも私の手元の講座費では全くまかなえない。文系と言えどカネはかかるのだ。

*院生の実態調査の旅費(国内も国外もあり)。実態調査に基づく事例研究を主とするゼミであるため,これが一番大きい。
*院生が学会発表する際の参加旅費
*院生が研究に使用するデータ資料の購入(シンクタンク,調査会社発行の高価なもの)や高額書籍の購入費
*院生に刺激を与える著名・関連分野研究者をセミナーに招聘する旅費・謝金
*院生が投稿する際の英文校閲費や投稿料

 これらの費用は,以下の諸手段でまかなうことになる。言うまでもないがコンプライアンス前提であって,国や大学の規則に反する裏金などつくることはできない。

a)教員と重なるテーマであれば,院生を科研費の研究協力者にする。あるいは院生も構成員に出来る外部資金での研究プロジェクトに参加する。そうすると科研費から調査旅費や成果発表旅費や英文校閲費を支出できる。
b)教員と重なるテーマであれば,教員が学内や学外の競争的資金を獲得して研究プロジェクトに参加し,国内外から研究者を招聘するセミナーを開催し,院生もそれに参加する。
c)教員が科研費やその他の外部資金を多く獲得して研究し,その分だけ浮いた講座費で院生の研究を支援する。
d)院生が学術振興会特別研究員(DC1,DC2)に応募する。
e)留学生の院生が,日本政府国費研究生の国内募集枠に応募する。
f)院生が代表者になって応募できる民間の研究助成金に応募する。
g)院生・若手研究者を海外に派遣する諸制度に応募する。
h)院生の学会参加を支援する諸制度に応募する。

 このうちa)b)c)は教員の研究が停滞するとお金が獲得できなくなるので,院生の教育も連動して停滞する。また教員の研究が停滞すると,おそらくはd)の採択可能性も低まる。そして,大学の研究全体が停滞すると,おそらくはf)g)h)も獲得しにくくなるのだ。

「研究活動の停滞、教育への影響8割が危機感 国立大  文科省研究所が意識調査」2019年4月12日。

2019年4月13日土曜日

東京福祉大学問題から見える,歯止めなきトップダウンのダメさ加減

 東京福祉大学による研究生としての留学生大量受け入れは,元総長の中島恒雄氏の指示によるものであったという告発があった。

 中島氏は2008年1月に強制わいせつ罪で逮捕され,実刑判決も受けた。以後,東京福祉大学は中島氏が「本学の経営や教育に関与することはない」とホームページで約束した。しかし,実際には大いにかかわっていたことになる。

 実はこのことは以前より,誰あろう,文部科学省大学設置・学校法人審議会によって公式に指摘されていた。東京福祉大学は2012年度より経営学部,大学院経営学研究科を開設すべく文科省に設置申請を提出したが,「元理事長を法人運営に関与させてきていることや、本設置認可申請後に及んで学校法人として不適切な管理運営が行われていたことが確認された」として,設置「不可」の認定を受けたのだ(「」内は判定不可の理由を記した文書より)。

 田嶋元教授は,中島氏が指示を出していた証拠として20011年9月の会議音声を公開したそうだが,これは文科省に設置申請をしていた時期と一致する。

 田嶋元教授もかなり過酷な目に遭われたようだ。東京福祉大学は,まず2012年3月末で教授を雇い止めると通知して,裁判で無効とされた。3年前に卒業した院生へのセクハラ・パワハラを理由に懲戒解雇し,それも1審,2審で敗訴して和解し,謝罪して原職復帰を認めることになった。しかし,さらなる嫌がらせ,雇用契約の不利益変更を迫り,労働審判でそれが否定されると今度は訴訟に移行したようだ。田嶋教授は2018年3月31日に定年退職された。

 田嶋氏に対して,自分が嫌がらせに遭ったから意趣返して告発しているのだろう云々というコメントがネットを飛び交うかもしれないので言っておく。文科省も裁判所も異常な経営を認定しており,どうみても東京福祉大学の方がおかしい。

 いま,大学のガバナンスが取りざたされているが,たいていの場合,「教授会が頑迷で何も決められないからトップダウンにしろ」という方向で議論がなされるのはどうしたことか。むちゃくちゃな行為が行われるのは,たいてい,トップダウンが行き過ぎた場合であり,それに歯止めをかけるしくみが欠如している場合であることは言っておきたい。

