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2020年5月19日火曜日

PCR検査拡大をめぐる論点

PCR検査拡大をめぐる論点。ようやく頭を整理できてきたので箇条書き的なメモにする。

【目前の問題】
*一部地域では,PCR検査を増やさないと院内感染が防げず,医療体制が危うい状況が生じている。
*多方面の業務を行っている保健所がパンクしているので,保健所をバイパスした検査ルートを応急措置でも作らねばならない。
*その予算を国がつけるべき。補正で全くつけていないのは問題だ。

【次の波に備える問題】
*感染者がある所まで減ったら,1)アップグレードされたクラスター対策と2)市中感染が広がっても耐えられる検査体制を構築しなければならない。
*クラスター対策のアップグレードのためにはICTの活用,それを可能にするリーダーシップ,障壁があれば規制改革が必要。しかし,それだけでない。
*FETP(実地疫学専門家養成コース)を拡充してクラスター対策を指揮できる専門家を増やさねばならない。そうしないと,クラスターが全国で発生した場合に手が回らない。
*保健所の人員削減を中止し,逆に人員・検査体制を拡充する。
*保健所に多方面の業務を押し付ける体制をあらためる。健康相談と帰国者・接触者外来への取り次ぎ,PCR検査,クラスター対策をすべてやらせるからパンクするし,検査を拡大させるモチベーションをそいでしまう。他組織との分担,外注の円滑化を進める。検査を拡大させたくないというモチベーションを保健所が持たないように,組織・業務・報酬を設計する。
*PCR検査の基準を「医師が必要と認めたらすべて」にし,その際「帰国者・接触者外来の医師」だけでなく「かかりつけ医が必要と認めたらすべて」まで拡充する。かかりつけ医が必要と認めた場合は,保健所を通さず自動的に検査に入るように手順を組み替える。
*その基準で予想される検査数までキャパシティを引き上げる努力を行う。そのためのボトルネックがあれば列挙して対策を打つ。
*その予算を国がつけるべき。補正で不足するのであれば第二次補正予算を組む。

【注意点】
*検査に関する資源(ヒト・モノ・カネ)の確保と適切な方針は両方必要である。資源がないところに「方針がおかしい」と批判しても正しい方針を実現できない。「ヒトやカネをつけろ」と批判しなければならない。逆に方針がおかしいところに「ヒトやカネが足りない」と批判しても事態は改善しない。方針を改めねばならない。
*PCR検査は擬陽性・偽陰性の問題を生み出す。これを防ぐには,事前確率の高い場合に検査を行わねばならない。具体的には1)クラスター対策で濃厚接触者も検査する場合,2)市中の様々な症状の患者について,医師が臨床診断により感染を疑った場合。
*よって,検査の必要条件は1)クラスター追跡班が認めるか,2)医師が必要と認めるかである。専門家の判断を抜いたPCR検査はあり得ない。

【賛成できない議論】
*検査拡大論でも支持できるばあいとできない場合がある。「希望者すべてに検査を」「感染の実態を明らかにするために,できる限り片端から検査」に反対する。大量の「濡れ衣での陽性」「誤ったお墨付きによる陰性」を生み出す。検査の必要性は医師が判断すべきである。他の形であっても,検査の必要性を専門家が判断すべきことを抜きにして「とにかく検査を拡大せよ」という見解はおかしい。
*「帰国者・接触者外来」の要請によりPCR検査を保健所で行うというしくみに固執する見解に反対する。これでは必要な検査拡大もできない。
*いつでもどこでも「PCR検査を拡大すると医療崩壊する」,あるいは逆に「PCR検査を拡大しないと医療崩壊する」という見解に反対する。それは時と場合によるからだ。
*「クラスター対策は無効だからPCR検査を拡大しろ」という見解に反対する。市中感染が蔓延していない状況では,クラスター対策によって,他人に感染させる2割の感染者を効率的に発見・隔離できる。またクラスター対策だと検査が弱いかのように言うのは間違いで,クラスター追跡の際に積極的に無症状者も検査している。
*検査に関する思想・方針に批判を集中することに反対する。まちがっているのは思想・方針だけではない。保健行政が保健所のヒトという「資源」を確保しなかったことである。考えを変えるだけでなく,予算の裏付けを得て,人と組織を拡充させねばならない。予算・人員を政府に要求することなく,考え方だけ改めさせようとしても十分な効果は上がらない。

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