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2019年1月12日土曜日

日本政府は対抗措置の分野を拡大させず,韓国政府は不作為にたてこもらずに,双方知恵を絞るべき

 文在寅大統領記者会見。韓国政府が「日本も韓国も三権分立の国だ。韓国政府は司法の判決を尊重しなければならない。日本政府も判決内容に不満はあっても、『どうすることもできない』という認識を持ってもらう必要がある」という見地であることは確認できた。しかし,そうすると「解決のために互いが知恵を絞るべきだ」というのはどういうことなのか。「知恵を絞る」と言っても,最高裁判決を執行して新日鐵住金の資産を差し押さえたうえでのことだ,と韓国政府が考えるのであれば,日本政府がさらなる対抗措置に出るのは必至だろう。

 日本政府が申し入れている日韓請求権協定に基づく協議,あるいは今後ありうる国際司法裁判所への提訴について,韓国側が応じた場合についてもいろいろ考えるべきことはあるのだが,文大統領の態度から見て,協議にも提訴にも韓国側が応じないのではないかと予想される。韓国政府は「司法の判決を尊重する」とだけ言って,自らの請求権協定解釈を積極的に提示するのを回避したがっているように見える。韓国政治の専門家である木村幹教授が何度も解説されているところによると,韓国政府は積極的に日本を非難したいのではなく,むしろ対日外交を深刻な問題ととらえていないということだ。本日の会見も,日韓関係について全く触れずに終わりそうになったところを,NHKの記者がやや強引に質問して何とか発言を引き出したのだという。だから,「知恵を絞るべきだ」と言っているが,実際には韓国政府では絞りはせずに,ひたすら日本に対応を求めるという可能性がある。

 そうすると,安倍政権・自民党の対応はエスカレートするだろう。既に議論されているように,元徴用工問題をはみ出して韓国に対する関税引き上げとかビザの優遇措置停止などの措置を始めるだろう。しかし,そうすると元徴用工や請求権協定についてきちんと話ができなくなり,国を単位とした日韓の非難の応酬になってしまう。つまり,日韓政府の対話が成り立たず,問題を正面から扱わない結果,国家間の抜き差しならない感情的対立にエスカレートするおそれがある。

 今後,両国政府は表舞台では請求権協定に基づく協議や国際司法裁判所への提訴をめぐってやり取りするようになるだろう。規範論あるいは願望として言えば,対立のエスカレートはいずれも望ましくないことを悟り,様々なルートで本気で「知恵を絞る」ことをして欲しい。少なくとも日本政府には,関税やビザをどうこうするなどして,問題を国家間対立に拡大させないで欲しい。元徴用工問題は元徴用工問題として解決すべきなのだ。また韓国政府は,行政府としての主体的見解を示さず,自らは解決に乗り出さないという不作為は事態を悪化させ,深刻化させるということを認識して,自らも「知恵を絞る」ようにして欲しい。

「韓国ムン大統領 「徴用」めぐる裁判で「互いに知恵絞るべき」」NHK NEWS WEB,2019年1月10日。

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