「留学生大量失踪の東京福祉大、元教授が緊急会見。元総長が「120億のカネが入るわけだよ」と会議で発言。金儲けのために留学生受け入れか」ハーバー・ビジネス・オンライン,2019年4月10日。

平成24年度開設予定大学院等一覧(判定を「不可」とするもの)

平成24年度開設予定学部等一覧(判定を「不可」とするもの)

「東京福祉大学事件」田嶋心理教育相談室。

「東京福祉大学事件」交通ユニオン。

2019年3月5日火曜日

年功賃金をそのままにした「働き方改革」で「同一労働同一賃金」は実現できるか

 「大学職員に「同一労働同一賃金」はありえるのか?」大学職員の公募情報lite,2019年3月2日
 この記事のライターは大学の職場に独特の事情をとりあげることを意図していたのだろうが,企業一般に存在する問題を言い当ててしまっている。

「契約職員の同⼀労働同⼀賃金を阻んでいる壁が、専任職員に適用されている年功俸給です。」
「専任職員の年功俸給と契約職員の同⼀労働同⼀賃金を併存させようとすると、「30歳と40歳の2名の専任職員と同じ業務を契約職員が担当した場合、どちらの専任職員の給与に合わせるのか︖」というような問題が生じます。」

 その通りだ。これは,大学だけの話ではない。日本の年功賃金を放置したまま「同一労働同一賃金」を実現しようとする「働き方改革」関連法の前に立ちふさがる,最大の壁であり,原理的に乗り越え困難な壁である。一体全体,どうするつもりなのか。

 この記事のライターは言う。
「したがって、契約職員と専任職員の間で同⼀労働同⼀賃金を実現するためには、おそらく専任職員に関する厳密な能力主義給与体系が前提になるのではないかと思っています」。

 まちがいとはいえないが,こういってもおそらく力がない。日本の大企業は,すでに「能力主義管理=職能給」を制度上は実行しているからだ。しかし,「能力」を測る尺度が曖昧模糊としているために,現実にはジェンダーバイアス付き年功賃金となっている。ここでジェンダーバイアスとは,露骨に女性を劣等視する差別だけではなく,「育休なんか取るやつは会社に貢献する能力がない」という類の,事実上女性を不利な立場に追い込むことを含む。

 だから,同一労働同一賃金を実現しようとしたら,必要なのは能力主義ではなく,職務給だ。ポストそのものに値段をつけ,誰がやろうとも同じ賃金を払う。もちろん,成果査定によって差はつくだろうがベースは同じだ。これならば,30歳と40歳の専任職員の給与は同じなので,冒頭の悩みはない。専任社員と契約社員との職務の価値(肉体的・精神的負荷,付加価値への貢献,難易度,必要な訓練費用,責任の度合いなど)の同一性・差異性だけで考えて,つまりは同一(価値)労働同一賃金の原則によって賃率を設定できる。

 日本の正社員の賃金形態を一気に職務給に飛び移らせることは難しい。しかし,年功賃金のままで契約社員や多様な非正規社員との間での同一労働同一賃金を図ることは,もっともっと難しい。

 この難題は,現在厚労相から提出されている「同一労働同一賃金」ガイドライン(※)では解決されていない。このままでは企業の現場は混乱し,「働き方改革」は,基本給の同一労働同一賃金については絵に描いた餅になるだろう。どうしたらよいのか。政府には,関連法案が完全適用される来年4月までに方策をねり,より具体的な法解釈を整える責任がある。

「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン),2018年12月30日。

2019年2月22日金曜日

経団連の「就活ルール」廃止と「提案」をどう受け止めるか

 以下は,『全大教新聞』第356号,全国大学高専教職員組合,2019年2月10日に寄稿したものです。

--

 2018年10月9日,日本経済団体連合会(経団連)は2021年度以降入社対象の「採用選考に関する指針」(いわゆる「就活ルール」)を廃止することを決定し,さらに12月4日に「今後の採用と大学教育に関する提案」(以下「提案」)を発表した。この経団連の動きに対して,ここでは2点述べたい。

