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2019年1月28日月曜日

毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(3)誰が不正を指示したのか

 毎月勤労統計調査の不正の主要な内容は,1)2004年(小泉内閣当時)以後,本来規模500人以上の事業所について全数調査を行うべきところ,東京都(石原都知事当時)について,総務省に届けることなく抽出調査を行ったこと,およびその事実を公表せずに偽っていたこと,2)抽出調査に伴って必要になる復元操作を行わなかったことにより,2004年以後の調査結果が統計的に正しいものではなくなってしまったことだ。

 今回は,1)の不正が行われた理由について,特別監察委員会報告書が明らかにしたかどうかを取り上げ,次回に2)の復元の問題を考えたい。

 監察委員会報告書によれば,以下の事実が明らかになっている。

「平成15(2003)年5月22日付で当時の担当課の企画担当係長名で毎月勤労統計調査に係るシステム担当係長あてに通知された「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査の第一種事業所に係る調査の抽出替えに関する指定事業所の決定及び指定予定事業所名簿作成について」という事務連絡がある。この事務連絡に添付された「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査の第一種事業所に係る調査の抽出替えに関する指定事業所の決定及び指定予定事業所名簿作成要領」においては、「事業所規模500人以上の抽出単位においては、今回から全国調査でなく、東京都の一部の産業で抽出調査を行うため注意すること。」との記載がある。この事務連絡は、雇用統計課長の決裁を経た上で、係長名で指示を行っている。
 また、平成15(2003)年7月30日に厚生労働省大臣官房統計情報部長名で各都道府県知事宛に通知された「「毎月勤労統計調査全国調査及び地方調査第一種事業所に係る調査」における指定事業所の抽出替えの実施について」に添付された「毎月勤労統計調査抽出替えに伴う事務取扱要領」(以下「事務取扱要領」という。)において、平成16(2004)年1月からの取扱いとして、「従来から規模500人以上事業所は全数調査としていたが、今回は東京都に限って一部の産業で標本調査とした。」と記載された」(5ページ)。

 つまり,抽出調査を行うことは統計情報部長名で宣言している。それに先立ち,抽出調査をすることを企画担当係長がシステム担当係長に伝え,そのことを雇用統計課長が決裁しているのである。

 変更を行った動機について,報告書はこう述べる。

「平成16(2004)年以降の東京都における規模500人以上の事業所に係る調査が抽出調査となった理由は、規模500人以上の事業所から苦情の状況や都道府県担当者からの要望等を踏まえ、規模500人以上事業所が集中し、全数調査にしなくても精度が確保できると考え、東京都について平成16(2004)年1月調査以降抽出調査を導入したものと考えられる」(15ページ)。

 しかし,それですませてよいとは思えない。事業所と都道府県から苦情があったからと言って,厚労省がはいそうですかと調査方法を変えるものだろうか。不自然さが残る。まして,総務省に届け出なければならないところを省略するという,ルール違反を犯してまで行うものだろうか。余りに不自然だ。さらに,それらを誰がどこで決定したのかが全く明らかでない。企画担当係長の意志で行うことなどありえない。
 この点,元経済産業省官僚の宇佐美典也氏の推定は合理的と思う。すなわち,1)厚労省に要望を出したのは東京都であろうこと,2)不正な調査の実施を決定したのは,物事を決める立場にないノンキャリア統計プロパー職員でなく,キャリア管理部門職員であろうことだ。

 となれば,ヒアリングで当時の担当係長,雇用統計課長,統計情報部長は肝心なことを隠しているのではないか(誰がノンキャリで誰がキャリアなのかわからないが)。

担当係長の供述「継続調査(全数調査)の事業所については企業から特に苦情が多く、大都市圏の都道府県からの要望に配慮する必要があった。」、「理由は都道府県の担当者の負担を考慮したからだと思うが、誤差計算しても大丈夫だという話だったと記憶している」(15ページ)。

 これをそのまま信じることはできない。また,「大丈夫だという話だったと記憶している」というのは,係長が一人で決めたことではなくて,誰かから「大丈夫だ」と聞いて指示を受けたことを示唆しているように私には思える。いったいどこで誰が相談して決めたのか。

担当課長の供述(としか書いていないが雇用統計課長と思われる)。「抽出調査としたことについて、覚えていないが当時自分が決裁したと思われる決裁文書を見たらそのように残っていたのでそうなのだと思う。だだ、抽出していたとしても労働者数に戻す復元を行っていれば問題ない。」(17ページ)

統計情報部長の供述「それ以外の抽出率の違いなど認識していなかった。」、「連続している統計は変更点がなければ、あまり内容を見ることもなく決裁していた」。

 これらもそのまま受け取れと言うのは無理である。どこでどのように決めたことなのかが全く明らかではない。なぜ報告書はこのことについて一言も触れないのか。

 不正な調査を誰が誰に指示したのか。そして,なぜ総務省に届けずに実行したのか。東京都からどのような形で要望が出されたのかについて,その背後に政治的な力が作用しなかったかどうかについて,厚生労働省で担当係長に不正な指示を出し担当課長に決裁させた人や組織が存在する可能性について,より深く追加調査すべきだろう。

宇佐美典也「厚生労働省はおそらく何かを隠している(統計不正問題)」宇佐美典也のブログ,2019年1月21日。
「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書について」厚生労働省,2019年1月22日報道発表。

<連載>
「毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(1)不作為の問題」Ka-Bataブログ,2019年1月26日。
「毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(2)中立性の問題」Ka-Bataブログ,2019年1月27日。
「毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(4)未復元の事実,復元を開始した事実を隠蔽したのではないか」Ka-Bataブログ,2019年1月29日。
「毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(5)2004年調査よりも前から不正が始まっていた」Ka-Bataブログ,2019年1月30日。



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