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2019年9月7日土曜日

マイナス金利は失敗であり,深堀りは傷口を広げる

 2019年9月7日『日本経済新聞』1面トップ(注:仙台宅配の13版)の日銀黒田総裁インタビュー。マイナス金利深堀りを選択肢の一つとして挙げているが,その理由として黒田総裁は,長短金利差が縮小してイールドカーブが寝ていることに集中していることばかりあげている。つまり,生命保険や年金のリターンが下がることを警戒しているのだ。それはそれでわかるが,これはマイナス金利がそもそもの目的をまったく達成せず,さりとてやめることもできずに副作用への対処に熱中せざるを得ない事態になっていることを意味する。
 もともとマイナス金利は,ゼロ金利でも何とか金融緩和を進める方法の一つとして開発された。さらに遡って言えば,日銀があれこれ方針を宣言して予想インフレ率を高めるという従来の「期待に働きかける」「リフレ」策が効き目がないことで考案されたものだ。その狙いは,銀行が持つ日銀準備預金の収益性を低下させれば,民間銀行はより高い収益性を追求するためにポートフォリオを組み替え,ハイリスク,ハイリターンの運用先を探さざるを得ないだろうというポートフォリオ・リバランシング論であった。しかし,もともとゼロ金利下でも借り入れ需要が停滞しているという,企業の事業見通しの暗さが問題なのであって,無理くり金利を引き下げたところで効果などなかった。それどころか,銀行の利鞘を圧縮して,地方銀行の経営困難を招いただけであった。マイナス金利は,そのそもそもの目的において失敗しているのだ(※1)。そしてもう一つの副作用として。長短金利をつないだイールドカーブが寝てしまい,長期国債での運用難を引き起こすという問題が出たのだ。
 イールドカーブを保持しながらマイナス金利を深堀りすれば,確かに一つの副作用には対処できる。しかし,本来の失敗と副作用には全く対処できず,むしろ傷口を広げるのではないか。銀行がIT化の推進など,前向きな経営効率化を図るならまだいい。しかし,有望な貸付先が少ない中でさらに利幅を圧縮されて,二つの危険な行動に出るおそれがある。一つは融資をかえって縮小させることで,これは中小企業と地方経済に打撃を与える。もう一つは,リターンとのバランスが取れないほどにハイリスクな貸し出し,投資に走ることで,これは不良債権を累積させるおそれがある。いずれも,いまのような好景気の末期に促してはならない行動だ。
 いま,金融を引き締めるべきではない。しかし,これ以上緩和したところで効果はない。日銀がやたらと動いても仕方がない。すぐにでも行うべきは,家計を温めて確実に需要を支えるような財政政策だ。だから消費税増税は不適切だ。より長いスパンで行うべきは,企業の投資マインドを高める産業政策,家計の不安感を除去する社会政策だ。




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