「青田買い」激化のおそれとその弊害

 第一に,「就活ルール」廃止は,大学教育と学生生活を今以上に攪乱するおそれがある。これまでも経団連の「就活ルール」が形骸化し,そこで定められた期日以前から採用活動が行われて来たことは公然の事実である。その廃止は現状を追認しつつ公認する作用があり,企業による学生の早期囲い込みはさらに激しくなる可能性がある。

 より広く見ると,このような青田買いは,個別企業の短期的利益にはなっても,日本社会の人的資源涵養,有効活用にはならないという問題がある。日本の新規学卒採用は,在学中の卒業予定者だけを対象にして,職務と勤務地を明示せずに「入社」させるものであり,濱口桂一郎氏が定式化したメンバーシップ型雇用の入り口である(濱口『若者と労働』中公新書ラクレ,2013年他を参照)。選考時に学生に求められるのは,各社が各様に定める「潜在能力」であり,実際には「協調性」を含む「人格」が重視される。選考活動で学生は人格を問われ,落とされるたびに人格を否定されて衝撃を受ける。これまで,このような活動が企業にとって有効だったのは,「入社」させた従業員の多くを定年まで長期雇用し,忠誠心と技能の混合物を企業内訓練で育成することで,企業成長に貢献させることができたからである。ところが1990年代末から,経済停滞による雇用コストの相対的上昇,専門人材獲得の困難,女性の活躍の困難など様々な問題が噴出し,このような雇用管理の有効性が低下しているのである。

大学の立場からの改革提言を

 第二に,「提案」は,企業の立場から日本の労働市場を改革しようとするものであることに注意しなければならない。「提案」は,「新卒⼀括採⽤のほか、卒業時期の異なる学⽣や未就職卒業者、留学経験者、外国⼈留学⽣などを対象に、夏季・秋季の採⽤・⼊社なども柔軟に⾏うべき」であり,「新卒・既卒や⽂系・理系の垣根を設けない、通年採⽤・通年⼊社等の多様な選択肢を設けていく必要がある」と述べている。そして,この構想の実現のために「⼤学と経済界が直接、継続的に対話する枠組み」の設定も提案している。新規学卒採用をやめはしないものの,その比重を減らしていこうという提案である。その分だけ,何らかの形で職務や勤務地を特定したジョブ型雇用と,新規卒業予定者に対象を限定しない採用を増やしていこうというのである。

 経団連の目的は企業利益のための多様な人材,専門的人材の獲得であるが,その提案は低成長・人口減少・超高齢化という社会の変化に対応している面がある。この社会に残された労働力の給源は,再就職を目指す女性や高齢者である。現在の雇用慣行では,これらの人々は非正規としてしか採用されない傾向が強い。日本社会の持続可能性のためには,性別はもちろん,年齢や,初職,転職,再就職の区別のない雇用管理を拡大することが必要である。このことは社会的にも明らかであるが,企業の立場からも人的資源の幅の制約を突破する方策として唱えられているのである。

 ジョブ型採用が拡大した場合の大学への影響は複雑である。新規学卒採用に特有の青田買いや,「就職浪人」が受ける極度に不利な扱い,就活での人格否定がなくなることは望ましい。他方,ジョブ型の採用においては,学生は全年齢層を含む競争に加わらねばならず,「潜在能力」でなく明確な職業的能力を問われることになるので,不利な立場に立たされるおそれがある。そのことは,大学に対する職業教育の要請に結びつく。

 「提案」の実行に日本企業がどこまで踏み出すかは容易に予期しがたく,「就活ルール」廃止が企業の身勝手な青田買いの激化に終わる危険もある。大学はこのことに十分な警戒を払わねばならない。と同時に,大学と労働市場の結びつき方について,大学自身の立場から提言することが求められているのである。

--

<関連投稿>
「大学の学力問題と労働市場 (2017/7/4)」Ka-Bataアーカイブ。



2018年11月3日土曜日

続・留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について

 山脇康嗣「日本で年収300万超の外国人が大量に働く日」(※1)より引用。「日本が本格的な移民社会になるという意味で、見落とされている重大な「改正」が、実はもう1つある。それは、外国人留学生が日本の大学を卒業し、年収300万円以上で「日本語による円滑な意思疎通が必要な業務」に就く場合は、職種を問わず、期間も限定せず、「特定活動」という就労資格を認めるというものだ。」

