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2019年1月26日土曜日

毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(1)不作為の問題

 話題の,毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読んだ。問題にすべき事実は多岐にわたり,率直に言って評価も容易ではないので,考えがまとまったところからコメントしていきたい。

 まず,いま問題になっている「組織的隠蔽はあったのか」という論点。野党や報道機関,世論によって疑われているのは,厚生労働省が不正を知っていながら目的意識的,組織的に隠したのではないかということだ。対して,この報告書は樋口美雄監察委員長が記者会見で述べたように,「組織的関与はなく、組織的不関与が問題。任せっきり。逆に組織として問題ではないか」という立場を取っている。つまり,組織的に問題をとりあげずに見過ごしていたことが問題だというのだ。

 私は,どちらもが問題だと思うが,まず,後者から考えたい。

 樋口氏の発言の意味するところは,報告書全文を読むとわかる。要するに,問題があると職員・管理職が気が付いても,その都度見過ごしてしまい,組織的に問題にしなかったということだ。 

 例えば,東京都における規模500人以上の事業所について全数調査を抽出調査に変更したのに,『年報』では依然として全数調査であると記載していたことについてのヒアリング結果。

 「(公表)資料は「原則」として認識しているが、細かく書くとすれば異なっているという認識はあった。また周りもそういう解釈をしていたと推測する。」「齟齬があるという認識はあったが、東京都は数が多く例外的であると考え自己満足していた。」「そもそも年報に調査方法の全てを事細かに書かなくてはいけないと考えていなかった。」「当時、変えた方が良いと思ったが統計委員会とか審議会にかけると、問題があると思った。何かの改正に併せて、やろうと思ったが、できず、忸怩たるものがある。」(16ページ)

 また抽出調査に伴い,公表していた調査対象事業所数に比べて実際に調査した事業所数が少なくなっていたことについての政策統括官付参事官(当時)の証言。

 「良くないと考え、予算担当の職員に予算を増やせないか相談したが、予算の作業が大変になるのでやめてくれと言われた」(18ページ)

 私は,上記の引用部分を含む,委員会調査の一部は事実であると思う。要するに,「法令やルールに違反しているのだが,指摘するとややこしい事態になるので黙っていた」という不作為である。不作為も責任を問われねばならない。実際,観察委員会はこうした不作為についても厳しく責任を問うていて,その点は評価してよいと思う。しかし,再発防止に向けた改善策が提示が著しく弱く,再調査ではそこが問われるだろう。

 統計不正は,問題を発覚させずに皆で見て見ぬふりをする組織のありように,少なくとも一部は起因している。私は,今後,作為的な隠蔽の疑いも提起したいが,そうした隠蔽も,不作為により問題を見過ごす組織を土壌として生まれてくることを,まず最初に言っておきたい。なぜならば,このようなことは厚労省だけでなく,他の役所でも会社でも学校でも大いにありうることであり,私を含むこの社会の多くの人にとって,身の周りで起こりうることだからだ。

「毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る事実関係とその評価等に関する報告書について」厚生労働省,2019年1月22日報道発表。
   
続稿
「毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(2)中立性の問題」Ka-Bataブログ,2019年1月27日。
「毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(3)誰が不正を指示したのか」Ka-Bataブログ,2019年1月28日。
「毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(4)未復元の事実,復元を開始した事実を隠蔽したのではないか」Ka-Bataブログ,2019年1月29日。
「毎月勤労統計調査の不正に関する監察委員会報告書を読む(5)2004年調査よりも前から不正が始まっていた」Ka-Bataブログ,2019年1月30日。

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