 私は仕事の性質上,入管法が対象にしている技能労働よりこちらの大学生の問題の方に意識が向いていて先に気が付いたが,一般には気が付きにくい。というのは,この改正は入管法を改正せずとも,法務大臣の告示だけでできてしまうからだ。実は,私もこの法改正が不要という手続きの落とし穴は見逃していて,濱口桂一郎氏にご指摘いただいた(※2)。

 先日,私はこのブログで,ホワイトカラー職への就職制限を外すのは賛成だが,ブルーカラー職への就職を認めるのは,留学・大学という制度の無駄遣いなのでやるべきでないと主張した(※3)。

 私が恐れているのは,大学を技能労働者になるためのトンネルに使う動きであり,それによって1)大学教育にかける資金と労力が有効活用されないこと,2)いま一部の日本語学校がそうなっているように,大学の入試と教育水準が劣悪化すること,3)そしてこのルートにより技能労働者の受け入れ総数が何のチェックもなく増えることだ。最後の点について,大卒の外国人と高卒の日本人が就職で競合するようでは,留学生獲得政策の信頼性が問われ,反発も強まるだろう。

 政府は入管法改正案で,労働市場テスト(=その職に日本人が採用できない市場状況であることの確認)も総量規制がない受け入れ方を提案しているが,同じ発想を大学卒業者に「特定活動」ビザを付与することにも適用しようとして。「特定活動」は本来社会の多様なニーズに基づき,他の在留資格に当てはまらない活動での在留を認めるものなので,融通が利くところがある。調理の専門学校卒業後も,引き続き日本料理店で修業できるようにするとか,90日以上日本で入院して治療を受けるなどの場合だ。しかし,大学卒業者に一律付与するのは制度の大幅な拡大解釈だ。ブルーカラー業務を含む職種に就くことを,総人数無制限で認めることになる。不況期に大卒の外国人と高卒の日本人が就職で競合することにもなりかねず,留学生獲得政策の信頼性が問われ,反発も強まるだろう。

 他方,ここが改善されるならば,意見を修正してもよいかもしれない。その改善とは,1)この記事も述べているように外国人技能労働者の受け入れ枠について,労働市場テストを行い,総量もきちんと決めること,2)大卒者がブルーカラー業務に就くときは,「技術・人文知識・国際業務」ビザや職種制限の緩い「特定活動」ビザによって就くのでなく,「特定技能」ビザに応募しなおし,その基準で審査を受けることの二つが満たされることだ。なお,本当に特定の活動での在留が必要な時に,現行制度を使って「特定活動」ビザを申請することは何も問題はない。

 技能労働者の受け入れ総数を決める仕組みを作っておくことは非常に重要だ。大卒者についても,受け入れ総数が決まっている中で大卒者と送出国からくる労働者が競争するだけならば,教育制度の効果をそぐというマイナス効果は変わらないにせよ,日本の高卒労働者との競合が激しくなる心配はない。また,不況期に大卒者が技能労働者になり,その分だけ送出国から新規にやってくる労働者が減る。そうすると,外国人技能労働者の構成における大卒者比率が高まり,在留経験が長く日本語能力の相対的に高い者の比率が大きくなる。不況による就職難で当事者たちは苦労するが,労働市場全体としては競争による質の向上効果が見込めるのだ。

 以上のように,私はとりあえず日本の大学を卒業した外国人の就業制限緩和という問題に即しても,技能労働者の受け入れにあたって総枠を設け,その総枠を決定する適切な体制をつくることが必要だと考える。入管法改正案は,少なくともそのように修正すべきだ。

※1 山脇康嗣「日本で年収300万超の外国人が大量に働く日 臨時国会に上がらない重要な議論がまだある」東洋経済ONLINE,2018年11月3日。
※2 濱口桂一郎「留学生の就職も『入社型』に?」hamachan'sブログ,2018年10月25日。
※3 川端望「留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について」Ka-Bataブログ,2018年10月22日。

2018年10月22日月曜日

留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について

 外国人労働者受け入れ問題について,論点は多々あるが,大学に身近な「留学生が日本の大学を卒業して就職する場合の条件緩和」問題にふれたい。

 さて,まず法務省がやろうとしていることを正確に把握したいのだが,公式発表はまだないようだ。「年収300万円以上で日本語を使う職場で働く場合に限り,業種や分野,職種を制限しない」ということらしい。

 ここで,まず誤解すべきでないのは,これは報道が間違っていない限り,収入要件の緩和ではないということだ。日本の大学を卒業して日本の会社で働く外国人が持つビザで一番多いのは「技術・人文知識・国際業務」だ。現行のの運用では,「技術・人文知識・国際業務」ビザを持っている外国人が,ここから「永住」に転換しようとすると,収入要件は年収300万円だ。もちろん,他にいろいろな制約があって永住をとれる人はそれほど多くないのだが,その厳しさは年収要件ではない。「永住」ですら300万円以上なので,「技術・人文知識・国際業務」ビザを取って日本で働くのが300万円以上なのは,とくに何も緩和していないと言える。

 だから緩和するのは業種・分野,職種だということになる。従来は大学で学んだ分野との関連性が問われていたのを,問わなくするということだ。では,どのように緩和するのか。

 そもそも,現在の基準にもあいまいさがある。「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得するためには,大学の専門分野に属する技術や知識を要する業務,または外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事しなければならない。その例は法務省のページに書かれている(※1)。しかし,この基準で厳密に「専門にかなった仕事に就く就職か」を判断することは難しい。なぜなら,日本企業はそもそも学卒新規採用の際に職務を明示しない,メンバーシップ型の採用をするからだ。わかるのは「入社」することだけであって,どんな職に「就職」するかはわからない。よって法務省が判断することには困難がある。

 しかし,現在の基準もまるきり使われていないわけではない。「技能労働(ブルーカラー業務)は不可」というところだけはチェックしていると思われるからだ。技能労働につくと疑われると不許可になることがある。この技能労働の範囲にもグレーゾーンはあるが,製造や建設,販売,サービスにおける現場作業労働を含むとみなされているようだ。たとえば,工場のラインや建設現場で作業員として働く,コンビニの店員になる,飲食店のウェイター,ウェイトレス,フロア接客などがみとめられないようだ。

 このため,新規学卒留学生の就職に際しての「技術・人文知識・国際業務」ビザへの切り替えにあたっては,書類の書き方のテクニックや審査官の裁量に左右される場合が少なくない。イメージしやすい例としては,専門職であっても現場作業労働も行っているような職種,たとえば保育士,通訳も行うフロア接客,などがあげられる。これらは,不許可のことも,許可になることもあるそうだ。

 この点を考えると,業種・分野・職種制限を外し,年収要件だけでチェックすることについては,一方で歓迎すべき点と,他方で注意すべき点がある。

 歓迎すべき点とは,基準のあいまいさ,書類作成のテクニックや審査官の裁量によって許可・不許可が左右されるという不透明さがなくなり,公正さが増すことだ。私は日本の新規学卒労働市場が徐々にジョブ型になっていくことが望ましいと考えるが(※2),そうなるにせよならないにせよ,メンバーシップ型の「入社」方式がしばらく残ること,縮小するにしてもエリート社員はメンバーシップ型であろうことは避けられない。ビザ審査で教育と職務の適合性を見るのも無理であろう。とすると,ホワイトカラー業務全般について,大卒の留学生が日本人と変わらず就職できるようにすることが公平であろう。留学生には専門性をかなりの無理をかけて問い,日本人学生には問わないということは,不合理があるからだ。

 他方,注意すべき点とは,大卒の留学生が技能労働に流れ込む余地はないのかということだ。つまり,大学を卒業して工場の作業労働者,建設労働者になったり,バイトをしていたコンビニや居酒屋にそのまま就職するということである。労働力不足のおり,技能労働でも年収300万円を超えることは十分にあり得るから,年収要件はクリアーするかもしれない。しかし,これはさすがに望ましくない。日本の大学教育は特定の職種・職務に対応したものではないが,少なくともホワイトカラー業務に対応しており,ブルーカラー業務に対応しているのではないとは言える。大学教育を受けるために日本に来てもらった留学生は,そこで得た知識水準にふさわしい形で職に就くことを,日本在留の要件とすべきだ。

 もちろん,ホワイトカラー業務では採用されないから技能労働に応募するというような大卒留学生が少なければ,問題は起こらない。しかし,大学教員としては誠に残念だが,現在の留学および大学の現状ではここに不安がある。すでに少なくない日本語学校が,就労を目的として日本にやってくるためのトンネル的存在となっており,さらに,少なくない私立大学において,高校教育の内容を身につけているとは思えない低学力の受験者を入学させることが,相手が日本人であれ外国人であれまかり通っている。この両方の条件が結びついた場合,はなはだ学力の不十分な留学生が大卒となることは,繰り返すがはなはだ遺憾ながら起こりうる(※3)。

 こうなることは望ましくない。外国人を差別したり,技能労働を職業差別したりする意味で,望ましくないと言っているのではない。多大なコストを払って実施している大学教育は,修了者が技能労働することを想定した内容ではないからだ。日本語学校と大学への留学という複雑な制度を活用しながら,その機能は,技能労働者への就労のトンネルというのでは,あまりの機能不全であり,教育制度と,そこにかけたお金・人材の目的外使用だからだ。そのような可能性を広げてしまう制度改革はすべきではない(これは,大学を卒業し,自らに技能労働が向いていると確証をもって働く個人の生き方,自由な選択を何ら否定するものではない)。

 技能労働者の不足に対しては,現在すでに議論になっているように,適切な要件を定めた技能労働のビザを発給することによって対応しなければならない。私は基本的に技能労働ビザ発給に賛成している(※4)(ただし,詳細についてはかなり検討しないと問題が起こるので,別途議論する)。しかし,大学教育にさんざん手間暇をかけて,それが技能労働者集めのトンネルルートになるという,制度の目的外使用には反対せざるを得ない(※※11/5注。続編もご覧いただけると幸いです)。

 結論として,私は本件について,以下のように提案したい。

*日本で大学を卒業した留学生への「技術・人文知識・国際業務」ビザ発給に際して,業種,分野,職種の制限を緩和して実態に合わせ,ホワイトカラー業務への就職について,留学生と日本人を同等の競争条件に置くことに賛成する。

*ただし,技能労働(ブルーカラー業務)への就労は,従来と同様,認めるべきではない。この技能労働には販売,サービス分野の作業労働を含む。

 関連して,すでに多くの人が述べていることだが,次のことも必要になる。

*日本語学校が就労の手段として使われる状態を解消する必要がある。そのために,技能労働ビザの適切な制度設計が求められる(別途議論したい)し,虚偽情報で学生を集める,授業の実態がない,資格外活動制限違反を促進または放置しているなどの日本語学校は取り締まるべきだ。

 そして,実は問題のおおもとには以下のことがあることを指摘したい。実は,大学入試さえしっかりしていれば,このような心配は不要なのだ。日本語学校と大学を経て技能労働というトンネルが懸念されるのは,「高校教育の内容を身にうけたものだけを大学に入学させる」という当然のことができていない現状が,日本の大学に存在するからだ。その理由については以前に書いた(※5)。あれこれの大学改革よりも,この基本的なところを何とかすべきではないか。

*大学入試において,高校教育の内容を身につけたもの以外を合格させないようにすることが,留学生の就職の適切な促進,弊害の最小化にもつながる。

 なお,以上は限られた知識をもとに書いたので,ご批判を遠慮なくコメント欄にいただきたい。


※1「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について」法務省入国管理,2008年3月(2015年3月改訂)。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukan69.html

※2 川端望「就活ルール廃止後に求められる改革の基本方向」Ka-Bataブログ,2018年10月11日。
https://riversidehope.blogspot.com/2018/10/blog-post_66.html


※3 出井康博「外国人留学生「就職条件緩和」に潜む「優秀な人材」という欺瞞」フォーサイト-新潮社ニュースマガジンより転載,時事ドットコムニュース。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00242_201810150001

※4 川端望「外国人労働者について:もはや「受け入れるか,受け入れないか」の問題ではなく,「どう受け入れるか」の問題である (2018/6/6)」Ka-Bataアーカイブ。
https://riversidehopearchive.blogspot.com/2018/10/201866.html

※5 川端望「大学の学力問題と労働市場」2017年7月4日。Ka-Bataアーカイブ
https://riversidehopearchive.blogspot.com/2018/10/201774.html

※※11月3日追記。以下に続編を書きました。
続・留学生が日本の大学を卒業して就職する際の条件緩和について。
https://riversidehope.blogspot.com/2018/11/blog-post_3.html

※※※12月9日追記。入管法改正案成立を受けて以下を書きました。

拙速な入管法改正は遺憾だが,実践的な準備をしながら意見をたたかわせるしかない



2018年10月11日木曜日

就活ルール廃止後に求められる改革の基本方向

 経団連は就活ルールの廃止を10月9日に決定した。中西会長は同日の記者会見で「今後は、未来投資会議をはじめとする政府の関係会合において、2021年度以降のルールのあり方について議論していくことになる」と述べており,何らかのルールが必要なことは認めている。しかし,それはもはや経団連が定めるのではない。野上官房副長官が述べるように,「政府と関係者が議論の場を設けるなど適切に対応していく」ことになるのだろう。

 本件について経団連に問われていたのは,単に就活ルールを投げ出して,会員企業の青田買いを野放しにするだけなのか,採用方式の改革に乗り出すのかであった。結果,直接には投げ出しに終わっており,どのような改革が必要とされているのかについて,まだまともな提案をしていない。中西会長は「今後の議論において重要なことは、大学の教育の質を高めることである」と述べるが,卒論や卒業時成績など学生の能力の到達点を見ようともせずに採用活動を前倒ししていることへの反省がない大学批判はお門違いだ。しかし,他方で「すでに多くの企業が新卒一括採用のみならず、中途採用などを行っているが、学生にどのような勉強をしてほしいのか、入社後のキャリア形成をどう用意しているのか、などといった具体的な事柄について、これまで企業から社会全体に十分に伝えてこなかった」という反省を述べたこと,新たなルールについて,政府,経済界,大学で協議していくことに前向きなことは注目される。改革への意思,参加する意思はあると受け止めるべきだろうし,そのように受け止めてコミットメントを求めるべきだろう。

 さて,この新卒者に対する採用活動の根本的な問題は,活動開始の時期ではない。新卒採用の本質は,「新規学卒者だけを対象にして,やるべき職務を明示せずに,「入社」させること」であり,中途採用の本質は「やるべき職務を特定して,それにふさわしい能力を持ったものを「就職」させること」だ。職務を指定しないメンバーシップ型採用と,職務を指定するジョブ型採用の区別に注目すべきであり,新卒者が挑む採用が前者に偏りすぎていることが本質的な問題なのだ。就活ルールを廃止すると,仮に新たなルールがどのように決められるにしても,採用活動の時期は今よりは自由化されるだろう。そして,もし企業側が新卒に「入社」を求めるメンバーシップ型採用を何ら改革せず,ただ前倒しで行うだけであれば,それは直接には大学教育と学生生活に対する破壊行為だ。また間接には,企業は「大学で身に着けた能力は求めないが,大卒の肩書は求める」ことになる。そして,大学には全く何も求めないけれど,各社各様に,各社に「入社」するにふさわしい漠然とした能力を求めるという,現在行われている採用活動をもっと推し進めることになる。これは雲をつかむような話であり,日本の人的資源の涵養につながるとは到底思えない。

 だから改革の基本方向は,メンバーシップ型採用の比率を徐々に減らし,職務を指定するジョブ型採用の比率を増やすこと,後者の社員を活用することに企業が習熟していくことだ。ジョブ型採用では,これまでより明示的な職務遂行能力によって採用を判断することになる。それは,ことの性質から言って,新卒でなければならない理由は何もない。だから,採用対象は新卒者に限らないし,採用時期はいつでもよいことにするのが合理的だ。もちろん,メンバーシップ型とジョブ型の中間的な採用もあり得るだろう。政府,経済界,大学で協議して作る新たなルールは,このようにジョブ型採用を増やし,ジョブ型採用を通年の,新規・中途を問わない採用にしていくことが望ましい。残るメンバーシップ型採用については,あまりに極端な青田買いを抑止する。

 ジョブ型採用は,ある特定の職務を遂行できる人を採用するのだから,そこに年齢差別があってはいけないことになる。実は,年齢差別禁止は,すでに2007年改正の雇用対策法第10条でとっくに規定されている。ただ,,雇用対策法施行規則第1条の三において新規学卒採用は例外とされているに過ぎないのだ。ジョブ型採用については,この例外は適用すべきでないだろう。もし適用すると,結局新卒をターゲットにした青田買い採用になってしまう。青田買い採用を抑止して通年・随時採用にするには,採用対象の限定をなくすしかないのだ。

 これによって,大学生からみると,就職活動が全体としていまよりもひどく青田買いになること,つまり前倒しされることは避けられる。ジョブ型採用の部分は,一年を通して行われているし,新卒者であっても就職浪人を含む既卒者であっても等しく応募できるからだ。つまり,就職活動をしたいとき,しなければならないと思った時ににすればいいのである。メンバーシップ型については,これまでより青田買いがひどくなるおそれがあるが,全体に占める割合が小さくなれば弊害も小さくできるだろうし,ルールによる規制も可能であろう。

 ただ,ジョブ型採用は日本の労働市場全体に構造変動を起こすし,大学生にとって,就活開始が早まりはしないものの,全体として有利かというとそうでもない。年齢差別禁止が適用されると,当然,ジョブ型採用には新卒だけでなく,就職浪人も中高年も応募するだろう。そうすると競争率が上がるから,大学生には不利になってしまう。日本全体としては,中高年の再就職の可能性が広がり,その分だけ新卒が不利になる。これは学生にとっては問題だ。

 しかし,それは超高齢社会への対応としては合理的だ。超高齢社会とは高齢者と女性が元気に働けないと成り立たない社会であり,現在はその高齢者と女性に冷たい労働市場と雇用システムなので,その改革の一環としてやる価値はあるし,いずれはやらざるを得ないことだろう。

 若者にとっても,不利なことばかりではない。前述の通り,早い学年から就活をするという混乱は避けられるし,卒業してから自らの専門性を武器に就職することも可能になる。新卒と就職浪人の間にあったすさまじい差別が緩和され,やり直しのきく就職活動になるだろう。一発勝負ではなくなるのだ。

 大学や高校にも教育改革の課題が突き付けられる。メンバーシップ型採用が残る部分については,求められる教育の質はそれほど変わらない。幅の広い教養,課題探求能力,リーダーシップ,読解力,分析力,考察力,論文を書く力などを身につけさせればよいからだ。ただ,少数精鋭になるだけに,これまでよりも高い能力は求められるだろう。他方,ジョブ型雇用に変わる部分については,就職する時点で,新卒者に職務遂行能力が求められる。それは学生の間に身につけねばならない。つまり,大学や高校での職業教育を強化しなければならなくなるだろう。来年4月から開設される専門職大学や,各大学での一層系統的なキャリア教育,企業・業界団体・経済界と連携しての質の高いインターンシップとその単位としての認定,高専や工業高校・商業高校,専門学校の地位を上げる工夫,ダブルスクールをやりやすくする仕組みなどは,どうしても必要になるだろう。これはつらいことではあるが,実のあることでもある。文部科学省から言われ,評価と予算を得るために行う改革ではない。学生が,自らの力で就職できるようにするための改革なのだ。

 日本の労働市場を全体としてよりよく機能させ,企業には人材獲得の便宜を拡大し,大学と学生には教育機会を保証していくためには,以上の方向で新たなルール作りと,労働市場改革,教育改革を進めることが必要だと,私は考える。

定例記者会見における中西会長発言要旨,2018年10月9日,日本経済団体連合会。
http://www.keidanren.or.jp/speech/kaiken/2018/1009.html

『ウルトラマンタロウ』第1話と最終回の謎

  『ウルトラマンタロウ』の最終回が放映されてから,今年で50年となる。この最終回には不思議なところがあり,それは第1話とも対応していると私は思っている。それは,第1話でも最終回でも,東光太郎とウルトラの母は描かれているが,光太郎と別人格としてのウルトラマンタロウは登場しないこと...